2024年、日本の最低賃金は全国平均で過去最大となる51円引き上げられ、1055円となりました。この大幅な引き上げは、地方における若者の流出や人材確保の課題に対する切実な対策として注目を集めています。今回は、NHK「クローズアップ現代」（2024年11月27日放送）で特集された最低賃金引き上げの実態と課題について、法政大学経営大学院教授の山田久氏の解説を交えながら詳しく見ていきましょう。
最低賃金引き上げの背景と全国の動向
2024年、最低賃金は全国平均で1055円となり、51円という過去最大の引き上げを記録しました。特に注目すべきは、徳島県の84円という全国最大の引き上げ幅です。これは、若い世代の流出に歯止めをかけたいという切実な思いが背景にあります。実際に、徳島県では過去10年間で30代までの若者が毎年約1万人も県外へ流出しており、これは転出者全体の約8割を占める深刻な状況となっています。
山田久教授が指摘する最低賃金引き上げの意義と課題
法政大学経営大学院の山田久教授は、最低賃金引き上げの必要性を指摘しつつ、その実施方法について重要な提言を行っています。特に注目すべきは、人件費を「コスト」ではなく「投資」として捉え直す視点です。山田教授は、企業が売上を増やすためには、従業員のモチベーション向上と将来の成長につながる投資的な視点が重要だと指摘しています。また、シングルペアレントなど、最低賃金で生活を支える人々への配慮も必要だと述べています。
法政大学経営大学院 山田久教授 （引用：「法政大学ビジススクールHP」より）
徳島県の事例から見る最低賃金引き上げの実態
徳島県では、後藤田知事が歴代知事として初めて最低賃金審議会に出席し、1000円を超える最低賃金を強く要望しました。その背景には、若者の県外流出への危機感がありました。この取り組みの結果、徳島県の最低賃金は84円引き上げられることとなりました。しかし、この引き上げは企業にとって大きな負担となっています。例えば、28人を雇用する地元の居酒屋では、月額約40万円の人件費増加が発生しています。
徳島県の後藤田正純知事 （引用：「徳島新聞」より）
地域間格差と人材確保の現状
現在、生産年齢人口の減少率が高い地域ほど、最低賃金の上昇率も高くなる傾向が見られます。これは、人口減少が深刻な地域ほど労働力不足が顕著となり、人材確保のために賃金を引き上げざるを得ない状況を示しています。特に県境地域では、隣県との賃金格差が人材流出に直結するため、地域間での賃金引き上げ競争が起きています。
人手不足解消への取り組みと課題
群馬県明和町の事例では、大企業誘致により地域の時給水準は上昇し、一時は全国平均を上回る約1400円を記録しました。地元の飲食店では従業員の時給を3ヶ月に1回のペースで引き上げ、中には1年で300円の昇給を実現した店舗もあります。しかし、賃金上昇だけでは人手不足の根本的な解決には至っておらず、多くの企業がタブレット導入などのデジタル化で対応を図っています。
リスキリングと生産性向上への取り組み
山田教授は、企業の成長には従業員の新しい知識やスキルの習得、いわゆるリスキリングが不可欠だと指摘しています。特に、デジタル化や新しいサービス展開に対応するため、従業員のスキルアップは重要な課題となっています。これは単なる賃金上昇を超えて、企業全体の生産性向上につながる重要な投資として位置づけられています。
最低賃金と「推し消費」がもたらす経済効果
山田教授は、最低賃金の上昇と消費行動の関係についても言及し、特に「推し消費」の重要性を指摘しています。環境に配慮した商品やサービスを提供する企業を支援する消費行動が、結果として従業員の待遇改善や企業の生産性向上につながるという好循環を生み出す可能性があると述べています。
まとめ
最低賃金の引き上げは、若者の流出防止や人材確保のための重要な施策ですが、それだけでは十分ではありません。山田教授が指摘するように、人件費を投資として捉え直し、リスキリングを通じた生産性向上を図ることが重要です。また、消費者としての私たちも、「推し消費」を通じて企業の好循環を支援することができます。地域の活性化と持続可能な経済成長のために、賃金引き上げを単なるコスト増ではなく、未来への投資として捉え直すことが求められています。
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