子どものSNS利用をめぐる問題が世界中で大きな課題となっています。2025年4月23日放送のNHK「クローズアップ現代」では、子どものSNS利用に関する法的規制や家庭でのルール作りについて特集しました。海外では法律による禁止に踏み切る国が出てきている一方、日本ではどのような対応が求められているのでしょうか。番組内容を基に、子どもたちを取り巻くデジタル環境の現状と課題、そして解決策を詳しく見ていきましょう。
子どものSNS利用と世界で進む法律による禁止措置の現状
近年、子どものSNS利用に関わる問題が深刻化しています。有害コンテンツの閲覧、悪意ある人物との接触、個人情報の漏洩、炎上リスク、さらには依存的な利用まで、さまざまな懸念が指摘されています。こうした状況を受け、世界各国では子どものSNS利用を法律で規制しようという動きが活発化しています。
フランスでは2024年に保護者の同意なしでの15歳未満のSNS利用を禁止する法律が成立しました。また、ブラジルでは小中学校でのスマートフォン自体の利用を禁止する法律が2025年に施行されています。このように世界各国で子どものSNS利用に関する法的規制が次々と導入されているのです。
こうした法規制の背景には、SNSが子どものメンタルヘルスに与える悪影響への懸念があります。アメリカ政府の調査によれば、1日3時間以上SNSを利用する12歳から15歳の子どもは、メンタルヘルス上のリスクが2倍になるとされています。また、カリフォルニア大学の小児科医ジェイソン・ナガタ博士の研究では、9歳や10歳の子どものSNS利用が1時間増えるごとに、翌年に摂食障害を発症する可能性が60%高くなるという結果も出ています。
オーストラリアとアメリカで導入されたSNS禁止法の内容と背景
特に厳しい規制を導入したのがオーストラリアです。2024年12月、オーストラリアでは国全体で16歳未満のSNS利用を禁止する法律が成立しました。2025年中に運用が開始される見込みで、違反があれば企業に対して最大約50億円の罰金が課せられるという厳しい内容です。この法律は国民のおよそ77%に支持されており、多くの親たちがこの規制を歓迎しています。
この法律成立の背景には、痛ましい事例がありました。ウェイン・ホールズワースさんの息子マックさんは、15歳の時にInstagramで18歳の女性になりすました男性から写真を送るよう強要され、その後写真が拡散されたことをきっかけに自ら命を絶つという悲劇がありました。「もう親だけでは解決できない問題」として、ホールズワースさんは同じ経験をした親たちとSNSの禁止を訴え、法律制定につなげました。
アメリカでも同様の動きがあり、フロリダ州では2024年に14歳未満のSNS利用を禁止する法律が成立しました。しかし、IT企業の団体が表現の自由を定めた憲法に違反すると訴訟を起こしたため、実際の運用は開始されていません。
SNS利用禁止に対する賛否両論―子どもたちの反発と保護者の安心
このようなSNS禁止法に対しては賛否両論があります。支持する声としては、「子どもがアクセスすべきでないものがあり、親も把握できない」という30代男性の意見や、「SNSで少女がいじめられていることが心配」という70代女性の声があります。子どもを守るために法的な規制が必要だという考えが根底にあります。
一方で、強い反対の声も上がっています。特に反発が大きいのが当事者である子どもや若者たちです。「私たちはSNSで気持ちを分かち合っている」「もうニュースを見ないし、情報は全部InstagramとTikTokなどから得ている」と、SNSが彼らにとって重要な情報源やコミュニケーション手段となっていることがわかります。
また、人権団体からも「政府に子どもへの情報や考えを制限する権限はない」「SNS禁止の法律は重要なコミュニケーション手段を奪ってしまう」といった懸念の声が上がっています。さらに14歳のリリコイさんのように「法律が始まっても、みんな抜け道を探すんじゃないか」という指摘もあり、規制の実効性にも疑問が投げかけられています。
日本の現状―SNS規制法がない中での子どものリスク
日本では現在、SNSの利用を禁止・規制する法律はありません。弁護士の上沼紫野さんによると、日本には「インターネット環境整備法」という法律がありますが、これはガラケー時代に作られた法律であり、SNS企業についてほとんど言及されていないといいます。
そのため、現状ではSNS事業者の対策は自主規制に留まっており、企業の自主的な取り組みに頼らざるを得ない状況です。例えば、Instagramは13歳から17歳向けの「ティーンアカウント」を2025年1月に開始し、連絡できる人や見るコンテンツを制限するとともに、現在ある通常アカウントも順次移行しています。TikTokは全てのコンテンツを人間や機械がチェックし有害なものを削除、各種制限を行っています。またLINEは利用推奨年齢を12歳以上とし、18歳未満または年齢未確認の利用者は外部から検索されないなどの対策を講じています。
しかし、法的な規制がない中で深刻な事態に陥る子どもたちもいます。番組では、高校生の潤さんがSNSで過度なダイエット動画を次々と目にし、摂食障害で入院した事例が紹介されました。潤さんの母親は「肌身離さずスマホをずっと見ている感じで、親としてどうしたらいいのか分からなかった」と当時の葛藤を語っています。
家庭で実践できる効果的なSNSルール作り―専門家の視点
法律による規制がない日本では、家庭でのルール作りが特に重要です。番組では、高校1年生の佑奈さんの家族が実践したルール作りの例が紹介されました。
脳科学者の榊浩平さん(東北大学応用認知神経科学センター助教)は、脳科学の視点からスマホとの向き合い方について「前頭前野の自分をコントロールする力を育てることが重要」と指摘しています。榊さんは「子供達が自分でルールを決めて自分で守るという自己管理能力を育てる」ことの大切さを強調し、ルール作りのポイントとして「子供と親が一緒にルールを決めること」「親もルールを守ること」の2点を挙げています。
佑奈さんの家族は話し合いの末、「利用時間は2時間を目安とする」「寝る1時間前には使い終える」などのルールを家族全員で守ることを決めました。最初は親が一方的に決めていたルールを、佑奈さん自身が主体的に管理するよう変更したことで、佑奈さんの自己管理能力が向上し、「なるべく自分でコントロールできるようになった」という成果が得られました。
ITジャーナリストの鈴木朋子さんは、単に時間で区切るだけでなく「スマホで何をしているのかが親と子で共有できていれば、それほど大きな問題ではない」と指摘しています。また、フィルタリング機能の活用も推奨しており、「親の方が子供のスマホも見守ることができる機能がたくさん用意されている」と説明しています。
上沼紫野弁護士が指摘するプラットフォーム企業の責任と課題
弁護士の上沼紫野さんは、プラットフォーム企業の責任について重要な指摘をしています。現在の日本の法律では、SNS企業に対する規制がほとんどなく、「自主規制でしかない」状態だと語ります。
上沼さんは特に「子供の情報の送信」に関する規制の必要性を強調しています。子どもたち自身が情報を発信することで生じる「情報漏洩」や「炎上」のリスク、また「悪意のある人との繋がり」によるリスクを減らすためには、情報の「発信」に関する規制が重要だと指摘しています。
また、依存的な利用を防ぐための対策として「短時間の動画を何回も見ると刺激が高いのでより依存的になる」という問題に触れ、「無限スクロール」や「次から次へと推奨する」仕組みなど、長時間利用を促す機能に対する制限の必要性も訴えています。
鈴木朋子氏が語るSNS企業の技術的対策と今後の展望
ITジャーナリストの鈴木朋子さんは、SNS企業が行っている技術的な対策について説明しています。特に最近注目されているのがAIを活用した対策です。例えば、何らかの事情で自分の裸の画像が拡散してしまった場合に、AIがそれを検知して探し出してくれるサービスが登場しています。
また、メッセージを交わす際に相手を傷つけるような言葉を送ろうとしていることを検知し、警告を出すというサービスも存在します。こうした技術的な支援が、子どもたちをSNSのリスクから守る一助となっています。
鈴木さんは「家庭に任せて全部お願いしますという感じで、どこの企業も国も責任を持たないというのは、もう限界に来ている」と指摘し、「皆さんが楽しくSNSを使えるように、家庭のサポートをして、企業と国が協力してやっていただきたい」と訴えています。
つるの剛士が考える親子で共に成長するSNS利用の在り方
5人の子どもを持つタレントのつるの剛士さんは、自身の経験も交えながら親としての視点を語っています。「娘がママと娘しか知らない裏垢を持っていることに気づいた」と、実際に子どものSNS利用に悩んだ経験を明かしています。
つるのさんは法律による一律禁止については「バシッと定めてしまってもきっと子供達は抜け道を探す」と懐疑的で、「自分も子どもの頃はテレビゲームを隠れてやっていた」と、規制の難しさを指摘しています。
また、子どものSNS利用について「侍に刀くらい必須」という高校生の例えを聞き、「子供達の表現の場として、ギターやダンスを頑張っている子どもたちを見ると応援したくなる」と、SNSのポジティブな側面にも触れています。
さらに、番組で家族全員がスマホ使用ルールに取り組む様子を見て「親もスマホ利用について、本当にアップデートしていかなければいけない」と自戒を込めています。「お子さんの問題ではあるが、親の問題でもある」として、「法律がない今だからこそ、外からの規制ではなく内からの育ちを高めていかなければならない」と締めくくりました。
まとめ:子どものSNS利用を守るために必要な法的措置と家庭でのアプローチ
子どものSNS利用をめぐる問題は、世界的に重要な課題となっています。オーストラリアやアメリカのフロリダ州などでは法律による禁止に踏み切る動きが見られる一方、日本ではまだ法的な規制はありません。
専門家たちは、家庭でのルール作りの重要性を強調しています。東北大学の榊浩平さんは「子どもと親が一緒にルールを決めること」と「親もルールを守ること」の2点がポイントだと指摘しています。
また、上沼紫野弁護士はSNS企業に対する法的規制の必要性を訴え、特に子どもの情報発信に関する規制や、依存を促すような機能への制限が重要だと主張しています。
ITジャーナリストの鈴木朋子さんはAIを活用した技術的対策の進展に触れつつ、「家庭、企業、国の三者が協力して取り組むべき」と指摘しています。
つるの剛士さんは「法律がない今だからこそ、内からの育ちを高めていくことが重要」と述べ、親子で共に成長していく姿勢の大切さを語りました。
子どものSNS利用に関する問題は一筋縄ではいきませんが、家庭、社会、企業それぞれがそれぞれの立場で子どもたちを守るための取り組みを進めていくことが求められています。世界的な取り組みを参考にしながら、日本でも子どもたちが安全にデジタル社会で育つための環境づくりが必要です。
※ 本記事は、2025年4月23日放送のNHK「クローズアップ現代」を参照しています。
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