2025年10月2日放送のテレビ東京系「カンブリア宮殿」で、28歳の若き女性経営者・林田茉優さんが取り上げられました。彼女が代表を務めるのは、1890年創業の老舗「吉開のかまぼこ」。休業状態だった130年続く蒲鉾店を復活させた林田さんですが、番組内で語った「私は蒲鉾屋で骨を埋めると思ってない」という言葉が大きな反響を呼んでいます。
一見すると後ろ向きにも聞こえるこの発言の真意とは?そして、経営も製造も未経験だった大学生が、なぜ老舗蒲鉾店の事業承継に人生を賭けたのか。番組で明かされた林田茉優さんの挑戦と、吉開のかまぼこ復活の軌跡を詳しく紹介します。
林田茉優とは?吉開のかまぼこ4代目社長のプロフィールと経歴
林田茉優さんは、福岡県にある老舗蒲鉾店「吉開のかまぼこ」の4代目社長を務める28歳の女性経営者です。現在、福岡県みやま市にある築130年以上の民家を工場として、わずか3人のスタッフで自然由来にこだわった古式蒲鉾を製造しています。
注目すべきは、林田さんが吉開家の血縁者ではなく、もともとこの蒲鉾店とは縁もゆかりもなかったという点です。大学時代のゼミで日本のものづくり企業について学ぶ中で、後継者問題に強い関心を持つようになりました。当時は経営の経験も、蒲鉾作りの知識もゼロ。「スーパー素人」と自ら語るほど、全くの異業種からの参入でした。
しかし、そんな素人集団だからこそ、固定観念にとらわれない改革を実現できたのかもしれません。林田さんは3代目の吉開清喜代次さんから3年間みっちり技術指導を受け、デジタル技術を駆使したデータ管理や、ギフト商品としてのパッケージ刷新など、老舗に新しい風を吹き込みました。その結果、オンライン販売は全体の約7割を占めるまでに成長。年商3000万円という損益分岐点に到達し、ようやく黒字化を実現しています。
カンブリア宮殿で明かされた吉開のかまぼこ事業承継の全貌
吉開のかまぼこは1890年創業、135年の歴史を持つ福岡県みやま市の老舗蒲鉾店です。3代目の吉開清喜代次さんが8年の歳月をかけて開発した「古式かまぼこ」は、エソという高級魚を100%使用し、つなぎを一切使わない自然派の蒲鉾として高い評価を得ていました。
しかし2018年、吉開さんの体調悪化により、店は休業状態に。このまま廃業かと思われた矢先、林田さんが現れます。当時大学生だった彼女は、復活を望む顧客からの手紙や電話が絶えない状況を目の当たりにし、「この技術を絶やしてはいけない」と決意。事業承継してくれる企業を探すため、仲間たちと福岡の食品会社60社に飛び込み営業をかけました。
この活動は2年半から3年近くにも及びましたが、最終的に出会ったのが瀬戸口将貴さんです。当時システム会社の社長だった瀬戸口さんは、畑違いの業種ではありましたが、地元福岡への貢献を考え吉開のかまぼこの買収を決断。そして、誰に経営を任せるかを考えた時、真っ先に浮かんだのが林田さんだったといいます。
突然の社長就任要請に悩んだ林田さんでしたが、吉開さん本人が「それよかやんね(それが良いね)」と大きな声で背中を押してくれたことが決め手となりました。技術や経営経験よりも、熱い思いを持つ人が周りを動かしていく——この言葉が、林田さんの覚悟を決めさせたのです。
エソ100%使用!古式かまぼこの製法とこだわり
吉開のかまぼこの最大の特徴は、エソという魚を100%使用した「古式かまぼこ」です。エソは西日本で昔から蒲鉾に使われてきた高級魚で、蒲鉾業界では最高級の原料とされています。林田さんによれば、自然由来の原材料だけで作っている蒲鉾は、業界でもわずか1%程度しかないといいます。
一般的な蒲鉾は、卵などのつなぎで弾力を出しますが、吉開の蒲鉾は違います。エソのすり身と昆布だし、みりん、天然の塩だけを使用。つなぎは一切使いません。そのため、試食した顧客からは「お魚の味が濃い」「プリプリで変な混じり気がない」「お魚を食べているような感じ」といった声が相次いでいます。
この独特のプリプリ食感を生み出す秘訣が、「座り」と呼ばれる工程です。成形した蒲鉾を一度40度で寝かせることで、魚が持つタンパク質を凝固させ、理想的な弾力を実現しているのです。この昔ながらの製法は特に品質の維持が難しく、水の量、寝かせる時間、温度など、日々試行錯誤が続いています。
現在の製造スタッフは林田さんを含めてわずか3人。しかも全員が未経験者です。工場長の田中慶太さんも30歳で、以前はプログラマーとして働いていました。「ひょんなことから手伝いに来て、いつの間にか工場長に」という彼の言葉からも、この会社の柔軟性が伝わってきます。
素人集団ゆえの失敗も多いといいますが、林田さんはそれを逆手に取りました。先代がノートに残していた記録を含め、製造に関する湿度や温度などの4年間のデータを全てクラウド上に保管。デジタル技術を駆使してスタッフ間で共有し、「初めてやる人でも最低限のクオリティを出せる基準」を明確にしようとしています。伝統技術の継承に、最新のテクノロジーを組み合わせる——この発想こそが、吉開のかまぼこが次世代に生き残る鍵なのかもしれません。
岡野工業廃業のニュースが林田茉優の転機に
林田さんが後継者問題に関心を持つきっかけとなったのが、カンブリア宮殿にも出演した伝説の町工場「岡野工業」の廃業でした。大学のゼミで「日本のものづくりはすごい」と岡野工業の技術力について学んだ直後、わずか1週間後に廃業のニュースが飛び込んできたのです。
岡野工業は東京都にあった町工場で、髪の毛よりも細い注射針を開発するなど、世界トップクラスの技術力を誇っていました。しかし後継者不在により突如廃業。林田さんはこの出来事に大きな衝撃を受けます。「宝のような技術が突然途絶えてしまう」——この現実を目の当たりにして、彼女は何とかしなければと考えるようになりました。
林田さんは窓口に何度も電話をかけ、断られ続けながらも手紙を書き、ついに岡野工業の岡野雅之さん本人に会うことができました。東京まで呼ばれた林田さんは、「なぜ廃業を決断されたのか、後悔や悔いはないのか」と直接質問。岡野さんは「技術継承において人を育てられなかったことに後悔している」と語り、林田さんは「若い後継者を集めてくるから今から育てるのはどうか」と提案しました。
しかし岡野さんは高齢に加えて心臓に病気があり、「技術指導だとしても現場には立てない」と答えます。結局、林田さんは自分の無力さを痛感し、泣きながら福岡に帰ったといいます。この挫折体験が、次の吉開のかまぼこでの成功へとつながっていくのです。
その後、地元福岡でも同じような後継者問題が起きていることを知り、林田さんは吉開のかまぼこと出会います。2018年に休業してから1年が経過しても、復活を望む顧客からの手紙や電話が絶えない状況。「こんなに待ってくれている人がいるなら何とか復活させたい」という吉開さんの言葉に、林田さんは再び動き出しました。岡野工業では実現できなかった「技術の継承」を、今度こそ成し遂げる——その強い思いが、2年半にも及ぶ支援活動の原動力となったのです。
「骨を埋めると思ってない」林田茉優が描く未来のビジョン
番組の最後、「今の仕事をずっと続けたいか」という質問に対し、林田さんは驚きの答えを返しました。「私は蒲鉾屋で骨を埋めると思ってない」——この発言に、MCの小池栄子さんも「思ってない?」と聞き返すほどでした。
しかしこれは、吉開のかまぼこへの愛情が足りないという意味ではありません。林田さんの本当の目標は、もっと大きなところにあるのです。「きっかけが後継者問題に興味を持ち、縁があって今吉開のかまぼこの代表をさせていただいているが、この経験を踏まえて次のステップで、より後継者問題に貢献して、日本の技術や伝統を次世代に残すことに貢献できる人になりたい」——これが林田さんの真意です。
つまり、吉開のかまぼこでの経験は、日本全国に存在する後継者問題の解決に取り組むための、第一歩に過ぎないということ。実際、林田さんは既に次のビジョンを描いています。まずは古式蒲鉾を日本全国に広め、その先には海外展開も視野に入れています。そして最終的には、吉開のかまぼこで培った事業承継のノウハウを、他の企業にも還元していきたいと考えているのです。
村上龍さんは「そういう人に限ってやめないんですよね」とコメントしました。確かに、「骨を埋める」と決めた人よりも、「次のステージがある」と考えている人の方が、目の前の仕事に全力投球できるのかもしれません。林田さんのこの姿勢こそが、停滞しがちな老舗企業に新しい風を吹き込み、年商3000万円という成果につながったのではないでしょうか。
まとめ
林田茉優さんと吉開のかまぼこの物語は、単なる事業承継の成功事例ではありません。それは、「苦しい局面も前向きに変換する」才能と、「吉開さんが諦めないうちは私も諦めない」という一途な姿勢、そして「お客様の声に寄り添う」という経営哲学が生み出した、令和時代の新しい事業承継のモデルケースなのです。
全員未経験の3人で、135年続く老舗の伝統技術を守りながら、デジタル化やパッケージ刷新という改革を同時に進める——この二律背反とも思える挑戦を、林田さんたちは楽しみながら実現しています。そして何より印象的なのは、「蒲鉾屋で骨を埋めると思ってない」と言い切る潔さです。
2025年10月2日のカンブリア宮殿で紹介された林田さんの挑戦は、まだ始まったばかり。しかし、岡野工業で実現できなかった夢を吉開のかまぼこで叶え、さらにその経験を日本全国の後継者問題解決に活かそうとする彼女の姿勢は、多くの若手経営者の希望となるはずです。
エソ100%の古式かまぼこという「本物」を追求しながら、次のステージも見据える——林田茉優さんの物語は、これからも続いていきます。
※ 本記事は、2025年10月2日放送(テレビ東京系)の人気番組「カンブリア宮殿」を参照しています。
※ 株式会社 吉開のかまぼこ の公式サイトはこちら
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