2025年8月9日放送のテレビ東京系「ブレイクスルー」で特集されたマイクロ波化学の技術は、まさに日本の未来を変える可能性を秘めています。同社が開発する革新的なマイクロ波技術は、資源不足に悩む日本を救う切り札となるのでしょうか。作家・相場英雄氏が迫った、吉野巌社長の挑戦と「諦めずにやり続けること」の企業精神について詳しく解説します。
マイクロ波化学とは?吉野巌が挑む革新的技術の全貌
マイクロ波化学株式会社は、大阪府に本社を構える東証グロース上場(証券コード:9227)のベンチャー企業です。同社が注目される理由は、私たちの身近にある電子レンジの原理を産業レベルで応用し、化学産業に革命をもたらそうとしているからです。
吉野巌社長は慶應義塾大学法学部を卒業後、三井物産の化学品本部で10年間勤務し、その後UCバークレーでMBAを取得した文系出身の経営者です。商社マン時代の経験を活かし、技術者ではない立場から新しい産業の創造に挑んでいます。2007年8月に大阪大学の研究者である塚原保徳氏と共同で設立した同社は、「Make Wave, Make World.」というミッションを掲げ、マイクロ波技術で世界を変革しようとしています。
従来の化学産業では「外部から・間接的に・全体に」エネルギーを加える方法が一般的でしたが、マイクロ波化学では「内部から・直接・特定の物質だけに」エネルギーを与える真逆のアプローチを採用しています。この技術により、エネルギー消費量を従来の1/3、加熱時間を1/10、用地面積を1/5まで削減することが可能になります。
大阪市住之江区には世界初の大規模マイクロ波化学工場を建設し、実際の産業応用に向けた実証実験を行っています。番組では、相場英雄氏が「実証棟」と呼ばれる施設を見学し、複数のメーカーが同時に異なるプロジェクトを進めている現場を目の当たりにしました。ライバル企業同士が同じ建物内で研究開発を行うという、従来では考えられない環境が整備されているのです。
「白いダイヤ」リチウム抽出技術で資源不足を解決
番組のハイライトの一つが、マイクロ波を使ったリチウム抽出技術です。電気自動車やスマートフォンに欠かせないレアメタルであるリチウムは、その希少性から「白いダイヤ」と呼ばれ、現在世界中で激しい争奪戦が繰り広げられています。
吉野社長が相場氏に見せたキラキラ光る鉱石には、わずか6%のリチウムが含まれています。従来の方法でこの鉱石からリチウムを抽出するには、100メートル級の巨大な炉と膨大なエネルギーが必要でした。しかし、マイクロ波化学の技術では、コンパクトな回転炉床炉で効率的な抽出が可能です。
大手商社の三井物産との共同開発によって生まれたこの装置は、炉を取り囲むように配置された複数のマイクロ波発生装置から、最適な角度で電磁波を照射します。約4時間の処理で鉱石を1100度まで加熱し、リチウム成分を凝縮させることができます。特筆すべきは、マイクロ波が鉱石だけを選択的に加熱するため、炉の外側は熱くならないという点です。
この技術の環境への影響も劇的です。自然由来の電力を使用することで、CO2削減効果は最大9割に達する可能性があります。これまでリチウム精錬の多くを中国に依存してきた理由は、環境基準をクリアすることの難しさにありました。オーストラリアの豊富なリチウム鉱石も、規制が緩い中国で精錬されているのが現状です。
マイクロ波化学の技術が実用化されれば、日本国内でのリチウム精錬が可能になり、中国依存からの脱却という地政学的リスクの回避にも貢献します。5年以内の実用化を目指す同社の取り組みは、まさにゲームチェンジャーとなる可能性を秘めているのです。
レアメタル精錬技術が日本を資源大国に変える可能性
マイクロ波化学の技術は、リチウムだけにとどまりません。同社は南鳥島沖の深海で大量に発見されたレアメタルを含む鉱石から、ニッケルやコバルトを取り出す研究も大手合金メーカーと共同で進めています。
相場氏が番組で提案した「都市鉱山」への応用も、吉野社長が「非常に狙っているところ」と明言した分野です。古いスマートフォンやパソコンなどの電化製品には、金をはじめとする希少な金属が含まれています。プラスチックの廃材を元の原料に戻すリサイクル技術と、レアメタルの精錬技術を組み合わせることで、これらの「都市鉱山」から効率的に貴重な資源を回収できる可能性があります。
吉野社長は日本の産業的特徴について、「自動車、造船、電気、製鉄など、あらゆる産業がワンセット全部揃っている」と指摘しています。このような国は世界的に珍しく、マイクロ波技術をこれらの産業基盤に適用していくことで、日本独自の競争優位性を築けると考えています。
技術立国日本として、マイクロ波技術を外に向かって輸出し、外貨を稼ぐことで国としての生存戦略を描いているのです。資源の乏しい日本が、技術力によって実質的な「資源大国」に変貌する可能性を、マイクロ波化学の技術が示唆しています。
多様な人材が支えるマイクロ波化学の組織力
マイクロ波化学の強みは技術だけではありません。番組では、同社を支える多様な人材にもスポットが当てられました。研究開発部長の緒方俊彦氏は住友化学出身で、「世界を変える」「新しいものを作り出す」という理念に共感して転職を決意したと語っています。
共同創業者で最高科学責任者の塚原保徳氏は、大阪大学教授でもあるマイクロ波の専門家です。彼の「マイクロ波のプロセスを世の中に広めていきたい、グローバルスタンダード化したい」という思いが、同社設立の原動力となりました。大学の役割を「20年、30年先の種を見つけること」と定義する一方で、「種を産業化する」ところまでを視野に入れているのが企業との大きな違いだと説明しています。
吉野社長は人材採用について、「『人、物、金』と言いますが、お金はなければないでなんとかなる部分もある。やっぱり人のところが一番大変だし重要」と率直に語っています。応募者には必ず「何をしたいか」を聞き、その人のやりたいことが同社で実現できるかどうかを重視しているそうです。
番組で印象的だったのは、社員たちが皆「軽やかに」自分たちの仕事について語っていたことです。相場氏も「ニコニコが原動力。多分面白がってる」と感想を述べていました。吉野社長はこれを「見えない知のネットワーク」と表現し、新しいことや知に対する欲求を持った人たちが自然と集まる場所になっていると分析しています。
宇宙空間からフリーズドライまで広がる応用分野
マイクロ波化学の技術は、地球上の産業だけでなく宇宙空間でも注目されています。番組では、JAXAとの共同プロジェクトで開発された「月の石から水を取り出す」技術が紹介されました。
宇宙に物を運ぶコストは1キロあたり800万円から1000万円という莫大な費用がかかります。そこで、太陽光を電力として活用し、月面や火星で「地産地消」によって水を調達する技術の開発が進められています。2018年に行われた実験では、氷の入った砂を月の石と見立ててマイクロ波を照射し、瞬時に水分を沸騰させて水滴を取り出すことに成功しました。
興味深いのは、この宇宙技術が地上の食品産業にも応用されていることです。アサヒグループ食品との共同開発によって、同じ装置をフリーズドライ食品の製造に活用しています。従来のフリーズドライ製造では日数と手間がかかっていましたが、マイクロ波を使うことで短時間での乾燥が可能になり、素材の風味を逃さず、省エネルギーでの製造を実現しています。
このように、マイクロ波技術は宇宙から食品まで、まったく異なる分野への応用が可能な汎用性の高い技術なのです。吉野社長は「マイクロ波そのものは宇宙との親和性は非常に高い」として、今後の新しい分野としての可能性に言及しています。
一方で、相場氏が指摘したように、マイクロ波技術は兵器への転用も可能です。ドローンの妨害や、キューバでの大使館員への攻撃疑惑なども取り沙汰されており、吉野社長も「慎重に対応する必要がある」と安全保障上の配慮の重要性を認識しています。
まとめ
テレビ東京系「ブレイクスルー」で紹介されたマイクロ波化学の挑戦は、日本の産業構造そのものを変革する可能性を秘めています。吉野巌社長が掲げる「諦めずにやり続けること」という哲学のもと、同社は電子レンジの原理を応用したマイクロ波技術で、リチウム抽出からフリーズドライ食品、さらには宇宙での水調達まで、幅広い分野で革新を起こそうとしています。
特に注目すべきは、日本の資源不足という構造的課題に対する解決策としての可能性です。従来のエネルギー消費量の3分の1、加熱時間の10分の1という効率性は、CO2削減効果最大9割という環境面でのメリットとも相まって、持続可能な社会の実現に大きく貢献するでしょう。
マイクロ波化学が描く未来は、技術力によって資源不足を克服し、日本を実質的な「資源大国」に変貌させるというビジョンです。2025年現在、同社の技術は実用化に向けた重要な局面を迎えており、5年以内のリチウム精錬装置実用化という目標の達成が、日本の産業競争力向上の鍵を握っています。
緒方俊彦氏や塚原保徳氏といった多様な専門性を持つ人材が結集し、「Make Wave, Make World.」というミッションのもとで世界標準の技術確立を目指す同社の取り組みは、まさに現代日本が必要とする産業革命の起点となる可能性を秘めているのです。
※ 本記事は、2025年8月9日放送のテレビ東京系「ブレイクスルー」を参照しています。
※ マイクロ波化学株式会社のHPはこちら
※ 前回の放送の記事は、【ブレイクスルー】マイクロ波化学・吉野巌が「電子レンジの技術で革命」プラスチックリサイクル
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