BSテレ東「いまからサイエンス」で、地熱エネルギーの専門家・安川香澄さんが登場し、日本の地熱発電や地中熱ヒートポンプの可能性を熱く語りました。資源量世界3位でありながら活用が進まない日本の現状、電気代が半分になる次世代冷暖房の仕組みとは?この記事では、番組の内容を徹底解説し、地熱エネルギーが私たちの未来をどう変えるのかをお伝えします。
安川香澄の経歴とプロフィール|JOGMEC地熱研究の第一人者
安川香澄(やすかわ かすみ)さんは、日本における地熱研究の第一人者として長年活躍されてきた研究者です。
1987年に東京大学工学部資源開発工学科を卒業後、当時の地質調査所(現在の産業技術総合研究所=AIST)に入所し、地熱資源の研究者としてのキャリアをスタートさせました。その後、アメリカのカリフォルニア大学バークレー校で理学修士を取得し、2000年には九州大学で工学博士号を取得されています。
研究者としての実績は国内外で高く評価されており、日本地熱学会の研究奨励賞をはじめ、国際的な地熱学会であるGRC(Geothermal Resources Council)のBest Paper Awardを複数回受賞。地熱分野の専門誌「Geothermics」では、論文のダウンロード数で世界1位を記録したこともあります。
AISTでは再生可能エネルギー研究センターの副研究センター長を務めた後、2019年7月からはJOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)の地熱統括部に移り、特命審議役として地熱の国際協力や普及啓発活動に尽力されました。
番組出演時の肩書は「JOGMEC特命参与」となっており、世界各国での地熱調査の経験をもとに、地熱エネルギーの重要性を広く伝える活動を精力的に行っていました。
さらに2022年1月には、国際エネルギー機関(IEA)の地熱部門において、日本人として初めて議長に就任。世界の地熱エネルギー政策に影響を与える立場で活躍されました。
なお、安川香澄さんは2025年12月19日に逝去されました。地熱エネルギーの発展に生涯を捧げたその功績は計り知れません。心よりご冥福をお祈りいたします。
地熱発電の仕組みとは?地下の蒸気を利用したクリーンエネルギー
地熱発電とは、火山の近くなど地下の温度が高い場所に井戸を掘り、そこから噴き出す高温高圧の蒸気でタービンを回して電気を作る発電方式です。
安川さんは番組内で、地熱発電の仕組みを非常にわかりやすく説明していました。原子力発電や火力発電では、地上でボイラーを使って蒸気を作りますが、地熱発電では地下にもともと存在する蒸気をそのまま利用します。つまり、燃料を燃やす必要がないため、CO2の排出が極めて少ないクリーンエネルギーなのです。
具体的には、地下およそ1キロから3キロの深さを掘削し、そこにある200度から300度の蒸気や熱水を取り出して発電します。近年では100度程度の熱水でも発電できるバイナリー発電という技術が確立されたことで、高温の地熱資源を持たない国々でも開発が急速に進んでいるとのことです。
ただし、地下で蒸気や熱水が溜まっている場所を見つけるのは非常に難しいそうです。安川さんの説明によると、地下には大きな穴がポカッと開いているわけではなく、緻密な岩石の亀裂やひび割れの隙間に水が溜まっている状態。その断層にピンポイントで井戸を当てなければ、蒸気を取り出せないのです。
安川さんはこの難しさを、人体のMRI検査にたとえて解説していました。「人間の体ならMRIで輪切りにして全方位から調べられますが、地熱の場合は地表から一方向だけ。しかも、どこに心臓があるかわからない状態で調べるようなもの」という表現は、地熱探査の困難さをよく伝えていました。
それでも最初は3本に1本、4本に1本の確率で当たり、何本か掘って地下の構造がわかってくると半分以上の成功率になるということで、技術的には着実に進歩しているようです。
日本の地熱資源量は世界3位!それでも活用が進まない理由
番組で紹介された世界の地熱資源量ランキングでは、1位アメリカ、2位インドネシア、3位日本、以下ケニア、フィリピン、メキシコ、アイスランドと続いています。日本は世界有数の地熱大国なのです。
ところが、実際に地熱を発電に使っている量のランキングでは、日本はわずか10位。資源量3位のポテンシャルをまったく活かしきれていない現状があります。安川さんによると、2000年頃には日本は世界5位の地熱発電国だったものの、その後他の国にどんどん追い抜かれてしまったそうです。
では、なぜこれほど豊富な資源がありながら活用が進まないのでしょうか。番組で安川さんが挙げた理由は複合的なものでした。
まず、地熱開発には調査開始から発電所が稼働するまで10年以上かかるという時間の問題があります。企業にとっては、調査に巨額の投資をしても蒸気が出なければ全て無駄になるリスクがあり、しかもお金が戻ってくるのは発電を始めて売電できるようになってからです。
第一次オイルショックの時代には政府の手厚い支援のもと地熱開発が進みましたが、その後、太陽光や風力などの再生可能エネルギーが台頭すると、地熱への支援は縮小・打ち切りとなった時期がありました。政府支援がなければ、リスクの高い初期調査に企業が踏み出せないのです。
また日本特有の事情として、地熱資源が豊富な場所はたいてい温泉地の近くにあるため、温泉事業者との調整が欠かせません。「地熱開発のせいで温泉が枯れるのではないか」という懸念に丁寧に対応する必要があり、開発に時間がかかります。番組内では、科学的に地熱開発のせいで温泉に悪影響が出たと証明された事例は日本国内ではないものの、地熱発電開始の時期に温泉の湯量が減った事例はあるという話がありました。
一方、地熱発電量1位のアメリカでは、大企業が「外れてもいいからどんどん掘る」という姿勢で同時に何本も掘削するため、開発期間が圧倒的に短いそうです。1本ずつ慎重に掘り進める日本とは国民性の違いもあるかもしれません。
掘削コスト自体もアメリカの方が安く、掘削の数が多い分だけ経験値も蓄積されています。日本では1キロ掘るのに1億から2億円かかるという現実があり、この初期投資の大きさも足かせになっています。
ただし、2011年の東日本大震災以降、日本政府も再生可能エネルギーの推進に本格的に舵を切り、地熱に対する政策支援が復活しました。発電所の完成までに10年以上かかることを考えると、3.11から始まったプロジェクトがようやく実を結び始めているのが現在の状況です。筆者としても、ここからが地熱発電の本格的なスタートラインだと感じています。
安川香澄の独自技術|地下の熱水を探し当てる地熱探査の成果
安川さんの専門は、地下で水が流れている場所を探す「自然電位法」という探査技術でした。
地下の岩石の隙間を水が流れる際、性質の異なる岩石の境目で自然に電流が発生します。この微弱な電気を地表に設置した電極で測定し、地下のどこを水が流れているかを解析するという、非常に地道な手法です。山の中に電極を持ち込み、電線でつないで測定するという作業を延々と続ける、まさに「足で稼ぐ」フィールドワークだったそうです。
この技術が大きな成果を上げた代表的な事例が、2000年前後のインドネシア・フローレス島での地熱調査です。日本との共同研究として行われたこのプロジェクトは、電気が通っていない地域に地熱発電所を建設して電化を進めるという、まさに人々の生活を変える取り組みでした。
調査の結果、候補地が4箇所に絞られ、さらに最終的に2箇所で意見が分かれた際、安川さんの自然電位法による解析が決め手となりました。「こちらの方がいい情報が出ています」という安川さんの助言で掘削地点が決定し、実際に井戸を掘ったところ、見事に蒸気が噴出したのです。
番組内で加藤浩次さんが「やりましたね先生!」と興奮気味に声をかけると、安川さんは「私だけではなく、いろいろな調査があったんです」と控えめに答えていたのが印象的でした。この謙虚な姿勢の中に、チームで成果を出す研究者としての誠実さが感じられます。
安川さんはまた、自身が開発した地下の水の流れをシミュレーションするソフトウェアについて、海外からも問い合わせが来ていると話していました。こうした技術が次の世代に受け継がれていくことが、今後の地熱開発の鍵になるのではないでしょうか。
地中熱ヒートポンプとは?電気代半分で冷暖房できる次世代技術
番組後半で安川さんが「スーパースター」と呼んで熱く語ったのが、地中熱ヒートポンプという技術です。これは地熱発電とはまったく異なるアプローチで、どこでも利用できる画期的な冷暖房システムです。
地下の温度は、深さ10メートルを超えると一年を通じてほぼ一定で、東京の場合はおよそ20度前後に保たれています。つまり、夏は地上より涼しく、冬は地上より暖かいという特性があるのです。
地中熱ヒートポンプは、この温度差を利用して冷暖房を行います。冬は地中の熱を取り込んで暖房に使い、夏は室内の熱を地中に逃がして冷房にする。通常のエアコンが熱を「作る」のに対して、地中熱ヒートポンプは熱を「移動させる」仕組みなので、エネルギー効率が格段に高いのです。
安川さんによると、これまでの観測例では電力消費を従来のエアコンのおよそ半分に抑えることができ、石油ストーブなどの化石燃料暖房からの切り替えではエネルギーコストを約7割も削減できるとのことでした。
さらに注目すべきは、ヒートアイランド現象の解消効果です。通常のエアコンは室内を冷やす代わりに室外機から熱風を排出するため、都市部の気温を上昇させる一因となっています。特に東京の夏、夜になっても30度を下回らない現象は、まさにエアコンの排熱によるヒートアイランドの影響だと安川さんは指摘していました。地中熱ヒートポンプなら排熱は地下に吸収されるため、この悪循環を断ち切れるのです。
では、なぜこんなに優れた技術がほとんど知られていないのでしょうか。安川さんは「室外機がないから静かで快適だけど、目に見えないから誰にも気づいてもらえない」と、その普及の難しさをユーモアを交えて語っていました。太陽光パネルなら屋根の上で目立ちますが、地中熱の設備は地下に埋まっているため、存在に気づかないのです。
実は日本でもすでに導入済みの大型施設があります。羽田空港の国際線ターミナルや、東京スカイツリーの足元にあるソラマチがその例です。ただし日本全体での設置台数は約3,500台にとどまっており、数百万台規模で導入が進むアメリカや中国と比べるとまだまだです。
一般家庭への導入費用は、補助金を利用して150万円から200万円程度。通常のエアコン設置費のおよそ倍ですが、電気代が半分になるため、10年少しで初期投資を回収できるとされています。特に北海道では、もともと暖房に使う燃料費が高いため、補助金なしでも約5年でペイバックするそうです。
個人的には、新築住宅を建てる際に地中熱ヒートポンプを標準オプションとして提案するハウスメーカーが増えれば、一気に普及が進むのではないかと思います。加藤浩次さんも番組内で「大手ハウスメーカーがやっていくべき」と強く訴えていましたが、まさにその通りではないでしょうか。
地熱発電は災害にも強い|東日本大震災でも電力を供給し続けた実績
地熱エネルギーの大きなメリットとして、安川さんが強調していたのが「災害への強さ」です。
再生可能エネルギーの中で、地熱発電は太陽光や風力と違い、天候に左右されず24時間安定して発電し続けることができる「ベースロード電源」としての機能を持っています。これだけでも十分に価値がありますが、それに加えて地震にも強いという特性があるのです。
実際に、2011年の東日本大震災の際、東北地方にある地熱発電所は設備に大きな被害がなく、多くが停止せずに電力供給を続けることができました。地下の施設は地盤と一緒に揺れるため、破壊されにくいのだと安川さんは説明しています。
中でも特筆すべきは、福島県にある柳津西山(やないづにしやま)地熱発電所の活躍です。東北地方の地熱発電所の中には送電設備が損傷して電力を届けられなくなった施設もありましたが、柳津西山地熱発電所は発電も送電も途切れることなく、震災の最中もずっと被災地に電力を送り続けたのです。
安川さんがこのエピソードを記事にしたところ、「あの福島で」ということで海外でも大きな話題となり、海外メディアの取材も受けたそうです。
日本の地熱資源は東北地方と九州に集中しています。これは火山の分布と一致するためですが、地震が多い日本にとって、災害時のバックアップ電源としても地熱発電を整備しておく意義は非常に大きいと言えるでしょう。
一つのエネルギー源に頼ることはリスクが高く、化石燃料は国際情勢によって輸入できなくなる可能性もあります。地熱は純国産のエネルギーであり、安定供給とエネルギー安全保障の両面から、もっと注目されるべき存在だと強く感じます。
安川香澄と宇宙飛行士選抜試験|野口聡一との意外な接点
番組の後半では、安川さんの意外な過去が明かされました。なんと、宇宙飛行士の選抜試験に挑戦し、最終選考の5人に残っていたのです。
安川さんは大学卒業後すぐに地質調査所に就職しましたが、周囲の同僚が修士や博士を取得した研究熱心な人ばかりだったこともあり、「このままでいいのかな」という迷いを抱えていたそうです。アメリカ留学も経験しましたが、研究への確信が持てない日々が続いていました。
そんな時に宇宙飛行士の選抜試験が行われ、安川さんは挑戦を決意。約600人の候補者の中から一次試験、二次試験を勝ち抜き、最終選考の5人としてアメリカ・ヒューストンのジョンソンスペースセンターに派遣されました。
この時、一緒に最終選考を受けていたメンバーの中にいたのが、後に宇宙飛行士となる野口聡一さんでした。番組では、ヒューストン近くのブルーボンネット祭りで最終選考の5人が揃って撮った写真が紹介され、星出彰彦さんの姿も確認できました(星出さんはその次の選抜で選ばれたとのことです)。
最終的には野口聡一さんが選ばれ、安川さんは惜しくも選外に。しかし、この経験が逆に安川さんの研究人生を大きく変えることになりました。
宇宙飛行士の仕事は、科学技術が進んだほんの数カ国だけで行う国際宇宙ステーションでの活動です。ちょうど同じ頃、インドネシアでの地熱調査に携わった安川さんは、電気が通っていない地域の人々に地熱発電で電気を届けるという仕事に大きな感動を覚えました。
「最先端の技術がない国の人たちとも一緒に調査できることが面白かった。もっといろいろな国の人と仕事ができる」――宇宙よりも地球に面白さを見出した安川さんは、地熱研究に本格的にのめり込んでいったのです。
加藤浩次さんが「宇宙というよりも、地球にもっと面白いところがあるじゃないってことですね」と要約すると、安川さんは「おっしゃる通りなんです。地球面白いんですよ、本当に」と笑顔で答えていました。
宇宙飛行士を目指す過程で自分の本当にやりたいことに気づいたというエピソードは、若い世代にとっても大きな励みになるのではないでしょうか。
まとめ
BSテレ東「いまからサイエンス」で紹介された安川香澄さんの地熱エネルギーへの情熱と研究成果は、日本のエネルギーの未来を考える上で非常に示唆に富んだ内容でした。
番組の要点を振り返ると、日本は地熱資源量で世界3位でありながら、活用は10位にとどまっています。その背景には、開発期間の長さやコスト面でのリスク、温泉地との調整といった複合的な課題がありました。
一方で、地中熱ヒートポンプという「どこでも使える」技術は、電気代の大幅削減とヒートアイランド現象の解消を同時に実現できる可能性を秘めています。安川さんが「全ての冷暖房は地中熱になってほしい」と語った夢は、決して絵空事ではないでしょう。
また、地熱発電が東日本大震災でも被災地に電力を供給し続けたという実績は、災害大国・日本にとって大きな意味を持ちます。
安川さんは番組の最後に、「サイエンスは世界共通の言葉です。そして、多分宇宙でも通じる言葉です」と語りました。宇宙飛行士を目指した経験を持つ安川さんらしい、スケールの大きな言葉です。
2025年12月に他界された安川さんの遺志を引き継ぎ、日本の地熱エネルギー開発がここからさらに加速していくことを心から願ってやみません。
※ 本記事は、2026年2月25日放送(BSテレ東)の「いまからサイエンス」を参照しています。
※ JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)の公式サイトはこちら。


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