2025年7月7日に放送されたNHK「クローズアップ現代」では、深刻化する自動車盗難の実態が詳しく取り上げられました。番組では、わずか1分で車を盗む最新の手口や、組織化された犯罪集団の実態が明かされ、多くの視聴者に衝撃を与えています。この記事では、番組で紹介された重要なポイントを詳しく解説し、愛車を守るための具体的な対策をご紹介します。
クローズアップ現代で明かされた自動車盗難の最新の手口とは
2025年現在、自動車盗難の手口は従来の方法から大きく進化しています。番組では、2024年の自動車盗難認知件数が6,080件に達し、増加傾向が続いていることが報告されました。特に注目すべきは、防犯対策を施していた車の実に4割が盗難被害に遭っているという事実です。
最新の盗難手口の特徴は、その「スピード」と「技術力」にあります。従来の窓を割ったり鍵穴を壊したりする粗雑な方法とは異なり、現在の犯行グループは高度な電子機器を使用して、車のセキュリティシステムを巧妙に突破しています。
番組で紹介された愛知県の被害男性のケースでは、朝7時過ぎに警察からの連絡で盗難に気づき、自宅駐車場から車が消失していました。残されたのは近くの畑に捨てられたナンバープレートと車検証、そしてベビーカーのみという状況でした。このような被害は東海地方や首都圏、関西を中心に急増しており、全国的な問題となっています。
CANインベーダーの恐怖!わずか1分で車が盗まれるメカニズム
番組で最も衝撃的だったのは、「CANインベーダー」と呼ばれる最新の盗難手口の実演映像でした。CAN(Controller Area Network)とは、エンジンの始動や走行など、車を制御するために必要な車内通信網のことです。この通信網に不正な信号を流すことで、車のセキュリティシステムを完全に無効化してしまうのがCANインベーダーの恐ろしさです。
実際の犯行映像では、深夜1時の閑静な住宅街に現れた2人組の犯人が、わずか50秒で車を盗み去る様子が映されていました。一人が車の下に潜り込み、小型の機器を車の通信網に直接差し込むと、約1分後にはセキュリティが解除され、エンジンがかかってしまいます。
警察と協力して手口分析を行っている有馬裕介さんは、「流してしまったら、もうあとは運転席の方に行けば、ドアも開けれるし、エンジンもかけれるんで」と説明し、犯人グループが車種ごとに盗む方法を練習し、場合によっては組織的な教育を受けている可能性があると指摘しています。
さらに深刻なのは、本来は鍵をなくした場合などに使用されるこうした機器が、現在ではインターネットで簡単に購入できてしまうことです。この技術の悪用により、従来のイモビライザーなどのセキュリティシステムでは対応できない状況が生まれています。
森雅人が解説する自動車盗難組織の分業化された犯罪構造
元千葉県警で現在は刑事事象解析研究所代表理事を務める森雅人さんは、番組内で現在の自動車盗難組織の巧妙な構造について詳しく解説しました。従来の単独犯や小規模グループとは異なり、現在の犯罪組織は高度に分業化されており、その役割は大きく7つに分かれています。
まず「調査役」が盗みやすい車の情報を収集します。車を猫に例えて「猫探し」という隠語を使い、闇バイトで人員を募集するケースもあると報告されています。次に「実行役」が実際に車を盗み、番組の取材では20万円の報酬で犯行に及んだケースが紹介されました。
「運搬役」は盗んだ車を指定された場所まで運び、「保管役」が一時的に車を隠します。その後、「解体役」が車を部品ごとに分解し、「偽造役」が車台番号を偽造して正規の車に見せかけます。最終的に「販売役」が国内外の市場で車や部品を売りさばくという流れです。
森さんが特に強調したのは、これらの役割を担う人々が互いを知らない場合が多く、流動性の高い組織構造になっていることです。毎回同じメンバーで犯行を行うわけではなく、車種やターゲットに応じてメンバーを入れ替えているため、全容の解明が困難になっています。
番組では実際に逮捕された人物の父親が匿名で取材に応じ、「自分も知らない上がいる。断ったらやられる」と証言し、組織の階層性と強制力の存在を明かしました。また、運搬に関わったペルー国籍の男性は、レッカー作業の仕事をしていたところ、知人から「廃車にする車を運んでほしい」と依頼され、盗難車とは知らずに運搬に関与してしまったケースも紹介されています。
盗まれた車の行方:海外輸出ルートとヤードの実態
森雅人さんによると、盗まれた車の多くは海外に不正輸出されており、現在の自動車盗難は「国際犯罪と言っても過言ではない状態」だと分析されています。日本の中古車は海外で高い需要があり、特に車検制度により整備された道を走っている日本車は、海外で非常に人気が高いのが現状です。
番組の取材で逮捕された人物は、「盗まれてから、2日ぐらいにはコンテナに入ってる」と証言し、アルファードを左ハンドルに変更してベトナムなど東南アジアに送っているケースや、常に高い需要があるため「普通仕事やって100万、200万、300万、車で手に入る」と金銭的な魅力について語っています。
盗まれた車の多くはUAEのドバイにあるマーケットに送られ、そこからオークションでアフリカやアジアに流通してしまいます。日本の盗難手配は海外では有効ではないため、一度海外に出てしまうと盗難品かどうかわからない正規品として扱われてしまうのが現実です。
この流通過程で重要な役割を果たしているのが「ヤード」と呼ばれる解体施設です。ヤードは本来、廃車をリサイクルするための中古車業界には欠かせない施設ですが、一部が盗難車の解体に悪用されています。車を解体した場合、15日以内に運輸局に廃車の申請を出す必要がありますが、部品は申請前に流通させても問題ないため、申請時には既に部品が市場に出回っている可能性があります。
番組では、愛知県で50年以上続くヤードの従業員が、2年前に運輸局からの指摘で盗難車であることに気づいたケースを紹介しています。その従業員は「知らず知らずのうちにやっぱり被害者がいる中で一連の中に自分も加担したことになってしまうんだな」と証言し、正規業者でも気づかないうちに犯罪ルートに組み込まれてしまう実態を明かしています。
効果的な防犯対策「音・光・人の目・時間」の4原則
森雅人さんは番組内で、窃盗犯が嫌がる防犯対策として「音・光・人の目・時間」の4原則を提唱しています。これらを組み合わせることで、盗難リスクを大幅に減らすことができると説明しています。
音の対策では、純正以外の車外セキュリティシステムの導入が最も有効だとされています。番組では、CANインベーダーによる攻撃を受けても、追加のセキュリティシステムにより警告音が鳴り、エンジンがかからずに犯人が逃走したケースが紹介されました。車のセキュリティ会社で取り扱われているこうしたシステムは、装着する機械や整備方法が様々で、不正に解除するのが困難だと専門家は説明しています。
光の対策については、犯人が車の左前に潜り込んで配線を繋ぐケースが多いため、左前を中心とした照明の設置が推奨されています。また、人の目の対策では、防犯カメラとセンサーを組み合わせ、スマホやタブレットと連携して駐車場の状況をリアルタイムで確認できる体制の構築が重要だとされています。
時間の対策では、ハンドルロックやタイヤロック、ブレーキペダルロックなどの物理的な防犯グッズが効果的です。番組では実際のハンドルロックとタイヤロックが紹介され、森さんは「見せる防犯」の重要性を強調しています。外側に防犯対策を見せることで、窃盗犯を近づけさせず、「この車を盗むのに時間がかかる」と思わせることが重要だと説明しています。
さらに、位置情報を発信するエアタグなどの機器も有効で、番組では実際に盗まれた車が1時間半後に発見されたケースが紹介されています。この際、機器を目につく場所に置いていたことで、犯人が他にも追跡装置があると推測し、車を乗り捨てたと考えられています。
新たな脅威キーエミュレーターなど進化し続ける盗難手口
自動車メーカーがCANインベーダーへの対策を進める中、犯罪グループも新たな手口を開発しています。森雅人さんが番組で警告したのが「キーエミュレーター」という最新の盗難手口です。
キーエミュレーターは、車から発せられた電波を機械で受信し、スペアキーを作成してしまう恐ろしい技術です。この機械は携帯型のゲーム機に似ていることから、犯罪グループの間では「ゲームボーイ」と呼ばれています。
森さんは、「自動車の設備がどんどん、どんどん進化、ハイテク化してますよね。それとイタチごっこの状態で並行して、やはり自動車盗難の手口っていうのもどんどん、どんどん発展していっている」と説明し、技術の進歩と犯罪手口の高度化が同時進行していることを指摘しています。
このような状況を受けて、番組では自動車販売台数世界一のトヨタ自動車にコメントを求めました。トヨタは「常に新しい技術を車両に投入し盗難防止性能の向上に努めています。今後も情報収集を強化し盗難防止に対する実行性を高めてまいります」と回答しており、メーカー側も対策の重要性を認識していることがわかります。
被害急増中!年間5,762件の自動車盗難から愛車を守る方法
2024年の自動車盗難認知件数6,080件という数字は、増加傾向が続いていることを示しており、深刻な状況です。2024年の日本損害保険協会のデータでは、車両本体盗難が2,499件報告されており、特にランドクルーザーが4年連続で盗難ワースト1位となり、全体の27.5%を占めています。
地域別に見ると、千葉県、愛知県、埼玉県、茨城県、神奈川県の上位5県で被害全体の55.6%を占めており、これらの地域では特に注意が必要です。森さんによると、高速道路が整備されており、ヤードが集中し、港が近いという立地条件が狙われやすい要因となっています。
愛車を守るためには、複数の防犯対策を組み合わせることが重要です。まず基本として、数十秒でも車から離れる際にはキーを抜き、必ず施錠することが大切です。さらに、車の左側面を壁際に駐車することで、CANインベーダーによる攻撃を防ぐことができます。
物理的な防犯グッズとしては、ハンドルロック、ブレーキペダルロック、タイヤロックを組み合わせて使用し、視覚的にも防犯対策をアピールすることが効果的です。また、純正以外のセキュリティシステムの導入や、GPS追跡装置の設置も検討すべき対策といえるでしょう。
森さんは、個人レベルでの対策に加えて、警察の広域連携の強化、税関との連携、海外捜査機関との協力などの重要性も指摘しており、自動車盗難対策は社会全体で取り組むべき課題だと強調しています。
まとめ
2025年7月7日放送の「クローズアップ現代」で明かされた自動車盗難の実態は、私たちが想像していた以上に深刻で組織化されたものでした。CANインベーダーやキーエミュレーターといった最新の手口により、わずか1分で車が盗まれてしまう現実があり、盗まれた車の多くは海外に流出して国際的な犯罪ネットワークで取引されています。
森雅人さんの解説により、犯罪組織の分業化された構造や、正規業者も気づかないうちに犯罪ルートに組み込まれてしまう実態が明らかになりました。しかし、同時に効果的な防犯対策も示されており、「音・光・人の目・時間」の4原則に基づいた複合的な対策により、盗難リスクを大幅に減らすことが可能です。
最も重要なのは、「自分の車は大丈夫」という過信を捨て、最新の盗難手口を理解した上で適切な対策を講じることです。番組で紹介された防犯グッズの活用や、セキュリティシステムの導入を検討し、愛車を守るための行動を今すぐ始めましょう。自動車盗難は決して他人事ではありません。この記事を参考に、あなたの大切な愛車を守るための対策を実践してください。
※本記事は、2025年7月7日に放送されたNHK「クローズアップ現代」を参照しています。
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