近年、日本への移住を選ぶ中国人が急増しています。NHK「クローズアップ現代」の特集によると、この2年間だけで約10万人もの中国人が新たに日本での生活を始め、その数は過去最多の87万人を超えました。特に注目すべきは、中国で安定した生活を送っていた中間層の家族が「経営管理ビザ」を活用して移住するケースが増えていることです。なぜ彼らは日本を選ぶのか?その背景にある事情と日本社会への影響について詳しく解説します。
中国人の日本移住が急増する背景とは?クローズアップ現代が徹底解説
2025年5月12日にNHKで放送された「クローズアップ現代」では、近年急増している中国人の日本移住について特集されました。特に注目すべきは、この2年間で約10万人もの中国人が新たに日本での生活を始めたという事実です。日本で暮らす中国人の数は過去最多の87万人を超え、その移住の形態や目的にも新たな傾向が見られています。
従来の留学や就労とは異なり、現在増加しているのは、中国で経営者や会社員として安定した生活を送っていた中間層の家族が日本に移り住むケースです。彼らの多くは、日本語をほとんど話せないにもかかわらず、「経営管理ビザ」を取得して家族ごと移住してきています。なぜ彼らは安定した中国での生活を捨ててまで日本への移住を選ぶのでしょうか?番組では、その背景にある中国国内の事情と日本社会の変化について深く掘り下げていました。
「経営管理ビザ」で拡大する中国人の日本移住の実態
中国人の日本移住が加速している大きな要因の一つとして注目されているのが「経営管理ビザ」です。このビザは、外国からの投資やビジネスを広く呼び込むために約10年前に日本政府が創設したもので、日本で新たに事業を起こすことを前提に、一定の条件を満たせば取得することができます。
具体的には、日本国内に事務所を確保し、500万円以上の資本金を準備するといった条件を満たせば、書類審査だけでビザを取得して日本に入国することが可能です。さらに、このビザでは配偶者や子供も同行できるため、家族全体で日本への移住が実現できる点が大きな魅力となっています。
上海のあるビザ取得仲介企業では、経営管理ビザに関する問い合わせが急増しており、2024年の1年間だけで約100件のビザ取得を仲介したとのこと。これは3年前の20倍にも上る数字です。この状況からも、中国人の日本移住熱の高まりがうかがえます。
日本移住を選ぶ中国人家族の本音と願い
番組で紹介された王さんは、3年前に中国から日本に移住してきました。かつては中国の大手銀行で管理職を務めていた彼女が移住を決断した主な理由は、2人の子供に日本の教育を受けさせたいという思いからでした。現在、子供たちは日本の学校に通い、言葉に不自由することもなくなっています。
「子供たちが日本で自主性を伸ばし成長していくことを望んでいます。日本のいい教育をこのまま受けてほしいです」と王さんは語っています。来日後、アクセサリー販売などの事業を開始し、現在は月々の売上が200万円近くに上り、生活に不安を感じることもなくなりました。
同様に、大阪への移住を考えている丁(テイ)さんも、中国で企業に勤める傍ら2軒のレストランを経営し、年収1300万円を超える安定した生活を送っていました。しかし、コロナ禍の影響でレストランは閉店を余儀なくされ、その後の中国の不動産市況の低迷や経済の減速を背景に、「日本はすでに30年の経済停滞を乗り越えたと感じています。日本の市場は私たち個人経営者にとって非常に良い環境です」と日本でのビジネスチャンスに期待を寄せています。
また、コンサルティング業を営む范(ハン)さんは、中国の過酷な受験競争から子供を守るため、日本移住を決断。「中国では一流の大学に入らないといい仕事にはつけません。サッカーと勉強を両立しようとするとどちらも上手くいかない可能性があります」と中国の教育事情に不安を感じ、「日本には夢を追いかけながら楽しく成長できる環境があります」と語っています。
中国人コミュニティの形成と「小さな中国社会」の現状
日本に移住する中国人の増加に伴い、彼らをサポートするビジネスやコミュニティも急速に発展しています。大阪の中心部には中国人向けの店舗が次々とオープンし、行政手続きの支援や不動産の紹介などを行う中国系の会社も増えています。中国語が話せなくても日本で生活できる「小さな中国社会」が形成されているのです。
ある移住支援会社の社長は「関西地域だけでも10万人の中国人がいるんですよ。それで十分なんですよ、中国人目当てにいろいろビジネス展開したりとか。もう本当に日本の中に小さい中国社会ができているような感じですね」と語っています。
東京財団政策研究所主席研究員の柯隆氏は、日本における「リトルチャイナ」の形成について、「日本にはいわゆるリトルチャイナ、小さな中国ができていて、しかも一定の人数がいるわけですから、彼らがその中で自己完結的なビジネス展開して自分で生きていけるわけです」と説明しています。また、日本が中国人にとって生活しやすい理由として、「日本は漢字文化なわけですから馴染みやすい」点や、すでに形成されている中国人コミュニティのサポート体制を挙げています。
経営管理ビザの乱用問題と柯隆氏が語る懸念点
一方で、経営管理ビザ制度には課題も浮かび上がっています。外国人のビザ取得をサポートしている行政書士事務所によると、具体的な事業計画を持たないまま経営管理ビザを申請したいという相談が増えているとのこと。中国のSNSでは「500万円あれば経営管理ビザを取得できる」と謳う投稿が拡散されており、本来の制度趣旨とは異なる使われ方が広がっている可能性があります。
大阪国際法務事務所の李姫紗代表は「経営管理ビザ、ビザを買うようなイメージですよね。500万円で法人を設立して資本金も入れて形式を整えたら1年のビザはもらえる、ただ趣旨とはちょっと異なってしまうんじゃないかな」と懸念を示しています。
柯隆氏は文化や生活習慣の違いから生じる可能性のあるトラブルについても言及しています。「日本社会が安定する前提は日本人同士の、あるいは日本の文化通じてる人達の暗黙知です。外国の文化持ってる人がいきなり入って来ると、色んなルールがはっきりしないもんですから、トラブルになりやすい」と指摘し、ゴミ出しのルールや騒音などの生活習慣の違いから生じる摩擦を例に挙げています。そして「日本語というのは日本の言語なわけですから、これをマスターするのがマスト」だと強調しています。
民泊事業を活用した日本移住戦略とその課題
経営管理ビザの取得手段として、中国で特に注目されているのが民泊事業です。不動産を旅行者などに貸して収入を得る民泊事業は、SNSを中心に手軽に経営管理ビザを取得する方法として紹介されています。その背景には、実務を担う代行業者の存在があります。
ある民泊施設の運営代行業者は「毎日のチェックインとかチェックアウトを管理してまして」と語り、開業に向けた近隣住民への説明から、開業後の予約管理や清掃、苦情対応まで様々な実務を代行していると説明しています。「基本的にお客様は全部任せて来てますので、お客様の代わりに全部やってます。将来的には永住もしくは帰化を考えてる人は多い」とのことです。
移住支援をビジネスにしている中国人男性は「もともと外国の投資を誘致するため設けたビザじゃないですか、キャッシュで日本に投資してるわけですから決して悪いことじゃないと思います」と述べ、形式的であっても経済的メリットがあると主張しています。
松村嘉久教授が明かす中国系企業の実態調査結果
中国社会を研究している阪南大学の松村嘉久教授は、2020年以降に中国から申請された会社設立について調査を行いました。その結果、資本金500万円で大阪市内に設立された会社は少なくとも1200社に上り、特定の建物に多数の中国系の会社が集中している傾向が判明しました。
「同じ建物にたくさん中国系の会社集まるっていうことが多いんで。いわゆる共同住宅みたいな物件の中に集中してることがあるんですよ」と松村教授は指摘しています。実際に現地調査を行ったあるビルでは、登記上49社もの中国系会社が事務所を置いていたものの、人の出入りはほとんど見られなかったといいます。
このような状況について松村教授は「仕事はされるとは思うんですけど、それがどういう所でどういう仕事されてるかってのは実態見えてない」と述べています。これらの会社の多くは形式的に事務所を設置しているだけで、実質的な事業活動は限られている可能性が指摘されています。
日中の専門家が提言する共生社会への道筋
柯隆氏は、日本社会と中国人移住者の共生に向けた提言として、日本のコミュニティによるサポートの重要性を強調しています。「日本社会、あるいはコミュニティの中では外国人をフォローしてあげる、なんかあったらアドバイスしてあげるという、例えば町内会とかそういったコミュニティがそういう役割果たして行かなきゃいけない。これは日本の社会のこれからの安定、安心を考えた上でとても重要なファクトだと思います」と述べています。
また、柯隆氏は日本社会には「いろんなルールがはっきりしない部分があって、日本人同士だったらトラブルならないにしても、僕らにするとなんでこうだってというのがあってですね」と指摘し、外国人向けにルールをより明確にすることの必要性を訴えています。
明石純一教授が語る外国人受け入れ拡大の課題と展望
筑波大学教授で出入国管理に関する国の委員も務める明石純一氏は、経営管理ビザの乱用問題について「残念ながら制度の乱用と思われても仕方が無いケースっていうのは存在しています」としながらも、「規則を強化するとかあるいはペナルティーを厳罰化するということだけでは物事は解消しない」と指摘しています。
さらに、日本語能力を移住条件とすることについては「日本語能力を移住者に求めるという点では賛成」としながらも、「日本語は非グローバル言語で英語と違いますので一律にその日本語要件を課してしまうと人材獲得の競争において日本は不利なポジションに置かれないかという懸念もある」と述べています。
明石教授は「受け入れ後は日本語教育の場を積極的に提供し、それによって社会適応を進めていくことは非常に重要な課題」だと強調しています。また「近年の海外からの移住者の急増に私達の意識、それから制度が追いついていないのではないか」と危惧しながらも、「排外主義的な政治勢力が台頭している諸外国と比べれば、まだ日本には時間的な余裕が若干残っている。あるいは後発的な利益や学べる事がある」と述べ、今こそ「私達がつまり日本人が移住者側と接触をし、対話をして、歩み寄るというそういう仕組みを充実させることが重要」だと提言しています。
まとめ:増加する中国人の日本移住がもたらす変化と今後の展望
NHK「クローズアップ現代」の特集から見えてきたのは、安定した生活を送っていた中国の中間層家族が、子供の教育環境や経済的な将来性を求めて日本への移住を選択しているという新たな潮流です。現在日本に暮らす中国人は87万人を超え、この1年間だけでも5万人以上増加しています。
「経営管理ビザ」を活用した移住が拡大する一方で、制度の形骸化や乱用の懸念も指摘されています。また、「小さな中国社会」の形成により、日本語が話せなくても生活できる環境が整いつつある現状は、共生に向けた新たな課題を提起しています。
日本政府は外国人受け入れ拡大の方針を掲げており、今後もビジネスや働き手を呼び込む施策が予定されています。柯隆氏と明石純一教授が指摘するように、真の共生社会の実現には、明確なルール作りと相互理解、そして移住後のフォローやサポート体制の充実が不可欠です。日本社会が「ホスト国である自覚」を持ち、移住者との対話や歩み寄りを積極的に進めていくことが、これからの日本社会の安定と発展の鍵となるでしょう。
※ 本記事は、2025年5月12日放送のNHK「クローズアップ現代」を参照しています。
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