2025年11月17日放送のNHK「クローズアップ現代」で明らかになったアマゾンの危機。実は地球の裏側で起きているこの問題が、日本の食卓や気候に直結していることをご存知でしょうか?この記事では、番組で専門家が警告した具体的な影響と、私たちにできる対策まで詳しく解説します。読み終える頃には、アマゾン保護が自分事として理解できるはずです。
アマゾン危機が日本に及ぼす影響とは?気候変動と食料問題の実態
番組に出演した夫馬賢治氏(ニューラルCEO)が端的に指摘したように、アマゾンの森林破壊は日本に二重の打撃をもたらします。
まず直接的な影響として、日本はブラジルから畜産飼料や大豆を約20%輸入しています。アマゾン地域での森林破壊による干ばつが進めば、輸入量の確保が困難になるリスクが高まっているのです。さらにトウモロコシやコーヒー豆なども輸入しており、私たちの食生活への影響は避けられません。
もう一つの深刻な影響が気候変動の悪化です。アマゾンの炭素貯蔵量は世界の排出量の15年から20年分、つまり1500億から2000億トンにも達します。この膨大な炭素が森林破壊によって大気中に放出されれば、パリ協定で目指す「産業革命前から1.5度以内」の目標達成がさらに困難になります。
東京大学大学院の伊藤昭彦教授は番組で「日本でも記録的な猛暑や水害が起こっていますが、そういったものもさらに起こりやすくなる可能性があります」と明言しました。つまり、アマゾンの問題は遠い国の出来事ではなく、私たちの日常生活を直撃する現実なのです。
クローズアップ現代が伝えたアマゾン森林破壊の現状
番組の現地取材が明らかにしたのは、想像を超える破壊の実態でした。2024年、ブラジルでは東京都の13倍もの面積の原生林が失われたのです。これは過去最悪レベルの数字です。
取材班はJAICAのサポートを受けながら、ブラジル政府機関(IBAMA)による森林破壊調査に同行しました。JAICAチーフアドバイザーの小此木宏明さんが日本のレーダー衛星で異常を検知した地点へ向かうと、目の前に広がったのは一面なぎ倒された原生林でした。その規模は約400ヘクタール。違法伐採者たちは調査を妨害するため倒木で道を塞ぐという露骨な手段まで使っていたのです。
さらに衝撃的だったのが、世界遺産にも登録されているジャウー国立公園での大規模火災です。本来は雨季に木々が水に沈む湿潤な森であるにもかかわらず、2年前の記録的な干ばつで土壌が極度に乾燥し、2ヶ月も燃え続けました。現地ガイドのロベルト・モレイラさんは「乾燥していると火は走るんですよ。歩くんじゃなくて」と当時の凄まじさを証言しています。
日本の食卓を支える大豆生産とアマゾン危機の関係
アマゾンの森林破壊の背景には、世界的な大豆需要の高まりがあります。ブラジルからの大豆輸出量はこの10年で約2倍に増加し、世界一を誇っています。
番組が取材した小規模農家の証言は衝撃的でした。リビア・ドス・サントスさんは「お金に目がくらんだのです。10万レアル(約300万円)あげるよと言われ、大金だと思って森を売り渡してしまったのです」と語ります。農業ビジネスを展開する企業の関係者が森を買い取り、大豆畑に変えているのです。
衛星画像分析では、緑で示された森がピンクの大豆畑に急速に置き換わっている様子が確認されました。売却を拒んできた農家のジョゼ・マシエウさんは「拒否しても何度も電話がかかってきて強い圧力を感じました。これが資本主義ですよね」と苦悩を吐露しています。
この問題の根深さは、2008年以降実施されている「大豆モラトリアム」という自主規制さえ揺らいでいることです。これは主要商社などが森林保護のため、新たに森林伐採して栽培された大豆を取引しないとする取り決めですが、生産者団体は撤廃を求めて圧力をかけています。私たち日本の消費者も、この構造の一端を担っていることを認識する必要があるでしょう。
ティッピングポイント超えで何が起きる?専門家が警鐘
番組で最も衝撃的だったのが「ティッピングポイント(臨界点)」という概念です。気候科学者のカルロス・ノブレ博士は「臨界点は目前です。アマゾンの破壊を続ければ、世界は大きなリスクにさらされることになります」と警告しました。
伊藤昭彦教授の解説によれば、森林破壊が一定のレベルを超えると森林の保水力が失われ、蒸散による水の量が減少します。すると雨の量が減るという乾燥化のループが進行し、人間が森林破壊を止めたとしても乾燥化がさらに進み、森が消えていくというのです。
サンパウロ大学のマルコ・フランコ博士は「最悪のシナリオは湿潤なアマゾンの熱帯雨林が乾燥したサバンナのような気候へと変化してしまうこと」と指摘します。研究によれば、数十年以内に半分以上の森林がサバンナや草原に変わってしまう可能性があるのです。
鍵を握るのが「空飛ぶ川」と呼ばれるアマゾン上空の水蒸気の流れです。熱帯雨林が光合成で放出する大量の水蒸気が風に乗って川のように流れ、大量の雨を降らせます。しかし森林破壊で水蒸気供給が弱まると雨量が減少し、木々の劣化や火災で熱帯雨林の焼失が加速する悪循環に陥るのです。
この臨界点を超えれば、森林は炭素を吸収する機能を失い、むしろ強力な排出源となります。地球の平均気温上昇を加速させ、その影響は世界中に波及します。
夫馬賢治氏が指摘する日本への具体的影響
夫馬氏が番組で強調したのは、悪循環の深刻さです。「世界の食料需要に応えるためにアマゾンを開発すればするほど干ばつが進んでしまう。そうすると植物が取れなくなってより開発を進めるという悪循環」が起きているのです。
さらに厄介なのが、大豆の流通ルートが複雑で、違法な伐採で生産された大豆と合法の大豆が混ざる形で日本も含めて世界中に流通してしまっている現状です。ブラジル政府もルーラ政権になってから取り締まりを強化していますが、いたちごっこが続いています。
日本への具体的影響として夫馬氏は、輸入量確保の困難さに加え、「熱帯雨林が破壊されていき気候変動自体が悪化していくと、日本も含めて世界中の食料生産に悪影響を与えていく」ため、世界中の食料品のさらなる価格高騰が懸念されると指摘しました。
実際、COP30の会場で示された研究結果では、森林破壊によってアマゾン地域の農業の経済損失が少なくとも10億ドルに上ると報告されています。森林破壊で穀倉地帯の降水量が減少し乾季が長期化、大豆やトウモロコシの生育に影響して生産性が低下しているのです。皮肉なことに、森を切れば切るほど農業自体が苦しくなるという悪循環が生まれているのです。
COP30で示された解決策と課題
2025年11月、ブラジルのベレンで開催されたCOP30(気候変動対策の国際会議)で、ブラジル政府は新たな取り組みを発表しました。それがTFFF(熱帯雨林保全基金)です。
この基金は19兆円規模を目標に世界各国から資金を集め、通常の投資運用で出たリターンを熱帯雨林国に寄付していく仕組みです。理論上は素晴らしい取り組みですが、夫馬氏が指摘するように「現状ではまだまだお金が集まっていない」のが実情です。日本政府もイギリス政府もまだ拠出しておらず、民間資金も本当に集まるかどうかが今後の注目点となっています。
さらに大きな懸念材料が、アメリカ・トランプ政権の不参加です。気候変動対策を「世界で行われた最大の詐欺行為」と主張するトランプ大統領は、COP30に政府代表団を派遣しませんでした。コンゴ民主共和国の代表団は「世界最大の排出国の一つであるアメリカの不在は問題だ」と懸念を表明し、ネパール代表団も「資金面で間違いなく影響する」と対策の先行きを憂慮しています。
世界最大の経済大国であるアメリカの不在は、資金面だけでなく国際協調の機運にも水を差すものであり、COP30の成果に暗い影を落としています。
meiji等日本企業の取り組みが示す希望
しかし、希望もあります。番組が紹介した日本企業の取り組みは、持続可能な解決策のヒントを与えてくれます。
大手食品メーカーのmeijiは、アマゾン東部のカカオ農家の収益性向上に取り組んでいます。チョコレート需要の高まりでカカオ畑の開発も森林破壊の一因とされてきましたが、meijiはカカオの殻をバイオプラスチックとして活用する技術を生産者に提供。収益性を高め、森を維持しながら暮らせるようにする狙いです。meiji担当者は「森林を保護していく、守っていくためには、カカオ産地で一定の利益を生み出せる構造が必要だ」と語ります。
夫馬氏が強調するのは日本の技術力です。「これから世界全体の食料生産を考えていくと、農地を拡大するのではなく、今ある農地でどれだけ農業の生産性を上げていけるかが重要」だと指摘します。
実際、日本の食品メーカーの中には土壌からの栄養吸収を促進できる農業資材を独自開発し、ブラジルの小規模農家への販売を始めているところもあります。このような技術開発こそ、気候変動と経済の両立を実現する鍵となるでしょう。
「世界中の農家さんは気候変動の影響も踏まえて非常に困難な状況に置かれています。メーカーも消費者も国も一体となって、特に小規模農家を支えていけるか」が重要だと夫馬氏は訴えました。
まとめ:私たちにできるアマゾン保護のアクション
クローズアップ現代が明らかにしたアマゾン危機は、もはや他人事ではありません。日本の食卓を支える大豆の背景に森林破壊があり、その結果が気候変動を通じて私たちに跳ね返ってくる現実を直視する必要があります。
伊藤教授が提案するように、私たち一人ひとりができることはあります。フードロスを減らすこと、環境負荷の少ない地産地消の商品を選ぶこと、そして何より「気候変動が人間活動が原因であることは疑う余地がない」というIPCCの科学的結論を理解し、環境政策の判断基準にしていくことが大切です。
アマゾンの森林破壊は複雑な問題ですが、日本の技術力や企業の創意工夫、そして私たち消費者の意識変革が解決への道筋を示しています。ティッピングポイントを超えてしまう前に、今こそ行動を起こすときなのです。
※ 本記事は、2025年11月17日放送のNHK「クローズアップ現代」を参照しています。




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