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テレビ番組・情報

【クローズアップ現代】下水道クライシス「八潮市道路陥没から見えた都市部の危機」

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2025年1月28日に発生した埼玉県八潮市の大規模道路陥没事故は、私たちの足元に潜む深刻な危機を浮き彫りにしました。74歳の男性運転手が犠牲となったこの事故をきっかけに、全国の下水道インフラの脆弱性が明らかになり、9月1日に放送されたNHK「クローズアップ現代」では、都市部特有の下水道クライシスが詳しく報じられました。

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埼玉県八潮市の道路陥没事故が示した下水道管の深刻な老朽化問題

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八潮市の道路陥没事故(引用:「NHK」より)

八潮市で発生した道路陥没事故の衝撃は、その規模と被害の深刻さにありました。中央一丁目交差点で突然開いた巨大な穴は、直径4.75メートル、深さ10メートルという都市部の下水道管の破損が原因でした。この下水道管は1983年から使用されており、使用開始から42年が経過していました。

最も驚くべき事実は、この管が法定耐用年数の50年に達していなかったことです。一般的に下水道管は50年間の使用を想定して設計されていますが、八潮市の事故は、都市部では想定よりも早期に深刻な劣化が進む可能性があることを示しました。

事故現場では、破損した下水道管から土砂が吸い出され、地中に巨大な空洞が形成されていました。トラックが転落した陥没穴には下水が流れ込み、救助活動は極めて困難を極めました。県は仮排水管の設置や薬液注入による地盤改良など、様々な対策を講じましたが、本格的な復旧には5年から7年を要する見通しとなっています。

この事故を受けて、国は全国の自治体に対して特別重点調査を要請しました。対象となったのは、直径2メートル以上で設置から30年が経過した下水道管です。これは従来の点検基準を大幅に前倒しした措置であり、下水道インフラに対する危機感の表れと言えるでしょう。

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都市部特有の下水道クライシス「なぜ都市ほど危険なのか」

都市部の下水道が特に危険な理由は、その構造的特徴にあります。番組で作成された「全国下水道マップ」を見ると、東京23区、名古屋、京都、大阪など、主要都市部ほど赤く表示されており、古い下水道管の割合が高いことが一目で分かります。

都市部の下水道には三つの大きなリスク要因があります。第一に、高度経済成長期に集中的に整備されたため、現在40年から50年が経過し、一斉に老朽化の時期を迎えていることです。第二に、都市部は平地であるため、下水を自然流下させるために何度も落差を設けなければならず、その度に水が撹拌されて硫化水素が大量に発生します。第三に、地下深くに設置されているため、点検や修理が困難であることです。

特に注目すべきは硫化水素による腐食メカニズムです。下水から発生した硫化水素が空気中の酸素と結合して硫酸となり、コンクリートを溶かしていきます。落差がある箇所では水しぶきが上がり、硫化水素が空気中に拡散しやすくなるため、腐食がより早く進行します。横浜市の調査でも、こうした合流地点や落差部分で異常が発見されやすいことが確認されています。

都市部の下水道管は直径が大きく、八潮市の場合は4.75メートル、横浜市の調査対象管も4.5メートルという巨大なものでした。これほど大型の管が破損すると、影響は甚大です。実際、東京都や横浜市、大阪市など都市部での調査では、今後対策が必要な下水道管が14.6%に上ることが明らかになっています。

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浦上拓也教授が解説する判定基準の致命的欠陥とシールド管の盲点

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近畿大学の浦上拓也教授                       (引用:「近畿大学」HPより)

近畿大学の浦上拓也教授は、今回の八潮市の事故について「非常に衝撃的だった」と語っています。法定耐用年数50年に達していない管が破損したことで、日本全国の自治体にとって大きな課題であることが認識されました。

浦上教授が指摘する都市部特有のリスクは、下水道システムの構造にあります。都市部では平地であるため、下水を一度落としてまた上げて、再び落とすという工程を繰り返す必要があります。この過程で下水が撹拌され、硫化水素が大量に発生しやすくなります。結果として、腐食を進める要因が都市部には数多く存在するのです。

教授は、これから本格的な老朽化の波が日本全国を襲う中で、維持管理の重要性を強調しています。特に安全性については十分な対策を講じた上で、点検頻度を上げていく必要があると提言しています。下水道管内は酸素不足や硫化水素濃度が高いなど、作業員にとって極めて危険な環境であり、8月には埼玉県行田市で下水道管点検中に作業員4人が硫化水素中毒などで亡くなる痛ましい事故も発生しています。

浦上教授の指摘で重要なのは、都市部の下水道インフラは先人が築いた貴重な資産であり、これを次世代に引き継ぐ責任があるということです。私たちが日常生活で下水道の存在を意識することは少ないものの、快適な都市生活は下水道システムの恩恵に支えられています。

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三品文雄会長が警鐘「現在のマニュアルでは全く歯が立たない」

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日本コンクリート防食協会の三品文雄会長                             (引用:「NHKニュース」より)

日本コンクリート防食協会の三品文雄会長は、長年にわたり下水道管のコンクリート腐食について研究してきた専門家です。三品会長は今回の事故について「まさかこんなに早く事故を起こすとは想像していなかった。今のマニュアル(判定基準)ではもう全く歯が立たない」と厳しく指摘しています。

三品会長が問題視するのは、現在の管の腐食具合を判定する基準です。現行の基準では、腐食の進行度をA、B、Cの3段階で評価し、内部の鉄筋が露出すると最も腐食が進んだAと判定されます。しかし、八潮市の事故現場では、3年前の調査で鉄筋が露出していないとしてBと判定され、直ちに対策が必要とはされませんでした。

問題の核心は、八潮市で使用されていたシールド管の構造にあります。シールド管は都市部で多用される大型の下水道管で、二重構造が特徴です。外側が鉄筋コンクリート、内側は鉄筋のないコンクリートで構成されています。三品会長の分析によると、3年前の時点で既に厚さ25センチメートルの内側のコンクリートがなくなるほど腐食が進行していました。

しかし、鉄筋がない内側のコンクリートがどれだけ腐食しても、鉄筋の露出を重視する現在の判定基準では最高危険度のA判定にはなりません。この構造的な盲点が、今回の事故を予防できなかった一因と考えられます。

三品会長は「シールド管は点検対象から外れているとは言わないけれども、それで適用するのはちょっと無理がある」と述べ、管の材料や厚み、構造に応じた個別の基準作りが必要だと主張しています。現在の一律的な基準では、多様な構造を持つ都市部の下水道管の安全性を適切に評価できないのが現実です。

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人手不足と技術的限界が加速させる下水道管点検の困難性

下水道管の維持管理を困難にしているのは、深刻な人手不足と技術的な限界です。番組が実施したアンケート調査では、特別重点調査の対象となった人口30万人以上の自治体のうち、半数が大規模な道路陥没への不安を感じると回答しました。

不安の理由として最も多く挙げられたのが老朽化や腐食の進行ですが、2番目に多かったのが「大口径の点検、更生技術が確立されていない」という技術的な課題でした。大きな下水道管では、人が中に入って直接調査することが理想的ですが、水の流れが速かったり水量が多かったりすると、ロボットすら投入できない箇所が存在します。

札幌市の事例は、この問題を象徴的に示しています。同市の下水道管の総延長は8,300キロメートルに及びますが、年間で実施できる調査は220キロメートルのみです。この ペースでは全部を調べるのに38年かかる計算になります。調査に時間がかかる理由の一つが、作業の危険性です。雨の影響で管内の下水量が増えると作業員が流されるリスクが高まり、調査を中断せざるを得ません。

さらに深刻なのは、民間業者の人手不足です。アンケート調査では、7割以上の自治体が民間業者の人手不足を感じると回答しています。具体的な影響として、点検業務の入札をしても参加する業者がいないという事態も発生しています。中には、下水道管があまりにも長く一部しか点検を実施できておらず、老朽化の進行状況が分からないため常に不安を抱いているという切実な声もありました。

横浜市の調査会社、株式会社ヤマソウの大淵久敬代表取締役は、この5年で毎年2人ほどの新卒を採用し、社員数を約40人まで増やしましたが、八潮市の事故以降は自治体からの依頼が殺到し、受けられない仕事も出てきていると述べています。

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佐野大輔教授の革新的アプローチ「微生物分析による劣化予測技術」

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東北大学大学院工学研究科の佐野大輔教授                  (引用:「東北大学」HPより)

東北大学大学院工学研究科の佐野大輔教授は、従来とは全く異なるアプローチで下水道管の劣化予測に取り組んでいます。佐野教授が注目したのは、下水の中に存在する硫化水素を生み出すバクテリアです。

仙台市の協力のもと、市内40箇所のマンホールから下水を採取し、バクテリアの量を測定しています。この手法の画期的な点は、1箇所の採取だけでその地点より上流一帯の劣化状況が推測できることです。佐野教授は「サンプルから得られた情報を使って、全域のどこがどれくらい劣化しているかという情報を推定する技術の開発に取り組んでいる」と説明しています。

佐野教授の研究の信頼性を支えているのは、新型コロナウイルス感染拡大予測での実績です。下水に含まれるウイルスを分析することで、実際の新規感染者数との誤差を10%以内にする精密なモデルを開発した経験があります。このときに使用したPCR検査の機器を応用することで、特定のバクテリアの量をピンポイントで測定できるのです。

「PCRを使うとピンポイントで特定のバクテリアの量を測ることができる。手法的には全く同じですから全国に広げていくのは可能じゃないかと思っています」と佐野教授は語っており、この技術が全国展開される可能性は十分にあります。

従来の物理的な点検では、危険を伴い時間もかかる調査が、微生物分析によって安全かつ効率的に実施できる可能性があります。この技術革新は、人手不足に悩む自治体にとって大きな希望となるでしょう。

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大淵久敬代表が語る現場の実情と安全性確保への取り組み

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株式会社ヤマソウの大淵久敬代表取締役  (引用:「株式会社ヤマソウ」HPより)

下水道管の調査を請け負う横浜市の株式会社ヤマソウの大淵久敬代表取締役は、現場の厳しい実情を率直に語っています。同社では安全性を最優先に考え、キャパシティ以上の仕事は断る方針を貫いています。

「本音ベースではやっぱり受けたいですが、キャパ以上の仕事を受けると安全がおろそかになったり、業務の精度が落ちたりすることが一番我々が恐れていることです」と大淵代表は述べています。この発言からは、下水道管調査の現場がいかに危険で、かつ高い技術力を要求される仕事であるかが伺えます。

八潮市の事故以降、自治体からの調査依頼が殺到している現状について、大淵代表は複雑な心境を明かしています。社会インフラの安全確保に貢献したいという使命感がある一方で、無理な受注は作業員の安全や業務品質の低下につながりかねません。

下水道管内の作業は、硫化水素中毒や酸素欠乏症のリスクが常に付きまといます。8月に埼玉県行田市で発生した作業員4人の死亡事故は、この危険性を改めて浮き彫りにしました。大淵代表が安全性を重視する背景には、こうした現実があります。

現場の作業員も「硫化水素、酸欠、これが一番もう苦しいっていうか怖い」と語っており、命の危険と隣り合わせの仕事であることを認識しています。それでも「住人が住んでいる以上下水道があるので誰かがやらないといけない」という責任感を持って仕事に取り組んでいます。

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私たちにできる下水道インフラ保全への貢献方法

番組では、一般市民ができる下水道保全への貢献方法についても言及されました。浦上拓也教授は、まず下水道の役割を理解することの重要性を強調しています。

私たちが日常生活で街中を歩いていても下水道の臭いを感じることはほとんどありません。また、水辺を歩いても環境の良い状況を保っています。これらはすべて下水道が整備されているからこそ実現していることです。この当たり前の快適さが、実は下水道という見えないインフラに支えられていることを認識する必要があります。

具体的な行動として、以下のことが挙げられています。

油・ティッシュを流さない: これらを流すと硫化水素を発生させる原因となり、管路劣化を促進させます。油は下水処理にも大きな負荷をかけるため、適切に処理することが重要です。

排水口にタバコ・ゴミを捨てない: これらが排水を妨げると、雨水が流れなくなり冠水のリスクを高めます。都市部での集中豪雨時には、排水能力の確保が極めて重要です。

定期的な清掃: 家庭の排水口や周辺の清掃を定期的に行うことで、下水道システム全体の負荷を軽減できます。

工事への理解: これから維持管理の時代を迎える中で、道路での工事作業が頻繁に行われるようになります。工事の音がうるさいと感じるのではなく、私たちのインフラを守ってくれているという理解を持つことが大切です。

浦上教授は「我々先人が作り上げてくれたこのシステムを次の世代に繋ぐためにも、もう少し下水道に対する思いを巡らせていただきたい」と呼びかけています。

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まとめ

埼玉県八潮市の道路陥没事故は、日本の都市部が直面する下水道クライシスの深刻さを浮き彫りにしました。法定耐用年数50年に達していない42年使用の管が破損し、74歳の男性が犠牲となったこの事故は、従来の想定を大きく超える事態でした。

都市部特有のリスク要因として、高度経済成長期からの一斉老朽化、硫化水素による加速的腐食、地下深部での点検困難性が挙げられます。特に、シールド管の二重構造に対する現行判定基準の不適合性は、見過ごされるリスクを生み出していることが明らかになりました。

人手不足と技術的限界が下水道管点検を困難にする中、佐野大輔教授の微生物分析による劣化予測技術のような革新的アプローチに期待が集まっています。また、大阪市の劣化予測研究や更生工法の活用など、限られた予算と人員で効率的な維持管理を実現する取り組みも進んでいます。

しかし、根本的な解決には国を挙げた取り組みが不可欠です。埼玉県の大野元裕知事が指摘するように、点検方法や頻度、耐用年数について国が主導で基準を見直す必要があります。

私たち市民にできることは、下水道インフラの重要性を理解し、日常生活での配慮と工事への理解を示すことです。先人が築いた貴重な社会インフラを次世代に引き継ぐため、官民一体となった取り組みが求められています。

八潮市の事故で明らかになった課題は、日本全国の都市部が共通して抱える問題です。今こそ、見えないインフラに潜むリスクと真摯に向き合い、持続可能な都市社会の実現に向けて行動を起こすときなのです。

※ 本記事は、2025年9月1日に放送されたNHK「クローズアップ現代」を参照しています。

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