テレビ東京系列で2025年3月29日に放送された「ブレイクスルー」では、睡眠学の世界的権威である柳沢正史教授が登場し、「正しい睡眠」がもたらす様々な効果について語りました。睡眠と健康、企業業績の関係から最新の睡眠ビジネスまで、睡眠がもたらす革命的な可能性について紹介します。
柳沢正史教授が語る「正しい睡眠」の重要性と日本人の睡眠問題
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の機構長を務める柳沢正史教授は、睡眠学の世界的権威として知られています。1998年に脳内物質「オレキシン」を発見し、その功績から複数の国際的な賞を受賞。ノーベル賞候補との呼び声も高い研究者です。
柳沢教授によれば、日本は「世界一の睡眠不足大国」であり、日本人の睡眠に対する認識は深刻な問題を抱えています。「寝る間も惜しんで頑張る」「24時間働けますか」といった風潮が今なお根強く残っており、多くの日本人が睡眠の重要性を軽視しているのです。
特に柳沢教授が危惧しているのは「日本で1番ブラックなのは霞ヶ関です。国の重鎮が眠ってないってのはこれ本当ヤバイですよ」と語るように、国の重要な意思決定を行う政府機関での睡眠軽視の文化です。
正しい睡眠時間について柳沢教授は「万人に適した睡眠時間はなく年齢によっても変わる」と説明していますが、30代くらいの一般的な働き世代では平均7時間半程度、20代30代の若者では平均8時間半程度が必要だと指摘しています。
S’UIMNが開発した睡眠測定技術と企業の業績向上への貢献
柳沢教授は2017年に「S’UIMN」(スイミン)というベンチャー企業を設立し、睡眠の計測ができる装置を開発しました。この装置は「インソムノグラフ」と呼ばれ、睡眠の質を「見える化」することができる画期的なデバイスです。
S’UIMNは企業向けのコンサルティングも行っており、すでに30社で睡眠計測を実施しています。その効果は目覚ましく、一部の大手企業では業績のパフォーマンスが4.3ポイントも上昇し、売上も数千万円アップするという結果が出ています。
「健康経営ってねなんか企業イメージとかCSRとかそういうことじゃないんですよ。従業員がよく眠ってる企業の方が利益率が高いんですよ。要するに業績が良いんですよ」と柳沢教授は強調しています。
「寝ない大人は横に育つ」睡眠不足とメタボリックシンドロームの関係性
番組内で柳沢教授は「寝る子は育つ、寝ない大人は横に育つ」という言葉で睡眠不足と肥満の関係を端的に表現しました。研究によれば、睡眠が不足している人はカロリー摂取量が増加する傾向があり、これが肥満の大きな原因になっているといいます。
実際に、2023年から配信されている柳沢教授が監修したスマホアプリ「ポケモンスリープ」のユーザーデータを分析した研究では「ポケモンスリープやって睡眠が改善した人の方がダイエットがうまくいってる」という結果が出ています。具体的には「ボディーマスインデックス(BMI)、体重指数の減り方が2倍ぐらいになる」とのことです。
これは睡眠時間が増えることでカロリー摂取が抑えられ、結果的に体重減少につながったと考えられます。柳沢教授は「睡眠不足はもう肥満の最大の原因」と断言しています。
「徹夜は酔っ払い状態」正しい睡眠がもたらす認知機能と生産性の向上
睡眠不足は単に肥満のリスクを高めるだけではありません。柳沢教授によれば「徹夜した後の脳のパフォーマンスっていうのは血中アルコール濃度0.1%相当」であり、これは完全な酒気帯び運転状態に相当するといいます。
「今日は徹夜で仕事したぜって自慢してる奴は、『俺は酔っ払って仕事してるぜ』って言ってるのと同じ」と柳沢教授は指摘しています。睡眠不足状態での業務は、認知機能の低下を招き、生産性を大きく落とすことになるのです。
特に短時間睡眠を続けた場合の影響も深刻で、「4時間睡眠を5晩続けると、それは徹夜と同じくらいのパフォーマンス低下になる」と警告しています。こうした状態では感情のコントロールも難しくなり、イライラしたり落ち込んだりしやすくなるとのことです。
企業の「健康経営」と睡眠の関係性~日本システム技術の取り組み事例
番組では、実際にS’UIMNの睡眠計測技術を導入している「日本システム技術」の事例が紹介されました。教育、医療、金融の各分野でシステムやアプリ開発などを行うこのIT企業では、2024年から社員の睡眠計測と分析を開始しています。
同社の保健師である大友かおりさんは「食生活、運動、睡眠とありますけれども、業務のパフォーマンスの影響がいちばん大きいかなと思ったので、睡眠にフォーカスいたしました」と導入の理由を説明しています。
実際に睡眠計測を行った社員からは「5時間半から6時間ぐらいで少しちょっと短いかなっていうところでした」「睡眠計測がきっかけでその生活リズムが整って結果的にその業務のパフォーマンスでしたり、でその分、あの1時間早く、あの就寝するっていうところに繋げられてるので非常にあの効果を感じております」といった前向きな感想が聞かれました。
日本システム技術では会社が費用の9割以上を負担し、140人の社員が睡眠計測を実施。今後も業務パフォーマンスの向上に向け継続的に取り組んでいくとのことです。
ポケモンスリープがもたらした睡眠改善効果とダイエット成功の関連性
2023年から配信が始まった柳沢教授が監修したスマホアプリ「ポケモンスリープ」は、睡眠の質の向上に大きく貢献しています。使い方は寝る前にアプリを起動し枕元に置くだけという簡単なもの。寝ている間に自身の睡眠が計測され、長時間眠るとスコアが高くなり多くのポケモンと出会うことができる仕組みです。
柳沢教授によれば「ポケモンスリープを続けて使ってる人って言うのは、最大1時間半だったかな睡眠時間が実際伸びる」とのこと。さらに興味深いのは、すでに述べた通り睡眠改善がダイエット成功と相関関係にあることが研究によって示されている点です。
このアプリの開発経緯も興味深く、ポケモンGOの成功を受けて「次は睡眠」というアイデアがあったものの、具体的な実現方法が分からず柳沢教授に相談があったといいます。当初「スマホゲームって子供が寝なくなる元凶」と懐疑的だった柳沢教授でしたが、「長く寝れば寝るほど点数上がる」「睡眠が規則的であればあるほど点数上がる」という2つの条件を設定することで、睡眠を促進するアプリの監修に協力することになったのです。
睡眠ビジネス市場の拡大とテンシャルなどが開発する最新睡眠関連製品
睡眠に関するビジネスは近年急速に拡大しており、番組によれば睡眠ビジネス市場は2030年になんと110兆円規模まで成長すると見込まれています。
番組では具体的な例として、NTTの子会社が開発した「生体データと音楽で眠けを誘う」という睡眠ウェアや、東証グロース市場に上場したテンシャル(株式会社TENTIAL)が開発した「リカバリーウェア」が紹介されました。このリカバリーウェアは「着ている人の体温を利用してぬくもりを保ち睡眠環境を整えることができる」という特徴があります。
ただし柳沢教授は「今スリープテックとかスリープ関係のグッズってのはものすごく注目されて経済規模も大きくてマーケットも大きくて。だけどそこは本当に玉石混淆で何の科学的根拠もないことを謳ってる商品が残念ながらたくさんあります」と警鐘を鳴らしています。
睡眠ビジネスの活況は歓迎すべきものである一方で、消費者としては科学的根拠のある製品を見極める目が必要だといえるでしょう。
「森林限界を超える」柳沢正史教授が考えるブレイクスルーの本質
番組の最後に柳沢教授は、自身の「ブレイクスルー」について問われ、「今やってるその研究、何かやろうとしてることで森林限界を超えることですかね。突然視野が開けてあ、ここ行きゃいいのかと」と答えました。
この「森林限界を超える」という表現は、実は将棋の天才・藤井聡太氏がインタビューで使った言葉だといいます。「将棋を登山に例えるとね今何合目ぐらいにいらっしゃいますか?」という質問に「森林限界を超えてません」と答えたエピソードに感銘を受けた柳沢教授が引用したものでした。
この言葉には、研究において未知の領域に足を踏み入れ、誰も見たことのない景色を見ることの素晴らしさが込められています。柳沢教授自身、血管研究から睡眠研究へと大きく研究分野を転換したのも「面白いことしかしたくない」という、研究者としての純粋な好奇心があったからこそでした。
「世界を超えてですね、あの優秀な方が集まってきてるんで、まあ私もこの研究所の若い研究者にいつも言うのはとにかく心から面白いと思えることをやってくださいと」という言葉からも、柳沢教授が後進の研究者たちにも同じ姿勢を伝えようとしていることが伝わってきます。
まとめ:正しい睡眠習慣が個人の健康と企業の業績を向上させる理由
「ブレイクスルー」で紹介された柳沢正史教授の研究と知見から、睡眠がいかに私たちの健康と生活の質、さらには企業の業績にまで影響を与えるかが明らかになりました。
睡眠不足は肥満や認知機能の低下などの健康リスクをもたらすだけでなく、企業の生産性にも大きな影響を与えます。S’UIMNによる睡眠計測技術の導入や「ポケモンスリープ」のような革新的なアプリの開発により、「正しい睡眠」の重要性が少しずつ社会に浸透しつつあります。
睡眠ビジネス市場の急速な成長は、私たちが睡眠の質の向上に関心を持ち始めている証拠ともいえるでしょう。ただし、科学的根拠のない商品も多いことから、消費者としては情報を見極める目を持つことも大切です。
柳沢教授が語る「森林限界を超える」ブレイクスルーの本質は、睡眠研究だけでなく、あらゆる分野の挑戦者にとって大きな示唆を与えてくれます。未知の領域に足を踏み入れる勇気と、純粋な好奇心こそが、新たな道を切り拓く原動力なのかもしれません。
正しい睡眠の習慣を身につけることは、個人の健康維持だけでなく、社会全体の生産性向上にもつながる可能性を秘めています。睡眠を「正しく」捉え直すことで、私たち一人ひとりの生活や、企業、そして社会全体が大きく変わる可能性があるのです。
※本記事は、2025年3月29日放送(テレビ東京系列)の人気番組「ブレイクスルー」を参照しています。
※先週の「ブレイクスルー」の内容はこちらにまとめています。
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