木造建築は環境にやさしいとされていますが、コストや耐火性、さらには高層化への課題が残されています。テレビ東京「ブレイクスルー」(2024年11月2日放送)で紹介された住友林業の中嶋一郎氏は、これらの課題を革新的な技術で解決しようとしています。本記事では、木造超高層ビルを可能にする最新技術から、環境との調和を目指す未来の建築まで、住友林業が切り開く新たな可能性についてご紹介します。
住友林業・中嶋一郎が語る木造建築の未来展望
2024年、木造建築の世界で大きな変革が起きています。その最前線で活躍するのが、住友林業筑波研究所技師長の中嶋一郎氏です。従来の木造住宅にとどまらない、新たな可能性を追求する同氏の研究開発は、建築業界に大きな影響を与えています。
「住宅メーカーというイメージが強い住友林業ですが、現在は非住宅分野、特に大規模木造建築にも力を入れています」と語る中嶋氏。同社のつくば研究所では、木材の基礎研究から建築技術の開発まで、幅広い研究が日々進められています。
ブレイクスルーを実現するLVL技術とは
住友林業が開発を進める革新的な建材の一つが「LVL(Laminated Veneer Lumber)」です。これは、木材を大根のカツラむきのように薄く剥いて、繊維方向に貼り合わせた建材です。
一見すると年輪のように見えますが、実は薄い板を重ねて作られています。「一本の木材よりも、このように束ねた方が密度が高まり、強度が増します」と中嶋氏は説明します。このLVL技術により、柱や梁などの主要な骨組みに使用できる高強度な木材の製造が可能になりました。
注目のW350計画|木造超高層ビルへの挑戦
住友林業が掲げる「W350計画」は、高さ350メートルの木造超高層ビルを実現するための技術開発構想です。しかし、この計画の真の目的は意外なところにありました。
「私たちが目指すのは、単に高層ビルを建てることではありません。街中にある4、5階建て、あるいは9階建てクラスの木造ビルを増やしていくことが重要なのです」と中嶋氏は語ります。
その理由は環境への配慮にあります。木材は光合成によってCO2を吸収し、炭素として固定します。つまり、木造建築物が増えることは、街に森をつくることと同じ効果があるのです。W350計画は、そんな環境配慮型の建築の可能性を広げる象徴的なプロジェクトとして位置づけられています。
革新的なポストテンション工法の実力
木造超高層ビルを実現するための重要な技術の一つが、「ポストテンション工法」です。この工法では、木材の中に鋼棒を通し、上下から締め付けることで強度を高めています。
「一箇所あたり約100トンもの圧力をかけることができます」と中嶋氏は説明します。2023年にアメリカで行われた10階建て木造ビルの実験では、阪神淡路大震災級の揺れを含む耐震テストで51回の揺れを与えても、構造躯体に損傷がないことが実証されました。この実験結果は、木造建築の安全性と可能性を大きく広げるものとなっています。
ハイブリッド木材が切り開く新時代
木造建築の普及における大きな課題の一つが建築コストです。現在、中低層の木造建築は鉄筋コンクリート造に比べて約2割高くなるとされています。この課題を解決するため、住友林業は協力企業と共に「ハイブリッド木材」の開発を進めています。
この新しい建材は、木の梁とコンクリートの床材を組み合わせたもので、特徴的なのが表面のノコギリ状の加工(シアコッター)です。「コンクリートと木材は圧縮強度が似ているため相性が良く、組み合わせることで部材の寸法を小さくできます」と中嶋氏は説明します。これにより、高価な木材の使用量を抑えながら、建物の性能を確保することが可能になりました。
耐火性能の壁を突破する独自技術
木造建築におけるもう一つの大きな課題が耐火性能です。住友林業は、この課題に対して革新的なアプローチを取りました。それが、スギとカラマツを組み合わせた二層構造の耐火部材です。
「表面のスギ材は早く炭化することで内部を保護し、内側のカラマツ材が燃えにくい特性を発揮します」と中嶋氏。この技術により、国内で初めて木材を使用した耐火認定部材の開発に成功しました。これは、建築基準法の規制をクリアする画期的な成果となっています。
まとめ
住友林業が進める木造建築の技術革新は、環境問題への対応と建築技術の進化を両立させる取り組みといえます。中嶋氏は「木材と他の素材との適材適所の組み合わせにより、より価値の高い建築物を実現できる」と語ります。
今後は、駅舎や商業施設など、人々が日常的に目にする場所での木造建築の普及が期待されています。これにより、木造建築の可能性や環境への貢献についての理解が深まることでしょう。住友林業の挑戦は、持続可能な未来の建築の在り方を示す重要な一歩となっています。
(※この記事は、テレビ東京系「ブレイクスルー」(2024年11月2日放送)を参照しています。)
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