近年、世界的に注目を集めている老化研究。その最前線で革新的な成果を上げている東京大学医科学研究所の中西真教授の研究内容と、老化改善薬の開発に向けた取り組みについてご紹介します。
東大・中西真教授が解明した老化の最新研究とは
中西真教授は、27歳で老化研究の道に進み、生化学的アプローチから老化のメカニズム解明に取り組んできました。医師として内科研修中に高齢者医療に携わった経験から、年齢を重ねることで次々と発症する病気の根本的な原因を突き止めたいという思いが、研究の原動力となっています。
2021年、中西教授の研究チームは世界で初めて、老化細胞を選択的に除去する手法を確立し、アメリカの科学誌「サイエンス」で発表。この画期的な研究成果は、世界中の研究者から大きな注目を集めています。
老化細胞とは?その驚きのメカニズムを解説
老化細胞は、私たちの体内で若い時から存在していますが、加齢とともに徐々に蓄積していきます。この細胞は、通常の細胞と異なり、細胞分裂を停止し、大きく肥大化するという特徴があります。
特筆すべきは、老化細胞が炎症を引き起こす物質を分泌し、筋力低下や内臓機能の低下を引き起こすという点です。これが様々な加齢性疾患のリスク要因となっているのです。
世界初!GLS1阻害剤による老化改善薬の研究成果
中西教授の研究チームは、30年に及ぶ研究の末、老化細胞だけが持つ特徴的な酵素「GLS1」を発見。この酵素の働きを抑制することで、老化細胞を選択的に除去することに成功しました。
実験では、70歳相当のマウスの運動能力が、GLS1阻害剤の投与により40代相当まで改善。握力測定実験でも、若いマウスの平均200秒に対し、高齢マウスは30秒だったものが、投与後は100秒まで改善するという顕著な効果が確認されています。
老化改善研究の実用化に向けた課題と展望
現在、実用化に向けた最大の課題は、薬剤の改良です。中西教授によると、現状のGLS1阻害剤は水への溶解性が低く、注射での投与が必要となります。より実用的な経口薬の開発を目指し、改良を進めているとのことです。
人間の最大寿命は約120歳とされており、老化改善薬の目的は不老不死ではなく、健康寿命の延伸にあります。現在の研究ペースでは、実用化までに最短でも10年程度かかる見込みです。
GMOインターネットグループとAIを活用した共同研究
2023年から、GMOインターネットグループとの共同研究が本格化。同グループの最新AIを活用し、マウスでの研究データを人間に応用するための解析を進めています。
GMOインターネットグループ代表の熊谷雅俊氏は、「国の動きを待っていては変わらない」という危機感から、積極的な研究支援を決断。産学連携による研究加速に期待が集まっています。
中西真教授が語る「健康寿命延伸」への期待
中西教授は、老化改善研究の社会的意義について、「日本の高齢化社会における働き手不足の解消」や「高齢者の社会参画促進」を挙げています。
特に注目すべきは、腎臓病や肺疾患などの加齢性疾患の予防可能性です。これらの疾患予防が実現すれば、医療費削減にも大きく貢献することが期待されています。
まとめ:老化改善薬研究の未来と社会的インパクト
現在、世界では老化研究に巨額の投資が行われており、GoogleやAmazon創業者のジェフ・ベゾス氏なども参入。一方、日本では研究支援体制が十分とは言えない状況が続いています。
しかし、中西教授は「一歩一歩進むことが結局は近道」という信念のもと、着実な研究を継続。その姿勢と成果は、日本の老化研究の希望となっています。今後は、産学連携のさらなる発展により、研究の加速化が期待されています。
※本記事は、2025年1月11日放送(テレビ東京系) の番組「ブレイクスルー」を参照しています。
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