木材のプロフェッショナル集団として知られる住友林業が、従来の常識を覆す革新的な取り組みを進めています。環境問題への対応や宇宙開発まで、木材の新たな可能性に挑戦する同社の最新プロジェクトをご紹介します。
住友林業が挑む無花粉スギと木製人工衛星の最新技術とは
住友林業は創業以来、日本の森林を守り続けてきた企業です。現在、同社が所有する社有林は全国におよそ4万8千ヘクタールに及びます。しかし近年、日本の林業は大きな岐路に立たされています。林業従事者は過去40年で3分の1以下の4万4千人にまで減少し、木材自給率も約43%と半分以上を海外からの輸入に頼っている状況です。
このような課題に対して、同社は木材の新たな可能性を追求する革新的なプロジェクトを複数進めています。その代表的な取り組みが「無花粉スギの開発」と「木製人工衛星の製造」です。
世界初の木製人工衛星が切り開く宇宙開発の新たな可能性
住友林業は京都大学との共同研究により、世界初となる木製人工衛星の開発に成功しました。木製人工衛星の最大の特徴は、金属製の人工衛星と比べて環境負荷が少ないことです。
苅谷健司マネージャーによると、従来の金属製人工衛星は大気圏に再突入する際に完全燃焼せず、微粒子として残ることで地球環境や通信に悪影響を及ぼす可能性がありました。一方、木製人工衛星は大気圏突入時に完全燃焼するため、環境への影響を最小限に抑えることができます。
さらに注目すべきは、この衛星には日本の伝統工法「指物」が活用されていることです。宇宙空間での温度変化による木材の伸縮を考慮し、釘や接着剤を使用せずに組み立てる技術が採用されています。
花粉症対策の切り札!無花粉スギの大量生産に向けた取り組み
国民の約4割が悩まされているとされる花粉症。住友林業は2024年、この社会課題に対する画期的な解決策として、無花粉スギの大量生産に向けた取り組みを本格化させています。
筑波研究所の主任研究員である中川麗美氏が中心となって開発している組織培養技術により、優良な無花粉スギを効率的に増やすことが可能になりました。この技術では、一つの胚から無数の苗木を作り出すことができ、すでに技術は確立されているとのことです。
2023年7月には東京都と無花粉スギの生産事業化に向けた協定を結び、実用化へ向けた取り組みを加速させています。これにより、花粉症に悩む多くの人々への福音となることが期待されています。
住友林業が描くウッドサイクルの未来像
住友林業は2030年を目標年度とした「ウッドサイクル」という循環型経済の実現を目指しています。この取り組みは、植林から伐採、木材加工、建築利用、そしてバイオマス発電による再利用まで、木材を余すことなく活用する総合的な循環システムです。
筑波研究所技師長の中嶋一郎氏は「ウッドサイクルを効果的に回すことで、CO2削減と林業の活性化の両立が可能になる」と説明しています。特に注目すべきは、建築現場や解体現場から出る木材をバイオマス発電に活用する取り組みです。これにより、木材の利用価値を最大限に高めることが可能になります。
進化する木材研究:宇宙空間での可能性を探る
住友林業の研究は地球上だけにとどまりません。筑波研究所では、「クリノスタット」という特殊な装置を使用し、無重力環境での木の成長実験を行っています。この装置は1分間に5回転という緩やかな速度で回転することで、模擬的な無重力状態を作り出します。
実験の結果、無重力環境では植物の細胞壁が薄くなることが判明。これは月面や火星での植物栽培に向けた重要な知見となっています。NASA のアルテミス計画による月面探査や、その先の火星計画を見据え、重力が植物の生育に与える影響の研究は今後さらに重要性を増すと考えられています。
まとめ:住友林業が切り拓く持続可能な未来への道
住友林業の挑戦は、木材利用の新たな可能性を切り拓くとともに、環境保全と経済性の両立という課題にも答えを示そうとしています。無花粉スギの実用化や木製人工衛星の開発は、その代表的な成果と言えるでしょう。
中嶋一郎氏は「木という素材のポテンシャルはまだ完全には把握できていない」と語ります。しかし、予想もしなかった宇宙開発分野での活用が実現したように、木材にはまだまだ未知の可能性が秘められています。
木材を通じて持続可能な社会の実現を目指す住友林業の取り組みは、まさに現代における「ブレイクスルー」と呼ぶにふさわしいものと言えるでしょう。今後も、伝統と革新の融合による新たな価値創造に、大きな期待が寄せられています。
(※この記事は、テレビ東京系「ブレイクスルー」(2024年11月9日放送)を参照しています。)
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