2025年9月25日放送のテレビ東京系「カンブリア宮殿」で特集されたホームセンター「コーナン」。売上高5014億円、業界第3位の実力を持つ同社の成功の秘密が明かされました。疋田直太郎社長(68歳)が語る経営戦略とは一体どのようなものなのでしょうか。
コーナン疋田直太郎社長が語る「何でも揃う」経営戦略の全貌
コーナン商事の疋田直太郎社長が掲げる経営戦略は、実にシンプルで明快です。「何でも揃うお店」という一言に込められた深い意味があります。
1978年の創業以来、コーナンは全国約640店舗を展開し、店舗数シェア12%を占める巨大チェーンに成長しました。特に京葉船橋インター店は国内最大規模で、売り場面積は東京ドームのグランドとほぼ同じ大きさを誇ります。
疋田社長の経営哲学で最も印象的なのは、顧客との距離感です。番組内で「地域のお客さんに喜ばれ、買い物に来られたら欲しいものがある。役に立てたら一番嬉しい」と語った言葉からは、単なる売り上げ追求ではなく、地域密着型のサービス提供への強いこだわりが感じられます。
14万アイテムという圧倒的な品揃えを実現している背景には、月に1店舗という積極的な出店戦略があります。この展開スピードは業界でも群を抜いており、カインズ、DCMホールディングスに次ぐ業界第3位の地位を確固たるものにしています。
カンブリア宮殿で明かされたコーナン流で客の心を掴む2つの手法
番組では「コーナン流で客の心を掴む」具体的な手法が紹介されました。これらの戦略こそが、ドラッグストアという強力な競合に対抗する武器となっています。
手法1:圧倒的なサイズと量
一つ目の手法は「圧倒的なサイズと量」です。これは単に商品を大きくするということではなく、顧客の利便性を追求した結果です。
詰め替え用洗濯洗剤では、一般的な2リットルサイズに対してコーナンは4リットル入りを提供。風呂用洗剤も同様に4リットルサイズを展開しています。園芸用培養土では、5リットルサイズが一般的な中、コーナンでは34リットル入りが人気商品となっています。
最も注目すべきは、ペットシーツとキッチンペーパーの工夫です。ペットシーツは通常40枚入りのところ、コーナンでは200枚入りを実現。しかも独自の圧縮技術により、かさ張らないよう工夫されています。累計販売数は驚異の20億枚に達しています。
キッチンペーパーでは、一般的な10メートルに対してコーナンは40メートルを実現。秘密は空気圧を通常の1.5倍にして巻く技術にあります。この技術により、長さは4倍でありながら太さはほとんど変わらないという画期的な商品を生み出しました。
手法2:こだわりのプライベートブランド
二つ目の手法は「こだわりのプライベートブランド」戦略です。「ライフフレックス」ブランドで展開されるPB商品は、年間4200種類を商品化し、売上全体の約4割を占める屋台骨となっています。
特筆すべきは、その開発プロセスです。粘着クリーナーでは、従来品の「力の加減で綺麗に剥がせない」という課題を解決するため、切れ目を斜めに入れる工夫を施しました。洗車用のポンプ式スプレーでは、水道がない場所でも使用できる利便性を追求しています。
最新の取り組みでは、猫のトイレ用品開発において、SNSでアンケートを実施し「猫砂の飛び散り」という悩みに応える商品開発を進めています。開発担当の斗谷美幸氏を中心とした社内の猫飼育者たちがユーザー目線で意見を出し合う姿は、まさにコーナン流の商品開発を象徴しています。
疋田直太郎が45年かけて築いたPB商品開発の秘密
疋田直太郎社長のコーナンへの関わりは、1978年の1号店オープン時からという長さです。大学生だった疋田社長は父である創業者からアルバイトとして働くよう指示され、レジ打ちから木材売場担当まで様々な経験を積みました。
この45年間の現場経験が、現在のPB商品開発力の源泉となっています。疋田社長が開発担当者に対して「売ってないような商品とか、そういうものを安く売れる」とアドバイスする姿からは、単なる競合商品の模倣ではなく、市場にない独自商品の開発への強いこだわりが感じられます。
PB商品開発の最大の特徴は、社員がユーザーとして参画することです。猫のトイレ商品開発会議では、開発担当だけでなく他部署の社員も参加し、全員が実際の猫飼育者として意見を出し合います。「私のところは1匹なんですけど、岡野さんち、7匹」といった会話からは、まさにユーザー目線に立った開発姿勢が伺えます。
年間4200種類という開発数は、1日に約10種類以上の新商品を生み出している計算になります。この驚異的なスピードは、メーカーのナショナルブランド商品に対抗するための戦略でもあります。疋田社長の「昨今メーカー様ナショナルブランドの商品も日々開発されておられますんで、我々もそれに対抗をするように数でどんどん出していかんとついていけない」という言葉が、この戦略の背景を物語っています。
コーナンPROが成功する理由「元職人採用」と圧倒的品揃え
コーナンの成長戦略で特に注目すべきは、プロ向け専門店「コーナンPRO」の展開です。現在、全体売上の約3割を占めるまでに成長したこの業態には、独自の成功要因があります。
朝6時半オープンの戦略的意味
コーナンPROの最大の特徴は、朝6時半という早朝営業です。これは職人が現場に向かう前に立ち寄れるよう配慮した時間設定で、開店直後から駐車場が満杯になる光景は圧巻です。
「その日の作業で必要な資材を現場に行く前に買える」というニーズに応えることで、プロの信頼を獲得しています。実際に利用する職人からは「例えば朝、これから現場行くんですけど、急いでる時とかの時短になる」という声が聞かれ、この戦略の有効性が実証されています。
品揃えの圧倒的な専門性
品揃えの充実度は他の追随を許しません。ドライバーだけで200種類以上、ネジに至っては約3000種類を取り揃えています。一般的なホームセンターでは見つからない特殊なアンカーボルトも豊富に在庫しており、「普通のホームセンターだとここまではない、汎用的なよく使われるサイズしかない」という職人の声からも、その専門性の高さが分かります。
赤松良隆店長(コーナンPRO世田谷八幡山店)の「当店を選んでいただいてご来店していただいたのに『ありません』という回答で帰らすっていうのは我々としても悔しいですし心苦しい」という言葉からは、品揃えに対する強いこだわりが感じられます。
元職人採用の効果
最も興味深いのは、元職人を積極的に採用する人事戦略です。建設現場で働いていた職人をスタッフとして採用することで、「プロ同士だから細かい要求にも的確に答えられる」という環境を実現しています。
西村義隆店長(コーナンPRO浅草店)と職人客との「ダブル?4mしかない。2mで切っちゃいます?」といったやり取りからは、専門的な会話がスムーズに成立している様子が分かります。職人からも「細かい説明しなくても通じるっていうのは時短になる」との評価を得ており、この採用戦略の成功が実証されています。
さらに、商品の車への積み込みサポートや早朝のコーヒー無料サービスなど、職人の利用しやすさを追求したサービス展開も特徴的です。これらの取り組みにより、コーナンPROは単なる商品販売店から、職人にとって不可欠なパートナーへと進化しています。
阪神淡路大震災が生んだ疋田社長の防災商品への想い
疋田社長の経営哲学を語る上で欠かせないのが、1995年の阪神淡路大震災での経験です。この出来事がコーナンの防災商品重視姿勢の原点となっています。
震災直後の決断
震災発生時、副社長として新規出店を担当していた疋田社長は、重要な決断を迫られました。部下から「神戸市灘区で進めている新店舗の建設は一旦中止にしましょう。取引先にもかなりの被害が出ています」と提案されたとき、疋田社長は「いや、こんな時だからこそ1日でも早く神戸に店をオープンさせるんだ」と答えました。
この判断により、震災から約1年後に復興途上の被災地にコーナンがオープン。生活必需品が揃うホームセンターは、復興を進める人たちの拠り所となりました。当時の利用客からは「家は全壊でした。家建て直しましたけど、あらゆるもん買った。ここにあるものはほとんど」という証言があり、地域復興への貢献度の高さが分かります。
防災商品への継続的な取り組み
この経験から、疋田社長は「困っている人の役に立つ店」を経営指針として定めました。現在のコーナンでも防災関連商品に力を入れており、特にプライベートブランドでの開発に注力しています。
アルファ化米(お湯や水を入れるだけでご飯が完成)、非常用トイレセット、避難所用マットレスなど、実用性を重視した商品開発を継続。特に非常用トイレセットでは、従来のプラスチック便座をダンボール製に変更することで、「分別手間が省かれて非常に良く売れている」という成果を上げています。
山崎良氏(コーナン商事商品統括部)の説明からも分かるように、これらの商品開発には被災経験者ならではの視点が活かされています。疋田社長が店舗視察時に必ず防災用品をチェックする姿勢からも、この分野への特別な思い入れが感じられます。
コーナンの新業態「gardens umekita」体験型店舗への挑戦
2024年9月6日、コーナンは大阪駅のすぐそばに全く新しいコンセプトの店舗をオープンさせました。「gardens umekita」と名付けられたこの店舗は、従来のホームセンターの概念を覆す体験型店舗として注目を集めています。
「水と緑をもっと身近に」のコンセプト
gardens umekitaは「水と緑をもっと身近に」をコンセプトに、植物とアクアリウムに特化した都市型店舗として設計されました。一鉢3000円のリーズナブルなものから55万円の高級観葉植物まで、約700種類の植物を取り揃えています。
さらに100種類以上の熱帯魚も展示販売しており、中でも尾びれの付け根にある模様が人気キャラクターに似ている熱帯魚は、ファンの間で話題となっています。来店客からは「もうずっと見てられる。ジャングルですね」「時間関係なしにもうずっと見てられる」という声が聞かれ、体験型店舗としての狙いが的中していることが分かります。
ホームセンターならではの付加価値
単なる専門店との違いは、ホームセンターコーナンならではのサービス展開にあります。コーナンeショップで購入した植物のメンテナンス用品を含む数万点の商品を受け取れるロッカーサービス、デジタルサイネージによる情報発信、専門機器を用いた加工サービスなど、従来のホームセンターとは一線を画す取り組みを展開しています。
毎週末に実施されるワークショップは、顧客とブランドの関係性を深める重要な機会として位置づけられています。これまでの「商品を売る」だけの関係から「体験を提供する」関係への転換は、ホームセンター業界にとって革新的な取り組みといえるでしょう。
業界3位から日本一を目指すコーナンの今後の戦略
カンブリア宮殿の番組内で、疋田社長は業界トップを目指す意欲を明確に示しました。現在の売上高5014億円からトップのカインズの6000億円まで「1000億円しか変わんないじゃないですか」という村上龍氏の指摘に対し、「その差はやっぱり大きい」と答えながらも、挑戦への意欲を隠しませんでした。
市場環境の変化への対応
ホームセンター業界の市場規模は約4兆円ですが、少子高齢化により従来のような成長は期待できません。疋田社長もこの現実を「まさにその通り」と認め、「お客様に寄り添った商品開発をしていかなあかん」と危機感を示しています。
特に脅威として挙げているのがドラッグストアの存在です。「日用品をかなり大量に扱われており、価格面もシビアな価格で店頭に出されてますんで、本当に脅威」という認識のもと、真っ向勝負だけでなく「ドラッグストアに置いてないようなホームセンター独自の商品を売っていきたい」という差別化戦略を明確にしています。
コーナンPRO中心の成長戦略
今後の成長戦略の柱は、コーナンPRO業態の拡充です。「ホームセンターはオーバーストアですから、プロ中心に出店を考えていきたい」という疋田社長の発言からも、この方向性への確信が伺えます。
「まだそういう店は競争が少ないですから」という判断のもと、プロ向け市場への集中投資を進める方針です。実際にコーナンPROは全体売上の3割を占めるまでに成長しており、この戦略の妥当性が数字でも実証されています。
防災グッズ、防犯グッズ、園芸、ペット、レジャーといったホームセンター独自の商品分野での優位性を活かしながら、プロ向け市場での地位確立を目指す戦略は、極めて現実的で実効性の高いアプローチといえるでしょう。
まとめ
カンブリア宮殿で明かされたコーナン疋田直太郎社長の経営戦略は、45年間の現場経験に裏打ちされた実践的なものでした。「何でも揃う」という基本コンセプトを軸に、圧倒的なサイズと量、こだわりのPB商品開発、プロ向け特化店舗、体験型新業態など、多角的なアプローチで業界3位から日本一を目指す姿勢が印象的でした。
特に注目すべきは、阪神淡路大震災での経験から生まれた「困っている人の役に立つ店」という経営哲学と、元職人採用によるコーナンPRO戦略の成功です。これらの取り組みは、単なる売上追求を超えた社会貢献的な側面を持ち、持続可能な成長を支える基盤となっています。
ドラッグストアとの競合激化や市場成長の鈍化という課題に直面しながらも、独自の差別化戦略で挑戦を続けるコーナンの今後の展開に注目が集まります。疋田社長が築き上げた45年間のノウハウが、日本一への道筋を切り開けるか、その行方が楽しみです。
※ 本記事は、2025年9月25日放送(テレビ東京系)の人気番組「カンブリア宮殿」を参照しています。
※ コーナン商事株式会社の公式サイトはこちら
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