2024年、地方創生の成功例として全国から注目を集めているのが、三重県多気町の未来型地域リゾート「VISON」です。人口わずか1万3千人の町に、なぜ年間350万人もの人が訪れるのでしょうか?「カンブリア宮殿」(2024年11月14日放送-テレビ東京系)でも取り上げられ話題となった、アクアイグニス代表・立花哲也氏による地域活性化の取り組みには、地方都市の未来を変える重要なヒントが隠されています。本記事では、VISON(ヴィソン・美村)の成功を支える3つの戦略と、そこから見える地方創生の新しいモデルについて詳しく解説していきます。
VISONとは?三重県多気町に誕生した未来型地域リゾートの概要
2021年、三重県多気町に誕生した「VISON(ヴィソン)」は、東京ドーム24個分という広大な敷地を持つ未来型地域リゾート施設です。この規模は東京ディズニーリゾート全体の面積を上回る、35万坪にも及びます。
人口わずか1万3千人の地方都市に誕生したVISONですが、オープンからわずか3年で年間350万人もの来場者を集める驚異的な集客力を誇っています。その成功の鍵を握るのが、他のリゾート施設には見られない独自の特徴です。
最大の特徴は、敷地内に点在する70店舗以上の個性豊かな店舗群です。注目すべきは、大手チェーン店や自動販売機を一切置かないという徹底したこだわり。代わりに、三重県の伝統的な味噌店や醤油店、地元の海女さんが経営する海鮮料理店など、ここでしか味わえない専門店が軒を連ねています。
例えば、伊勢たくあんを伝統的な製法で作り続ける「林商店」や、底引き網漁船の漁師が直接経営する「第十八甚昇丸」など、各店舗にはそれぞれのストーリーがあります。特に、御薗大根で作る伊勢たくあんは、三重県でわずか2軒しか残っていない貴重な伝統食品の一つです。
施設内には、宿泊施設も充実しています。「ホテルヴィソン」には露天風呂付きの部屋が用意され、家族連れに人気を集めています。また、最近オープンした「ハシェンダヴィソン」は、上質な空間を提供する高級志向の宿泊施設として注目を集めています。
さらに、VISONは単なる商業施設ではありません。ソフトバンクグループによる自動運転車の実証実験や、ロート製薬と三重大学による薬用植物の研究施設など、最先端技術の実験場としても機能しています。私有地であることを活かし、約20社の企業が新しいサービスや技術の実証実験を行っているのです。
このように、VISONは地域の伝統と最新テクノロジーが融合した、新しい形の地域リゾート施設として、今や全国から注目を集めています。2024年現在も進化を続けており、地方創生の成功モデルとして、各地の自治体からも視察が相次いでいます。
立花哲也代表が語るVISON成功の3つの戦略
VISONの成功の背景には、アクアイグニス代表・立花哲也氏が練り上げた3つの明確な戦略がありました。それぞれの戦略について、立花氏自身の言葉を交えながら詳しく見ていきましょう。
1.独自の店舗展開:地域に根ざした出店者のみを厳選
「1万3千人しかいないこの小さな町で、どうしたら勝てるのか。答えは日本中、他にないものを作るしかない」と立花氏は語ります。その具体策として、チェーン店を一切入れず、コンビニも自動販売機も置かないという大胆な決断を行いました。
代わりに、70店舗以上の出店者は全て個人経営の店舗です。例えば、鳥羽の海女さんが朝獲れの海産物を提供する店や、伊勢たくあんを二年間樽で発酵させる伝統的な漬物店など、各店舗には独自のストーリーがあります。特筆すべきは、ほとんどの店舗が商業施設への出店が初めてという点です。立花氏は「基本的にお店を出したことない、出店初めての方ばかり」と語っています。
2.滞在型美食リゾートという新しい価値提供
VISONは単なる商業施設ではなく、「美食」をテーマにした滞在型リゾートとして設計されています。朝食は恵比寿「笠庵 賛否両論」の笠原将弘氏が監修し、昼食は全国の有名シェフの味を楽しめるフードコートを設置。夜は薪で焼く松阪牛など、三食それぞれに贅沢な食体験を提供しています。
宿泊施設も2種類用意され、家族向けの「ホテルヴィソン」と、より上質な滞在を楽しめる「ハシェンダヴィソン」があります。さらに「本草湯」という薬草温浴施設も併設し、食と癒しの両面から来訪者を魅了しています。
3.企業連携による未来志向の施設運営
VISONの大きな特徴は、約20社の企業との連携です。35万坪の私有地という特性を活かし、様々な実証実験の場として機能しています。例えば、ソフトバンクグループによる自動運転車の実験や、ロート製薬と三重大学による薬用植物の研究など、最先端技術の開発拠点としても注目を集めています。
立花氏は「特区にならないといろんなチャレンジができなかったり、規制緩和がなかったりするのですが、ここは私有地なので、企業の実験場として活用できる」と、この特徴を活かした戦略的な施設運営を行っています。
これらの戦略は、人口1万3千人の町に年間350万人を呼び込むという驚異的な成果を生み出しました。特に注目すべきは、これらの戦略が単なる集客だけでなく、地域の活性化や新たな価値創造にもつながっているという点です。
アクアイグニス代表・立花哲也氏の歩み
立花哲也氏の成功は、一朝一夕に生まれたものではありません。その軌跡を辿ることで、VISONという未来型地域リゾートが誕生した背景が見えてきます。
建設会社からの出発
三重県の高校を卒業後、建設現場でアルバイトとして働き始めた立花氏。「作ることが楽しくて仕方なかった」という彼は、わずか20歳で独立。2tトラック1台から始めた事業は、その後年商15億円の建設会社へと成長しました。
「やっぱりこう作るということ、街の一部を作るだとか、何かこう大きなものを作るとか、プロデュースできるというか監督できるというか、それは実は非常に楽しいなと」と当時を振り返ります。朝5時に起き、夜8時まで仕事をして、その後も営業に回るという驚異的な行動力で、若くして成功を収めました。
片岡温泉の再生という転機
30歳の時、立花氏は大きな転機を迎えます。後継者不在で経営難に陥っていた「片岡温泉」の再建を任されたのです。当初は温泉宿の経営ノウハウもなく、集客のアイデアも持ち合わせていませんでした。
しかし、宿の食事を見て気づきを得ます。「インスタント冷凍しか出せてなくて。お客さん目線で考えた時にもっと山なら山らしい地域の食材のお料理が出たらいいのに」という思いから、美食をキーワードにした改革を始めました。
この片岡温泉は、その後「アクアイグニス」として生まれ変わり、年間100万人が訪れる人気施設へと変貌。温泉の熱を利用したイチゴ栽培や、海外の大会で優勝経験を持つパティシエによるスイーツ店など、食を軸にした独自の価値提供で成功を収めました。
VISONプロジェクトへの挑戦
アクアイグニスの成功を知った多気町の久保行央町長からの要請を受け、立花氏は35万坪という広大な土地の開発に挑戦することになります。「こんなところでやっちゃダメだよ」と業界関係者から言われながらも、8年の歳月をかけてVISONプロジェクトを進めていきました。
立花氏の真骨頂は、困難に対する姿勢にあります。「困難、困難いっぱい常にあるんですけど、乗り越えられないことはないと思っていて、そこはもうしっかり時間と行動でカバーしていく」という言葉には、彼の経営哲学が凝縮されています。
建設会社での経験を活かし、自らユンボを操作して土地を切り開くなど、現場主義の姿勢も貫きました。「重機に乗れる、ダンプカーも乗る、そして測量もするし、建設会社の仕事一通りすべてやってきました」という言葉からは、その実践的なリーダーシップが伝わってきます。
この経歴は、後のVISON成功の重要な布石となりました。建設業で培った実務能力、片岡温泉再生で得た食による地域活性化のノウハウ、そして何より「困難を恐れない」という精神が、人口1万3千人の町に350万人を呼び込む奇跡を生み出したのです。
世界の美食の街・サンセバスチャンとの連携と地域活性化への挑戦
VISONの構想段階で、立花哲也氏が目標としたのが、スペインの美食の街として世界的に有名なサンセバスチャンでした。人口わずか18万人の地方都市でありながら、「世界一の美食の街」として知られるサンセバスチャンの成功モデルに、地方創生のヒントを見出したのです。
サンセバスチャンとの友好提携への執念
しかし、多気町とサンセバスチャン市との友好提携への道のりは決して平坦ではありませんでした。当初、スペイン大使館を通じた交渉は断られ続けました。それでも立花氏は諦めませんでした。
「我々も熱い思いがあったので、どうしてもということで市長さんにアポを取った」と立花氏は振り返ります。そして驚くべき行動に出ます。日本語とスペイン語で作成した姉妹都市提携の書類を密かに用意し、市長との面会時に取り出したのです。
50分に及ぶ会談の末、サンセバスチャン市長は「お前たちこれでもう帰ってくれよな」と言いながら、提携書類にサインをしました。この粋な計らいによって、多気町とサンセバスチャン市の交流が始まったのです。
サンセバスチャンから学んだ美食の哲学
サンセバスチャンが世界的な美食の街となった背景には、地域全体での取り組みがありました。立花氏は「シェフたちが、街のレストランの皆さんと毎月レシピを公開して勉強会をした。それを20年続けたところ、お店も美味しくなってしまった」と、その成功の本質を説明しています。
この「地域全体で高め合う」という理念は、VISONの運営にも活かされています。例えば、VISONでは地元の生産者や職人たちとの密接な関係を築き、その技術や伝統を守りながら新しい価値を生み出す取り組みを行っています。
地域活性化への具体的な取り組み
VISONは単なる商業施設ではなく、地域全体の活性化を目指すプラットフォームとしての役割も果たしています。立花氏は「生産者の人が少しでも今までよりたくさん稼げることが非常に大事」と語り、地域経済の発展にも注力しています。
具体的な成果として:
- 700人以上の新規雇用創出
- 地元特産品の新たな販路開拓
- Uターン就職の増加
- 地域ブランド力の向上
特筆すべきは、東京や大阪から地元へのUターン組が増加している点です。「多気出身の両親が年になったから戻ってきたい」という理由でVISONへ就職するケースも増えており、地域の人材還流にも貢献しています。
こうした取り組みの結果、VISONは今や地方創生の成功モデルとして全国から注目を集めています。2024年現在も、岸田前総理をはじめとする多くの視察が訪れており、その影響力は年々拡大しています。
未来型地域リゾートVISONが三重県多気町にもたらした変化
VISONの開業から3年、三重県多気町は大きな変貌を遂げています。具体的な数字とともに、この未来型地域リゾートが地域にもたらした変化を見ていきましょう。
雇用創出による地域経済への貢献
VISONの最も大きな成果の一つが、雇用の創出です。2024年現在、VISON全体で700人以上の雇用を生み出しており、この数字は当初の計画を上回る成果となっています。
特筆すべきは雇用の質です。
- 地元住民の正規雇用
- 若者の地元定着
- UIターン者の受け入れ
- 専門性の高い職種の創出
「東京から大阪から戻ってきてくれた方もいます」と立花氏が語るように、VISONは地方から都市部への人口流出に歯止めをかける役割も果たしています。
地域経済への波及効果
年間350万人という来場者数は、人口1万3千人の町に大きな経済効果をもたらしています。
- 地域における経済循環の創出
- 地元生産者との直接取引の増加
- 地域特産品の新たな販路開拓
- 観光関連産業の活性化
- 企業との連携による新産業創出
- ロート製薬との薬用植物研究
- ソフトバンクグループの自動運転実験
- ソニーの新サービス実証実験
- 伝統産業の保護と革新
- 伊勢たくあんなど伝統食品の継承
- 地元の醤油・味噌製造業の活性化
- 伝統工芸の新たな展開
地域ブランド力の向上
VISONの成功は、多気町という地名の認知度を大きく向上させました。その影響は以下のような形で表れています。
- 全国からの視察団の増加
- メディア露出の増加
- 地域特産品の価値向上
- 観光地としての認知度アップ
未来への展望
VISONの成功モデルは、すでに他地域への展開も始まっています。立花氏は「地域と一緒に成長したい」という理念のもと、全国四カ所に温泉付きリゾート「アクアイグニス」を展開。2024年11月には福井県永平寺町にも新施設をオープン予定です。(オーベルジュ「歓宿縁 ESHIKOTO」11月26日オープン予定)
立花氏は地域おこしの極意について、「地域でもっと協力し合うというか、そこだけがうまくやるっていうじゃなくて、いかに巻き込めるかだとか、本当になんか助け合えるだとか」と語っています。この言葉には、持続可能な地域発展のためのヒントが込められています。
まとめ:VISONが示す地方創生の新しいモデル
VISONの成功は、人口減少に悩む地方都市の未来に、新しい可能性を示しています。ここでは、VISONの成功から見える地方創生の重要なポイントをまとめてみましょう。
成功の核となる3つの要素
- 地域固有の価値の再発見
- 大手チェーン店を一切排除し、地域独自の価値を前面に
- 伝統産業や職人技の継承と革新
- 地元食材と「美食」による差別化
- 持続可能な経営モデルの構築
- 年間350万人の集客による安定した収益
- 700人以上の雇用創出
- UIターン促進による人材確保
- 地域経済との好循環の確立
- 未来志向の施設運営
- 20社以上の企業との連携
- 最新技術の実証実験の場としての活用
- 世界的な美食の街・サンセバスチャンとの交流
地方創生への示唆
立花哲也代表の「地域と一緒に成長したい」という理念は、今後の地方創生のあり方を示唆しています。重要なのは以下の点です。
- 地域資源の掘り起こしと活用
- 地域全体を巻き込んだ協力体制の構築
- 伝統と革新のバランスの取れた発展
- 持続可能な経済循環の創出
今後の展望
VISONの成功モデルは、すでに全国各地で展開され始めています。2024年現在、立花氏率いるアクアイグニスグループは、この経験を活かして全国各地で新たなプロジェクトを展開中です。
地方都市の活性化において重要なのは、その地域ならではの価値を見出し、磨き上げ、発信していくことです。VISONの事例は、そのための具体的なロードマップを示しているといえるでしょう。
人口1万3千人の町に年間350万人を集める――。この数字は、地方創生における「不可能を可能にする」ことの象徴となっています。VISONの挑戦は、日本の地方都市の未来に、大きな希望の光を投げかけているのです。
この記事全体を通して、VISONの成功事例から地方創生のヒントを見出していただけましたでしょうか?地域の価値を再発見し、磨き上げ、発信していく。その過程で多くの人々を巻き込み、新しい価値を創造していく。それこそが、VISONが示す地方創生の新しいモデルなのです。
※本記事は、2024.11.14放送-テレビ東京系番組 『カンブリア宮殿』 ”地方が注目!未来型レジャー施設「VISON」の奇跡”を参照しています。
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