2025年11月19日放送の「いまからサイエンス」で、31歳の気鋭のAI研究者・今井翔太教授が生成AIの驚異的な進化を解説しました。わずか数年で幼稚園児から博士レベルへと急成長したAIは、私たちの仕事や価値観をどう変えるのでしょうか。この記事では、今井教授が明かした生成AIの仕組みから人類の未来まで、番組内容を徹底解説します。
生成AIとは?今井翔太教授が解説する「人間を超える知性」の本質
生成AIとは、人間が本来作っていたコンテンツを自ら生み出せるAIのことです。北陸先端科学技術大学院大学の今井翔太客員教授は、番組内で「従来の識別AIは画像を見てトマトかリンゴかを判別するだけですが、生成AIは人間の指示に応じて新しいコンテンツをポンと出力できる」と説明しています。
特筆すべきは、その進化のスピードです。2019年まで生成AIは幼稚園児レベルでしたが、2022年後半から2023年にかけてChatGPTのGPT-4が登場すると大学生レベルに到達。そして2025年現在、生成AIは大学院の博士課程レベルにまで成長しています。わずか6年間で人間なら20年以上かかる知的成長を遂げたことになります。
今井教授によれば、現在の生成AIはデジタルコンテンツに関してはほぼ全てを代替できるといいます。その理由は、インターネット上に膨大な学習データが存在するからです。私たちがSNSに投稿する文章や画像は、すべて生成AIの学習素材となっています。一方で、洗濯物を畳む、コーヒーを淹れる、スキップするといった肉体労働は、身体の動作データがインターネット上に存在しないため、現時点では困難だと語っています。
この説明から見えてくるのは、生成AIが「データさえあれば何でもできる」という本質です。つまり、今後ロボットの動作データが蓄積されれば、物理的な作業も可能になる日が来るかもしれません。
今井翔太教授の専門「強化学習」がAIの価値観を調整する
今井教授の専門分野は「強化学習」と呼ばれる技術で、これがChatGPTの倫理観調整に使われています。強化学習とは、AIを環境の中に放り込み、試行錯誤させながら学習させる方法です。今井教授は赤ちゃんの例を挙げて説明しました。「お母さんは赤ちゃんに立つ時、関節と筋肉をこう動かしなさいとは教えません。赤ちゃんが勝手に立ち上がることに成功し、その体験から学ぶのです」。
実は2020年に登場したChatGPTの前身モデルは、「上司との関係を改善したい」という相談に対して「上司をブン殴りましょう」と回答していました。研究者たちは会話が成立したことに大喜びしましたが、一般公開すれば5分で炎上する内容でした。そこで必要になったのが、強化学習による倫理観の調整です。
生成AIの学習は2段階に分かれています。第1段階の「事前学習」では、インターネット上の何兆文字というデータ(Wikipedia全体より多い量)を学習します。第2段階で、今井教授の専門である強化学習を使い、人間のフィードバックを元に倫理観を調整するのです。
しかし、ここには大きな課題があります。倫理観の調整には人間の介入が必要で、コスト削減のため賃金の安い国の人々が雇われる傾向があります。その結果、東南アジアやアフリカの西洋文化に影響を受けた教養層の価値観がAIに反映され、思想の偏りが生じてしまうのです。
この問題への対応として注目されているのが「ソブリンAI(国家AI)」という概念です。一つのAIで全ての文化に対応するのは無理があるため、各国が自国の文化に合わせたAIを開発する流れが生まれています。特に教育分野など文化的影響が大きい領域では、この動きが加速しています。
生成AIの驚異的な能力!物理法則を理解し4分でゲームを作る
番組では、生成AIの驚くべき能力がいくつも紹介されました。最も印象的だったのは、物理法則を理解した動画生成です。今井教授が見せた2つの動画では、鉄球と羽毛が落下する様子が生成されていました。草原では鉄球が先に落ち、宇宙空間では両方が同じ速度で落ちる。AIは「宇宙空間」という指示だけで、空気抵抗がなく重力が6分の1という物理法則を自動的に理解し、正確に再現したのです。
驚くべきことに、研究者はAIに物理の計算式を一切教えていません。大量の動画データから物理法則を自ら学習し、理解しているのです。今井教授はこれを「ワールドシミュレーター」と呼び、ロボットの学習に活用できると説明しています。現実世界でロボットを動かすと危険ですが、AIが生成した仮想世界なら安全に学習できるからです。
さらに驚異的なのが「AIエージェント」です。今井教授がNVIDIAの株式調査とAIバブルについての考察を指示すると、AIは自動的にブラウザを操作し、複数のサイトを巡回し、データを分析して、わずか1分半でレポートを完成させました。本来なら人間のアナリストが1日以上かかる作業です。
プログラミングでも同様の能力を発揮します。「1人でも楽しめる、見栄えの良い日本語ユーザー向けのシューティングゲームを作ってください」という指示を出すと、AIは自動的にコードを書き始め、たった4分で動作するゲームを完成させました。今井教授は「1ミリバイトも書いていない」と語り、小学生が遊ぶようなインベーダーやブロック崩しレベルのゲームなら、もはや人間のプログラマーは不要だと示唆しています。
私たちの仕事はどうなる?AI時代に残る仕事の条件
「生成AIが進化すると、私たちの仕事はどうなるのか?」これは誰もが抱く不安です。今井教授の答えは明快で、ある意味で衝撃的でした。
「無人島に行った時に役に立たない仕事は残ると思います」
アスリート、YouTuber、アイドル、芸能系の仕事は残るというのです。なぜなら、これらは「無人島で生きるのに必死な時」には必要のない仕事だからです。AIは生産性を指標に開発されるため、食料生産や効率的な作業など、明確に役立つことはすべてAIがやってしまいます。一方で、将棋が強いことやアイドルの存在は、生存には不要です。だからこそ人間の領域として残るというわけです。
実際、加藤浩次さんも指摘していましたが、コロナ禍以降、ライブやコンサートのチケットは取れないほど人気が高まっています。VRやAI技術でリアルな体験ができる時代だからこそ、人々は「本物の人間」を求めているのです。
もう一つ残る仕事の条件は「言語化できない暗黙知」です。陶芸家の例が出されました。3Dプリンターで国宝級の陶器を完全に再現しても、プロが見れば「駄作中の駄作」だというのです。理由は、指が粘土を引き上げる圧力や張りが全く違うから。これは言葉やデータでは表現できない、職人の感覚です。
寿司職人の握る力加減、指の角度といった微妙な技術も同様です。人間は言葉にできる以上のことを知っており、そうした暗黙知に基づく仕事は、インターネット上にデータが存在しないため、AIには学習できません。
今井教授のメッセージは、子どもたちには「好きなことをやりなさい」でした。明らかに役立つことはAIがやってしまうからこそ、一見無駄に見えることや、データ化できない感性の世界に、人間の価値があるのです。
スケーリング則とは?人類の知性を完全に超える生成AIへの道
生成AIの急速な進化を支えているのが「スケーリング則」という理論です。2020年に発見されたこの法則により、AIはリソースを投下すればするほど自動的に賢くなることが分かりました。今井教授は「勝手にAIが賢くなっていくフェーズに入った」と表現しています。
従来の科学研究は「デコボコ」でした。ニュートン力学で説明できないことが出てくると行き詰まり、相対性理論や量子力学で解決するという繰り返しです。しかしスケーリング則により、AI研究は投資さえできれば確実に上昇し続ける段階に入ったのです。
その投資額は桁外れです。最先端のAIを作るには、1個500万円のGPU(画像処理装置)を何個使うと思いますか?答えは20万個。最低ラインでもスカイツリー1本分、つまり約650億円の費用がかかります。日本では1万個持つのが限界ですが、世界のトップ機関は何十万個というGPUを使用しています。
今井教授は、この競争を「機械の神様を作る競争」と表現しました。人間が地球の支配者になれたのは知能があったからです。その知能を機械で再現し、人間より賢くできれば、最初に開発した機関が世界の実権を握れる。だから「この競争は止まらない」のです。
一方で、今井教授は警鐘も鳴らしています。「我々は部分的にもうAIに支配されている」。SNSのレコメンド機能がその例です。私たちが見るコンテンツはAIによってコントロールされており、知らぬ間に特定の世界観に閉じ込められている可能性があります。
これは人類にとっての大きな転換点です。「役に立つ」ことが人間の価値だった時代は終わり、AI時代の人間の強みとは何かを見直す必要があるのです。
ポケモン世界7位から研究者へ!今井翔太教授の転機
今井翔太教授のキャリアは、意外なところから始まりました。15歳の時、ポケモンの大会に出場し、オンライン対戦では世界7位にまで上り詰めたゲーマーだったのです。
転機は2016年、21歳の時でした。囲碁AI「AlphaGo」が世界最強棋士を破ったニュースに衝撃を受けたのです。囲碁には4000年の歴史があります。それなのに、AIはわずか数ヶ月の学習で、人類が4000年かけても思いつかなかった戦略を発見してしまいました。
「ゲームをやっていた自分なら、AIを使って人間が思いつかない新しい戦略を生み出せるかもしれない」。そう考えた今井さんは、AI研究に飛び込みました。当時は単なる情報系の学生でしたが、タイミングが良かったのです。AI研究がまさに発展期に入る時期でした。
興味深いのは、当時の今井さんは親から「ゲームばかりやって将来どうするんだ」と言われていたことです。進学校に通っていましたが、eスポーツという概念すら存在しない時代。ゲームが世界レベルでも「だからなんやねん、勉強しろ貴様」と言われたそうです。
しかし今井教授は、そのゲーム経験こそがAI研究の原点だと語ります。加藤浩次さんから「ゲームが好きな子どもにどう接すればいいか」と聞かれ、今井教授は迷わず「好きなことをやりなさいと言います」と答えました。「明らかに役立つことはAIがやってしまうから」です。
現在も今井教授は最新のポケモンゲームをプレイし、最高ランクを維持しています。「当時ほど圧倒的ではない」と謙遜しつつも、好きなことを続けている姿勢は、まさに自身の哲学を体現しています。
まとめ:いまからサイエンスが示す生成AIと人類の未来
2025年11月19日放送の「いまからサイエンス」で明かされた生成AIの現状は、想像以上に進んでいます。今井翔太教授が解説した生成AIの仕組みを理解すると、私たちは確かに歴史の転換点に立っていることが分かります。
強化学習による倫理観の調整、スケーリング則による自動的な進化、そして物理法則すら理解する学習能力。生成AIは単なるツールではなく、人類の知性に迫り、やがて超える存在になりつつあります。
しかし、今井教授のメッセージは悲観的ではありません。「無人島で役に立たない仕事」や「言語化できない暗黙知」こそが人間の価値だという視点は、新しい人間観を提示しています。役立つことだけが価値ではない。好きなこと、感性、人間らしさこそが、AI時代に輝く要素なのです。
今井教授は最後に「サイエンスとは宝箱の鍵である」と語りました。科学研究によって鍵を作り、まだ見ぬ宝を見つける。難病治療や寿命の延長など、人間だけでは到達できない領域にAIと共に挑む未来が待っています。
ただし、パンドラの箱になる可能性も否定できません。AIによる支配は既に部分的に始まっており、私たちは注意深く見守る必要があります。生成AIと人類がどう調和していくか。それは私たち一人ひとりの選択にかかっているのです。
※ 本記事は、2025年11月19日放送(BSテレ東)の「いまからサイエンス」を参照しています。



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