2026年3月18日放送の「いまからサイエンス」(BSテレ東)で紹介された、山形大学・古川英光教授の凍結粉砕技術と3Dフードプリンターが話題です。液体窒素で食品を瞬間凍結し粉末化すれば、風味そのまま約10年間の長期保存が可能に。さらに3Dフードプリンターで成形すれば、ウニ寿司やラーメンだって作れてしまいます。この記事では、番組の内容をもとに技術の仕組み・フードロスへの効果・医療応用まで、わかりやすくまとめました。食の未来を知りたい方はぜひ最後までご覧ください。
古川英光が開発した凍結粉砕技術とは?液体窒素で10年間の長期保存を実現
2026年3月18日放送のBSテレ東「いまからサイエンス」に登場したのは、山形大学工学部機械システム工学科の古川英光卓越研究教授。番組のテーマは「凍結し粉末化!長期保存可能な未来の食品とは?」という、聞いただけでワクワクするものでした。
古川先生が手がける凍結粉砕技術のポイントは、非常にシンプルです。食品をマイナス196度の液体窒素で一気に瞬間凍結し、そのまま粉砕して粉末にするというもの。通常の冷凍では食品内部の水分がゆっくり凍る過程で大きな氷の結晶が生まれ、うまみを閉じ込めている細胞壁を傷つけてしまいます。これが「冷凍すると味が落ちる」原因です。
一方、液体窒素を使った瞬間凍結では、水分が大きな結晶に成長する間もなく一瞬で凍りつくため、細胞壁がほぼ無傷のまま保たれます。こうして凍った食品はガラス状態になり、軽く叩くだけで粉末化できるのです。番組で古川先生が説明していた「バラの花を液体窒素につけるとパリパリに割れる、あの原理」と同じですね。
さらに注目すべきは保存期間です。粉末化した食品をマイナス80度以下で保管すれば、生物学的な分解反応がストップするため、なんと約10年間も風味をそのまま保存できるとのこと。古川先生は番組の中で「ある年のラ・フランスがすごく美味しかったら、その粉末を10年後にヴィンテージとして味わえる。ワインみたいに」と語っていました。正直それは言い過ぎでは?と思いましたが(笑)、「獲りたての新鮮さを10年間封じ込める」というコンセプトは本当に夢があります。
この研究は内閣府が推進する国家プロジェクト「ムーンショット計画」の目標5「食と農」にも認定されており、2030年の実用化を目指して進められています。個人的には、単なる大学の研究にとどまらず、国策レベルで推進されている点に大きな期待を感じます。
廃棄食品を粉末化しフードロス削減!ラ・フランスの皮やウニの殻も活用
この凍結粉砕技術が本領を発揮するのが、フードロスの削減です。
現在、日本の食料自給率はカロリーベースでわずか38%と先進国の中でも最低水準。にもかかわらず、形が悪い・傷がついている・大きすぎる・小さすぎるといった見た目の理由で廃棄されている農産物は、年間で推定約285万トンにものぼると言われています。もったいないどころの話ではありません。
古川先生のアプローチは明快です。「どうせ捨てるなら、粉にしてしまえばいい」という発想。番組でスタジオに持ち込まれたラ・フランスの粉末は、実は果肉ではなく、ジャムや缶詰に加工する際に捨てられる「皮」と「芯」だけを使ったものでした。MCの加藤浩次さんが試食して「うめぇ。ラ・フランスだ」と太鼓判を押していたのが印象的です。
古川先生によれば、皮だけだと香りはあるが物足りない、芯だけだと甘いが香りがない。その両方を合体させたら果肉のような風味が生まれたというのですから、これはもう立派な食品開発と言えるでしょう。
さらにユニークだったのがウニの殻の活用です。殻を液体窒素で凍結して粉砕すると非常に細かい粉末になり、カルシウムが豊富に含まれているため、米粉と混ぜればカルシウム入りのシャリが作れるかもしれないとのこと。加藤さんが「ウニの殻もカニの甲羅も、今まで全部燃やしてた。燃やす量が減ればCO2も減る。しかも美味しく食べられる」と指摘していましたが、まさにその通りです。
枝豆の粉末化にも興味深い話がありました。枝豆は土で育つため表面に土壌の菌が付着しており、除菌と風味の保持を両立させるのに非常に苦労したそうです。最終的には「一度茹でて殺菌してから凍結する」という方法に辿り着き、粒の粗さも最も香りがよく食感が滑らかに残るサイズを割り出したとのこと。地味に聞こえるかもしれませんが、こうした食品ごとの最適解を一つ一つ見つけていく作業こそが、この研究の本当の価値だと感じます。
3Dフードプリンターでウニ寿司やラーメンを成形!ゲル研究が生んだ世界初の技術
凍結粉砕で作った粉末を、もう一度「食べ物の形」に戻す――その切り札が3Dフードプリンターです。
古川先生はもともとゲル(液体と固体の中間の性質を持つ柔らかい素材)の専門家。ソフトコンタクトレンズやおむつの吸水材料にも使われるゲルの研究から出発し、食品をゲル化させて立体成形する「3Dフードプリンター」を世界に先駆けて開発しました。
番組では、海藻や香料などを使ったゲル状食材からウニ寿司を作るデモンストレーションが紹介されていました。驚いたのはそのスピードで、1個あたり約51秒。3台同時稼働で1時間に約200個も作れるそうです。
このプリンターを携えてハンガリーまで出向いたエピソードも面白かったですね。ハンガリーは海のない内陸国で、もともと海鮮になじみが薄い国です。そこで3Dフードプリンターによるウニ寿司を提供したところ、大変な好評だったとのこと。海のない場所でも新鮮な海の幸に近い体験ができる。これは食産業の新しい可能性を示していると思います。
現在、3Dフードプリンターで作れるメニューはお寿司(ウニ、ホッキ貝、卵、マグロなど)を筆頭に、ラーメンや明石焼きなど約20種類にまで増えているそうです。
ただし、番組で加藤さんが鋭く指摘していたのが「本物の壁」です。「お寿司をお寿司っぽく作っても、本物の寿司には勝てない。一回は面白いけど二回目三回目にはならない」という言葉には説得力がありました。古川先生自身も「バッタもんです」と認めていて、ここは正直で好感が持てます。
加藤さんが提案した「廃棄食材を組み合わせて、今まで世界になかった新しい食べ物を創るべき」というアイデアは、この研究の本質を突いていると思います。カロリーメイトのようなスティックバーや、ゼリー飲料が世の中に定着したように、3Dフードプリンターだからこそ生まれる「新ジャンルの食」が出てきたとき、この技術は真価を発揮するはずです。
レーザーで食品を固める!キューブ状ウニ寿司と「材料のプログラミング」
古川先生は光の専門家でもあり、レーザーを使った3Dフードプリンターも開発しています。
こちらは、ゲル状の食品素材の中に含まれる多糖類がレーザーの熱で固まる性質を利用するもの。ゆで卵や焼き卵のように、光で食品を固めて成形できるという発想がユニークです。番組ではキューブ状に成形されたウニ寿司が紹介されていましたが、このウニもまた廃棄食品の再利用から生まれたものです。
地球温暖化による磯焼け対策として、ウニが海藻を食べ尽くす前に小さいうちに駆除されることがあるそうですが、小さすぎて中身がスカスカのため、そのままでは食べられません。そこで、野菜などを食べさせて太らせたウニを粉砕し、レーザープリンターで成形するという手法が取られています。
古川先生が「普通の食品の方々だったら、こんな変な形にしようと思わない」と笑っていましたが、工学者ならではの自由な発想だからこそ生まれるアイデアですよね。そして、こうした「変な形」を面白いと評価してくれるのが一流シェフだと先生は気づいたそうです。発想力のある人ほど、この技術の可能性を見抜ける。この点は非常に示唆的だと思います。
医療分野にも挑戦!人工軟骨・人工血管を目指すゲル×AIの4Dプリンティング
番組の終盤で明かされたのが、3Dフードプリンターの技術を医療分野に応用する研究でした。
もともと古川先生がゲルの3Dプリンターを開発したきっかけは、人工軟骨を作りたかったから。私たちの膝の軟骨は実はゲルの一種で、ジャンプしても体重の何倍もの負荷に耐えられる丈夫な素材です。しかし損傷すると自然には治りにくく、人工軟骨の開発が求められています。
ここで登場するのが「材料のプログラミング」と「4Dプリンティング」という概念です。たとえば、膨張率の異なるゲルを部分ごとに埋め込んで3Dプリントすると、水に浸けた際に特定の部分だけが膨らみ、最終的にハート型や波線のような複雑な形状に自ら変形します。これが「材料のプログラミング」です。
さらに、この設計をAIに任せることで、「最終的にこの形になりたいなら、どんな材料をどの配置で印刷すればいいか」を逆算で導き出せるようになりました。作ってから変形するという時間軸の変化を加えるため、3Dではなく「4Dプリンティング」と呼ばれています。
この技術が確立すれば、患部にぴったりフィットする人工軟骨はもちろん、伸縮の激しい人工血管の作製も夢ではないとのことです。食品の研究をしているようで、実は医療の最前線にもつながっている。古川先生の研究の懐の深さを感じる部分です。
古川英光の原点と「未来を創る秘密のツール」――モノづくり少年が食の未来を拓くまで
古川先生の原点は小学4年生の時に作った手作りモーターでした。銅線を巻いてお菓子の箱の金属を使って作ったモーターが、最初は動かなかったものの、理科の先生のアドバイスで単三電池を単一電池に変えたら回り出した。その感動が、モノづくりへの道を切り拓いたそうです。
さらに「電子びっくり箱」を作って教卓に置き、先生が触ってビリビリッとなったら大ウケ。クラスメートから「作って!」と頼まれてたくさん作って配った経験が「作って人が喜ぶとなんかいいな」という原体験になったとのことです。
そこから1990年代にゲルの研究を始め、2009年に山形大学へ移籍した際に3Dゲルプリンターを開発。しかし当初は誰にも注目されず、2012年に日本で3Dプリンターブームが起きてようやく脚光を浴びるようになったそうです。先生いわく「流行る前にやってるとすごいラッキー」。これは研究者に限らず、すべてのモノづくりに通じる真理ではないでしょうか。
番組ラストで古川先生が掲げたサイエンスの定義は「未来を創る秘密のツール」。自然現象の解明にとどまらず、誰かが作った科学や技術を活用して社会を変えていく。そこに科学の本当の価値がある、という先生の信念が詰まった言葉でした。
個人的に最も共感したのは、先生が「一番人々の生活を変える可能性があるのは3Dフードプリンターなんじゃないかな」と語っていた場面です。昔はゲームセンターでしかできなかったゲームが家庭用ゲーム機の普及で一変したように、小型化したフードプリンターが家庭に入る日が来たら、「食」の概念そのものが変わるかもしれません。
まとめ
2026年3月18日放送の「いまからサイエンス」で紹介された山形大学・古川英光教授の研究は、凍結粉砕による長期保存と3Dフードプリンターによる食品成形という二つの柱で成り立っています。
液体窒素でマイナス196度の瞬間凍結→粉砕→マイナス80度以下で約10年間の長期保存という技術は、年間推定約285万トンもの廃棄農産物を有効活用する可能性を持っています。さらに、ゲル化した食品をプリンターで成形する技術は、ウニ寿司やラーメンなど約20種類のメニューを実現し、ハンガリーの海なし国でも寿司文化を届けるまでに進化しています。
そして医療分野では、ゲルとAIを組み合わせた4Dプリンティングにより、人工軟骨や人工血管の開発も進行中。「食品を砕いて遊んでるだけじゃないじゃないですか、先生」という加藤浩次さんのツッコミがまさに的確でしたね。
ムーンショット計画の国家プロジェクトとして2030年の実用化を目指すこの研究。工学者ならではの自由な発想で食の未来を切り拓く古川先生の挑戦は、まだまだ始まったばかりです。
※ 本記事は、2026年3月18日放送の「いまからサイエンス」(BSテレ東)を参照しています。




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