最近、東京23区の新築マンションの平均価格が1億円を超え、中古マンションへの注目が高まっています。しかし、購入を検討する際に見落としがちなのが耐震性の問題です。2024年11月18日放送のNHK「クローズアップ現代」では、中古マンション購入における耐震性の重要性について特集が組まれました。この記事では、専門家の意見を交えながら、中古マンション購入時の耐震性チェックのポイントについて詳しく解説していきます。
中古マンションの耐震性チェックで最も重要な「新耐震・旧耐震」の違い
中古マンションを購入する際、最も重要なチェックポイントが「新耐震基準」と「旧耐震基準」の違いです。この違いを理解することは、あなたと家族の安全に直結する重要な問題です。
1981年以前に建てられた建物は「旧耐震基準」と呼ばれ、震度5程度までは損傷しないとされているものの、震度6以上の地震では損壊や倒壊の危険性があります。特に注意が必要なのは、現在、全国のマンションの7戸に1戸、実に103万戸もの物件が旧耐震基準だという事実です。
さらに深刻なのは、首都直下地震や南海トラフ巨大地震が30年以内におよそ70%の確率で発生すると予測されていることです。このような状況下で、耐震基準の確認は住宅購入における最重要項目の一つと言えるでしょう。
不動産取引において、旧耐震マンションの場合、不動産業者は耐震診断の実施有無のみを説明すれば良いとされています。しかし、マンション管理士で弁護士の香川希理氏が指摘するように、耐震診断の実施有無だけでなく、具体的な耐震性能の説明を求めることが重要です。
耐震性の専門家・香川希理が警告する中古マンション購入時の落とし穴
中古マンション購入における耐震性の問題について、マンション管理士で弁護士の香川希理氏は重要な警告を発しています。香川氏は年間1000件以上のマンション関連相談に携わる専門家として、特に以下の点に注意を促しています。
■旧耐震マンションの深刻化する問題 1995年の阪神淡路大震災から約30年が経過した現在、当時築20年だった旧耐震マンションは築50年を超えています。香川氏によれば、建物の経年劣化により、耐震性の問題は年々深刻化しているとのことです。
■見落としがちな公共性の視点 マンションは個人の財産である一方で、重要な公共的側面も持っています。特に深刻なのが、緊急輸送道路沿いに立地する旧耐震マンションの問題です。東京23区内だけでも859棟の危険性が指摘されており、地震時の倒壊により救助活動の妨げになる可能性があります。
■耐震診断を避ける傾向の危険性 国の調査によると、旧耐震マンションの6割以上が耐震診断を受けていない現状があります。その主な理由として、以下の懸念が挙げられます。
- 耐震診断により資産価値が下がるのではないかという不安
- 診断結果が悪かった場合の対応への懸念
- 診断・改修費用の経済的負担
■購入検討時の具体的な確認ポイント 香川氏は、建物の形状にも注目するよう指摘しています。
- 上空から見て正方形に近い形状が望ましい
- 細長い長方形やL字型は耐震性に不安がある可能性
- 1階が柱だけで壁の少ないピロティ構造は要注意
- 上下階の建物構造の確認が重要
これらの問題に対して、香川氏は「耐震性の確認は、決して個人の問題ではなく、社会全体で取り組むべき課題」と指摘しています。
中古マンション購入前に必ず確認!耐震性の5つのチェックポイント
中古マンションを購入する際、耐震性に関して具体的に確認すべきポイントをまとめました。これらは、専門家の意見と実際の取引事例から導き出された重要なチェック項目です。
■Point1:耐震診断・耐震補強の実施状況
- 耐震診断が実施されているか
- 診断結果はどうだったのか
- 必要な耐震補強工事は完了しているか
- 未実施の場合、今後の計画はあるか
■Point2:建物の基本情報確認
- 築年数(1981年以前か以後か)
- 使用されている構造規格
- 過去の地震による被害履歴
- これまでの修繕履歴
■Point3:建物の形状と構造的特徴
- 建物の形状(正方形に近いものが望ましい)
- 1階部分の構造(ピロティ構造は要注意)
- 上下階の間取りや構造の違い
- 増改築の有無と適法性
■Point4:管理組合の取り組み
- 長期修繕計画の内容と進捗状況
- 修繕積立金の積立状況
- 大規模修繕の実施履歴と計画
- 管理組合の耐震化への取り組み姿勢
■Point5:行政による支援状況
- 耐震改修促進法への適合状況
- 自治体による補助金制度の利用可能性
- 耐震改修促進計画での位置づけ
- 特定緊急輸送道路沿道建築物への該当有無
特に注目したいのは、実際の購入検討事例です。番組では、都内で中古マンションを探していた20代夫婦のケースが紹介されました。4,980万円の築46年マンションを検討していましたが、新築の半額以下という価格に魅力を感じながらも、耐震性の問題を知り、最終的に購入を見送りました。この事例は、見た目の綺麗さや価格の安さだけでなく、耐震性の確認がいかに重要かを示しています。
このように、耐震性の確認は中古マンション購入における重要な判断材料となります。表面的な確認だけでなく、上記のポイントを丁寧にチェックすることで、将来の安全性と資産価値の維持につながります。
旧耐震基準マンションの耐震化に使える補助制度と新工法
旧耐震マンションの所有者や購入検討者にとって、耐震化の費用負担は大きな課題です。しかし、近年では新しい工法の開発や様々な支援制度により、以前より耐震化のハードルは下がってきています。
■最新の耐震補強工法による工事費用の軽減 最近注目されているのが「耐震スリット工法」です。この工法の特徴は、
- 壁と柱を切り離して隙間を作る工法
- 地震時の横揺れによる柱への負担を軽減
- 従来の鉄骨ブレース工法と比べて大幅なコスト削減が可能
- 工事費用を半分以下に抑えられるケースも
実例として、都内の57戸のマンションでは、従来なら1億円以上かかるとされていた耐震補強工事を、この新工法により1,280万円まで抑えることに成功しています。
■行政による支援制度 自治体によって支援内容は異なりますが、一般的に以下のような補助制度があります。
- 耐震診断への補助
- 耐震設計への補助
- 耐震工事への補助
特に2025年に向けて、国は年間300億円規模の緊急対策を検討しており、支援の拡充が期待されています。
■耐震化促進のための法改正の動き 現在、以下のような法改正が検討されています。
- マンションの建て替え決議要件の緩和(4/5から3/4への引き下げ)
- 特定緊急輸送道路沿いの建築物への規制強化
- 耐震診断・改修の義務化範囲の拡大
■NPOによる支援 マンションの再生を専門とするNPOの支援により、
- 最新の工法や技術の紹介
- 合意形成のサポート
- 補助金申請のアドバイス
- 資産価値向上につながる情報提供
実際の成功事例として、都内のあるマンションでは、NPOのサポートにより、
- 耐震化への住民全員の合意を獲得
- 工事費用の抑制に成功
- 税負担軽減制度の活用
- 資産価値の維持・向上を実現
このように、耐震化は決して不可能ではありません。適切な工法の選択と、利用可能な支援制度を組み合わせることで、現実的な費用での実現が可能になってきています。
マンションの耐震性が資産価値に与える影響とは
マンションの耐震性は、居住の安全性だけでなく、資産価値にも大きく影響します。現在の市場動向と専門家の見解から、この問題について詳しく見ていきましょう。
■耐震性と資産価値の関係 多くの住民が耐震診断を躊躇する理由として、「資産価値の低下」への懸念があります。しかし、専門家の香川希理氏は、この考え方自体を見直す必要があると指摘しています。
現状の課題:
- 耐震診断の実施有無のみの説明義務
- 診断結果の開示による価値低下への不安
- 診断を避けることでの「見えない不安」の存在
■今後予想される市場の変化 香川氏は、以下のような制度改正の必要性を提言しています。
- 重要事項説明での耐震基準適合性の明記義務化
- 未診断物件の「基準不適合」みなし
- 耐震性能の市場価値への反映促進
これにより期待される効果は、
- 耐震診断・補強工事への積極的な動機付け
- 市場における耐震性能の適正評価
- 耐震性の「見える化」による健全な市場形成
■資産価値を維持・向上させるポイント
- 早期の耐震診断実施
- 建物の現状把握
- 必要な対策の明確化
- 計画的な改修の実現
- 適切な維持管理
- 定期的な点検
- 修繕積立金の適正な設定
- 長期修繕計画の策定と実行
- 耐震補強工事の実施
- 新工法による効率的な補強
- 補助金制度の活用
- 段階的な実施計画
■将来的な価値への影響要因 特に注目すべき点として、
- 大規模地震発生リスクの高まり
- 耐震性能への社会的関心の増加
- 金融機関の融資姿勢の変化
- 不動産取引における重要性の上昇
実際に、耐震補強を実施したマンションでは、
- 住宅ローン審査での優位性
- 賃貸需要の安定化
- 売却時の価格維持 といった効果が報告されています。
このように、耐震性は今後ますます重要な価値判断基準となっていくと予想されます。建物の安全性確保と資産価値の維持・向上のために、積極的な取り組みが求められています。
まとめ:中古マンション購入で損をしないための耐震性チェックリスト
これまでの内容をもとに、中古マンション購入時の具体的なアクションリストをまとめました。このチェックリストを活用することで、耐震性の観点から安全で賢明な購入判断ができます。
■購入前の必須確認事項
□ 新耐震・旧耐震の確認
- 建築年:1981年前後の確認
- 適用された耐震基準の確認
- 耐震診断の実施状況
□ 建物の基本構造チェック
- 建物形状(正方形に近いことが望ましい)
- 1階部分の構造確認(ピロティ構造への注意)
- 上下階の構造バランス
□ 過去の履歴確認
- 地震被害の有無
- 修繕・補強工事の実施記録
- 違法建築でないことの確認
■購入検討時の重要ポイント
□ 不動産業者からの説明
- 耐震性能に関する詳細な説明を求める
- 必要に応じて専門家への相談を検討
- 重要事項説明書の内容を慎重に確認
□ 管理組合の状況
- 修繕積立金の積立状況
- 長期修繕計画の内容
- 耐震化への取り組み姿勢
□ 行政支援の確認
- 利用可能な補助金制度
- 耐震改修促進法への対応状況
- 地域の防災計画での位置づけ
■最後に覚えておきたい重要事項
- 耐震性は個人の問題だけでなく、社会的な課題です
- 新工法の登場により、耐震化工事の費用負担は軽減傾向にあります
- 耐震性能は今後の資産価値に大きく影響する可能性があります
- 早期の対応が結果的にコスト削減につながります
これらの点を踏まえた上で、安全性と資産価値の両面から中古マンションの購入を検討することをお勧めします。特に、首都直下地震や南海トラフ地震の発生確率が高まる中、耐震性の確認は最重要項目の一つと言えます。
リスクを最小限に抑え、安全で快適な住まいを手に入れるため、このチェックリストを参考に、慎重な判断を心がけましょう。
※本記事は、2024年11月18日放送のNHK「クローズアップ現代」を参照しています。
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