2025年5月29日に放送されたテレビ東京系「カンブリア宮殿」では、調理ロボット業界のトップランナーであるテックマジック社の白木裕士社長が登場し、外食業界に革命をもたらす調理ロボットの実力について詳しく紹介されました。人手不足が深刻化する外食業界で注目を集める同社の技術力と、その背景にある創業者の想いに迫ります。
テックマジック社とは?白木裕士社長が描く調理ロボットの未来
テックマジック(TECHMAGIC)は、2018年2月に設立されたばかりのスタートアップ企業です。東京・江東区のテレコムセンタービルに本社を構え、わずか7年という短期間で調理ロボット業界のパイオニアとしての地位を確立しました。
同社の特徴は、約80人いる社員のうち6割をエンジニアが占めるという高い技術力にあります。これは一般的な企業と比較して非常に高い比率であり、同社の技術への強いこだわりを物語っています。資本金は22億5118万円(資本準備金含む)に達し、投資家からも高い評価を受けていることがわかります。
白木裕士社長(37歳)は、「僕たちの技術って企業の生産性を上げるだけではない。食のインフラをしっかり変えていく」と語り、調理ロボットによる社会変革への強い意志を示しています。同社が目指すのは、単なる省人化ではなく、「調理をしなくてもいい時代」の実現です。
白木社長はさらに、「将来的には人類が調理をしなくてもいい世の中になる」とし、「昔馬で移動していた時代があったが、今では馬に乗るのは趣味になった。調理をするということも趣味になる時代になっていく」と10年以内の実現を目標に掲げています。
I-Robo(アイロボ)の調理ロボット実力とは?大阪王将での導入事例
テックマジックの主力製品の一つであるI-Robo(アイロボ)は、炒め調理に特化した革新的な調理ロボットです。全国におよそ350店舗を構える大阪王将では、平日でも1日400食という大量の注文を、このI-Roboが支えています。
I-Roboの最大の特徴は、熟練シェフの職人技を数値化して再現できることです。大阪王将の1級調理職人である渡辺卓也さん(入社13年)のような、800人いる料理人のうちたった2%、17人しかいない最高レベルの技術を、ロボットが忠実に再現します。
具体的な仕組みとして、職人が振る中華鍋の動きを深型鍋の回転で再現し、鍋肌に沿って弓のようにカーブした専用ヘラが、豆腐を崩すことなく緩やかに混ぜて味を均等に馴染ませます。特に難易度の高い卵料理では、半熟になるとヘラが鍋肌から卵を掬い取り、回転する鍋とヘラの絶妙なバランスで空気をふくませて、人間が作るのと同様のふわふわの仕上がりを実現しています。
さらに注目すべきは、使用後の自動洗浄機能です。調理が終わると自動で鍋を洗浄するため、人の手間を大幅に削減できます。大阪王将の調理人からは「クオリティの高いものもしっかり出せますし、調理検定を受けてない方でも同じようなクオリティで作れる」との評価を得ています。
P-Robo(ピーロボ)がプロントで実現したパスタ調理革命
テックマジックのもう一つの主力製品であるP-Robo(ピーロボ)は、全長およそ5mもある大型のパスタ調理専用ロボットです。このロボットこそが、同社の調理ロボット開発の原点となった記念すべき第一号機です。
P-Roboの開発は、サントリー傘下の外食事業を束ねる綾野喜之さん(当時プロント専務)との出会いから始まりました。綾野さんは「当時だからプロントも本当にみんながみんな賛成じゃない方もたくさんいらっしゃった。最悪ダメだったら僕が頭を下げる」と、リスクを承知でプロジェクトを支援しました。
開発は困難を極め、店の狭い厨房に収まり、具材やソースが異なるパスタ料理を1台で作れるロボットの実現には3年半を要しました。麺を茹で、同時にソースを作り、それと和えるという一連の動作を高速で行えるまでには、ひたすらの試行錯誤が必要でした。
しかし、2022年についに完成したP-Roboは、プロントの新業態「エビノスパゲッティ」で大きな成果を上げています。10種類のパスタの調理が可能で、味付けも1食わずか45秒で完了します。従来の店舗では3分ほどかかっていた調理時間を大幅に短縮し、厨房スタッフも2-3人から1-2名で運営できるようになり、生産性は約3倍に向上しました。
調理ロボットの価格と導入メリット「時給500円」の衝撃
テックマジックの調理ロボットは、月額12万円(税別)というサブスクリプション方式で提供されています。これを時給に換算すると約500円という驚異的な安さです。白木社長は「特に地方の方に行くともう人を雇いたくてもなかなか雇えないという時代に入ってますので、調理ロボットの可能性を感じていただけるお客様も多い」と語っています。
導入企業からは具体的な成果が報告されており、「10%コスト削減ができた」「売上が増加した」「今まで提供できないメニューが提供できるようになって売上が上がった」という声が聞かれます。コスト面だけでなく、メニューの幅を広げることで売上向上にも貢献しているのです。
労働環境の改善効果も見逃せません。「鍋を振るとどうしても腱鞘炎になったり、すごい暑い場所で働くのでなかなか大変」だった重労働から解放され、離職率の減少にもつながっています。白木社長は「チェーン様からはやっぱ塩水飲みながら従業員の方が調理をしてる」という過酷な労働環境の改善を強調しています。
顧客にとってのメリットとしては、デジタルレシピによる味の標準化があります。「どの店舗に行っても同じ味を食べられる」ことで、ブランドの信頼性向上にも貢献しています。
旬楽善からハニーグロウまで!国内外での導入拡大事例
テックマジックの調理ロボットは、外食チェーンだけでなく、様々な業態で活用されています。愛知県一宮市のスーパー「旬楽善 一宮・八幡店」では、顧客が炒めもの用の食材と調味料のセットを購入し、店内のI-Robo2で調理して、出来立てをその場で楽しめるサービスを提供しています。
高齢者や一人暮らしの方からは「本当すごい。至れり尽くせり。こんなあったらもう本当に誰だっていいですよね」との声が寄せられ、新しい食のスタイルとして注目されています。責任者の加藤健靖さんは「複数の食材を組み合わせて調理することで、そのままイートインでここの場所ですぐに食べれるスペースを設けていくのが将来的なこと」と展望を語っています。
国際的な展開も順調に進んでいます。2025年大阪・関西万博の会場では、客席から見える位置にI-Roboを設置し、ロボットが作ったチャーハンを提供しています。海外からの来場者からは「とっても美味しいわ。うちにもこんなロボットがあったらいいのに」(メキシコ)、「ロボットに簡単な仕事を任せると人間は細かな作業に集中できていいと思う」(オランダ)という好評を得ています。
さらに注目すべきは、アメリカ進出の実現です。全米でおよそ60店舗を展開するファストフードチェーン「ハニーグロウ」では、ステアフライという野菜や麺を一緒に炒めた焼きそばのような料理の調理にI-Roboを導入しました。ハニーグロウのジョン・トーマス副社長は「私はキッチンで働くことがどれだけ忙しくストレスがかかる仕事なのかを知っています。厨房の仕事をより楽に、しかも料理の質も高いものにしたい」と導入理由を説明しています。
白木社長は「今年ロサンゼルスに支社を作りまして、日本で成功したロボットはどんどん海外に輸出していこう」と海外展開への意欲を示しており、2024年にはラスベガスで開催された世界最大のテクノロジー見本市「CES」にも初出展を果たしています。
白木裕士社長の創業ストーリー「祖母への想い」が原点
白木裕士社長の調理ロボット開発への想いの原点は、名古屋に住む祖母・愛子さん(現在96歳)の体験にあります。ボストンコンサルティンググループで働いていた2017年、白木社長が祖母を訪ねた際、90歳を超えて足腰が悪くなり、一人で料理ができなくなっていた祖母の姿を目の当たりにしました。
「やっぱおばあちゃんがその食事に苦労をしていた。おじいちゃんが亡くなってで1人暮らしになってま90超えて足腰悪くなって自分で料理ができなくなって」という状況を見て、白木社長は人に代わって料理をしてくれるロボットの必要性を痛感しました。
白木社長は1987年名古屋生まれで、商社を経営する父の影響もあり、おのずと企業経営に興味を持つようになりました。大学はカナダに留学し、卒業後は外資系のボストンコンサルティンググループに就職。しかし祖母の体験が転機となり、「料理ができない人であったりとか料理をする時間がない人であったりとか料理をしたくない人も、一定数いるという風に思ってるので調理をしなくてもいい時代を作ることができれば」という想いで会社を辞め、テックマジックを立ち上げました。
メカの素人ながら会社を立ち上げた白木社長は、まず現場を理解するためファミリーレストランのガストでアルバイトを経験しました。「課題は現場にある」という信念のもと、「茹でる」「炒める」「揚げる」「焼く」といった主要な調理方法を全て扱うファミレスの厨房で実際に働くことで、調理の工程を把握しました。
創業当初は「そんなロボット本当に実現可能なんですか?」「できたとしても人間より美味しく作れるんですかね?」と全く相手にされない日々が続きました。しかし、「世の中に事例がないことやってきたんで」という困難にも負けず、現在に至るまで祖母には定期的に事業の進捗を共有し続けており、「その度にやっぱり喜んでくれます」と語っています。
白木社長の父親も経営者で、おじいちゃんからは「世のため人のためになる仕事将来しろ」と教えられて育ったことが、現在の「ロボットは人間の仕事を奪うのではなく、人間と共に生き支えてくれる存在」という哲学につながっています。
まとめ
2025年5月29日放送のカンブリア宮殿で紹介されたテックマジックと白木裕士社長の取り組みは、単なる技術革新を超えた社会変革への挑戦でした。I-Robo(アイロボ)とP-Robo(ピーロボ)という2つの主力製品は、大阪王将やプロントでの成功事例を通じて、外食業界の人手不足という深刻な課題に対する有効な解決策となっています。
月額12万円(時給換算500円)という画期的な料金体系により、中小の飲食店でも導入しやすい環境を整備し、旬楽善やハニーグロウといった多様な業態での展開により、調理ロボットの可能性を広げています。
最も印象的なのは、96歳の祖母への想いから始まった白木社長の創業ストーリーです。「調理をしなくてもいい時代」という壮大なビジョンを掲げながらも、その根底には家族への愛情と、困っている人を助けたいという純粋な想いがあります。
テックマジックの調理ロボットは、技術の力で人々の生活を豊かにし、働く人の環境を改善し、そして新しい食文化を創造する可能性を秘めています。10年以内に「調理が趣味になる時代」の実現を目指す白木社長の挑戦は、これからも注目し続けたい技術革命の物語です。
※ 本記事は、2025年5月29日放送(テレビ東京系)の人気番組「カンブリア宮殿」を参照しています。
※ TechMagic株式会社 のHPはこちら
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