森友学園問題の「8億円値引き」をめぐる謎が、新たな展開を見せています。2025年4月、財務省が2255ページの内部文書を初公開したことで、財務省と近畿財務局の関係性や籠池夫妻の交渉術など、これまで明らかにされてこなかった事実が浮かび上がってきました。本記事では、NHK「クローズアップ現代」の報道をもとに、8年前の問題が今なお問われ続ける理由と、真相究明への道のりをわかりやすく解説します。
森友学園問題と8億円値引きの全容〜財務省が2255ページの文書を初公開
2025年4月、財務省は大阪高裁の判決を受けて、森友学園問題に関する内部文書2255ページを初めて開示しました。これは2013年6月から2016年6月までの期間、森友学園側が国有地について問い合わせを始めてから8億円余り値引きされて売却されるまでの記録です。
森友学園問題とは、保守的な教育方針を掲げていた籠池泰典元理事長が小学校の建設用地として大阪豊中市の国有地を取得する取引を巡って発生した問題です。この小学校の名誉校長を安倍元総理大臣の妻である昭恵氏が務めていたことから、政治的関与による不当な値引きではないかと疑われ、2017年2月に発覚して以降、国会で激しい論戦となりました。
翌2018年には財務省が決裁文書から昭恵氏や国会議員らの名前が記された部分を削除する改ざんを行っていたことが明らかになりました。この改ざんに関与させられたことを苦に近畿財務局の赤木俊夫さんが自殺するという悲劇も起きています。
今回開示された文書は、赤木さんの妻・雅子さんが真相を知りたいと国に求めた裁判の結果、公開されることになったものです。「私もこれを出すために3年半ぐらい裁判戦った」と雅子さんは語り、長い闘いの末にようやく手に入れた情報開示の重要性を訴えています。
財務省と近畿財務局の関係性〜文書から明らかになった「本省主導」の実態
今回の文書開示によって明らかになったのは、財務省本省が近畿財務局に対して取引を進めるよう主導していた事実です。国有地売却の窓口は通常、財務省の出先機関である各地の財務局が担当します。これまでの説明では、近畿財務局と学園側のやり取りが中心に公表されてきましたが、今回初めて財務省本省との間で交わされたメールや電話の内容が明らかになりました。
当初、森友学園側が国有地の貸付を求めた際、近畿財務局は「お断りするという整理はできないでしょうか」と否定的な考えを持っていました。実際に2014年4月15日には学園側に対して貸付の契約はできないと直接伝えていたのです。
ところが、その2ヶ月後、近畿財務局の対応は一変します。「ご要望の『貸し付け』については財務本省にも相談した結果、『ご協力する』との結論が出ている」と学園側に伝えたのです。
2014年12月8日の本省との電話での記録には、近畿財務局側が「そもそも本件は国有地の購入が難しいとの話があった際、近畿財務局としては断わる考えであったものを無下に断わるのではなく、定期借地の活用を検討したらどうかとの本省の示唆に共感し種々検討を重ね今日に至っている」と述べています。
さらに財務省本省側からは「本省が主導した案であること等も聞いているが、本省理財局から行かれた総務部長、管財部長がおられるのだから厳しく指導しているものと思っていた」という発言も記録されていました。。
かつてこの国有地の担当だった近畿財務局の元職員・喜多徹信さんは「これは本当に異例中の異例だなぁと」と語り、財務省本省からの指示による異例な対応だったことを証言しています。
8億円値引きの根拠となった「ゴミ問題」〜藤原工業の証言が国の説明と食い違う
2016年6月、森友学園への国有地売却では鑑定価格から8億1900万円の値引きが行われました。この値引きの根拠となったのが、杭打ち工事の際に地中から見つかったとされる「新しいゴミ」の存在でした。
そもそもこの国有地には3メートルほどの深さまで大型のコンクリート片や生活ゴミなどが埋まっていることが分かっており、建設の妨げとなる大きなゴミは1億3200万円の費用を国が負担して撤去済みでした。
しかし、籠池氏は杭打ち工事で小さなゴミが出てきたことを問題視し、工事が止まり小学校の開校が遅れてしまうと主張。貸付ではなく国有地を値引きして売却するよう求めました。
当初慎重だった近畿財務局でしたが、交渉開始から1ヶ月後、本省が作成した文書では出てきたゴミは「隠れた瑕疵」とし、地下3mより深いところから見つかった新たなゴミで国が賠償責任を負うとしたのです。
しかし、今回のNHK取材に応じた建設会社・藤原工業の社員は「3mより深い場所にゴミがあるかわからないと繰り返し訴えた」と証言しています。国会で値引きの妥当性を問われた際、当時の佐川宣寿理財局長は「現場の専門的な工事関係者と議論をしてまさにその3mより深いところからゴミが出たということを確認した」と説明していましたが、藤原工業社員は「私らはその全部全ての深さからゴミが出てきましたっていうような内容を(国に)伝えてません」と反論しています。
藤原工業の浩一社長も「嘘に嘘を重ねてまた嘘を重ねてっていう積み重ねですよね。そこの中で嘘を作るために、うちらは利用されてきた」と悔しさをにじませています。
籠池夫妻の交渉術〜「棟上げ式には昭恵夫人が」発言の真意
2016年3月から始まった国と森友学園側の交渉には、近畿財務局の担当者や籠池夫妻のほか、工事を担う藤原工業も同席していました。その交渉の一部は藤原工業の社員によって録音されており、4日間計8時間に及ぶ音声が残されています。
交渉初日の3月14日、籠池理事長は「棟上げの時はあの内閣総理大臣ご夫人が来られて棟上げで、おもちを撒かれることになってる。日にちを今調整中やねん。ここでまた、ズカーンてズレてしまう」と発言。籠池夫妻は昭恵氏が出席予定だとする棟上げ式への影響を強調し、ゴミを理由に訴訟の可能性を口にしながら国に対応を迫っていました。
さらに衝撃的な録音も残されています。録音によれば籠池理事長は「そっち掘ってもらったけど出てきたような形にせなあかんちょっとは。そのためには一致協力団結して欲しいな」と発言。その5日後には近畿財務局の担当者が「ストーリー」という言葉を使い、「そこはきっちりやる必要があるんでしょって言う、そういうストーリーはこうイメージしているんです」と交渉を進めていたのです。
これに対して藤原工業側は「そのストーリー?」と疑問を呈し、「3m下から出てきたかわからないです」と繰り返し伝えていましたが、国側は「3m下からゴミが噴出してる」というストーリーを作ろうとしていたことがうかがえます。
文書の欠落と政治との接点〜連続して抜け落ちた番号の謎
今回開示された文書には1番から380番までの通し番号がほぼ時系列で振られていますが、詳しく調べると75個の番号が欠落していることが判明しました。特に46番から49番までの番号は連続して抜け落ちていました。
この欠落した番号の文書が作成されたと見られるのは2014年4月中旬から5月中旬までの期間。この時期は籠池氏が昭恵氏と共に撮影した写真を近畿財務局に示した時期と重なっています。
実は2014年4月28日、籠池氏は近畿財務局を訪れた際、財務局の担当者に小学校の名誉校長となる昭恵氏と国有地の前で撮影したスリーショットの写真を見せ、昭恵氏から「良い土地ですから前に進めてください」という言葉をもらったと伝えていました。この日の出来事は後に改ざんされた決裁文書にも記されていますが、今回開示された文書にはこの4月28日の記録は見当たりませんでした。
他にも168番から171番は学園側から陳情を受けた鳩山邦夫元総務大臣の秘書が近畿財務局を訪問した時期、303番から305番は経済産業省から出向していた昭恵氏付きの職員から財務省本省に問い合わせがあった時期と、政治との接点があった時期と重なる文書番号が欠落していることがわかっています。
財務省に問い合わせたところ「検察に提出した資料から意図的に隠しているということはない。欠落しているとご指摘を受けているものについては現在確認を行っている」と回答しています。
赤木俊夫さん自殺の背景〜妻・赤木雅子さんが求め続けた真相
2018年、財務省による決裁文書の改ざんに関与させられたことを苦に、近畿財務局の職員・赤木俊夫さんが自ら命を絶ちました。妻の雅子さんは「夫はなぜ死ななければならなかったのか」という真相を知りたいと、関連する文書の開示を国に求め裁判を続けてきました。
鬱病を発症した俊夫さんは自分は「やってはいけないことをやってしまった」と雅子さんに繰り返し話していたといいます。「もう本当に毎晩毎晩お布団の上で誰か助けて誰か助けてって言いながら2人で泣いてた」と雅子さんは当時の苦しみを語ります。
「私はもう何が夫に起きているのかが分からなくて、夫がもう苦しんで苦しんで本当に辛い思いをして最後亡くなって言ったので、あのいつか私も死んだ時にね夫にちゃんと向こうであってね、あの『こういうことやったよ』ってやっぱり伝えたい」という雅子さんの言葉からは、真相究明への強い思いが伝わってきます。
阪口徳雄弁護士が指摘する問題点〜本省主導の重大性
赤木雅子さんの弁護団の一人である阪口徳雄弁護士は、本省の主導を裏付ける文書がもっと早く開示されていれば、問題の検証のあり方が変わっていたはずだと指摘しています。
「こういう文章があらかじめ最初に出てきていれば、これはもう本省だということを明らかにして本省の誰が主導したんだと、おそらく国会でも追求された」と語り、「なんでこんなことが隠されてきたのかっていうのはあの本省の方が財務省の理財局がちゃんと国民に対して説明すべき」と財務省の責任を追及しています。
財務省本省はなぜ異例の取引を主導したのか。政治的影響はあったのか。8億円という巨額の値引きは本当に妥当だったのか。これらの疑問に対する明確な回答はまだ得られていません。
まとめ〜森友学園問題はなぜ今も問われ続けるのか
森友学園問題の発覚から8年が経過した2025年4月の時点で、なお多くの謎が残されたままです。今回の2255ページに及ぶ内部文書の開示によって、財務省本省が主導していた実態や、8億円値引きの根拠となった「新しいゴミ」をめぐる証言の食い違いなど、新たな事実が浮かび上がってきました。
財務省は今後、6月に決裁文書の改ざんに関わる文書6000ページを開示し、最終的には17万ページ分の文書開示を進めるとしています。これにより、政治的関与の有無や値引きの妥当性などについても、さらなる検証が可能になるのではないかと期待されています。
忘れてはならないのは、この問題の背景には文書の改ざんに関わった公務員・赤木俊夫さんが自ら命を絶ったという悲劇があるということです。「夫はなぜ死ななければならなかったのか」という妻・雅子さんの問いかけに対する答えはまだ見つかっていません。
森友学園問題は単なる国有地取引の問題ではなく、行政の透明性や公文書管理の在り方、そして何より公務員の命と尊厳に関わる重大な問題です。今後も継続的な検証が必要であり、国民に対する説明責任が果たされることが強く求められています。
※ 本記事は、2025年4月22日放送の、NHK「クローズアップ現代」を参照しています。
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