印刷業界が縮小する中でも成長を続けるTOPPANの秘密とは何でしょうか?2025年4月19日放送の「ブレイクスルー」で注目を集めた遠藤仁事業開発本部長が語る企業変革の全貌をご紹介します。世界シェアトップのGLフィルムから超薄型レンズまで、125年の歴史を持つ企業がいかにして印刷技術の限界を突破し、新たな価値を創造しているのか。TOPPANのチャレンジ精神から私たちの未来が見えてきます。
印刷の枠を超えるTOPPAN:遠藤仁事業開発本部長が語る企業変革の全貌
2025年4月19日、テレビ東京系で放送された「ブレイクスルー」では、印刷業界の老舗大企業であるTOPPANの事業開発本部長を務める遠藤仁氏が、同社の企業変革について語りました。2年前に「凸版印刷」から社名変更し、印刷の枠を超えた事業展開を進めるTOPPANは、印刷業界全体が縮小する中でも成長を続けています。
遠藤氏は番組内で「社名から印刷の文字を外したのは、印刷を捨てたわけではない」と強調しました。印刷業界は1990年代半ばをピークに右肩下がりとなっていますが、TOPPANは創業125年の歴史の中で培ってきた印刷テクノロジーを様々な領域に展開し、新たなビジネスを創出しているのです。
特に注目すべきは、従業員約5万4000人を抱え、世界150以上の拠点を持ち、売上高が1兆7000億円に迫る企業規模です。そのTOPPANの事業開発陣頭指揮を取る遠藤氏が「TOPPANの強みはチャレンジ精神」と語るように、創業から脈々と続く挑戦の精神が同社の成長を支えているのです。
125年の歴史を持つTOPPANが印刷からテクノロジー企業へ変貌するまで
TOPPANは1900年の創業以来、125年の歴史を持つ企業です。意外にも同社のルーツは、大蔵省の印刷局の若手技術者がスピンアウトして立ち上げた「技術ベンチャー」だったといいます。当時最先端だったエルヘート凸版法という印刷技術から、TOPPANの歴史が始まりました。
同社の大きなターニングポイントは1960年に訪れます。当時普及し始めたトランジスタラジオの製造に使われるメサ型トランジスタ用マスクを国産化したことで、印刷技術と電子技術の融合が始まったのです。それ以降、半導体関連などのエレクトロニクス事業を展開し、現在ではTOPPAN全体の利益の約2/3を稼ぎ出す重要な柱となっています。
遠藤氏によると、TOPPANの事業拡大の背景には「世の中の大きな変化」があるといいます。半導体とコンピューティング技術の発展により、印刷テクノロジーが紙媒体以外の様々な領域に展開できるようになったことが、同社の変革を促進したのです。
食品ロス削減に貢献するTOPPANのGLフィルム技術とは?世界シェアトップの実力
TOPPANが世界シェアトップを誇る技術の一つが「GLフィルム」です。このフィルムは同社が長年培ってきたコーティング技術を活用して開発された、世界最高水準のバリア性能を持つ包装材です。
番組では実例として、パックご飯やお好み焼き用のソース、キャンディのパッケージ、さらには洗剤やシャンプーなどの日用品にまでGLフィルムが使われていることが紹介されました。特に興味深いのは、GLフィルムを使用することでパンの消費期限が通常の3日から21日へと7倍に延長できることです。これにより食品ロスの削減に大きく貢献しています。
GLフィルムの秘密は、金属で薄い膜を作る印刷技術とラミネート印刷技術の組み合わせにあります。これにより吸湿や乾燥、腐敗などから内容物を保護する高いバリア性能を実現しているのです。さらに驚くべきことに、TOPPANは紙製飲料容器「カートカン」の内側にGLフィルムを使用するだけでなく、中身の飲み物まで一貫生産しているといいます。
革新的な「ロボットの目」:TOPPANが開発する3D ToFセンサーの可能性
テレビ初公開となったTOPPANの研究所では、印刷技術とAIの融合から生まれた革新的な技術「3D ToFセンサー」の開発が進められています。この技術は「ロボットの目」と呼ばれ、光の反射時間を計測することで距離だけでなく、被写体の形状や動きまで3次元で正確に認識することができます。
この技術を説明したのは、事業開発本部ToF事業推進センターの中込友洋氏です。中込氏によると、このセンサーは単に物体の有無を検知するだけでなく、「犬や人だったら止まり、草だったら通過する」といった判断までできるという点が従来のセンサーと大きく異なります。
特に注目すべきは、雨や雪などの悪天候でも正確に機能するための「ノイズ除去技術」です。TOPPANの高画質印刷で培ったカラーマネジメント技術を応用し、雨によって発生する光の乱反射を画像処理によって除去することに成功しています。
この3D ToFセンサーは無人タクシーや配膳ロボット、さらには配送用ロボットなど、様々な自立・自走型の機械に活用される可能性を秘めています。今年10月には量産化が開始される予定で、ロボット社会の実現に向けた重要な一歩となることが期待されています。
スマホカメラの常識を覆す超薄型レンズ「メタレンズ」開発の舞台裏
TOPPANが開発中の画期的な技術の一つが、厚さわずか1mmという超薄型の「メタレンズ」です。従来のレンズの厚みによって多くのスマートフォンに「カメラの出っ張り」が生じていましたが、このメタレンズの実用化によって、その問題が解消される可能性があります。
興味深いのは、このメタレンズの開発にはモルフォ蝶の羽の構造からヒントを得ていることです。モルフォ蝶の羽は青い色素があるわけではなく、羽の表面にある非常に細かいナノ構造によって青く見えるという特性があります。TOPPANはこの原理を応用し、実際に色素を使わずに青く見えるシートの開発に成功しています。
この技術を応用したメタレンズは、シール状に貼り付けるだけで機能するほど薄いため、スマートフォンをはじめとする様々なデバイスの設計に革命をもたらす可能性があります。遠藤氏が述べるように「スマホは見えてもその中に入っているものは全て分からない」世界で、TOPPANは重要な部材を手がけることで新しい価値を創造しているのです。
中込友洋が語るTOPPANの次世代テクノロジー:印刷技術からAIまで
TOPPANの革新的な技術開発の現場を支える一人が、事業開発本部ToF事業推進センターの中込友洋氏です。中込氏は番組内で、3D ToFセンサーやメタレンズの開発について詳細に説明しました。
特に印象的だったのは、「センサー類というのはまさに印刷テクノロジーの塊でできている」という言葉です。センサーの回路は10億分の1メートルという非常に細い配線で描かれており、その製造には印刷版に相当するフォトマスクが不可欠です。中込氏は「印刷技術がないとセンサーが作れない」と断言するほど、印刷技術とセンサー開発は密接に関連しているのです。
また、中込氏はTOPPANの技術開発がハードウェアだけにとどまらないことも説明しました。AIなどのシステム開発も手がけており、人の骨格を検知してジェスチャーを認識する技術や、雨や雪のノイズを除去する画像処理技術など、ソフトウェア面での研究開発も進めています。
これらの技術は、無人タクシーや配膳ロボット、自動配達など、今後の社会で活躍する様々なロボットの「目」と「脳」となる可能性を秘めており、TOPPANの技術が私たちの生活を大きく変える可能性があります。
パッケージから医療まで:TOPPANが挑む多角的ビジネス展開の未来
TOPPANの挑戦は包装材や電子技術にとどまりません。番組の最後では、医療分野への進出も紹介されました。具体的には、3D細胞培養技術を活用したがん治療への応用です。この技術により、がん患者の組織を100個複製し、様々な種類の抗がん剤を試すことで、最も効果的な治療法を見つけ出すことができるようになるといいます。
また、意外な分野として「和牛のステーキをそのまま作る」という食品分野への挑戦も示唆されました。これらの多角的なビジネス展開は、創業以来脈々と受け継がれてきた「チャレンジ精神」の表れといえるでしょう。
(詳細は次週の放送で明かされます)
遠藤氏は「様々な領域に事業を展開してきたのは挑戦の連続だった」と振り返り、そのような挑戦を「容認する」企業文化がTOPPANにはあると述べています。印刷業界が縮小する中でも成長を続けている秘訣は、この挑戦を恐れない企業文化にあるのかもしれません。
まとめ:TOPPANのブレイクスルーが切り拓く新たな可能性
創業125年の歴史を持つTOPPANは、印刷技術を核にしながらも常に新たな領域に挑戦し続けてきました。社名から「印刷」の文字を外したことは、印刷を捨てたわけではなく、むしろ印刷技術をさらに発展させ、様々な分野に応用していくという決意の表れといえるでしょう。
GLフィルムによる食品ロス削減、3D ToFセンサーによるロボットの目の実現、メタレンズによるスマートフォンデザインの革新、そして医療分野への挑戦など、TOPPANの技術開発は私たちの日常生活から産業構造まで、幅広い領域に変革をもたらす可能性を秘めています。
遠藤仁事業開発本部長が語るように、「世の中の大きな変化」に対応し、長年培ってきた印刷テクノロジーを様々な領域に展開することで、TOPPANは今後もブレイクスルーを起こし続けることでしょう。印刷局初のベンチャー企業としてスタートした創業時の精神は、125年経った今も色あせることなく受け継がれています。
※本記事は、2025年4月19日に放送された人気番組「ブレイクスルー」(テレビ東京系)を参照しています。
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