2025年12月11日放送のカンブリア宮殿で取り上げられた生活雑貨メーカー「マーナ」。なぜ創業153年の老舗企業が次々とヒット商品を生み出せるのか?5代目社長・名児耶剛氏の改革と、従業員76名で売上80億円を達成する驚異の開発力の秘密を徹底解説します。この記事を読めば、マーナのヒットの法則と、日々の生活を豊かにする数々の便利グッズについて理解できます。
マーナとは?創業153年の老舗生活雑貨メーカーの実力
マーナは、1872年(明治5年)創業の老舗生活雑貨メーカーです。東京・墨田区の隅田川のほとりに本社を構え、今期の売上は80億円を見込んでいます。注目すべきは、従業員わずか76名で80億円を売り上げるという、一人当たり1億円以上を稼ぐ少数精鋭のメーカーだという点です。
創業当初は「日本輸出ブラシ工業株式会社」という名前で、ブラシメーカーとしてスタートしました。城専門の大工をしていた初代・寅松が、明治維新で城が建たなくなったため、外国人が洋服ブラシを使うのを見てブラシ作りに商売替えしたのが始まりです。
二代目の清松は、手に馴染むように角を取り、毛を抜けにくくするなど改良を重ね、浅草・浅草寺の仲見世にゴザを敷いて13年間、雨の日も毎日ブラシを売り続けたといいます。この「常にお客様と接する、お客様の意見に耳を傾けて商品を作り続ける」という姿勢が、現在のマーナのDNAとなっています。
1990年代には、四代目で現社長の父親である美樹氏がブラシ専業から生活雑貨全般に舵を切り、4000万個が売れたお魚スポンジなど、数々のロングセラー商品を生み出していきました。そして2024年、五代目として名児耶剛氏が社長に就任し、新たな時代を切り開いています。
シュパットが1700万個!マーナのヒット商品一覧
マーナの代表的なヒット商品といえば、何といっても「シュパット」です。このエコバッグは、2020年のレジ袋有料化で注目され、現在ではシリーズ累計1700万個を売り上げる大ヒット商品となっています。日本だけでなく、現在34か国で販売されており、外国人観光客からも高い人気を集めています。
シュパットの最大の特徴は、その名の通り「シュパッと一気に畳める」こと。生地を何層にも織り込んで蛇腹にすることで、両端を引っ張ると折り目に沿って最初の状態に戻っていく仕組みです。エコバッグを畳むのは意外に面倒なもの。この日常の小さなストレスを解決したことが、世界中で支持される理由となっています。
もう一つの大ヒット商品が「おさかなスポンジ」です。累計4000万個が売れたこのスポンジは、可愛い魚の形だけでなく、三層構造になっていて真ん中のスポンジが洗剤をキープしてくれるため、泡立ちが良く泡が続くという機能性の高さが人気の秘密です。
他にも、キッチンの上でも滑らないまな板、ご飯がつきにくい「立つしゃもじ」、湿度の変化で固まることを防ぐ調味料ポットなど、「あったらいいな」を次々と実現した商品が揃っています。
さらに、傘の分野にも進出しています。「シュパットアンブレラ」は、閉じる時に手が濡れないよう、生地を引き込むための骨をプラスし、引っ張ると生地がくるくる回って内側に巻き込まれていく構造を独自開発しました。一本6000円以上しますが、15万本が売れたヒット商品です。
名児耶剛(5代目社長)が語る商品開発の哲学
2024年に五代目社長に就任した名児耶剛氏は、現在42歳。学習院大学卒業後、ニューヨークに留学し、2008年に三菱商事マシナリ株式会社に入社しました。スペイン、ドバイ、オランダへの出張を通じて海外ビジネスの醍醐味を経験した後、2011年に家業のマーナに入社しました。
名児耶氏の商品開発の哲学は明確です。「いろんな方が不満に思ってらっしゃることを解決していきたい」という思いで、全てのカテゴリーに挑戦しています。例えば、シュパットアンブレラの開発のきっかけは、雨の日に百貨店で買い物をした際、傘を畳んで手がビショビショになり、周りを見ると10人ぐらい同じように困っている光景を目にしたことでした。
マーナには、こうした発明家のようなデザイナーが11人います。以前はヤンマーでトラクターなどをデザインしていた開発部責任者の谷口諒太氏、「ボディタオルの女王」と呼ばれる岩崎有里子氏、「スポンジ博士」の長野純子氏など、各分野のスペシャリストが揃っています。
名児耶氏は「僕ら改良が大好きですし、進化させるっていうこと大好きなんで」と語ります。実際、商品を発売した後も、お客様の声を聞いて改良を続けています。シュパットアンブレラについても、「ちょっと重い」という声を受けて、翌年には30グラム軽量化する改良を行いました。たった30グラムでも、傘の上部が軽くなることで、持った時の体感が大きく変わるのです。
マーナのヒットの法則は「生活者目線」と「じっくり開発」
マーナのヒットの法則その1は、「出発点は生活のモヤモヤ」です。デザイナーたちは、日常生活の中で感じる小さな不便さを商品開発のヒントにしています。
例えば、デザイナーの有馬朝野氏が開発したマッシャー。従来のマッシャーは穴にジャガイモが固まって、食洗機でも取れないことが多いという問題がありました。有馬氏は思い切って穴をなくし、底にジャガイモを割るための突起をつけるという発想の転換を行いました。30回以上の改良を重ね、2年がかりで完成させたマッシャーは、2025年1月の発売が決定しています。
マーナの本社には3Dプリンターが置いてあり、アイデアをすぐに形にして試すことができます。デザイナー同士で試しながら意見交換し、改良を重ねていく環境が整っているのです。
ヒットの法則その2は、「社員をやる気にさせるご褒美」です。1700万個を売ったシュパットを開発したデザイナーの菊田みなみ氏は、会社から想像を超えるボーナスを受け取りました。金額は明かせないものの、年収の数倍だったといい、それを家の頭金にし、さらには出産費用、青山で開いた結婚式の会場代も賄ったといいます。社内では「シュパット御殿」と呼ばれているそうです。
このような成果報酬制度により、デザイナーたちは大きなモチベーションを持って商品開発に取り組むことができます。マーナは、商品の作り手も笑顔にする会社なのです。
低迷から復活!名児耶剛の改革とは
しかし、マーナにも危機的な時期がありました。名児耶氏が営業マンとして働き始めた翌年の2012年、ヒット商品がピタリと生まれなくなり、マーナの売上は2割減ってしまいました。
当時、父親の四代目社長は焦りからスピードと数を求め、年間100種類の新商品を展示会に用意させました。しかし、バイヤーからは「面白いものが一つもありませんね。マーナの商品開発は大丈夫なんですか?」と厳しい言葉をかけられます。
商品開発は迷走していました。落とし蓋の色を変えただけの商品や、弁当箱用ブラシをキーボードブラシとしてタグを変えて売り出すなど、小手先の商品開発が増えていました。新商品の9割が2年で廃盤になるという状況で、見切りをつけた社員が毎月のように辞め、ついには商品開発の責任者まで会社を去ってしまいました。
そこで名児耶氏が驚きの行動に出ます。開発未経験でしたが、責任者のポストを買って出たのです。「私がここ逃げるわけにはいかない」という強い決意のもと、改革に乗り出しました。
名児耶氏は、年間100種類作っていた新商品を半分の50種類に減らし、一つにかけられる期間を伸ばしました。デザイナーが納得のいくまで開発できる体制に変えたのです。シュパットアンブレラは実に100回以上作り直し、完成まで5年かかりましたが、会社は見守り続けました。
開発担当の谷口氏は「途中で何度かめげそうになったこともあるんですけども、作るべきだということで5年かけさせていただいたというのは、本当に感謝しかないです。作り手としてはこんなにいい会社ないんじゃないでしょうか」と語っています。
名児耶氏は新商品をじっくり作る一方で、既に販売している商品の改良にも力を注ぎました。シュパットは折り目が消えにくい素材に変更し、レジ袋の有料化も追い風となって、マーナ史上最大のヒットとなりました。業績はV字回復し、名児耶氏の改革は実を結んだのです。
リバーズ買収で広がるマーナの世界観
マーナの商品開発は、生活雑貨からさらに広がりを見せています。名児耶氏は3年前(2022年頃)、アウトドアメーカー「リバーズ」を買収しました。
「人の暮らしに関わるものは全てデザインしていきたいという思いがあったので、家の中が強いマーナと、家の外が強いリバーズ、この二つが一緒になることは、すごく理想的だ」と名児耶氏は語ります。
リバーズのコーヒードリッパーはアウトドア仕様で、シリコーン製のためひっくり返すことができます。表と裏で突起の形が違うため、抽出のスピードが変わり、早くすればさっぱりした味わいに、遅くすればコクのある味わいになるという優れものです。
最新作の「モク コーヒー」というコーヒー専用ボトルは、中がセラミック加工になっているため金属臭がせず、コーヒーの汚れも付きにくくなっています。さらにマーナらしい工夫として、蓋が一捻りで開くようにしました。一般的なボトルは2、3回回さないと開きませんが、特殊な構造を採用することで、気付かないような煩わしさを減らしています。
リバーズで働いていた社員は「僕らにないものをすごく持ってる会社なんで、いろいろとアドバイスをいただけたりとか、広くお客さんに知ってもらえるっていうところのチャンスはすごい増えたかなと思います」と語っており、買収によるシナジー効果が生まれています。
まとめ:200年企業を目指すマーナの未来
名児耶剛氏は「200年愛される企業になりたい」と語ります。創業153年のマーナにとって、残り47年。「続けば続くほど、私たちいい商品を開発できるチャンスが増えてくることになると思うんです」という言葉には、長期的な視点でものづくりに取り組む姿勢が表れています。
マーナの強みは、代々受け継がれてきた「改良し続ける」DNAにあります。名児耶氏は「完璧な商品は世界中に何一つないって思ってますし、使ってる方がご自身でも気付いてないお困りポイントを、どうやって見つけるかっていうのが、すごく私たちにとっては大事なことかなと思います」と語ります。
毎朝15分間、社員総出でオフィスをピカピカに掃除するというルーティーンも、生活者目線を忘れないための取り組みの一つです。デザイナーたちは週末に美術館や博物館に行き、感性を磨き続けています。トップデザイナーの一人は陶芸が趣味で、自分で窯を持って器を作っているといいます。
マーナの商品は、真似されることも多いといいます。小売店から「マーナさんの商売きついと思うわ。だってすぐ真似られるでしょ」と言われることもあるそうです。しかし名児耶氏は「その作ってる間に僕らその先に行ってればいいだけなんで。真似するより真似される方が100倍気持ちいいです」と堂々と語ります。
年間20アイテム以上の新商品を発売し、20年連続でグッドデザイン賞を受賞するなど、マーナの挑戦は続いています。「あったらいいな」を次々と実現し、私たちの日常に小さな幸せを届け続けるマーナ。その挑戦者としての姿勢は、200年企業への道のりを確実に進んでいるといえるでしょう。
※ 本記事は、2025年12月11日放送(テレビ東京系)の人気番組「カンブリア宮殿」を参照しています。
※ 株式会社マーナの公式サイトはこちら


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