「孤独死」や「孤立死」が高齢者だけでなく、若者にも広がっていることをご存知ですか?NHK「クローズアップ現代」で初の全国調査結果が公表され、20代30代の孤立死率が高齢者を上回るという衝撃の事実が明らかになりました。本記事では、孤独死・孤立死の実態と若者の「セルフ・ネグレクト」の危険性、そして専門家が提言する具体的な対策を解説します。この社会問題を理解し行動することで、あなたも誰かの孤独を救えるかもしれません。
孤独死・孤立死の衝撃の実態:初の全国調査で判明した2万人超の現実
2025年5月13日放送のNHK「クローズアップ現代」では、日本で初めて行われた孤独死・孤立死に関する全国調査の結果が紹介されました。この調査によると、一人で亡くなり8日以上発見されなかった人は2万1000人以上にのぼることが明らかになりました。
この衝撃的な数字は、孤独・孤立対策推進法が2024年2月に施行された背景にもある深刻な社会問題です。政府が設置したワーキンググループは、死後8日以上経過して発見された一人暮らしの遺体について「生前に社会的に孤立していたことが強く推認される」と分析しています。
特に注目すべきは、孤立死は高齢者だけの問題ではなく、若い世代にも広がっていることです。死後4日以上経って発見された人の割合でみると、20代30代の方が高齢者よりもやや多いという意外な結果が出ています。つまり、若者の孤立の問題は私たちが想像する以上に深刻なのです。
遺品整理を行う井岡総一郎さんは番組内で、「ここ数年、20代30代の方の孤独死のご依頼が出し始めた」と語っています。彼の会社では2018年までは1件もなかった2、30代の清掃依頼が、2019年以降年々増加し、去年は35件あったといいます。これは若者の孤立が年々深刻化していることを示す具体的な証拠といえるでしょう。
意外に多い若者の孤独死:20代30代の孤立死率が高齢者を上回る驚きの調査結果
孤独死・孤立死というと、一般的には高齢者の問題というイメージが強いですが、実際には若者の問題でもあることが今回の調査で明らかになりました。番組で紹介された調査結果によると、亡くなった人のうち孤独死した割合を年代別に見ると、25歳から39歳の若者と70〜74歳の高齢者を比較した場合、若者の方が発生率が高いという驚きの事実が判明しています。
石田光規教授(早稲田大学文学学術院)は番組内でこの結果について解説し、「発生率としては若い方々の方が多い」と指摘しています。特に55歳から59歳の現役世代の男性では、孤独死の割合が10%を超えているというデータも紹介されました。これは亡くなった方々の10ケースに1ケースが孤立死・孤独死という非常に高い割合です。
若者の孤独死が増加している背景には、人間関係の変化があります。かつての日本社会では、血縁、地縁、会社縁といったコミュニティが人々を支えていましたが、現代社会ではそうした絆が弱くなり、人々は「選択的関係」を求めるようになっています。特に若者は、SNSでのつながりが増える一方で、実際の対面でのコミュニケーションが減少し、本音で話せる相手がいないという状況に陥りやすくなっています。
社会生活を続けながらも内面的な孤独を感じている若者は意外に多く、内閣府の調査でも20代30代は特に孤独感を抱える割合が高いことが示されています。表面上は社会とつながっているように見えても、深い部分では孤独を抱えている若者が増えている現状は、現代社会の大きな課題といえるでしょう。
セルフ・ネグレクトとは?孤独死・孤立死に繋がる自己放棄の危険性
「セルフ・ネグレクト」とは、ゴミを捨てられない、食事をしない、入浴をしないなど、自分自身の世話を放棄する状態を指します。東京医療保健大学の岸恵美子教授は、番組の中でセルフ・ネグレクトについて「いろんなものが家の中にいっぱいになってきて、生活環境が悪化していき、健康な体がだんだんと蝕まれていく」と説明し、「最終的に孤立死、孤独死という結末を迎えることもありえる」と警鐘を鳴らしています。
岸教授は若者のセルフ・ネグレクトについての研究も行っており、去年行った調査では高齢者より若者の方がセルフ・ネグレクトに陥るリスクが高いことが分かったと指摘しています。特に「遠慮し、世間や周囲に気兼ねする」など、孤独・孤立につながる可能性がある項目で20代30代の割合が高いことが分かりました。
番組では30代前半のみさきさんが自身のセルフ・ネグレクト状態について証言しています。彼女は6年ほど前から徐々にゴミが捨てられなくなり、現在は床から1メートル近くゴミが積もった部屋で生活しています。食事は1日1回、シャワーは週に2回ほどしか浴びないなど、生活意欲が低下している状態です。
みさきさんは経済的には困っておらず、月に数回は友人と出かけることもあるという、一見すると普通の社会生活を送っています。しかし「自分の状態をさらけ出すのはすごく辛いこと」と語り、友人関係が切れることを恐れて本音を言えない状況に陥っています。このような表面的には社会に適応しているように見えながらも、内面では孤独を抱え、自己管理ができなくなっている若者は少なくないのです。
セルフ・ネグレクトの原因としては、環境、病気、個人の性質の3つが考えられます。特に若者の場合、就職活動の失敗や恋愛の破綻、SNSでの比較による劣等感など、現代社会特有の要因が引き金になることが多いようです。
「本当の自分を見せられない」若者たちの孤立・孤独の根底にある問題
現代の若者が抱える孤独・孤立の問題の背景には、「本当の自分を見せられない」という深刻な課題があります。番組に出演したNPO法人第3の家族代表の奥村春香さんは、自身の経験を踏まえて「普段の生活は仮面を被っているみたいな表現もある」と語り、多くの若者が悩みがあっても露呈せず、元気に振る舞ったり笑顔でいたりすることで、結果的に孤独になっていると指摘しています。
奥村さん自身も高校生の頃、家庭の悩みを友人に打ち明けた際に「そういうキャラだと思ってなかった」と言われた経験から、「あんまり悩みとか言わない方が楽しく過ごせるのかな」と思い、悩みを閉ざすようになったと話しています。このように若者たちは、周囲から期待される「キャラ」や「役割」を演じ続けることで、本当の自分を表現できない状況に追い込まれています。
このような現象について、石田光規教授は社会構造の変化が影響していると分析しています。かつての日本社会では、地域や学校、職場などの「場」があり、その中で様々な人間関係が自然に形成されていました。しかし現代社会では、スマートフォンの普及により、個人が直接他者と結びつく形に変化しています。
石田教授はこの変化について「基本的には人と直接結びつくようになる。極端に言えば友達にならないと、その人との関係は保てない」と説明し、「友達でいるためには悪いとこ見せちゃいけないだとか良い空気を保たなきゃいけない」という圧力が生まれ、「本当の私を見てくれる人は誰もいない」と感じる若者が増えていると分析しています。
つまり、若者たちは表面的にはSNSなどで多くの人とつながりを持っているように見えても、本音で話せる深い関係性が築けていないという矛盾を抱えているのです。この「場」の喪失と人間関係の変化が、今日の若者の孤独・孤立問題の根底にあるといえるでしょう。
石田光規教授が指摘する現代社会の「場の喪失」と人間関係の変化
石田光規教授(早稲田大学文学学術院)は、番組の中で現代社会における「場の喪失」と人間関係の変化について重要な指摘をしています。石田教授によれば、1990年代後半までの社会では、人々は「場所に行くことによってつながりを作っていた」と説明します。学校や職場、地域コミュニティといった「場」に所属することで、自然と人間関係が形成されていたのです。
しかし携帯電話やスマートフォンの普及により、この構造が大きく変化しました。石田教授は「携帯スマホなんかをみんなが持ったりだとか、あるいはその場所にいてもその人と無理して付き合わないでもいいよ」という社会になり、「基本的には人と直接結びつくようになる」と説明しています。
この変化により、人間関係の質も変わってきました。かつては「場」に所属することで様々な人との交流が自然と生まれ、合う合わないに関わらず付き合いが続きましたが、現代では個人が選択して人間関係を結ぶようになりました。石田教授は著書『「人それぞれ」がさみしい』や『孤立不安社会』などで、このような「選択的関係」が主流となった現代社会の課題を詳細に分析しています。
「選択的関係」の時代では、関係を選べる自由が増した反面、「選ばれない不安」も生まれます。人々は「良い人間関係」を維持するために本音を出せなくなり、表面的な関係にとどまるケースが増えています。石田教授の研究によれば、この状況が「つながりの格差」を生み出しており、経済的・社会的地位の高い人ほど良質な人間関係を築きやすく、逆に立場の弱い人ほど孤立しやすくなるという傾向があるのです。
石田教授は「場というもの自体が小さくなって、自分からその人にアクセスしないとなかなか繋がれない」と現代社会の課題を指摘し、この変化が若者を中心とした孤独・孤立問題の背景になっていると分析しています。
企業や居場所づくりの最前線:若者の孤独を防ぐ支援の新たな形
若者の孤独感を解消するために、様々な組織が新しい形の支援や「場」の提供に取り組んでいます。番組では、内閣府による孤独・孤立対策や、民間企業による先進的な取り組み、SNSを活用した新しい形の居場所づくりなどが紹介されていました。
内閣府は4年前、コロナ禍で孤独・孤立が問題になったことを受け対策担当室を設置し、2024年2月には孤独・孤立対策推進法が施行されました。また5月を「孤独・孤立対策強化月間」と定め、オンラインイベントやチャット相談を実施するなどの取り組みを進めています。しかし内閣府孤立・孤独対策推進室の松本秀彰参事官は、若者に支援を届ける難しさを感じており、「”支援臭“というのを非常に嫌ってるように思います」と語っています。
このような状況を踏まえ、若者が利用しやすい「場」づくりの新しい形も生まれています。番組では匿名で同じ悩みを持つ人同士がつながれるSNS(GRAVITY)が紹介されました。利用者の6割が20代30代の若者で、うつなど同じ悩みを持つ人たちが匿名でチャットしたり話したりできる場となっています。利用者のひかさんは「匿名だからこそやっぱりその、何話しても別にまあ知らない人だし」と語り、気兼ねなく本音を打ち明けられる場の重要性を指摘しています。
一方、企業側の取り組みとして紹介されたのは、都内のIT企業(ディースタンダード株式会社)の「コミューン」という若手社員のグループ活動です。社員の平均年齢は29歳で、それぞれが取引先に出向いて仕事をしているため、孤独感を抱かないよう始めた取り組みです。管理職は参加せず、会社が入社年数や業務内容を見ながらメンバーを選び、約20のグループを結成しています。
この取り組みについて、石田光規教授は「素晴らしい試み」と評価し、「基本的には参加の仕方をある程度選べること」「出入りしやすいこと」が大事だと指摘しています。「ドタキャンOK、直前参加OKみたいにしとく方がやっぱりなるべくこう躊躇なく参加できる」と、ゆるやかな参加の形の重要性を強調しています。
専門家が教える孤独死・孤立死を防ぐための具体的対策と個人でできること
孤独死・孤立死を防ぐためには、社会全体での取り組みと個人レベルでの行動の両方が重要です。番組では石田光規教授とNPO法人第3の家族代表の奥村春香さんが具体的な対策を提案しています。
石田教授は、孤独・孤立のリスクに関する情報発信の重要性を指摘しています。「孤独孤立がリスクがあるってのは非常に有名な話」としながらも、社会的認知がまだ不十分であると指摘し、「連帯は揺らいでいるものの、まだ代替となるコミュニティやつながりを見いだせていない」と現状を分析しています。
海外の取り組みとして、アメリカでは厚生省が孤独・孤立のリスクに関する文書をまとめたり、イギリスでは教育の一環として孤独・孤立対策を行ったりしている例を紹介しています。日本でもこうした取り組みを参考にすべきだと石田教授は提言しています。
一方、奥村さんは支援する側の姿勢の重要性を強調しています。「支援臭、支援の匂いをなるべくしないように」することを心がけ、「寄り添わない支援」という言葉で説明しています。具体的には「世代で悩みを吐き出すような場所」や「音楽ライブで同じような境遇の人たち同士で集まる」といった、支援と言われるとわからないかもしれないけれど、「みんなで同じ時間を過ごしてみんなで生きていこう、なんかそういった一体感が生まれる場」が必要だと語っています。
個人レベルでできることとして、奥村さんは「SNSで病んでるような投稿をしてる友達がいたとしたら、あの個人でメッセージを送ったり電話をかける」ことを実践していると話しています。「意外とみんな遠慮して誰も声をかけなくて本当に孤独になってる場合もある」と指摘し、自身の経験からも「お節介も結構大事だった」と語っています。
このように、孤独死・孤立死を防ぐためには、社会全体での啓発や制度づくりと同時に、周囲の人々が「お節介」を焼く勇気を持つことも重要なのです。
まとめ:孤独死・孤立死を防ぐために私たちができること
クローズアップ現代の放送で明らかになったように、孤独死・孤立死は高齢者だけでなく若者にも広がる社会問題となっています。初の全国調査で判明した2万1000人を超える孤立死の実態は、現代社会の抱える深刻な課題を示しています。特に20代30代の孤立死率が高齢者を上回るという事実は、若者の孤独問題の深刻さを物語っています。
この問題の背景には、石田光規教授が指摘するような「場の喪失」と人間関係の変化があります。かつての日本社会では地域や職場といった「場」を通じて自然と人間関係が形成されていましたが、現代ではスマートフォンの普及などにより個人が直接つながる形に変わり、「選ばれない不安」や「本音を言えない関係性」が生まれています。
セルフ・ネグレクトという自己放棄の状態も孤立死の要因の一つです。岸恵美子教授の研究によれば、高齢者より若者の方がセルフ・ネグレクトに陥るリスクが高く、特に他者への遠慮や気兼ねから本音を言えない若者が多いことが明らかになっています。
こうした状況を改善するためには、社会全体での孤独・孤立対策の推進と同時に、個人レベルでの取り組みも重要です。内閣府の孤独・孤立対策や企業による若手社員のグループ活動、匿名で悩みを共有できるSNSなど、新しい形の「場」づくりが進んでいます。
私たち一人ひとりにできることとしては、奥村春香さんの言葉にあるような「お節介」も時には必要です。SNSで悩みを抱えている友人に個人的にメッセージを送ったり、声をかけたりするような小さな行動が、誰かの孤独を防ぐことにつながるかもしれません。
孤独死・孤立死の問題は、個人の自己責任として切り捨てるのではなく、社会全体で取り組むべき課題です。若者たちの笑顔の裏側にある孤独に目を向け、「支援臭」のしない自然なつながりを作ることが、今の日本社会に求められているのではないでしょうか。
※ 本記事は、2025年5月13日放送のNHK「クローズアップ現代」を参照しています。
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