2025年6月17日放送のNHK「クローズアップ現代」の「わが町に来てほしい!過熱する外国人労働者”争奪戦”」では、全国の自治体で激化する外国人労働者の獲得競争と、その背景にある深刻な人手不足問題が詳しく取り上げられました。番組では東海大学の万城目正雄教授をゲストに迎え、外国人労働者と共生する社会のあり方について深く掘り下げています。
外国人労働者争奪戦の背景:深刻な人手不足の現実
現在の日本が直面している人手不足は、過去に例を見ないほど深刻な状況となっています。万城目正雄教授によると、人手不足感は1980年代後半のバブル期以降で過去最高レベルに達しており、もはや外国人労働者の受け入れなくして日本経済は成り立たない段階まで来ているのが現実です。
具体的な数字を見ると、パーソル総合研究所の調査では2035年に384万人の労働力が不足すると予測されており、人手不足の深刻さを表しています。この深刻な状況を裏付けるように、帝国データバンクの調査では、人手不足を理由とした企業倒産が2024年に342件発生し、2年連続で過去最多を記録しています。
特に注目すべきは、日本の主な働き手となる15歳から64歳の生産年齢人口が1995年をピークに減少し続けていることです。国は高齢者や女性の雇用促進、ロボットやAI活用による生産性向上で合わせて160万人分の労働力を補おうとしていますが、それでもなお82万人分の労働力が不足する計算となっています。
自治体の独自受け入れ策:茨城・山梨・宮城の取り組み事例
こうした深刻な人手不足を背景に、全国の自治体では外国人労働者の獲得に向けた独自の取り組みが次々と打ち出されています。
茨城県では、この20年で生産年齢人口が2割も減少する中、インドやベトナムなど5カ国の機関と人材の受け入れや送り出しに関する覚え書きを締結しました。さらに企業を現地に連れて行き、説明会や交流会を実施する積極的な姿勢を見せています。茨城県労働政策課雇用促進対策室の増田道也室長は「若者が大学進学を契機に都内に流出してしまう現状では、外国人材の活用は欠かせない」と語っています。
山梨県では、より踏み込んだ支援策として、ベトナム人労働者の母国に残した家族向けの医療保険制度を導入しました。この制度は、ベトナムに残した家族が怪我や病気で入院した際の医療費の約9割をカバーするもので、賃金水準が都市部より低い山梨県が、賃金以外の魅力を提供しようとする取り組みです。
宮城県大崎市では、2025年3月に公営の日本語学校を開設し、28人の生徒が学んでいます。この学校では単なる日本語教育にとどまらず、地域住民との交流機会を積極的に設けており、毎朝地域住民が生徒を出迎える光景が見られるようになっています。
住民からの批判の声とSNSでの反発:税金使途への疑問
しかし、こうした自治体の積極的な取り組みに対しては、住民から批判の声も上がっています。
最も注目を集めたのが山梨県の医療保険制度で、この取り組みに対して400件以上の苦情が殺到しました。多くは制度に関する誤解に基づくもので、「ベトナム人の母国在住家族の医療費の9割を県が負担するのか」「日本の健康保険制度をベトナム人家族に適用するのか」といった誤った情報が拡散されたことが原因でした。
宮城県でも、イスラム教徒の宗教上の理由による土葬墓地の整備検討に対して、SNS上で批判的な意見が飛び交う事態となりました。土葬は日本の法律では禁じられておらず、国内にすでに整備されている場所もありますが、文化や宗教の違いに対する理解がまだ深まっていない現状が浮き彫りになっています。
バングラデシュ出身のソヨド・アブドゥルファッタさんは「マイノリティでも日本で税金も払っているし、日本の経済に参加している。同じ人間の兄弟として見てほしい。問題は宗教が違うだけ」と切実な思いを語っています。
万城目正雄教授が語る外国人労働者受け入れの必要性
東海大学の万城目正雄教授は、番組の中で外国人労働者受け入れの必要性について詳しく解説しています。教授によると、人手不足は確実に存在しており、外国人労働者を受け入れて労働力を維持しなければ、介護、バスなどの公共交通機関、飲食業などのサービスが停止しかねない段階に来ているとのことです。
また、外国人労働者の送り出し国にも変化が見られています。中国は2018年には日本への労働者派遣で2位でしたが、2021年には8位まで順位を落としています。これは中国の経済成長により国内での労働需要が高まり、日本を選ぶ労働者が減少したためです。現在はベトナム、インドネシア、フィリピン、インドといった国々にシフトしており、日本もこれらの国々の言語、食生活、宗教などに対応した受け入れ体制の整備が求められています。
さらに深刻なのは、日本に来た外国人労働者が他国に転職してしまうケースが増えていることです。万城目教授の調査では、全国で働く1600人以上の外国人労働者のうち、48%が「日頃頼りにしている日本人がいない」と回答し、36%が「母国の家族と離れて寂しい」と答えており、孤立感を抱えている実態が明らかになっています。
韓国の先進的な外国人労働者支援制度に学ぶ
番組では、日本より早くから外国人労働者を積極的に受け入れてきた韓国の事例も紹介されています。
韓国は1980年代の経済成長の中で合計特殊出生率が大幅に低下し、深刻な労働力不足に直面しました。当初は法律や制度が整っておらず、賃金の不払いなど悪質な労働環境が社会問題となりましたが、2004年に制度を大幅に改正しました。
現在の韓国では、国が受け入れ人数を決定し、企業が法令違反をしていないかをチェックして、優良企業から外国人労働者を優先的に割り当てる仕組みを構築しています。さらに重要なのは、国や自治体が国民と外国人が互いを理解し尊重できるよう支援することが法的な努力義務となっていることです。
忠南大学政治外交学科のキム・ジョンヒョン准教授は「この法律は急速に増える外国人を道具として見るのではなく、人権の観点から包括的に権利を保証しようとするもの」と説明しています。
具体的な取り組みとして、社会統合プログラムが全国384箇所で実施されており、国から年間14億円以上の予算がついています。このプログラムでは、ゴミの捨て方や目上の人への接し方など韓国社会の習慣から、法律や選挙制度についても教えており、外国人労働者の韓国社会への定着を国を挙げて支援しています。
外国人労働者と共生する社会の実現に向けて
万城目正雄教授は、今後の外国人労働者との共生社会実現に向けて、国、自治体、そして私たち一人ひとりの役割について具体的な提言を行っています。
国に求められるのは、受け入れ後のサポートを企業や自治体任せにするのではなく、国が主導して日本語教育の場をさらに拡充し、法律や社会の習慣を身につけてもらう機会をより広く提供することです。中長期にわたって外国人が日本で就労する機会が広がっていく中で、国のサポート体制の充実が急務となっています。
自治体には、外国人労働者の生活の困り事への支援など、きめ細やかな対応が求められます。身近な存在である地方自治体や地域社会が、受け入れと同時にコミュニティ作りの支援に力を入れることが一層重要になってきています。
そして私たち一人ひとりについて、万城目教授は興味深い指摘をしています。「外国人が活躍する職場は日本人にとっても働きやすい職場」であり、「外国人労働者にまつわる課題は、そのまま日本社会の課題でもある」として、ある意味では日本社会を映し出す鏡のような存在だと述べています。
困り事を抱えやすい外国人労働者が生きやすい社会を作ることは、結果的に日本人にとっても生きやすい社会につながるという視点は、共生社会を考える上で重要な示唆を与えています。
まとめ
2025年6月17日放送のクローズアップ現代が取り上げた外国人労働者争奪戦は、単なる労働力確保の問題を超えて、日本社会の未来を左右する重要な課題であることが明らかになりました。
万城目正雄教授が提唱する「日本人外国人、国籍文化の違いがあるが、それが個性となってお互いが活躍するような社会」という真の共生社会の実現に向けて、私たちは今こそ行動を起こす時期に来ています。
自治体の独自受け入れ策に対する批判の声も含めて、社会全体で外国人労働者との共生について真剣に議論し、韓国などの先進事例に学びながら、日本らしい共生社会の形を作り上げていくことが求められています。
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