近年、環境技術の分野で革新的な取り組みを続けているのが、ジャパンモスファクトリーです。同社のCTO(最高技術責任者)である伊藤賀操氏が開発したコケを活用した環境技術が、世界から注目を集めています。身近な植物であるコケが持つ驚くべき特性を活かし、水質改善から貴金属回収まで、幅広い環境課題の解決に挑戦しています。
伊藤賀操CTOが追求するコケの驚きの可能性とは
小学生時代から盆栽を愛好し、そこに生えていたコケに魅せられた伊藤賀操氏。その後、コケ研究の道を歩み、大学院を経て理化学研究所に入所。そこで「ヒョウタンゴケ」が持つ特殊な金属吸着能力を世界で初めて発見しました。この画期的な発見をビジネスとして実用化するため、2019年、47歳で起業を決意。ジャパンモスファクトリーを設立し、コケの産業利用に向けた研究開発を本格的に開始しました。
日本国内だけでも約2000種類存在するといわれるコケ。その中でも特に注目したのが、世界中に生息する「ヒョウタンゴケ」でした。伊藤賀氏は、このコケが持つ驚くべき特性を産業活用することで、地球規模の環境問題解決に貢献できると確信したのです。
ジャパンモスファクトリーが開発する画期的なコケフィルターの仕組み
同社が開発したコケフィルターは、独自の技術で培養した「ヒョウタンゴケ」の原糸体を特殊な紙状に加工したものです。このフィルターは、工場排水などに含まれる有害な金属を効率的に除去することができます。
従来の水質浄化システムでは化学薬品を使用する必要がありましたが、このコケフィルターは環境に優しい自然由来の技術。しかも、既存の浄化システムと比べて数百万円のコスト削減が可能とされています。
水質改善の救世主!ヒョウタンゴケの原糸体が持つ特殊能力
ヒョウタンゴケの原糸体が持つ特殊な能力の秘密は、その構造にあります。通常の植物には「クチクラ層」と呼ばれるワックス層があり、水の出入りを制限しています。しかし、原糸体にはこの層がないため、水が自由に出入りでき、それに伴って水中の金属イオンも効率的に吸着することができるのです。
伊藤賀氏は独自の培養技術を開発し、水槽内で原糸体を培養することに成功。この技術は現在、世界でも同社だけが持つものとなっています。
世界初!コケによる金属吸着技術で環境負荷を大幅削減
実証実験では、わずか10分程度で金属を含んだ水が浄化される様子が確認されています。特筆すべきは、この技術が電力を必要としない点です。毛管現象を利用して自然に水を浄化していくため、環境負荷を最小限に抑えることができます。
レアメタル回収の常識を覆す!コケが実現する金回収の新技術
さらに驚くべきは、このコケフィルターが貴金属の回収にも活用できる点です。実際に同社は、14.8グラムの金の回収に成功。2024年現在の金相場(1グラム1万円超)で計算すると、約15万円相当になります。
また、携帯電話1台から約400ミリグラムの金が回収可能とされる都市鉱山からの貴金属回収にも応用が期待されています。従来の回収方法では採算が合わないケースでも、このコケフィルター技術を使えば効率的な回収が可能になると期待されています。
ジャパンモスファクトリー新体制へ!戸上純社長が描く未来像
2024年7月、伊藤賀氏は研究開発に専念するため、経営のバトンをベンチャー支援の経験豊富な戸上純氏に託しました。戸上新社長は、コケの工業的活用とサイエンティフィックな活用方法の両面で、事業展開を加速させていく方針です。
現在の課題は生産規模の拡大です。現状では月産約60グラムの生産量を、製紙会社が求める1トン規模まで引き上げることが当面の目標となっています。
まとめ:伊藤賀操が切り拓くブレイクスルーな環境技術の可能性
伊藤賀氏は「コケ愛」を原動力に、環境技術の新境地を切り拓いています。研究者としての専門性と、企業家としての挑戦を両立させながら、地球規模の環境問題解決に向けて歩みを進めています。
コケフィルターによる水質改善技術や貴金属回収技術は、環境負荷を最小限に抑えながら、産業界の課題解決に貢献する可能性を秘めています。ジャパンモスファクトリーの技術革新が、持続可能な社会の実現にどのようなブレイクスルーをもたらすのか、今後の展開が注目されています。
※本記事は、2024年12月7に放送(テレビ東京系)の番組「ブレイクスルー」を参照しています。
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