2025年4月12日にテレビ東京系で放送された「ブレイクスルー」では、作家・相場英雄氏が「におい」ビジネスの最前線に迫りました。番組では大阪大学発のベンチャー企業「香味発酵」が開発した世界初の技術が紹介され、多くの視聴者の注目を集めています。今回は、その革新的な技術と可能性について詳しくご紹介します。
香味発酵が開発した世界初の「人工の鼻」技術とは
香味発酵が世界で初めて開発したのは「人工の鼻」と呼ばれる革新的な技術です。この技術は、人間が持つ嗅覚の仕組みを再現したもので、これまで感覚的にしか表現できなかった「におい」を客観的なデータとして数値化することを可能にしました。
人間の鼻には、においを感じ取る「嗅覚受容体」というセンサーが約400種類あります。私たちはこの400種類のセンサーを駆使して、さまざまなにおいを嗅ぎ分けています。香味発酵の人工の鼻は、これらのセンサーをすべて再現し、小さなガラスプレート上に並べたものです。
人工の鼻にセンサーを備えることで、バニラやオレンジなどのにおいがどのセンサーでどれほどの強さで反応しているのかを可視化できるようになりました。例えば、バニラのにおいは400種類のセンサーのうち7種類で認識されていることが明らかになっています。これにより、においを科学的なデータとして扱うことが初めて可能になったのです。
ブレイクスルーが紹介!久保賢治社長が語るにおいビジネスの可能性
香味発酵の社長である久保賢治氏は、番組の中で「においビジネス」の可能性について熱く語りました。現在、香味発酵は168社もの上場企業と秘密保持契約を結び、共同研究を進めているといいます。
当初、香味発酵では美容や化粧品、飲料・食品メーカーなどとの提携を想定していましたが、実際には自動車メーカーやホテル業界、エンターテイメント業界まで、ほぼすべての産業ジャンルからアプローチを受けているとのこと。その市場規模は世界ベースで約231兆円にのぼるとされています。
久保氏は、日本発の技術として世界へ展開し、100年続く企業を目指したいと語っており、大手企業からの買収や専属契約のオファーがあっても、独自の道を歩む姿勢を示しています。
においをデータ化する革新技術の仕組みと応用
香味発酵では、すでに2,000種類以上の材料のデータベース化を進めており、最終的には8,000種類までデータベースを拡充する計画があります。これにより「においの解像度」を上げることができると久保氏は説明しています。
このデータ化技術は、これまで人間が官能試験で行ってきた「におい」の評価を客観的に行えることから、大手メーカーにも大きなメリットがあります。熟練のフレーバリストの技術をデジタル化して記録できることで、人の経験や感覚に依存しない継続的な品質管理が可能になるのです。
たった5種類の香料で様々なにおいを再現する技術
人工の鼻で取得したデータをもとに、香味発酵はにおいを再現する装置も開発しました。この装置は、わずか5種類の香料を組み合わせることで、様々なにおいを再現できるという驚きの技術です。
この技術は、プリンターが基本となる色のインクを組み合わせて多様な色を表現するのと同じ原理です。この装置を使えば、生姜の成分を使わずに生姜のにおいを再現したり、桜餅のような複雑なにおいも再現することができます。
2025年5月末からは大阪関西万博でもこの装置が展示される予定で、多くの人がこの革新的な技術を体験できるようになります。
においの転送技術が実現する新たなエンターテイメント体験
香味発酵のにおい再現技術により、離れた場所でも「におい」を送受信できる時代が到来しようとしています。例えば、日本からアメリカへといったように、世界中の人とにおいを共有することが可能になるのです。
将来的には、テレビと連動した「においが出るテレビ」やデジタルサイネージに応用され、映像と音声に加えて「におい」も発信するコンテンツが実現するかもしれません。また、VRゴーグルに小型のにおい装置を組み込むことで、映画のシーンごとに合わせたにおいを体験できるようになることも期待されています。
このような新しい「においのコンテンツ」は、エンターテイメント業界に大きなビジネスチャンスをもたらすことでしょう。
悪臭対策に革命を起こす「においのブロック」技術
香味発酵は「においの転送」だけでなく、「においのブロック」技術も開発しています。これは特定のにおいだけを嗅がないようにする画期的な技術です。
人工の鼻でにおいをデータ化することで、嫌なにおいの成分だけを特定し、そのにおいだけをピンポイントでブロックすることが可能になりました。実際に番組内では、3日間履き続けた靴下のにおいを、特殊なスプレーを使ってブロックするという実験が行われ、その効果が実証されました。
イソ吉草酸をピンポイントで消臭する驚きの効果
番組では、靴下の悪臭の原因である「イソ吉草酸」のにおいだけをブロックする実験が行われました。イソ吉草酸は国の悪臭防止法でも規制対象になっている成分で、特にきつい匂いを放ちます。
香味発酵が開発したスプレーは、このイソ吉草酸のにおいだけをピンポイントでブロックし、それ以外のにおいはそのまま感じることができるというものです。市販の消臭剤が強いにおいで悪臭をごまかすのとは異なり、特定のにおいだけを選択的にブロックする技術は画期的と言えるでしょう。
このような技術は、マスクに使用することで、身の回りの気になる生活臭や、においによるストレスが多い職場でも活用が期待されています。
ヘルスケア分野への応用と認知症早期発見への可能性
香味発酵の技術は、食品やエンターテイメントだけでなく、ヘルスケア分野でも大きな可能性を秘めています。例えば、味を薄めた味噌汁に鰹節の香料を加えると、実際に塩味が増強されたように感じるという実験結果が紹介されました。
この技術を応用すれば、塩分を抑えた病院食や介護食でも満足感を得られるようになるかもしれません。また、においで認知症を早期に発見する検査キットの開発も進められており、医療分野での活用も期待されています。
黒田俊一教授との出会いから始まった香味発酵の挑戦
香味発酵の創業は、久保賢治氏が9年前に大阪大学の黒田俊一教授と出会ったことがきっかけでした。当時、黒田教授はにおいの分析技術を研究しており、その将来性に惹かれた久保氏は2017年に香味発酵を設立しました。
黒田教授から「誰も成し遂げていない社会実装」を託された久保氏は、その期待に応えるべく、においのデータ化と再現技術の開発に取り組んできました。そして今、その技術は実用化の段階に入りつつあります。
においの知財化と著作権確立への取り組み
久保氏が現在目指しているのは「においの知財化」です。これまで、においには著作権がありませんでしたが、香味発酵の技術によって数値化した波形があれば、知的財産として認められる可能性があると考えています。
久保氏は、データを独占するのではなく、ある程度技術を開示することで「オープンイノベーション」を推進し、食品メーカーや飲料メーカー、工業メーカー、エンターテイメント企業などとの共同研究を通じて、データベースを充実させていく考えを示しています。
将来的には「においの著作権協会」のような組織を作り、特定のにおいの権利を複数の企業が持ち、そのにおいが使用された場合に各社にリターンが発生するような「三方良し」のビジネスモデルを構築したいと語っています。
231兆円市場に挑む香味発酵の今後の展望
においビジネスの世界市場規模は約231兆円と言われており、香味発酵はその巨大市場に挑戦しています。すでに多くの企業との共同研究が進んでおり、今後さらなる発展が期待されています。
久保氏は「亡くなったペットのにおいを再現してほしい」といった要望も受けていると言い、においは記憶に直結しているため、思い出や体験を共有できるような新しいコンテンツの可能性を模索しています。例えば、野外ライブの際のむせかえるようなにおいなど、記憶と連動したにおいを共有できるようになれば、全く新しいコンテンツが生まれるかもしれません。
まとめ:久保賢治社長が目指す「においの未来」とブレイクスルー
久保賢治氏が率いる香味発酵が開発した「人工の鼻」とにおいの転送技術は、まさにブレイクスルーと言える革新的な技術です。これにより、これまで客観的に表現することが難しかった「におい」を数値化し、再現することが可能になりました。
久保氏は「ブレイクスルーとは何か」という問いに対し、「これからの新しい技術に、皆さんで色んな技術を作って、色んな新しいジャンルを作っていきたい」と答えています。その言葉通り、香味発酵の技術は食品、エンターテイメント、ヘルスケアなど様々な分野での応用が期待されています。
においの転送技術が実用化すれば、テレビやVR、デジタルサイネージなどで「におい」を伴うコンテンツが登場するかもしれません。さらに、においの知財化によって新たなビジネスモデルが生まれる可能性もあります。
香味発酵の挑戦は始まったばかりですが、その技術と可能性は私たちの生活や産業に大きな変革をもたらすことでしょう。2025年は「におい」の新時代の幕開けとなるかもしれません。
※本記事は、2025年4月12日にテレビ東京系で放送された人気番組「ブレイクスルー」を参照しています。
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