2025年3月8日にテレビ東京系で放送された番組「ブレイクスルー」では、小説家の真山仁さんが医療革命を起こそうとしている最先端の手術支援ロボットとその開発者に迫りました。世界初の「力覚」機能を搭載した外科手術支援ロボット「Saroa(サロア)」を開発したリバーフィールドの只野耕太郎社長の挑戦と情熱に迫ります。
世界初!リバーフィールドが開発した力覚搭載の外科手術支援ロボットSaroaとは
リバーフィールド社が開発した「Saroa」は、世界で初めて「力覚」機能を搭載した外科手術支援ロボットです。内視鏡手術の補助を行うこのロボットは、患者の体に開けた数箇所の穴から3本のアームを挿入し、離れた場所にいる術者がモニターを見ながら遠隔で操作します。
最大の特徴は、ロボットが患者の体内で何かを掴んだ時の「手応え」や「反力」を、術者の指先に感覚として伝える「力覚」機能です。この機能により、臓器や血管の硬さや柔らかさを感じ取りながら、繊細な操作が可能になっています。
Saroaは肺がん、胃がん、大腸がんの切除、胆嚢摘出や婦人科系の手術などに対応しており、すでに国内7つの病院で導入されています。3Dメガネを使った立体視機能も備え、初心者でも比較的簡単に操作できる点も大きな特徴です。
医療革命を起こす只野耕太郎社長のロボット開発への情熱
リバーフィールド社長の只野耕太郎氏は、子供の頃からロボットや建設機械などのメカニズムに強い興味を持っていました。「形でなく、なぜこういう動き方をするのか」といったメカニズムへの関心が、現在の開発につながっているそうです。
東京工業大学の博士課程を修了した只野氏は、その後準教授としてロボット工学を研究。2014年に東工大と東京医科歯科大学の共同ベンチャー企業として誕生したリバーフィールドの創業メンバーとして参加しました。現在、社員60人ほどの同社では、内視鏡を備えた外科手術用ロボットなど4つの手術支援ロボットを開発しています。
医療という未知の世界に飛び込んだ只野氏ですが、「難しいところだからこそやりがいがある」と語ります。手術室でロボットの立ち会いをした際、患者さんが翌日歩いているのを見ると、「我々の技術が少しでも貢献できたんだな」と実感し、やってきた価値を感じるそうです。
Saroaの力覚技術が実現する精密な手術操作とその仕組み
Saroaの最大の特長である「力覚」は、手術ロボットの世界では革命的な機能です。番組内では、いくらの粒を使った実験で、力覚の有無による操作性の違いを検証。力覚がない状態では、いくらをつぶしてしまいますが、力覚を有効にすると繊細な力加減で掴むことができました。
この力覚の仕組みは、アームの先端の器具にかかった圧力から臓器などの硬さや柔らかさを推定し、それを医師の指に伝えるというものです。実際のデータでも、力覚がない場合は「全力で掴むか離すか」の二択になりますが、力覚があれば徐々に力を弱めるなど、繊細な力加減が可能になることが示されています。
これにより、触った感覚から腫瘍の位置を特定したり、臓器を傷つけずに手術を進めたりすることができます。只野氏は「力覚があることで、どの先生でもゴッドハンドに近づけられる」と、その可能性を語っています。
従来のダビンチとの違い – Saroaが持つ革新的な特徴と優位性
医療現場ですでに広く使われている米国製の手術ロボット「ダビンチ」。1990年代から開発が進み、1999年に販売が開始され、日本国内でも750台以上が稼働しています。しかし、ダビンチには改善すべき点もありました。
第一に、ダビンチは力覚の機能がないため、熟練の医師が画像を見ながら経験を頼りに操作する必要がありました。対してSaroaは力覚機能により、臓器の硬さなどを感じながら操作できます。
第二に、コストの問題です。ダビンチは1台約2億5000万円と高額ですが、Saroaはその半額以下の約1億円で提供されています。その理由として、只野氏は「低コストで導入いただけるところを開発の初期から意識していた」と説明しています。
また、ダビンチは重さが1トンもあり設置場所が限られますが、Saroaは小型軽量化に成功し、一人でも簡単に移動できる設計になっています。これにより、大きな病院だけでなく中規模の病院でも導入しやすくなっています。
手術現場で実証されたSaroaの効果 – 石橋洋則医師の症例から
番組では、実際にSaroaを導入している病院での手術の様子も紹介されました。東京科学大学の呼吸器外科、石橋洋則医師が30代男性の肺の腫瘍を切除する手術を行う様子が映し出されます。
この手術では、見えない場所に腫瘍があったため、Saroaの力覚機能を頼りに探していく場面がありました。石橋医師は「これ硬いんだよね」と力覚で感じ取った感触を言葉にしながら、腫瘍の位置を特定していきます。
手術後のインタビューでは、「心臓の横にあった腫瘍で、触った感覚でこれ硬いから気管支かなというのはSaroaでよく分かった」と評価。助手の先生たちには分からなかったものが、Saroaの力覚機能で確認できたと述べています。
さらに、「肺は柔らかい臓器なので、他社のロボットだと持っただけで内出血してしまうが、Saroaではそれがない」と指摘し、「今はダビンチよりも使いやすいかな」とその優位性を語っています。
遠隔手術の可能性と医師不足解消への貢献
Saroaは遠隔で手術を行う機能も備えています。「これをアメリカに持って行って、赤坂でやることができる」と只野氏が説明するように、都市間をネットワークでつないだ遠隔手術の実験はすでに行われています。
この機能は、日本が直面している深刻な医師不足の問題解決にも貢献する可能性があります。「県内に1人か2人しかいないような県がいっぱいある」という現状に対して、遠隔手術ロボットによって医師不足の問題解消に貢献できると考えられています。
真山氏が「つまりチャンスということですよね」と問いかけると、只野氏も「そうですね」と応えており、社会課題の解決と技術革新、ビジネスの発展が一致している点が注目されます。
未来へ向けた展望 – 手術支援ロボットの自動化と普及への課題
只野氏が目指している次の目標は、手術支援ロボットの完全自動化です。10年以内の完成を目指していますが、その実現には大きな壁があります。それはデータの不足です。
Saroaは動きだけでなく力の情報も取得できるため、AIの学習データとしては強みがあります。しかし、「実際の本物の患者さんの手術のデータをどう集められるか」という課題があります。個人情報に関わる部分や、データの権利の問題もあり、どれくらいのボリュームでデータを集められるかが今後のAI開発における課題だと只野氏は述べています。
また、普及に向けては、コスト面の改善も重要です。「医療ロボットは非常に高コストというところが大きな問題」と指摘し、経済的な理由で導入できない病院が多い中で、「低コストで導入いただける」ことを意識した開発を行っていると語っています。
まとめ – 「技術の恩恵を届け貢献する」只野耕太郎社長のブレイクスルー
番組の最後で、真山氏は只野氏に「ブレイクスルーとは何ですか」と問いかけます。それに対して只野氏は「患者さんに最後まで届けるというところ」と答えました。「患者さんにとってその技術の恩恵がそこまで届かなかったら結局はもうそれで終わってしまう」と語り、「技術の恩恵を患者さん広く1人でも多くの患者さんに届けて患者さんに貢献できるというところ、そこまで行くというのがブレイクスルーかな」と締めくくっています。
真山氏も最後に、「支援をしてもっともっとその安全性を高くしていただくことができると、それはアメリカに勝つとかではなく、やっぱり患者にとってまたこれで、もしかしたら1つ命が救えたというところに届ける思いはもうちょっと分かって欲しい」と共感を示していました。
日本発の先進的な医療技術が、世界の医療現場を変えていく可能性を感じさせる番組でした。今後のリバーフィールドと只野耕太郎社長の挑戦に、引き続き注目していきたいと思います。
※本記事は、2025年3月8日にテレビ東京系で放送された番組「ブレイクスルー」を参照しています。
コメント