2025年6月19日から21日まで東京ビッグサイトで開催されているオートサービスショー2025において、総合商社の双日が画期的な技術を発表し、大きな注目を集めています。車を丸ごとスキャンするだけで修理履歴が瞬時に分かるシステムが、ついに実用化の段階に入りました。
双日が開発した車を丸ごとスキャンシステムとは?修理履歴が30秒で分かる革新技術
双日が株式会社Preferred Networks(PFN)と共同開発した外装スキャナーは、まさに次世代の車両検査技術です。このシステムは、幅5メートル、高さ3.6メートル、奥行き1.2メートルの大型ゲート状のドライブスルー型装置で、車両が通過するだけで約30秒という驚異的な速さで外装全体をスキャンします。
双日デジタル推進担当本部の南波拓年部長によると、このスキャナーは「きっちり検査した証拠を画像として出す。数値として出す」ことができ、従来の目視検査では発見が困難だった微細な傷やへこみ、さらには再塗装跡まで精密に検出することが可能です。特に注目すべきは、検査員の目視でも判別が困難とされる白、シルバー、グレーの車両での再塗装跡の可視化に強みがあることです。
オートサービスショー2025で注目を集めた外装スキャナーの仕組み
オートサービスショー2025の会場では、約110の企業や団体が出展する中で、双日のブースには多くの来場者が詰めかけました。実際の展示車両を使ったデモンストレーションでは、フェンダーがオリジナル塗装である一方、フロントドア、リアドア、リアクオーターパネルの3枚がそれぞれ再塗装されている車両を用い、スキャナーがすべての再塗装箇所を正確に判別する様子が披露されました。
このシステムは、既存の車両検査レーンに後付けで設置することが可能な設計となっており、導入の際の工事負担を最小限に抑えることができます。スタッフによる運転で一定速度で車両をゲート内に通過させると、ゲートに取り付けられた高性能カメラが車両の前後、左右、上面を同時にスキャンし、リアルタイムで画像処理を行います。
AIとPreferred Networksの技術で実現する傷・へこみ・再塗装跡の自動検出
このシステムの核となっているのが、日本を代表するAI企業であるPreferred Networks(PFN)の最先端技術です。PFNは深層学習フレームワーク「Chainer」の開発や、電力効率世界1位を3度獲得したスーパーコンピュータ「MN-3」の構築で知られる技術力の高い企業です。
光学技術を活用したカメラシステムによる画像取得と、PFNのAI技術による高度な画像処理の組み合わせにより、傷、へこみ、さび、再塗装跡といった外装全体の瑕疵を視覚化し、モニター上で明確に判別することができます。今後は2025年秋から開始される実証実験を通じて多くの教師データを取得し、AIによる学習を重ねることで、瑕疵の自動検出精度をさらに向上させる計画です。
中古車査定の透明性向上へ!双日のスキャンシステムが解決する業界課題
双日自動車本部の柏木崇伸部長は、このシステム開発の背景について「車両情報の透明性、これがまあ不足しているということで、これが1つですね。で、もう1つが査定検査の、人員の不足。その業界の大きな2つの課題があると認識してます」と説明しています。
中古車業界では長年にわたり、売り手が車両価値を下げる情報を積極的に開示しない傾向があり、情報の不透明性が大きな問題となっていました。さらに、高い技術で修復された車両は売買を経ることで過去の修復歴が不明になっていくケースも多く、消費者の信頼を損なう要因となっています。
ビッグモーター事件で浮き彫りになった中古車業界の信頼性問題
2023年に発覚した旧ビッグモーター事件は、中古車業界の構造的な問題を白日の下にさらしました。顧客の車に意図的に傷をつけて修理代金を水増しし、不正に保険金を受け取っていたこの事件は、中古車査定の透明性確保がいかに重要であるかを社会に知らしめました。
自動車評論家の国沢光宏氏は双日の技術について「今までの中古車査定では、やはり相当ですね。査定する人のノウハウ、これにあの限られてしまうところがあります。で、若手が入ってくるとなかなかこう騙されてしまうところあると思うんですね。それを、え、機械とかAIとか3段基準を変えることによって、え、ちゃんと査定ができるようになるという風に思います」とコメントし、このシステムが不正を防ぐ重要な一手になると期待を示しています。
検査員不足と査定のばらつき解消に期待される効果
中古車検査は従来、検査員の目視によって行われるのが一般的でしたが、精度のばらつきや検査員の人員不足が深刻な課題となっています。特に、車両の価値を正しく判断するために重要な再塗装跡の発見には熟練のスキルと経験が必要で、柏木部長は「検査員の確保も年々厳しくなっている状況で、検査能力の維持というのは業界の喫緊の課題だと認識している」と現状を説明しています。
双日のスキャンシステムは、人の目では見つけるのが困難な再塗装跡も正確に判別できるため、検査員の技術レベルに依存しない一定水準の検査品質を確保することが可能です。これにより、業界全体の査定精度向上と人手不足解消の両方を実現することが期待されています。
2026年春サービス開始予定!JU岐阜羽島での実証実験と今後の展開
双日の外装スキャナーは、2025年秋から中古車オークション大手の株式会社JU岐阜羽島オートオークションの車両検査レーンで実証実験を開始し、2026年春にはサービス提供を開始する予定です。
中古車オークション大手での実証実験が2025年秋から開始
JU岐阜羽島は年間23万台という膨大な中古車取り扱い台数を誇る大手自動車オークション会社です。岐阜県羽島市にある同社の車両検査レーンにスキャナーを設置し、外装瑕疵の検査を行うと同時に、双日が自社開発したタイヤ溝計測器とアンダーボディ撮像機も併せて設置します。
この実証実験では、タイヤの摩耗を0.1ミリメートル単位で数値化し、車両下回りの腐食や損傷箇所を可視化する総合的な車両診断システムとしての検証が行われます。2026年3月までを予定している実証期間の結果を踏まえ、スキャナーの機構改善、AI活用による機能強化、オークション業務フローの調整を行い、完成度の高いサービスとして市場に投入する計画です。
ボッシュとの提携による事故歴診断レポートサービスも同時展開
双日は外装スキャナーの開発と並行して、大手自動車部品メーカーBoschの日本法人であるボッシュ株式会社が開発した車両の事故歴を可視化する評価サービス「Bosch Car History Report(BCHR)」について、日本国内における代理店としての販売も開始しました。
ボッシュが開発したBCHRは、車両に搭載されたイベントデータレコーダー(EDR)からデータを読み出してレポート出力を行うツールです。ボッシュのクラッシュデータリトリーバル(CDR)を用いてデータを抽出・解析し、衝突履歴の診断レポートとして作成するもので、日本の警察や裁判所でも根拠資料として認められている高い信頼性があります。このサービスは2025年10月よりJU岐阜羽島へ導入され、新たなサービスメニューとしてオークション参加企業向けに提供される予定です。
車を丸ごとスキャンする双日の技術がもたらす中古車業界のデジタル革命
双日は中期経営計画2026において「Digital in All」を基本方針として掲げ、「デジタルで稼ぐ」「デジタルで価値向上」「デジタル基盤を築く」の3つの取り組みを推進しています。今回のデジタルを活用した新しい中古車診断サービスの提供により、流通における透明性向上と日本のデジタル社会の発展に向けて貢献することを目指しています。
サブスクリプション形式での導入でコスト負担を軽減
双日では、この検査機器を従来の売り切り方式ではなく、客先に設置して台数で使用料を徴収するサブスクリプション形式として展開する予定です。この方式により、導入企業の初期投資負担を大幅に軽減するとともに、将来の機能アップにも対応しやすい柔軟なサービス提供が可能になります。
設置先については、利用数がそれほど多くない中古車買取店への導入はコスト的に難しく、大量の自動車を扱う自動車オークション会場や、大規模な中古車取り扱い業者の整備拠点といった場所での利用が想定されています。これにより、効率的な運用と確実な投資回収の両立を図る戦略です。
従来の目視検査からAI診断への技術革新がもたらすメリット
双日デジタル推進担当本部の南波拓年部長は「DXは単なる技術導入ではない」と指摘し、「本当の困りごとである検査員不足といった業界の課題にどうテクノロジーを適合させてソリューションを出していくのかを重視して取り組んでいる」と開発姿勢を説明しています。
このシステムの導入により、従来の主観的な目視検査から客観的なデータに基づく診断への転換が実現し、検査結果の標準化と信頼性向上が期待されます。また、検査表の自動作成機能の追加も計画されており、検査業務の大幅な効率化と省人化が可能になります。
まとめ
双日が開発した車を丸ごとスキャンして修理履歴が分かるシステムは、中古車業界が長年抱えてきた透明性と人手不足という2つの重要な課題を同時に解決する画期的な技術です。オートサービスショー2025での発表を皮切りに、2025年秋からの実証実験を経て2026年春のサービス開始に向けて着実に歩みを進めています。
約30秒という短時間で車両の傷、へこみ、再塗装跡まで正確に検出するこのシステムは、AIとPreferred Networksの最先端技術により実現されており、従来の目視検査では不可能だった精度と客観性を提供します。サブスクリプション形式での提供により導入ハードルを下げ、ボッシュとの提携による事故歴診断レポートサービスとの組み合わせにより、総合的な車両診断ソリューションとして中古車業界のデジタル革命を推進することが期待されています。
※ 双日株式会社のHPはこちら
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