2025年7月29日に放送されたNHKクローズアップ現代「ひとに言えない汗の悩み 多い汗・わきが…どう解決?」では、日本人の約1割が悩むとされる汗の問題について、最新の治療法とともに社会の理解を深める内容が紹介されました。この記事では、番組で取り上げられた専門医の解説をもとに、汗の悩みを抱える多くの人々にとって役立つ情報をお届けします。
クローズアップ現代で明かされた汗の悩みの深刻な実態
番組では、汗の悩みを抱える多くの人々の実情が明らかになりました。高校1年生から多汗症に悩む田中さんは、「お風呂上がりみたい」と言われるほど大量の汗に苦しみ、「たかが汗ごときでごめんなさい」と手記に記すまで精神的に追い詰められていました。このような深刻な悩みを抱えながらも、周囲の理解不足により「汗は誰でもかくものだから」と片付けられてしまうケースが少なくないのが現実です。
興味深いことに、番組では多汗症、わきが、無汗症という3つの異なる汗の問題が取り上げられました。これらの疾患は、単なる体質の問題ではなく、日常生活や人間関係、さらには職業選択にまで影響を与える深刻な医学的問題であることが浮き彫りになりました。
特に注目すべきは、こうした汗の悩みが「サイレントハンディキャップ」と呼ばれていることです。外見からは分からないため周囲に理解されにくく、当事者は一人で悩みを抱え込んでしまいがちです。しかし、最新の医学研究により、これらの問題に対する治療法や社会的理解が大きく進歩していることも明らかになりました。
汗が多い人は必見!多汗症の診断基準と最新の治療法
番組で皮膚科医の藤本智子医師が解説したところによると、多汗症は現在日本で1000万人以上が該当すると推計される、決して珍しくない疾患です。しかし、厚生労働省の研究班による調査では、手掌多汗症の有病率は人口の約5.3%、腋窩多汗症は5.7%と高い割合にもかかわらず、実際に医療機関で治療を受けているのは1割以下という驚くべき実態が明らかになっています。
藤本智子医師は、池袋西口ふくろう皮膚科クリニックの院長として多汗症治療のスペシャリストとして知られ、東京医科歯科大学で長年発汗診療に携わってきた経験を持ちます。番組では、多汗症の診断において重要なのは「汗の量」ではなく「困り感」であることが強調されました。
多汗症の診断基準として、6項目のチェックリストが紹介されました。これらの項目のうち2つ以上が当てはまり、局所的な過剰発汗が半年以上続く場合に多汗症と診断されます。興味深いのは、家族歴も診断の一要素となっていることで、一部の患者には遺伝的要因が関与している可能性が示唆されています。
治療法については、2020年から保険適用となった外用薬の登場により、選択肢が大幅に広がりました。従来は塩化アルミニウム溶液や内服薬、電気治療などが主流でしたが、現在では患者の症状や生活スタイルに応じて、より個別化された治療が可能になっています。
わきがの原因と治療選択肢を藤本智子医師が詳しく解説
わきが(腋臭症)については、番組で20代男性の事例が紹介されました。この男性は高校生の頃から交際相手に「臭ッ!」と言われる経験をし、それ以来常に不安を抱えながら生活していました。市販のデオドラント製品を片っ端から試し、シーズンごとに服を買い替えるなど、多大な費用と労力をかけて対策を続けていましたが、それでも職場での臭いが気になり、仕事に集中できない状態が続いていました。
藤本智子医師の解説によると、わきがは日本人の約1割が悩む疾患で、アポクリン腺の発達により起こります。診断のポイントとして、耳垢が湿っている人の約8割がわきが体質であることが挙げられました。また、家族にわきがの人がいる場合、遺伝する確率が高いことも明らかになっています。
治療法としては、根本的な解決を目指すアポクリン腺除去手術と、症状を軽減するボトックス注射の2つが主要な選択肢として紹介されました。手術は保険適用で約5万円の費用で済みますが、1ヶ月近い安静期間が必要です。一方、ボトックス注射は時間がかからず、脇の多汗症も併発している場合は保険適用となります。
汗が出ない無汗症という知られざる難病の実態
番組では、プロ野球選手を目指していた野口湊さんの事例を通じて、無汗症という稀な疾患についても取り上げられました。野口さんは社会人チームに入団した1年目に突然体に異変を感じ、気温が高くない日でも熱中症のような症状に苦しむようになりました。
精密検査の結果、体の80%から汗が出ていないことが判明し、特発性後天性全身性無汗症と診断されました。藤本智子医師によると、無汗症は現在日本で約600名程度と非常に稀な疾患で、難病指定されています。
興味深いことに、無汗症は欧米人よりも日本人に多く見られ、10代から30代の普段よく運動をしていた人に多い傾向があります。これは野口さんのケースとも一致しており、突然汗が出なくなることで、これまで当たり前にできていた運動や日常生活に大きな制約が生じてしまいます。
治療法としては、発汗トレーニングが有効であることが紹介されました。汗をかく機能は年齢に関係なくトレーニングによって改善する可能性があり、お風呂やサウナ、筋力トレーニングなどの日常的なトレーニングが推奨されています。
藤後悦子教授が語る「たかが汗」から変わる社会のあり方
東京未来大学の藤後悦子教授は、汗の悩みを抱える人々の心理的サポートに長年携わってきた専門家として番組に出演しました。教授が指摘する重要な問題の一つは、「たかが汗」という社会の理解不足です。
藤後教授自身も、汗の研究を始める前に親族から相談された際、「汗ぐらいで」と答えてしまい、相手を傷つけてしまった経験があることを率直に語りました。こうした経験から、周囲の理解の重要性と啓発活動の必要性を強く感じるようになったといいます。
特に深刻なのは、現代社会における「清潔圧力」の存在です。テレビCMやSNSなどのメディアにより、汗をかかないサラサラした状態が良いとされ、汗=汚いというイメージが作られてしまっています。これにより当事者は「汗は隠さなければならない」と思い込み、相談しにくい環境が生まれてしまっているのです。
藤後教授は、汗の悩みを「サイレントハンディキャップ」と呼んで、当事者の悩みの深さを理解してもらう努力を続けてきました。近年は保険適用薬の登場や研究の進歩により、社会での認知が徐々に広がってきており、社会のフェーズが変わりつつあると感じているとのことです。
最新研究で期待される汗の悩み解決への新たな対策
番組では、わきが治療における画期的な研究成果も紹介されました。大阪公立大学の植松智教授らの研究チームが、スタフィロコッカス・ホミニスというブドウ球菌の一種が臭いの発生に深く関わっていることを突き止めたのです。
この研究では、スーパーコンピューターを使って成人男性の脇から採取された全ての細菌のDNAを解析し、臭いの原因となる特定の菌を特定しました。さらに重要な発見は、必要な菌は殺さずにスタフィロコッカス・ホミニスだけを狙い撃ちする阻害剤の開発に成功したことです。
現在、この技術を活用して新たな薬やデオドラント商品の開発が企業と共同で進められており、将来的にはより効果的で安全な治療選択肢が生まれる可能性があります。植松教授は「技術革新に期待する」と述べており、汗の悩みを抱える人々にとって希望の光となっています。
番組の最後では、3年前に立ち上がった多汗症の当事者団体についても紹介されました。現在100人を超える参加者がいるこの団体では、誰にも理解されないと思っていた悩みを共感してもらえることで、参加者に大きな変化が生まれています。田中さんも「今まで隠れて拭いていたのが、今はそれがなくなって恥ずかしくなくなりました」と語っており、同じ悩みを持つ人々とのつながりの重要性が示されています。
まとめ
2025年7月29日放送のクローズアップ現代では、汗の悩みが「たかが汗」ではなく、多くの人々の人生に深刻な影響を与える医学的・社会的問題であることが明らかになりました。多汗症は1000万人以上、わきがは日本人の1割が悩む身近な疾患でありながら、治療を受けているのはごく一部に留まっているのが現状です。
しかし、2020年からの保険適用薬の登場や、スタフィロコッカス・ホミニス菌を標的とした新しい治療法の研究など、医学的な進歩は着実に進んでいます。また、藤後悦子教授が指摘する「サイレントハンディキャップ」という概念の普及により、社会的理解も徐々に広がりつつあります。
最も重要なのは、汗の悩みで辛いと感じている人は一人で抱え込まず、専門医に相談することです。藤本智子医師をはじめとする専門家たちが口を揃えて言うように、現在は治療の選択肢が大幅に広がっており、個々の症状や生活スタイルに応じた適切な治療法を見つることができます。
社会全体としても、世の中のほとんどの人が汗で困った経験があることを踏まえ、お互いにより寛容になり、汗の困り感について気軽に話し合える雰囲気を作っていくことが求められています。それが実現すれば、汗の悩みを抱える多くの人々がより生きやすい社会になることでしょう。
※ 本記事は、2025年7月29日に放送されたNHK「クローズアップ現代」を参照しています。
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