2026年2月25日放送のNHK「クローズアップ現代」では、世界のハイテク産業を支えるレアアースを巡る米中の激しい攻防が特集されました。採掘の6割超、精製の約9割を中国が握る現状に、日本の製造業は深刻な影響を受けています。この記事では、番組内容をもとに、トランプ政権の戦略やグリーンランド問題、日本の独自技術による代替品開発、ナミビアでの鉱山開発、そして専門家が提言する「レス・チャイナ」戦略まで、レアアースの最前線をわかりやすくお伝えします。レアアース問題の全体像を把握することで、今後のニュースもより深く理解できるようになるはずです。
レアアースとは?中国が採掘6割・精製9割を握る理由
そもそもレアアースとは何なのでしょうか。番組に出演した三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員の清水孝太郎氏によると、レアアースとは17種類ある元素の総称で、日本語では「希土類」とも呼ばれています。
このうち代表的なものとしては、強力な磁石の材料となるネオジムやジスプロシウムがあります。これらはモーターやハイブリッド自動車、エアコン、風力発電などに幅広く使われています。また、軽希土類のセリウムは自動車の排ガス触媒に不可欠で、これがなければ排ガスを浄化できません。さらに、電車の窓ガラスの紫外線カット材料など、私たちの暮らしの至るところでレアアースは活躍しています。まさに「産業のビタミン」と呼ばれるにふさわしい存在です。
では、なぜ中国がこれほどの圧倒的シェアを持つに至ったのでしょうか。番組では、その背景が丁寧に解説されていました。
中国のレアアース開発の原点は1980年代にさかのぼります。鄧小平氏は「中東に石油あり、中国にレアアースあり」と宣言し、国家戦略としてレアアースの生産を推進しました。一方、当時世界シェアトップだったアメリカでは環境保護運動が活発化し、レアアース生産に反対する声が高まっていきました。レアアースの生産過程では廃液や放射性廃棄物が発生するため、適切な処理なしには環境汚染のリスクがあるからです。
番組に登場した元米国鉱山関係者のマーク・スミス氏は、当時の状況について「汚染物質の発生は中国で行われる方がいいと考えられていた」と率直に語っています。こうしてアメリカが生産量を減少させる一方で、中国への依存が進んだのです。
2024年には中国国内の業界再編も完了し、レアアース管理条例も制定されました。笹川平和財団上席フェローの小原凡司氏は番組内で「今や共産党の意図がしっかりと行き届く状態にある」と指摘し、中国がレアアースを交渉カードとして自在に使える体制が整ったことを強調しました。
米地質調査所(USGS)の2025年統計によると、中国のレアアース採掘量は世界全体の約69%、精製に至っては約91%を占めています。個人的に驚いたのは、採掘よりも精製のシェアがはるかに高いという点です。つまり、仮に他の国で鉱石を掘り出しても、それを使える形にする「精製」の段階で中国を通らざるを得ない構造になっているのです。これこそが中国の最大の強みであり、世界にとっての最大のリスクでもあると感じます。
中国の輸出規制で日本企業に打撃|「手の打ちようがない」現実
番組では、中国のレアアース輸出規制が日本の製造現場にどれほど深刻な影響を及ぼしているか、具体的な事例が紹介されていました。
静岡県でモーターを手がける三陽電業。同社が使う高性能なネオジム磁石は、レアアースが加わることで強力な磁力を持ち、新幹線の空調や冷蔵庫などに使われています。ところが2025年4月にトランプ大統領が世界各国に高い関税を課したことへの対抗策として、中国がレアアースの輸出規制に踏み切りました。規制の対象は日本を含む世界各国に及びました。
三陽電業では2025年6月からレアアースを含む磁石の入荷が滞るようになり、納期が約1.5ヶ月も遅れる事態に。中島大介社長は商社に問い合わせるも、「中国政府から輸出をするなというお達しがあるので、待つしかない」という回答しか得られませんでした。
中島社長の「中国に飛行機で行って、リュックサックに詰め込んで帰れるのかなんてことも考えるけど、現時点では手の打ちようがない」という言葉は、日本の製造業が置かれた厳しい現実を痛感させるものでした。
さらに2026年に入ってから、日中関係の悪化を受けて中国は日本に対し、軍民両用品目の輸出規制を強化すると発表しています。このまま磁石が手に入らなければ、新製品の開発が進まず、会社に大きな打撃をもたらす恐れがあるのです。
こうした事態は三陽電業だけに限った話ではありません。2025年にはスズキが「スイフト」の生産を一時停止するなど、レアアース不足の影響は日本の自動車産業にも波及しました。野村総合研究所の試算では、レアアース輸入が3ヶ月間停止した場合の経済損失は約6,600億円、1年間に及べば約2.6兆円に達するとされています。レアアース問題は決して一部のメーカーだけの問題ではなく、日本経済全体に関わる安全保障上の課題なのです。
トランプ大統領のレアアース確保戦略|鉱山投資と買取保証の全容
中国のレアアース支配に対して、アメリカのトランプ大統領は強い危機感を持ち、異例とも言える形で対策を加速させています。
番組で紹介されたトランプ政権の主な施策は次の通りです。まず、鉱山開発を手がける企業におよそ2,400億円を投じる方針を発表しました。また別の企業に対しては、政府が一定の価格以上でレアアースを10年間にわたって買い取ることを保証する措置を導入しています。さらに、国内ではおよそ70年ぶりとなる新たな鉱山開発にも着手しました。
番組が取材したアメリカ西部の鉱山には、国内最大規模のレアアース埋蔵量が期待されています。鉱山会社のランダル・アトキンスCEOは「約140万トンのレアアースがあり、アメリカで100年以上賄える計算だ」と語りました。
実は、1980年代まではレアアースの世界シェアでトップだったのはアメリカでした。その座を中国に奪われてから30年以上が経過し、今になって巻き返しを図っている形です。しかしアトキンスCEOも「中国に勝てるかどうかはわからない。中国は30年以上リードしており、多くの技術を持っている」と認めており、一朝一夕に中国優位を覆すことは難しいのが実情です。
トランプ大統領は2026年2月には50カ国以上の閣僚を集めた閣僚級会合を開催し、レアアースの新しいサプライチェーン構築を呼びかけています。しかし番組で小原凡司氏が指摘したように、2025年10月の米中首脳会談ではアメリカが関税の引き下げを余儀なくされた経緯もあり、「中国のレアアースが強いということが明らかになってしまった」のが現実です。
私がこの一連の動きで注目しているのは、トランプ政権が単に鉱山を開発するだけでなく、「10年間の買取保証」という、民間企業のリスクを国が引き受ける枠組みを作った点です。レアアースの開発は莫大な初期投資が必要で、しかも中国が価格競争を仕掛ければ採算が合わなくなるリスクがあります。だからこそ政府の長期保証がなければ、民間企業は本気で参入できないのです。
グリーンランド争奪戦の裏にあるレアアースの覇権争い
番組では、レアアースを巡る米中の争いがデンマーク自治領のグリーンランドにも波紋を広げていることが詳しく報じられていました。
トランプ大統領はグリーンランドの領有に意欲を見せ、「グリーンランドは広大でほぼ完全に無人、未開発の領土だ。買収は何の問題もない」と発言しています。その背景には、グリーンランドに世界有数のレアアース埋蔵量があるとされていることがあります。
アメリカのシンクタンクCSISのグレースリン・バスカラン氏は「グリーンランドのレアアースに中国はまだ手をつけていない。トランプ大統領の優先事項の一つは、中国企業が世界中のレアアースを買い占めるのを防ぐことだ」と分析しています。
一方で、グリーンランド現地では戸惑いの声が上がっています。鉱山開発関連会社を営むマリック・ラスムセンさんは「自然を守り大切にするという考えは私たちの文化に深く根付いている。今行われている協議に、多くの住民は警戒している」と語りました。
グリーンランド南部クヤレックのマレーネ・ラスムセン市長はトランプ大統領に向けた書簡を公表し、「私たちの土地と共同体は大国のチェスの駒にはならない。秩序、敬意、責任なしにグリーンランドの鉱物は1グラムたりとも採掘させない」と毅然とした姿勢を示しました。同時に市長は「経済的な自立のためには資金も必要なので複雑な心境だ。ただ、地元住民を尊重した方法で進める必要がある」とも述べています。
グリーンランド自治政府のナタニエルセン鉱物資源担当相も「環境面などで高い基準を設定している。基準を満たすなら投資は大歓迎」と、条件付きで開発に前向きな姿勢を見せました。
グリーンランドの問題は、レアアースの争いが単なる経済の話にとどまらず、先住民の権利や環境保護、そして国家の主権にまで関わるテーマであることを如実に示しています。大国の思惑と地元住民の暮らしが交錯する、非常にデリケートな問題だと感じました。
日本の脱中国依存戦略|ナミビア鉱山開発と独自技術による代替磁石
番組では、日本が進める脱中国依存の具体的な取り組みが複数紹介されていました。大きく分けると、海外での資源開発、独自技術による代替品開発、そして国内の海底資源開発の3つの柱があります。
ナミビアでの鉱山開発
2026年2月に南アフリカで行われた重要鉱物の国際会議で、経済産業省の松尾剛彦経済産業審議官がアフリカでのレアアース権益獲得を積極的に進めると表明しました。経済産業省の小林直貴氏(鉱物課 課長補佐)たちが向かったのは、アフリカ南部のナミビアです。
日本は中国がまだ進出していなかったこの鉱山の調査を6年前から進めてきました。最新の調査では、磁石に必要なジスプロシウムや、ジェットエンジンにも使われるイットリウムなど、中国が輸出規制の対象としてきた種類のレアアースが豊富にあることが確認されています。
ただし、課題も山積しています。小林氏は「都市から5時間ぐらいかかる。日本に持ってくるコストが上がってしまう。価格的に有利じゃない部分は当然ある」と率直に語っています。インフラ整備や環境対策を行った上で事業の採算をどう成り立たせるかが、今後の大きなハードルです。
独自技術による代替磁石の開発
番組で取り上げられた特殊鋼メーカー(大同特殊鋼)は、7年かけて中国が輸出規制する一部のレアアース(重希土類)を使わなくても、同じ程度の性能を引き出すネオジム磁石の開発に成功しました。製造時の温度などに工夫を凝らしたこの磁石は、ハイブリッド自動車の駆動用モーターなどに使われています。
2025年の中国による輸出規制以降、この磁石への問い合わせは10倍以上に増加しました。しかし営業担当の宮脇寛氏は「単純に価格だけで行くと、中国のメーカーに対して不利」と認めつつ、安定供給という付加価値で勝負していく姿勢を示しています。
南鳥島沖の海底レアアース泥
番組でも触れられていましたが、2026年1月から2月にかけて、内閣府のプロジェクトにより南鳥島沖の水深約6,000mの海底で試験採掘が実施され、レアアースを含む泥の引き上げに成功したと発表されました。地球深部探査船「ちきゅう」を使った世界初の取り組みです。2027年には1日あたり350トンの泥の回収能力を実証する大規模試験が計画されており、2028年度以降の産業化を目指しています。
ただし、東京から約1,950km離れた場所にある南鳥島で、水深6,000mからの採掘という条件では採算性の確保が最大の課題です。すぐに中国依存を解消できる「切り札」とはなり得ませんが、緊急時の供給ルートを確保するという経済安全保障上の意義は非常に大きいと言えます。
こうした複数の取り組みを同時並行で進めている点こそ、日本の戦略の核心だと思います。一つの方法に頼るのではなく、リスクを分散させるアプローチは、まさに2010年のレアアースショック以来の教訓が生きていると感じます。
小原凡司・清水孝太郎が提言「ゼロ・チャイナではなくレス・チャイナ」
番組の後半では、2人の専門家から日本が今後どうレアアース問題に向き合うべきか、示唆に富む提言がありました。
清水孝太郎氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員)は、2010年の尖閣諸島中国漁船衝突事件がレアアース対策の大きな転機だったと振り返り、日本の取り組みについて「欧米諸国からも大変先進的だと評価されている」と述べました。
その上で清水氏が強調したのは「ゼロ・チャイナ」ではなく「レス・チャイナ」を目指すべきだという考えです。中国のレアアースは品質も高くコストも低いという特徴があるため、いきなり完全にゼロを目指すのではなく、依存度を段階的に下げていくことが現実的だと指摘しました。また、レアアースそのものを完全に排除してしまうと、量子技術など将来の可能性を自ら手放すことにもなりかねないという、重要な視点も示しています。
一方、小原凡司氏(笹川平和財団上席フェロー)は、中国が国家の意図としてレアアースを開発しカードとして使うことを決めた以上、市場経済の日本が対抗するのはなかなか難しいと認めつつも、「外交で言われている言葉を全て真に受ける必要はない」と冷静な分析を述べました。外交とは経済力や軍事力を背景にした駆け引きであり、「恐れすぎずに正しく警戒することが必要だ」という提言です。
興味深かったのは、小原氏が「中国は完全に日本と対立したいわけでもないし、レアアースを完全に止めたいわけでもない」と述べた点です。中国自身にとってもレアアース輸出は重要なビジネスであり、日本やアメリカが新たなサプライチェーンを構築してしまえば、せっかくの交渉カードの効力が失われてしまうからです。小原氏は「ヨーロッパがいくらゼロ・チャイナと言ったところで、本当にゼロになることはない」とも指摘しており、水面下での交渉は各国とも続けているとのことでした。
この2人の提言を聞いて感じたのは、レアアース問題への対処は「短期的な危機管理」と「中長期的な構造改革」の両面が必要だということです。目の前の輸出規制への対応に追われつつも、5年後、10年後を見据えたサプライチェーンの多角化や技術開発を粘り強く続けることが、日本の進むべき道なのだと思います。
まとめ
2026年2月25日放送のNHK「クローズアップ現代」は、レアアースを巡る世界の最前線を多角的に伝える、見応えのある内容でした。
番組を通じて見えてきたのは、中国のレアアース支配は採掘だけでなく精製工程においてさらに圧倒的であること、トランプ政権がかつてない規模の投資と保証でレアアース確保に動いていること、そしてグリーンランドをはじめ世界各地で資源を巡る争いが激化していることです。
一方で、日本はナミビアでの鉱山開発や重希土類フリー磁石の独自技術、南鳥島沖の海底レアアース泥の試験採掘など、複数の手段で脱中国依存を着実に進めています。専門家の清水孝太郎氏が提言する「レス・チャイナ」、小原凡司氏が説く「恐れすぎず正しく警戒する」という姿勢は、この問題に向き合う上で非常に大切な視座ではないでしょうか。
番組の最後に、静岡県の三陽電業・中島大介社長が「隣国ですから仲がいいに越したことはない。ものづくりが衰退するということは避けたい」と語った言葉が印象的でした。大国の戦略に振り回されながらも、日本のものづくりの現場は、着実にレアアース問題に立ち向かっています。私たち一人一人も、このニュースを「恐れすぎず、正しく警戒する」姿勢で受け止めていきたいものです。
※ 本記事は、2026年2月25日放送のNHK「クローズアップ現代」を参照しています。




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