「最近、漢字が思い出せない…」そんな経験はありませんか?パソコンやスマホの普及で、私たちは手書きをする機会が激減しています。2025年1月7日放送のNHK『クローズアップ現代』では、手書きのメリットを最新研究から解明。脳の活性化や記憶力向上など、科学的に裏付けられた効果が紹介されました。この記事では番組内容をもとに、デジタル時代にこそ知っておきたい手書きの価値をお伝えします。
手書きのメリットとは?最新研究が解明した脳への効果
手書きには、デジタル入力では得られない脳への効果があることが、近年の研究で明らかになっています。
番組に出演した兵庫教育大学准教授の大塚貞男さんによると、手書きをするとき、私たちの脳は複数の感覚を同時に使っているそうです。具体的には、指先や手の動きをコントロールする「運動」、紙の感触や筆圧を感じる「触覚」、リズムや間を感じる「時間感覚」、文字の形や配置を認識する「視覚」、そしてペンが走る音を聞く「聴覚」。これらが同時に働いているのです。
このように複数の感覚を脳で統合的に処理することを「マルチモーダル」と呼びます。この統合処理こそが脳を活性化させ、記憶を促し、ひいては思考力の向上にもつながると考えられています。
つまり、手書きは単なる「文字を書く作業」ではなく、脳全体を使った総合的なトレーニングのようなものなのです。デジタル機器での入力が当たり前になった今だからこそ、この手書きのメリットを意識的に取り入れる価値があるのではないでしょうか。
海外で進む「手書き回帰」スウェーデン・アメリカの教育方針転換
デジタル先進国として知られるスウェーデンでは、3年前に大きな方針転換がありました。それまでタブレットの配布やインターネット活用を国を挙げて推進してきましたが、学力低下への懸念から、手書き重視の教育へと舵を切ったのです。
当時のロッタ・エドホルム学校大臣は「学校では本の時間を増やし、スクリーンを見る時間を減らす必要があります。手書きでノートを取ったほうが、より多く学べるのは明らかです」と発言。政府として「読み書きを学ぶための最良の環境は、本、紙、鉛筆」という考えを打ち出しました。
一方、アメリカでも変化が起きています。現在、およそ半数の州が筆記体の授業を義務化しています。ロサンゼルス郡教育局のレスリー・ゾロヤさんは「手書きは読解に必要な脳のすべての神経回路を活性化させます」とその理由を説明しています。
実際に効果も出ています。手書きで学習する時間を増やした学校では、国語の学力が大幅に向上。特に6年生では、標準以上の成績の生徒が18%から46%へと大きく増加したそうです。
さらにアメリカには文化的な理由もあります。筆記体で記された独立宣言や合衆国憲法といった歴史的文書を、若い世代が読めなくなっていたのです。先人の知恵に直接触れるためにも、筆記体教育の復活が求められたというわけです。
デジタル入力vs手書き|記憶力への影響を東大研究が比較
「デジタルでも紙でも、書けば同じでは?」と思われるかもしれません。しかし、東京大学の酒井邦嘉教授による研究では、興味深い違いが明らかになりました。
研究では、スマホに入力、タブレットにペンで入力、紙の手帳に手書きという3つの方法を比較。MRIで脳の活動を分析した結果、記憶の面では紙への手書きが最も有利であることがわかりました。
その理由は「思い出すための手がかり」の違いにあります。デジタル機器では画面のスクロールなどで文字の位置が変わってしまいます。一方、紙に書いた場合は「左上に書いた」「真ん中あたりに書いた」といった場所の記憶が、内容を思い出す手がかりになってくれるのです。
酒井教授は「我々は、そのことだけを思い出すだけではなくて、周りにあるエピソードや体験も一緒に引き出すことで、より豊富な再現ができる。紙の手帳は非常に強力なツールになる」と解説しています。
同じペンを使う動作でも、タブレットと紙ではこれほど違いがあるのです。デジタルの便利さを活かしつつも、大切なことは紙に書くという使い分けが有効かもしれませんね。
ジャーナリングで思考整理|デジタル時代の手書き活用法
手書きを日常に取り入れる方法として、今注目されているのが「ジャーナリング」です。これは紙とペンだけを使い、心に浮かんだ考えや感情をそのまま書き出していく習慣のこと。番組では、仕事帰りの会社員たちがジャーナリングの会合に集まる様子が紹介されていました。
ジャーナリングを指導する荻野淳也さんによると、大企業のミドルマネジメント層が疲弊しているというデータもある中で、手書きで思考を整理するニーズが高まっているそうです。
ポイントは「手書きならではの遅さ」にあります。タイピングと比べて文字を書くにも言葉を選ぶにも時間がかかる。その余白が、じっくりと考えることを促してくれるのです。参加者からは「立ち止まって考えることがあまりない日常で、書くことでどんどん明確化される」という声も聞かれました。
また、10年以上ジャーナリングを続けている横峰沙弥香さんは、毎日1時間以上手書きでメモをとり、書き溜めた手帳やノートは10冊以上にのぼります。「スマホ、デジタルより紙のほうがより私っていう輪郭がはっきり残る。後から見直したときに、そのときの自分を理解できる」と、手書きの魅力を語っていました。
大塚准教授はこれを「発散的思考」と呼び、0から1を生み出す人間らしい創造性につながるものだと説明しています。
糸井重里・大塚貞男が語る手書きの価値とは
番組では、ロングセラー手帳をプロデュースするコピーライターの糸井重里さんと、手書きの効果を科学的に研究する大塚貞男さんが、それぞれの視点から手書きの価値を語りました。
糸井さんは、デジタル入力を「伝わりやすい」、手書きを「表わしやすい」と表現。「アイラブユーという言葉でも、デジタルなら間違いなく伝わる。でも手書きは歌と同じで、その人なりの表現が出る」と、感情や個性が乗る手書きの特性を指摘しました。
そして糸井さんが最後に示した答えは「私の声」。「赤ちゃんでも書く。歌や踊りと同じで、原始の時代から続いてきた人間の営み。素敵な字は素敵な声と同じ」という言葉が印象的でした。
一方、大塚准教授の答えは「人間らしさ」。手書きは身体感覚を伴った作業であり、人間らしい思考の源になり得るもの。AI時代に人間に求められているもののヒントが、手書きに詰まっているのではないかと述べました。
お二人の言葉からは、手書きが単なる情報伝達の手段ではなく、人間の本質的な表現活動であるという共通認識が感じられます。
まとめ|デジタル時代にこそ見直したい手書きの意義
2025年1月7日放送の『クローズアップ現代』では、最新研究をもとに手書きのメリットが科学的に解説されました。
手書きは脳の複数の感覚を同時に使う「マルチモーダル」な活動であり、記憶力や思考力の向上に効果があります。海外ではスウェーデンやアメリカが教育現場で手書き回帰を進め、実際に学力向上という成果も出ています。
もちろん、デジタル入力には「速い」「修正しやすい」「大量の情報を処理できる」という利点があり、学習障害のある子供の補助にもなり得ます。どちらが良いと単純に決めるのではなく、それぞれの特徴を理解して使い分けることが大切です。
ただ、糸井重里さんの「私の声」、大塚准教授の「人間らしさ」という言葉が示すように、手書きには人間の本質に関わる価値があります。AI技術が急速に発展する今だからこそ、あえて時間をかけて手で書くという行為を、日常に取り入れてみてはいかがでしょうか。
※ 本記事は、2025年1月7日放送のNHK『クローズアップ現代』を参照しています。





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