森友学園問題が新たな局面を迎えています。2025年6月25日に放送されたNHKクローズアップ現代「徹底検証 森友文書開示(2)浮かび上がる新たな闇」では、財務省による約9000ページの文書開示によって、これまで知られていなかった深刻な事実が明らかになりました。改ざんを強いられ自らの命を絶った赤木俊夫さんの手書きノートには、文書改ざん後も続いた組織からの圧力と、会計検査院への嘘の説明を迫られた苦悩が生々しく記録されていました。
森友文書開示で浮かび上がった新たな事実「9000ページが語る真実」
財務省が今月新たに開示したのは、赤木俊夫さんが取りまとめていたと見られる8825ページに及ぶ膨大な内部文書です。これらの文書は、森友学園に国有地が売却された2016年6月の取引に関する文書から始まり、2017年2月の8億円値引き発覚後の安倍元総理や財務省への国会追及、その直後から行われた改ざん、さらに会計検査院による検査に関する文書まで、時系列で整理されています。
特に注目すべきは、この膨大な文書の中に含まれていた俊夫さん自身の手書きノートの存在です。妻の雅子さんも初めて目にするこのノートには、改ざんを強いられた後も続いた苦悩の実態が克明に記録されていました。俊夫さんは記録を始めた日付を2017年4月12日としており、これは会計検査院の実地検査を初めて受けた日でした。まさに文書改ざんが行われた後のことだったのです。
この徹底検証により、森友問題の本質的な構造が浮き彫りになりました。単なる文書改ざんにとどまらず、その後の検査対応においても組織ぐるみで隠蔽工作が継続されていた実態が、俊夫さん自身の記録によって証明されたのです。
赤木俊夫さんの手書きノートが明かす「会計検査院への嘘の強要」
雅子さんが「赤木ノート」と呼ぶこの手書きのノートには、俊夫さんが会計検査院から受けた厳しい追及の様子が生々しく記録されています。検査院からは「既存の手続きが省られているように見える。作成していないのか。答えられないものがあるのか、裏があるのか」と厳しく問い詰められていたことが分かります。
特に深刻だったのは、8億円の値引きの妥当性についての追及でした。ノートには「8億は引き過ぎ。どういう見方をしても1億3000万になり得なかった」という記述があり、検査院が値引き額に強い疑問を抱いていたことが明らかになっています。俊夫さんの字は記録が進むにつれて乱れが激しくなっており、追い詰められていく心境が手に取るように分かります。
今回開示された文書からは、財務省本省が近畿財務局に対して「極力資料を提出しないよう指導」していた具体的な経緯も明らかになりました。財務省から送られたメールには「今後外部に提示する可能性のある文書セット案を送ります。不要なものを抜いており。検査院に対して提示する形をイメージしております」との記載があり、意図的に情報を隠蔽していた実態が浮き彫りになっています。
さらに衝撃的だったのは、俊夫さんが検査院の実地検査が終わった4月20日に、刑法258条(公用文書毀棄罪)と刑事訴訟法239条(刑事告発)について調べていた記録です。自らの行為が犯罪であることを深く認識し、告発の可能性まで検討していた俊夫さんの苦悩の深さがうかがえます。
欠落文書の謎「49件中9件が政治家関係」安倍元総理との関連は?
今回の文書開示で最も注目されるのが、49件の欠落文書の存在です。4月に開示された文書では1から382の番号が振られた文書がほぼ時系列でリスト化されていましたが、そのうち49件が欠落していることが明らかになりました。
驚くべきことに、このうち9件が政治家に関係するものだったことが判明しています。リストで確認できただけでも4人の国会議員の名前が登場し、学園から陳情を受けた議員側が国有地の取引について財務省側に問い合わせた内容が記されていました。
特に安倍昭恵氏に関連する文書が少なくとも4件含まれていることが分かっています。46番は学園理事長が昭恵氏とのスリーショット写真を示した日の文書、314番は昭恵氏が学園で講演を行ったことを近畿財務局内で情報共有した文書、そして312番は森友学園の地鎮祭で昭恵氏から祝電が届けられた日の文書などです。祝電では「皆様の夢と思いの結晶である小学校の竣行を楽しみにしております。名誉校長内閣総理大臣夫人安倍昭恵様」との文言が読み上げられていました。
さらに重要なのは、2017年1月11日の近畿財務局内のメールに記録された「大切なことは森友学園を護ることではなく財務局が総理に関係あるものに便益を与えたという風評を立てさせる材料を与えないことにある」という記述です。この記録により、財務省側が早い段階から安倍元総理大臣との関係が取り沙汰されることを強く意識していたことが明らかになっています。
赤木雅子さんの5年越しの闘い「夫の苦悩を知りたい一念」
雅子さんが財務省に対して情報開示を求めてから、文書が開示されるまで5年という長い歳月がかかりました。雅子さんは「夫が何に苦しんでたのかをとにかく知りたいっていう一念です」と語り、裁判を通じて真実を追い求め続けてきました。
今回開示された「赤木ノート」を初めて手にした雅子さんは、「これを返してくださったっていうのがすごい嬉しかった」と感慨深く語りました。ノートを読み進める中で、雅子さんは夫の字に赤いペンで振り仮名を振りながら、「夫の気持ちを追いかけてる感じ」で内容を理解しようと努めています。
特に心を痛めたのは、改ざんだけでなく会計検査院への対応でも嘘を重ねることを余儀なくされていた事実を知ったことでした。「改ざんしか頭になかったのに、それ以外にもいっぱい嘘使わないといけないことがあったって言うのを知った時は、もうああ、そんなに辛い思いしてたんだと思う。そりゃもう死にたくなるよなって思います」と、夫の苦悩の深さを改めて実感されています。
俊夫さんは会計検査の3ヶ月後に鬱病と診断され、休職を余儀なくされました。雅子さんが撮影した映像には、人格が変わってしまった夫の姿が記録されており、「あんなに明るい人間だった、あんな明るい人が、もう人間壊れちゃって」と、組織の論理に翻弄された一人の人間の悲劇を物語っています。
財務省と近畿財務局の対立「なぜ現場は抵抗したのか」
今回開示された文書からは、財務省本省の方針に対する近畿財務局の強い抵抗感も明らかになりました。本省から「不要なものを抜いており」「検査院に対して提示する形をイメージしております」との指導を受けた近畿財務局は、「資料が全てカットされている状況で、この資料で会計検査院への説明は到底できない状況まで書類が削られています」と強く反発していました。
現場の財務局職員たちは「余分な資料を議員に提示するリスクは十分理解するところですが、議員対応と会計検査院への提示文書は別物として整理することが必要ではないか。現場としてご指示通りの処理はできません」と、本省の方針に正面から異議を唱えていたのです。
しかし、組織の方針は覆ることがないまま、現場で対応を迫られたのが俊夫さんでした。本省は「1年を超えて保有する面会記録は存在しない」という見解を財務局内で共有させ、「たとえ記録が残っていてもないものとして対応するよう」念押ししていたことも明らかになっています。
結果として、会計検査院は検査結果を国会に提出した際、「値引き額が適正だったのかについては、必要な資料がなく検証が十分に行えなかった」として、報告書に結論を盛り込むことができませんでした。現場の抵抗を押し切ってまで嘘の説明をするよう指示した財務省の対応は、極めて不適切だったことが改めて浮き彫りになっています。
まとめ
財務省による約9000ページの森友文書開示は、これまで知られていなかった深刻な事実を明らかにしました。赤木俊夫さんの手書きノートからは、文書改ざんにとどまらず、会計検査院への嘘の説明を強いられていた実態が生々しく浮かび上がりました。
49件の欠落文書のうち9件が政治家関係であり、特に安倍昭恵氏に関連する文書が4件含まれていることは、この問題の政治的背景の深さを物語っています。財務省が早期から「総理に関係あるものに便益を与えたという風評」を回避することを最優先にしていた事実は、組織ぐるみの隠蔽工作の動機を明確に示しています。
赤木雅子さんの5年越しの闘いによって開示されたこれらの文書は、一人の真面目な公務員がいかに組織の論理に翻弄され、最終的に命を絶つまで追い詰められたかを克明に記録しています。情報公開制度の限界や、権力に近い部分での文書管理の不透明性など、この問題が提起する課題は深刻です。
財務省は今後も段階的に文書を開示するとしていますが、真の全容解明には、欠落文書の完全な開示と、なぜこのような組織的隠蔽が行われたのかについての徹底的な検証が不可欠です。二度とこのような悲劇を繰り返さないために、私たち国民一人ひとりが関心を持ち続けることが求められています。
※ 本記事は、2025年6月25日に放送されたNHK「クローズアップ現代」を参照しています。
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