「なぜあの人が好きなのか」「どうしてこの人が苦手なのか」──その感情の正体、気になりませんか?2026年2月4日放送のBSテレ東『いまからサイエンス』では、東京大学の奥山輝大教授が、共感ニューロンの発見や記憶と感情の操作といった最新の脳科学研究を解説しました。この記事では、番組で語られた好き嫌いのメカニズムから行動パターンによる感情の解析まで、注目の研究内容をわかりやすくまとめています。脳の仕組みを知ることで、人間関係や自分自身を見つめ直すヒントがきっと見つかりますよ。
奥山輝大教授が解明した「好き嫌い」の感情と記憶のメカニズムとは
2026年2月4日にBSテレ東で放送された『いまからサイエンス』に出演したのは、東京大学 定量生命科学研究所の奥山輝大教授です。奥山教授の専門は行動神経科学で、記憶や感情を司る脳の仕組みを解き明かす研究に取り組んでいます。
番組の中で奥山教授は、「私たちの気持ちや考えていることは、全て脳の神経細胞の活動で成り立っている」と明言しました。好きな音楽、食べ物の好み、人への好き嫌い──これらすべてが神経細胞の働きによるものだというのです。
奥山教授は、脳の働きを「電卓」にたとえて説明しています。遺伝子という生まれ持った設計図と、成長の過程で積み重ねてきた経験が「電卓の中の計算式」を作り上げ、そこに外部から情報が入ってくると自動的に答えが出る。これが私たちの感情の正体です。つまり、日々の生活の中で少しずつ形づくられた脳の「計算式」こそが、その人の人格や心と呼ばれるものの実態だということになります。
この考え方を知るだけでも、自分の感情を客観的に見つめるきっかけになるのではないでしょうか。実際、奥山教授自身も「怒りそうになった時に、今自分の扁桃体がこう働いてるんだろうなと考えると、スッと落ち着く」とおっしゃっていたのが印象的でした。
脳の海馬が人物を記憶する仕組み|神経細胞の「組み合わせ」理論
奥山教授が番組で紹介したのが、自身が発見した記憶のメカニズムです。
脳の記憶中枢である海馬には役割分担があり、上側(背側)が時間や空間の記憶を、下側(腹側)が「誰」という人物の記憶を担当しています。これらが組み合わさることで、「いつ、どこで、誰と、どうした」という私たちの日常的な記憶が形成されているのです。
さらに注目すべきは、人物の記憶が「細胞の組み合わせ」で貯蔵されているという発見です。番組では仮に9つの細胞がある場合の例が紹介されました。3番・6番・9番の組み合わせでAさん、2番・3番・8番でBさん、といった具合に、一つの細胞が一人の人物に対応するのではなく、複数の細胞の組み合わせパターンによって個人の記憶が保存されているのです。
この仕組みが優れているのは、仮に一部の細胞が死んでしまっても、セットの7~8割が活動すれば思い出せるという点です。さらに、9個の細胞があれば理論上2の9乗=512人分、10個なら1024人分の記憶が可能になります。コンピューターの組み合わせ論と非常に似た、合理的なシステムになっているわけですね。
共感ニューロンの発見|他者の感情を自分のものにする脳の仕組み
奥山教授の研究成果の中でも世界的に大きな注目を集めたのが、「共感ニューロン」の発見です。この研究は2023年7月に英国科学誌『Nature Communications』に掲載されました。
実験では、透明な仕切りのついた2つの部屋にそれぞれマウスを入れ、片方のマウスだけに電気刺激を与えます。すると、直接ショックを受けていないもう一方のマウスも、相手の怖がる様子を見ることで、すくみ行動(フリーズ)を起こしました。まさに「共感」が起きている瞬間です。
脳の内視鏡でリアルタイムに観察したところ、前頭前野と呼ばれる脳領域に、「自分の恐怖」と「他者の恐怖」の両方の情報を同時に持つ神経細胞が存在することが分かりました。これが共感ニューロンです。他者の感情情報を受け取り、自分の感情として書き換えて転送する──この仕組みこそが共感の正体なのです。
奥山教授は、共感が自然界で発達した理由について「集団の中で誰かが敵に襲われた時に、その反応を見るだけで自分が襲われる前にアクションを取れる」と説明しています。お化け屋敷で誰かが「オバケだ!」と叫んだら、自分はオバケを見ていなくても反射的に逃げてしまう──あの反応こそ、共感の本来あるべき姿なのかもしれません。
好き嫌いの感情は操作できる?記憶と感情をつなぐニューロン研究
番組のハイライトの一つが、マウスの「好き嫌い」の感情を人為的に変えることに成功した実験です。
まず前提として、光を当てることで特定の神経細胞を活動させる「光遺伝学(オプトジェネティクス)」という技術があります。ある記憶を貯蔵している神経細胞にだけ、光に反応するタンパク質を発現させておき、光を照射することで狙った記憶を人為的に思い出させることができるのです。
この技術を応用し、ある友達マウスの記憶を思い出させながら、同時に電気ショック(ネガティブな刺激)を与え続けると、その友達マウスの記憶と「嫌だ」という感情がどんどん結びついていきます。結果、後でその友達マウスに会うと「こいつは怖い奴だ」と距離を取るようになりました。
逆に、友達マウスの記憶を思い出させながら強力な報酬を与え続けると、「気持ちいい」という刺激と友達の記憶が結びつき、いつの間にかそのマウスのことが好きという情報に書き換わって、どんどん接近するようになったのです。
脳の中に記憶と感情の両方があるからこそ、その「つなぎ方」を操作すれば感情を変えられる。これはマウスレベルではすでに実現している技術であり、将来の人間への応用可能性を考えると、驚きと同時に少し恐ろしさも感じる研究です。
行動パターンによる感情の解析|AIトラッキングとビッグデータの未来
奥山教授が現在力を入れているのが、「行動パターンによる感情の解析」です。
マウスの体の各部位(尻尾、足、耳、鼻など)にポイントを設定し、深層学習(AI)で自動的にトラッキングします。すべての動きがX、Y座標のデータに変換され、その膨大なデータから数学的に行動パターンを分類していくのです。
この技術の応用範囲は非常に広いと奥山教授は語っています。たとえば、もし人間の日常生活の中で行動を継続的にモニタリングできれば、うつ病の初期兆候を事前に発見できるかもしれません。Apple Watchのような心拍数データ、スマートフォンの位置情報や検索履歴、室内での行動データなど、すでに私たちの生活には多くのトラッキング技術が浸透しています。
さらにマーケティング分野では、脳波や動きのデータから購買意欲を可視化することも将来的には可能になるだろうと指摘されました。SNS上で検索履歴にもとづいた広告が表示されるのは今や当たり前ですが、行動データや脳波情報が加わることで、その精度はさらに飛躍的に向上する可能性があります。
ただし、奥山教授はそのリスクにも触れています。自分が好きなものだけを提示される世界では、世界が極端に狭くなり、偶然の出会いが失われてしまうかもしれない。ビッグデータの活用と個人情報の保護のバランスは、今後ますます重要な社会課題になるでしょう。
「幸せとは脳活動」感情コントロールと脳の慣れの関係
番組終盤では、「幸せ」の正体にも話が及びました。奥山教授の答えはシンプルかつ衝撃的で、「幸せとは脳活動です」の一言でした。
興味深いのは、脳には簡易デバイスを使って自分のアルファ波レベルを数値化し、どんな行動や音楽で自分がリラックスするのかを客観的に把握できるシステムがすでに存在しているという話です。自分が幸せになる条件を論理的に理解できれば、幸せに近づきやすくなるというわけです。
一方で、MCの加藤浩次さんが指摘した「飽き」の問題──初めて食べて感動したものも、繰り返すうちに感動が薄れていく現象──について、奥山教授は「脳は基本的に新しいものを刺激として求める作りになっている。日々の生活の中で脳の形は変わっていくので、これはもうしょうがない」と明快に答えました。
加齢とともに物欲が減り、自分のやりたいことに向かう欲求に変わっていくのも、脳が新しい刺激に慣れていった結果として説明できます。「死ぬまで形は変われど欲求はある」──その言葉は、ある意味で人間の生きるエネルギーそのものの肯定にも聞こえました。
達人の脳は大脳を使わない?将棋棋士やプロ選手に見る反射の境地
番組では「達人」の脳についても興味深い話題が展開されました。
奥山教授によると、将棋のプロ棋士が対局中に使っている脳の領域は、理性を司る大脳ではなく、運動を司る領域だということが分かっています。つまり、何万回と繰り返してきた思考パターンが「一連のブロック」のようにまとまり、自転車を何も考えずに漕げるようになるのと同じ原理で、ブロックとブロックの組み合わせだけでクレバーな一手を打っているのです。
プロサッカー選手も同様で、「左足をボールの横に置いて蹴る」なんて考えている選手は誰もいません。体に染みついた動きのパターンがいくつもあり、瞬間瞬間にそれらを組み合わせることで、合理的なプレーが生まれています。
つまり「達人」とは、大脳を介さないで物事をこなせる境地に達した人のことだと言えます。意識的な思考を経由しないからこそ、反射的かつ理にかなった動きが可能になる。考えるほどに「考えない」ことの深さを感じさせられる話でした。
恩師・利根川進との出会い|奥山輝大のターニングポイントとサイエンス観
番組後半では、奥山教授の研究人生のターニングポイントが紹介されました。それが、1987年に日本人初のノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進氏との出会いです。
奥山教授はアメリカのボストンにあるマサチューセッツ工科大学(MIT)のピカワー学習記憶研究所で、2013年から2017年まで利根川氏のもとで博士研究員として研究を行いました。奥山教授が利根川氏について最も感銘を受けたのは、その「飽くなき探求心」だったそうです。研究を長年続けていれば慣れが出てくるのが普通ですが、利根川氏は論文を出すたびに毎回大興奮して喜ぶ、子供心のままサイエンスに向き合い続ける方だったとのこと。
奥山教授はこれを「ドラクエを100回クリアしても、100回とも『やったー!』と喜べる人」とたとえました。周囲が10回で飽きるところを10倍続けられる。しかも本人は努力している自覚がない。この特性こそがトップ研究者やトップアスリートに共通する資質なのかもしれません。
そして番組の最後に奥山教授が語った「サイエンスとは何か」への答えは、「自分色で世界を染め上げる時間」でした。競争ではなく、自分がいなかったら世界に存在しなかったものを生み出すこと──その姿勢に、研究者としての純粋な情熱が感じられます。
まとめ
2026年2月4日放送の『いまからサイエンス』(BSテレ東)では、東京大学の奥山輝大教授による最先端の脳神経科学研究が紹介されました。
番組の要点を振り返ると、感情はすべて神経細胞の活動であること、人物の記憶は海馬の細胞の組み合わせで貯蔵されていること、前頭前野には自分と他者の情報を同時に持つ共感ニューロンが存在すること、そして記憶と感情の結びつきを操作すれば好き嫌いも変えられるという驚くべき研究成果が語られました。
さらに、AIを活用した行動パターンの解析が今後のうつ病早期発見やマーケティングに応用される可能性、幸せの正体は脳活動であるという事実、達人の脳は大脳を介さないという知見まで、実に幅広い内容でした。
奥山教授の研究は、私たちの「心」や「感情」というあいまいなものに科学のメスを入れ、数字とデータで理解可能にする挑戦です。その研究が進んだ先の社会では、人間関係の悩みが脳科学的に解決できるようになる日が来るかもしれません。一方で、個人情報の取り扱いなど新たな課題も生まれるでしょう。脳科学の進歩がもたらす未来は、私たち一人ひとりが考えていくべきテーマだと感じました。
※ 本記事は、2月4日放送(BSテレ東)の人気番組『いまからサイエンス』を参照しています。



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