ワイパーを取り換える際、あなたは製造メーカーを気にしますか?実はフコクという埼玉の企業が、国内新車の90%以上に搭載されるワイパーゴムの製造を手がけています。その秘密は、極限までこだわり抜いた90度の切断面加工にあります。「がっちりマンデー!」(2024年6月9日放送-TBS系)でも紹介された、フコクのモノづくりの精神に迫り、日本の”縁の下の力持ち”の実力を余すところなくお伝えします。
フコク社のワイパー製造の裏側
フコクは埼玉県さいたま市に本社を構える老舗のゴム製品メーカーですが、その主力商品は実は自動車のワイパーゴムなのです。2024年現在、フコクが製造するワイパーゴムは国内の新車に搭載されるワイパーの90%以上を占める”ワイパー王者”の的確な評価があります。
そのワイパーゴムの製造過程には、ユーザーの皆さんには見えない数々の徹底した取り組みがあります。まず原料のゴムを絶妙な配合で作り上げ、型に流し込んで一旦ワイパーゴムの形を作ります。しかしここからが本当の勝負です。完成したワイパーゴムをハロゲン溶液に浸して化学反応を起こし、ゴム表面をつるつると仕上げます。これがフコクのワイパーゴムが他社と大きく異なる第一の秘密なのです。
しかし、それだけではワイパーゴムとしての性能は十分とはいえません。次なるポイントが「ゴムとガラスの接地面を極限まで小さく」することです。ワイパーゴムはガラスに薄い水膜を残し、その上を滑らかに動くことで拭き性能が発揮されるため、接地面の幅は0.01mmという職人技が要求されます。
その高度な加工技術の最たるものが、二つに繋がったゴムを90度に切断する作業なのです。この切断の角度がわずかでも外れると、接地面が広がり拭き性能が落ちてしまいます。フコク社ではこの切断工程を極秘に包んでおり、社内でも入室可能な人数が制限されている最重要の職人技なのです。
こうして製造されたフコクのワイパーゴムは、すべての切断品を全数検査し、拭き残しのない高品質を保証しています。現場スタッフからは「瞼の裏にもワイパーが」といった豪語さえ聞かれるほど、拭き性能への自負と誇りに満ちあふれています。
世界シェア90%超のワイパー王者となった理由
フコクはワイパーゴムの製造で世界シェアの90%超を占める”ワイパー王者”にまでのし上がりましたが、その背景には他にも数々の理由が存在します。
2022年の時点で年商800億円を超えるフコク社の規模は、ワイパーゴムだけでなくその他のゴム製品も含めた数字です。ワイパーゴムに特化すれば、なんと年間2億本ものワイパーゴムを製造する世界最大の専門メーカーなのです。
このように世界的な地位を確立できた大きな要因の一つが、1990年代に整備が進んだ東京周辺の高速道路網でした。フコクの本社が位置する埼玉県は、この優れた物流環境を背景に、製造業の集積が加速しました。東京に次ぐ工場の多さと、東京へのアクセスの良さから、いわば「ものづくりの町」と呼ぶべき存在になったのです。
加えてフコクは、この恵まれた立地条件を最大限に活かしながら、ワイパーゴムに特化した製造技術の開発と徹底した品質管理に注力してきました。高速道路網の整備が”王者”への道を開いたともいえるでしょう。
全数検査と”拭き跡ゼロ”を目指す社員の熱意
フコクの現場では、ワイパーゴムの品質を何よりも大切にする社員の姿勢が垣間見られます。全製品に対して100%の全数検査を実施しているだけでなく、一人ひとりが高い責任感を持って検査に当たっています。
フコクの群馬第二工場では、一人の検査員が一日に約6000本ものワイパーゴムを検査します。それだけの数をこなしながらも、拭き残しや傷など、些細な欠陥も見逃さない神経を使うことが求められます。「家に帰ってもワイパーが目に焼き付いている」という検査員の言葉が、その緊張感と責任の重さを表しています。
このような現場での徹底した取り組みがあるからこそ、フコクのワイパーゴムは国内新車の9割以上に採用されているのです。企業理念に「お客様の満足」を掲げるフコク社にとって、完璧を期す品質管理は必須の課題なのでしょう。
大城郁男社長に聞く、フコクの将来ビジョン
フコクを牽引する大城郁男社長は、今後の展望についてこう語ります。
「ワイパーゴムの世界シェア90%超という絶大な信頼に応えるため、今後も品質管理には徹底して取り組んでいく所存です」
フコクの強みとなっている製造技術の開発にも力を注ぎ続けるとのこと。90度に切り出すワイパーゴム製造の決め手となる加工技術に、さらなる磨きをかける計画があります。
また、自動運転への対応も視野に入れているそうです。自動運転が一般化すれば、従来のように人間の感覚に合わせた拭き性能ではなく、人工知能との連携が求められます。フコクはワイパー技術課を中心に、既に次世代の技術開発を進めているとのことです。
「ものづくりの町”埼玉”を代表する一社として、さらに存在感を高めていきたい」と大城社長は将来の構想をひそませています。ワイパーゴムの専門メーカーからはじまったフコクが、新たな領域へと羽ばたく日も遠くないかもしれません。
塩野隆さん(群馬第二工場長)が語る、フコク成功の秘訣
ワイパーゴムの製造を統括する塩野隆さん(群馬第二工場長)は、フコクの成功の理由をこう語ります。
「当社の最大の強みは、ワイパーゴムに特化した技術の追求にあります。私たちはワイパーの専門メーカーとして、拭き性能の向上に全力を尽くしてきました」
フコクがワイパー王者の地位を不動のものとしている最大の要因は、この”専門性の高さ”にあるのです。自動車メーカー各社から厳しい品質基準を課されながらも、ゴムの材料選定からはじまる一連の工程を自社で完結できる点が強みとなっています。
塩野さんはさらにこう続けます。
「技術面だけでなく、人材育成にも注力しています。現場のスタッフ一人ひとりが、ワイパーゴムへの高い責任感と情熱を持ち続けられるよう、きめ細かな指導を重ねています」
フコクでは、検査員を含む製造ラインの社員から、「瞼の裏にもワイパーが」というような言葉が出るほど、ワイパーゴムへのこだわりが強いのだそうです。
こうした人材の質の高さと、ゴム加工に対する専門性の2つが、フコクが突出した存在となれた理由なのでしょう。ここに至るまでの歩みには、多くの試行錯誤があったことでしょう。それでもフコクは、常にワイパーの専門メーカーとしての矜持を貫き通してきたのです。
ワイパー技術課の下田寛人が明かす、次なる挑戦
フコクの中核を担うワイパー技術課。その課の下田寛人さんは、次の目標について以下のように語ります。
「現在の自動車用ワイパーは、あくまで人間の視界を確保するための製品です。しかし近い将来、自動運転車の普及が進めば、人工知能との連携が不可欠になるでしょう」
つまり、従来のように人間の感覚に合わせた拭き性能ではなく、カメラやセンサーとの協調が求められる時代が到来するというわけです。下田さんは続けます。
「カメラやセンサーに最適化したワイパーゴムの開発に着手しています。拭き跡の完璧さはもちろんですが、人工知能が見落とすことのない水はじきの仕組みなど、新たな技術を投入する必要があります」
このように、フコクが培ってきたワイパー加工の匠の技は、いま新たな局面を迎えつつあるのです。自動運転普及に向けた挑戦を成功させ、次の時代に通用するワイパーを生み出せるか、業界の注目が集まるところです。
まとめ
フコクは、本社を置く埼玉県の恵まれた物流環境を背景に、ワイパーゴムの製造で世界的な地位を確立してきました。その高い品質と技術力の源泉は、90度の切断面加工をはじめとする職人技にあります。
現場スタッフの熱い思いが支える全数検査と、さらなる高みを目指す社長の意欲。そして次なる時代に向けた開発に勤しむ技術者の姿勢。このようにフコクには、”ものづくり”に賭ける情熱とプライドが行き渡っています。
本社のある埼玉は、首都圏に位置しながらも、地味な存在と思われがちでした。しかし今や日本を代表する製造業の集積地として、”縁の下の力持ち”ともいえる存在になりつつあります。そうした埼玉の姿を体現するかのように、フコクはあくなき挑戦を続けているのです。
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