「スーパーの値引きって、どうやって決めてるの?」そんな素朴な疑問を持ったことはありませんか。2025年12月27日放送のテレビ東京系「ブレイクスルー」では、ハルモニアCEO・松村大貴氏が開発したAIによる適正価格自動化システムが紹介されました。本記事では、番組内容をもとに、食品ロス削減と利益最大化を両立させる画期的な仕組みと、松村氏の新たな挑戦について詳しくお伝えします。
松村大貴とハルモニアとは?AIで適正価格を自動化するシステム
松村大貴氏は、2015年にハルモニア株式会社(旧:株式会社空)を創業したCEOです。慶應義塾大学法学部卒業後、ヤフージャパンに入社し、デジタル広告のダイナミックプライシング技術を企画していました。インターネット広告の世界では、リアルタイムで価格が変動するのが当たり前。その仕組みを「リアルな買い物の現場にも応用できるのでは」と着想したのが、ハルモニア創業のきっかけです。
ハルモニアが手がけるのは、需要と供給のバランスから適正価格を算出する「ダイナミックプライシング」のシステムです。ホテルの宿泊料金や高速バスの運賃など、すでに多くの業界で導入が進んでいます。たとえば、京王電鉄バスでは高速バスの収入が数パーセントアップするという成果を上げています。
番組で松村氏が語っていたのは、「本当にビッグデータの分析をして、その瞬間その瞬間の値段をつける」という考え方です。これまで店主の「勘と経験」に頼っていた値付けを、データとAIの力で最適化する。それがハルモニアのミッションなのです。
ハルモニア・ロスフリーの仕組み|ダイナミックプライシングで食品ロス削減
ハルモニアが開発した「ハルモニア・ロスフリー」は、小売店に特化したダイナミックプライシングシステムです。「ロスをなくしていく」という名前の通り、食品廃棄を減らしながら利益を最大化することを目指しています。
番組では、あるスーパーマーケットの1日の来店客数と惣菜の在庫を示したグラフが紹介されました。通常、来客のピークは昼と夕方の2回。しかし、夕方にゲリラ豪雨が発生すると、客足は通常の半分以下に落ち込んでしまいます。こうしたリアルタイムの状況をAIが分析し、たとえば「18時台から20〜30%引き」「閉店間際の20時台には40〜50%引き」といった最適な値引き率を自動で算出します。
このシステムが分析するのは、天候データだけではありません。時間帯による来客数の変化、消費期限までの残り時間、値引き後の売れ行き予測、そして売れ残った場合の廃棄コストまで、さまざまな要素を総合的に判断します。
導入効果は数字にも表れています。60店舗ほど展開するスーパーでは、1店舗あたり月間100万円ものコスト削減を達成したケースもあるとのこと。さらに、値引きと廃棄による食品ロスの金額が2〜3割削減されるというデータも示されました。「値引きすれば売れる確率は上がるが、その分利益を捨てることになる。でも粘りすぎると廃棄リスクが高まる」──このトレードオフの中で、AIがギリギリのバランスを探っていくのです。
東芝テックへ事業売却|松村大貴が選んだ出口戦略とは
2025年10月、松村氏はハルモニア・ロスフリー事業を東芝テック株式会社に売却しました。東芝テックといえば、スーパーマーケットなどで使われるPOSシステムで高いシェアを持つ企業です。
スタートアップの「出口戦略」といえば、IPO(株式上場)を目指すのが一般的です。番組でも、作家の相場英雄氏から「ご自身でIPOするという手段もあったかと思うんですが」と質問がありました。松村氏の答えはこうでした。「明らかにご一緒したほうが、業界に対してインパクトを届けていくスピードが上がるだろうと」。
さらに松村氏は、より本質的な理由も語っています。「世界の問題はどんどん深刻化しているタイミングでもあるので、いかに早くシステム・仕組み全体を変えて、食品ロス問題だったり気候変動問題を少しでも抑制したい」。20代の頃はフェイスブックの創業物語に憧れて起業したという松村氏ですが、食品ロスや社会課題と向き合う中で価値観が変化したといいます。「人生において大事なことって別にそこじゃないよな」と思うようになったそうです。
これは非常に興味深い選択です。自分で上場して「わっさわっさ金が入ってくる」ことよりも、社会課題の解決スピードを優先する。連続起業家として次のステージに進む松村氏の姿勢には、新しい時代の経営者像を感じます。
AR値引き表示システム|東芝テックとの共同開発の全貌
東芝テックとの合流後、松村氏は新たなシステムの開発に取り組んでいます。番組では品川のオフィスにあるショールームが紹介されました。
共同開発中なのが「AR値引き表示システム」です。従来のバーコードではなく、特殊な2次元コード(QRコードのようなもの)を商品に印字。このコードには製造時刻や商品情報が登録されています。
店頭のモニター上部に設置されたカメラがこの2次元コードを読み取ると、AIが最適な値引き率を計算し、画面上にリアルタイムで表示されます。つまり、値引きシールが貼られていない商品でも、レジに持っていけば自動的に割引価格が適用されるのです。
番組では、同じサラダが時間の経過とともに「30%オフ」から「半額」へと変わっていく様子が実演されました。消費期限が近づくにつれて、自動的に値下げされていく仕組みです。
東芝テックの平松直剛氏(量販店ソリューション商品部)は、「POSデータは持っているが有効に活用できていなかった。ハルモニアと組むことで新たな領域に進出できる」と語っています。膨大な購買データを持つ東芝テックと、そのデータを活用するAI技術を持つハルモニア。両社の強みを掛け合わせることで、小売業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)が一気に加速する可能性があります。
バタフライラボ設立|松村大貴が挑む社会課題解決への新展開
事業売却後の松村氏は、立ち止まっていません。2025年12月10日、東京・渋谷で新会社「Butterfly Lab(バタフライラボ)」を設立しました。
バタフライラボが掲げるのは「複雑な課題が解けたらどんな未来があるだろうか」というビジョンです。事業内容は社会課題解決に向けたコンサルティング。番組では、クラフトビールを起点にした街づくりなど、飲食に関するプロジェクトが紹介されました。
設立イベントにはアサヒビールやミツカンといった大手食品メーカーも参加。アサヒビールの西川祐担当部長(イノベーション戦略部)は「お酒にはコミュニケーションを促進する価値がある。新しい市場の可能性を感じている」とコメント。ミツカンの岡本洋忠部長(戦略企画部)も「食を一緒に向き合っていく仲間として、新しいことにチャレンジしたい」と期待を寄せています。
「バタフライ」という社名には、「小さな変化が大きなうねりを生む」というバタフライ効果への想いが込められていると考えられます。ダイナミックプライシングという「価格の最適化」から始まり、今度は「社会システム全体の最適化」へ。松村氏の挑戦はスケールアップし続けています。
まとめ
テレビ東京系「ブレイクスルー」で紹介されたハルモニアCEO・松村大貴氏の取り組みは、単なる値引きシステムの開発にとどまりません。ビッグデータとAIを駆使した「適正価格」の追求は、食品ロス削減、小売業界の利益改善、そして持続可能な社会の実現につながる大きな可能性を秘めています。
松村氏は番組の最後にこう語りました。「ブレイクスルーとは、私たちの当たり前が逆転すること」。大きな革命ではなく、常識が少しずつ変わっていくことで、社会は確実に変わっていく。そんなメッセージが込められていました。
東芝テックとの協業によるAR値引き表示システムの実用化、そしてバタフライラボによる新たな社会課題への挑戦。松村大貴氏の今後の動向から目が離せません。
※ 本記事は、2025年12月27日放送(テレビ東京系)の人気番組「ブレイクスルー」を参照しています。
※ ハルモニア株式会社の公式サイトはこちら



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