2025年6月26日放送のテレビ東京系「カンブリア宮殿」で特集されたヒューリック会長・西浦三郎氏の成功哲学が、多くの経営者から注目を集めています。「銀座の大家」として知られる西浦氏は、わずか20年足らずで時価総額1兆円を超える企業へと成長させた独自戦略の全貌を明かしました。
ヒューリック西浦三郎が「銀座の大家」と呼ばれる理由
ヒューリックが「銀座の大家」と呼ばれるのには、確固たる根拠があります。同社は現在、銀座エリアに37棟ものビルを保有しており、これは圧倒的な規模です。銀座5丁目のプラダが入る建物や、数寄屋橋交差点近くの高層ビルなど、銀座を歩けば必ずと言っていいほど「HULIC(ヒューリック)」の文字を目にします。
特に注目すべきは、2025年の地価公示で銀座4丁目の地価が一坪あたり約2億円となったことです。これは日本最高額の地価であり、そのような超一等地でビジネスを展開していることが、ヒューリックの強さを物語っています。
現在、ヒューリックは不動産業界において、経常利益と時価総額で三井不動産、三菱地所、住友不動産の財閥系大手3社に次ぐ業界4位の地位を確立しています。2025年1月30日に発表された2024年12月期の業績では、連結純利益が前期比8%増の1023億円となり、最高益を更新しました。
カンブリア宮殿で明かされた3つの独自戦略
西浦氏がカンブリア宮殿で語った成功の核心は、大手との差別化を図る3つの独自戦略にあります。
第一の戦略は「駅近の中小物件への特化」です。ヒューリックが取得するビルの多くは駅から徒歩3分以内に位置し、1フロア50坪から100坪程度の中小規模物件に絞り込んでいます。この戦略により、東京都心5区のオフィス空室率が約4%である中、ヒューリックは0.4%という驚異的な低空室率を実現しています。
第二の戦略は「先進的な環境技術の導入」です。マサチューセッツ工科大学と共同開発した太陽光を室内に取り込む特許ルーバーシステムや、動力を使わない自然換気システムなど、最先端の環境技術を積極的に導入しています。これらの取り組みが評価され、ユナイテッドアローズなどの企業が入居を決定しています。
第三の戦略は「郊外一等地での価値創造」です。イトーヨーカドー東大和店の建物を取得し、2024年11月にLICOPA東大和としてリニューアルオープンさせた事例では、来客数を20%増加させ、イトーヨーカ堂の売上を4割も向上させることに成功しました。
57歳異業種転身!みずほ銀行副頭取からヒューリック社長へ
西浦氏の経営者としての出発点は、2006年の劇的な転身にあります。当時みずほ銀行の副頭取であった57歳の西浦氏に、杉山清次頭取(当時)から「日本橋興業の社長をやってくれないか。借金でどうにもならない状態を解消して欲しい」という依頼がありました。
西浦氏は「分かりました」とたった一言で応じ、安定したエリート銀行員の地位を捨てて、倒産の危機にある会社の社長に就任しました。この決断の背景には、「副(頭取)ってのは面白くない。自分の最終決定ないわけですから。自分で意思決定したい」という強い思いがありました。
日本橋興業(現ヒューリック)は1957年に設立され、銀行が所有するビルを管理する事実上の子会社でした。バブル崩壊で不良債権を抱えた銀行から多くのビルを買い取らされ、多額の借金を抱えていた状況でした。
「駅近中小物件」戦略で空室率0.4%を実現
西浦氏が推進する「駅近中小物件」戦略の詳細は、まさに大手との差別化を図る核心部分です。用地・物件の取得担当チーム36人が日々都内の駅近物件を足で探し回り、解体が決まったビルを見つけては、その立地条件を詳細に調査しています。
物件選定の基準は厳格で、駅との距離だけでなく、「雨に濡れずに行けるかどうか」「お昼ご飯を買ったりするような施設があるか」「歩く途中に何があるか」といった細かな利便性まで考慮されています。
2024年に取得した銀座1丁目駅から徒歩3分、築22年のビルは130億円で購入され、その9割以上が土地の価格でした。それでも次々と借り手が決まり、高い稼働率を維持しています。これは、30人から50人規模のオフィスに最適な1フロア100坪という規模設定が、多くの企業のニーズに合致しているからです。
この戦略について西浦氏は「大手はみんなもっと大企業相手にしようとする。だから中小企業のお客様っていうのは50坪から100坪ぐらいっていうのが多い」と語り、大手との明確な差別化を図っています。
社員240人で経常利益1500億円超の高生産性経営
ヒューリックの驚異的な業績を支えているのは、少数精鋭による高生産性経営です。社員はわずか240人でありながら、2024年度の経常利益は1500億円を超え、1人当たり6億数千万円の経常利益を稼ぎ出しています。この数字は他の大手不動産会社と比較しても群を抜いて高い水準です。
この高生産性を実現するため、西浦氏は人材戦略にも力を入れています。社員の38歳平均年収は2000万円を超え、業界でもトップクラスの待遇を提供しています。また、朝と昼に弁当を無償提供し、社内に保育施設を設けて小さな子供を連れて出勤できる環境を整備するなど、福利厚生の充実にも注力しています。
新卒採用においても、応募者約1000人、倍率150倍という難関をくぐり抜けた精鋭7人を採用するなど、優秀な人材の確保に成功しています。新入社員からは「業界志向で行くよりもこの会社と一緒に自分も大きく成長できる」「社員を信頼して大きな仕事を若いうちから任せてもらえる」といった声が聞かれます。
未来を見据えた新事業「こどもデパート」構想
西浦氏が特に力を注いでいる新事業が「こどもデパート」です。2025年春に東京中野駅から徒歩3分の場所にオープンしたこの施設は、少子化時代における新たなビジネスモデルとして注目されています。
こどもデパートには、学童保育、スポーツクラブ、学習塾、小児科クリニックなど、子供のためのテナントが一箇所に集約されています。保護者にとっては「安全性の問題」や利便性が大幅に向上し、「何かあった時に病院を見てもらえる。本当に子供に特化していて親が預けていて安心」という声が寄せられています。
この事業の背景について西浦氏は「子供が減っていくということは非常にその1人1人を大事にしていかなくちゃいけない。やっぱり色々とお金をかけて勉強したりスポーツをやったりということがこれから増えていく」と説明しています。
現在は2箇所の展開ですが、今後は20箇所まで拡大する計画で、6箇所については既に土地も決まっているとのことです。
西浦三郎の将棋から学ぶ「攻めの経営」哲学
西浦氏の経営スタイルを理解する上で欠かせないのが、70年以上続ける将棋への情熱です。5歳から将棋を始め、高校2年生で2段を取得した西浦氏は、現在でも3ヶ月に1度はプロ棋士と対局し、腕を磨き続けています。
プロ棋士の野原未蘭女流2段は西浦氏の将棋スタイルを「攻め将棋。どんどんどんどん嫌なところを攻めてくる」と評価しています。西浦氏自身も「ほとんど『攻め』ですから。『守り』なんて考えてもいない」と語り、この攻めの姿勢がビジネスにも貫かれていることを明かしています。
将棋とビジネスの共通点について西浦氏は「やっぱり考えるってことがいかに大事か。時代の変化が激しい中では先行きを色々読まなくちゃいけないって意味では考えることが必要になってくる」と述べ、先読み力と深い思考の重要性を強調しています。
まとめ
ヒューリック西浦三郎会長の成功哲学は、大手との正面衝突を避けた差別化戦略と、常に10年先を見据えた長期的視点にあります。「同じことやってたら大きいところが絶対勝つに決まって、うちみたいな中小企業負けるから違うことやろう」という明確な方針のもと、駅近中小物件への特化、環境技術の導入、こどもデパートなどの新事業展開を推進してきました。
2025年現在、ヒューリックは2027年12月期に経常利益1800億円以上を目指す新中期経営計画を策定し、今後3年間で9300億円を投資する積極経営を継続します。77歳になった西浦氏は「10年後にどういう風に自分の会社がしていけるか。やっぱり少し長い目で見ていかなくちゃいけない」と語り、先行き不透明な時代においても確固たる成長戦略を描き続けています。
西浦氏の経営手法は、中小企業が大手に対抗するための貴重な示唆を与えており、今後も多くの経営者から注目され続けることでしょう。
※ 本記事は、2025年6月26日放送(テレビ東京系)の人気番組「カンブリア宮殿」を参照しています。
※ HULIC(ヒューリック)株式会社のHPはこちら
※ こどもデパートのHPはこちら
※ 日本将棋連盟のHPはこちら
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