2024年、選挙とSNSの関係が大きな転換点を迎えています。NHK「クローズアップ現代」(2024年12月16日放送)の独自調査によると、SNSが有権者の投票行動に大きな影響を与えていることが明らかになりました。本記事では、最新の選挙事例から見えてきたSNS時代の選挙の実態と、今後の課題について詳しく解説します。
SNS時代の選挙で起きている”4つ目のバン”現象とは
選挙に必要な要素として、これまで「地盤」「看板」「カバン」という”3バン”が重要とされてきました。しかし2024年、新たに”4つ目のバン”として「ネット地盤」が加わったことが、複数の選挙事例から明らかになっています。
この変化の背景には、総務省の調査による重要な統計データがあります。2021年以降、全年代平均でネットの利用時間がテレビの視聴時間を上回るようになり、その傾向は年々強まっています。特に注目すべきは、実際に投票に足を運ぶ年代層と、ネットを長時間利用する年代層が重なってきているという点です。
兵庫県知事選挙で見えたSNSの影響力と投票行動の変化
2024年11月に行われた兵庫県知事選挙は、SNSの影響力が如実に表れた事例として注目を集めています。NHKの出口調査によると、投票の際にSNSや動画サイトを最も参考にしたと答えた人の割合が、新聞やテレビを上回りました。
さらに興味深いのは、SNSが投票行動に与えた具体的な影響です。NHKが実施した3000人余りを対象とした独自アンケートによると、SNS・動画サイトを最も参考にした人の7割が、「投票先を変えるに至った」もしくは「投票先を決める上で重要な要素になった」と回答しています。
SNS選挙時代における有権者の情報収集と投票判断の実態
兵庫県知事選挙の分析から、候補者への投票と情報収集手段には明確な相関関係が見られました。当選した斎藤氏に投票した人の46%がSNS・動画サイトを参考にしており、特にYouTubeの影響が顕著でした。一方、対立候補の稲村氏に投票した人の6割以上が、テレビや新聞を主な情報源としていました。
さらに特筆すべきは、選挙期間中の有権者の意識変化です。JX通信社と神戸新聞社の合同調査によると、選挙前は斎藤県政を肯定的に評価する人が2割程度でしたが、選挙期間中に4割に上昇し、投票日の出口調査では7割にまで増加しました。
マスメディアとSNSの選挙報道における役割の違いと課題
従来型のマスメディアとSNSでは、選挙報道の特性に大きな違いがあることが明らかになっています。マスメディアは量的公平性を重視する一方、SNSは情報の即時性と拡散性が特徴となっています。
しかし、課題も浮き彫りになっています。SNSでは誤った情報や真偽の確認が困難な情報が拡散するケースが報告されており、兵庫県知事選でも、候補者に関する誤情報が拡散され、警察への告発に発展する事態も起きています。
アンケートから見える有権者が求める選挙報道とは
NHKの独自アンケートでは、有権者が選挙報道に求める要素として「真実」「公平」「性格」といったキーワードが多く挙げられました。具体的な要望として「公平を意識するあまり突っ込んだ報道を避けているのが物足りない」「デマ情報への速やかなファクトチェックを望む」といった声が目立ちました。
有識者に聞く:SNS時代の選挙における課題と展望
東京大学教授の牧原出氏は、現行の公職選挙法がSNS時代に適合していないことを指摘し、法改正の必要性を訴えています。また、SNSの特性を理解した上での情報リテラシーの重要性も強調しています。
JX通信社代表の米重克洋氏は、SNSの利点として「いつでも政治家の主張に触れられる」点を挙げ、若い世代の政治参加を促進する可能性を評価しています。一方で、SNS特有のアルゴリズムについての理解を深めることの重要性も指摘しています。
まとめ:SNS時代における選挙・メディア・民主主義のあり方
SNS時代の選挙では、情報の取得方法や投票判断の基準が大きく変化しています。この変化は投票率の向上など肯定的な側面がある一方、情報の信頼性や公平性の担保という新たな課題も生んでいます。
今後は、SNSの特性を活かしながら、健全な民主主義の実現に向けて、有権者、メディア、政治家それぞれが新しい時代にふさわしい情報リテラシーを育んでいく必要があります。2024年夏に予定されている参議院選挙に向けて、これらの課題にどう対応していくかが問われています。
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