2025年9月27日放送のテレビ東京系「ブレイクスルー」で、作家・相場英雄氏が注目したのは、国産水中ドローンで深海に挑戦するフルデプス創業者・伊藤昌平氏でした。子供時代の深海魚への憧れから始まった壮大な夢が、今や日本のインフラ危機を救い、未知なる深海資源の発見につながる革命的技術へと発展しています。番組で明かされた伊藤氏の情熱と、フルデプス社が描く未来について詳しく解説します。
ブレイクスルーで注目!伊藤昌平氏とフルデプス社の水中ドローン技術
番組で紹介された伊藤昌平氏は、1987年生まれの筑波大学工学システム学類出身のエンジニアです。現在はフルデプス社の取締役として、国産水中ドローンの開発を牽引しています。同社は2014年に設立され、2019年10月から産業用水中ドローン「DiveUnit300」の販売を開始しました。
番組では、東京日本橋のオフィスビル内に設置された開発用プールで、実際に水中ドローンの操縦体験が行われました。この「DiveUnit300Lite」は、重量約28キロと軽量でありながら、水深300メートルまで潜航可能な優れた性能を誇ります。
最も印象的だったのは、機体の上下左右に配置された7基のスクリューシステムです。これにより潮の流れが複雑な海中でも安定した動きを実現し、初めて操縦する相場氏でも簡単にコントロールできていました。操縦にはゲーム機のコントローラーを採用し、「誰でも使えるように考えられた操縦道具」として、技術者でなくても直感的に扱えるよう設計されています。
水中では電波が通らないため、有線接続が必要ですが、フルデプス社では「ケーブルをとにかく細くする」ことにこだわり、100メートルや200メートルの深度でもケーブルの引っ張りによる影響を最小限に抑える工夫を施しています。
フルデプス水中ドローンの産業用途「インフラ点検革命」
フルデプス社の水中ドローンが真価を発揮するのは、深刻化する日本の水中インフラ危機への対応です。番組では、機体に高圧洗浄機を装着して岸壁の牡蠣殻を除去する様子が紹介されました。興味深いのは、噴射による反動を防ぐため、ノズルの反対側にも逆方向の噴射を行い、機体の姿勢を安定させる技術です。
産業用途の多様性も注目すべき点です。レーザー照射機を装着すればダムの亀裂状態を分析でき、補修が必要な場所を効率的に特定できます。金属探知機の装着により海底ケーブルの位置を正確に把握することも可能です。視界が悪い水中では、超音波装置を使って512本の音波ビームで海底地形を可視化し、精密な地図を作成することもできます。
電力会社での活用事例も印象的でした。発電所では蒸気を冷やすために大量の海水を取り込んでおり、その設備は海中にあります。従来は点検のために発電を停止する必要がありましたが、水中ドローンを活用すれば発電を継続しながら点検作業が可能になります。これは「売上を止めることなく」安全性を確保できる画期的な解決策といえるでしょう。
伊藤氏が強調するのは、従来の「事後保全」から「予防保全」への転換です。3か月前、昨日、今日のデータを蓄積することで明日の状態を予測し、水中の問題を可視化・データ化していく重要性を語っています。
深海探査で挑む未知の世界「海底資源と新発見の可能性」
番組では、水深1000メートルまで潜航可能な深海調査専用機も紹介されました。この機体は生物調査や学術研究に特化した特別仕様で、2025年7月には海洋研究開発機構と共同で世界初の深海洞窟内調査を実施しています。
調査で捉えられた深海生物は圧巻でした。「イトヒキワシ」という深海魚、鼻先が長い「クロテングギンザメ」、そして画面右手に映った赤い生物「サイケデリックジェリー(通称)」というクロクラゲの一種など、暗い深海で独特の進化を遂げた生物たちの姿が記録されました。
さらに注目すべきは「スラープガン」という生物捕獲装置です。これは掃除機のような仕組みで深海生物を生きたまま吸引・捕獲できる技術で、番組では全長約6センチのサメハダホウズキイカの捕獲に成功する様子が映されました。この技術により、研究機関や水族館から高い評価を得ているとのことです。
日本近海の深海には膨大な海底資源が眠っています。全国民が使うガスエネルギーの約100年分に相当するメタンハイドレート、金や銀などを含む海底熱水鉱床、リチウムイオン電池の原料となるコバルトやニッケルを含むマンガン団塊など、もしこれらを有効活用できれば日本が世界有数の資源大国になる可能性があります。
マンガン団塊は水深5000メートル級の深海に存在するため、従来の音波調査では発見できない資源もあり、実際に現地に行って近距離で測定する必要があります。そこで水中ドローンの役割が重要になってくるのです。
伊藤昌平氏の原点「ナガヅエエソへの憧れから始まった深海への情熱」
伊藤氏の水中ドローン開発の原点は、子供時代から憧れ続けた深海魚「ナガヅエエソ」への想いでした。「長い杖のエソ」と書くこの深海魚は、フルデプス社のロゴのモデルにもなっており、「これをなんとか見たい」という純粋な願いがすべての始まりだったのです。
初めて深海にドローンを沈めた時の体験について、伊藤氏は「3、4メートルぐらいしか先見えなくて、その先って真っ暗なんですよ。これが地球の全体に広がってるって思うと、海の本当に途方もない世界だなって思って」と語っています。この未知の世界への好奇心が、彼を深海探査の道へ導いたのです。
深海探査の困難さについても番組で詳しく説明されました。「月にいくのと深海にいくのってどっちが難しいんですか?」という相場氏の質問に対し、伊藤氏は「海のほうが難しいことっていうのもたくさんあります」と答えています。電波が通らない、光が届かない、紐で繋がなければならない、カメラでも100メートルくらいまでしか見えないなど、深海探査特有の制約があることを説明しました。
興味深いのは、深海魚の認知度に対する問題意識です。伊藤氏は「天体観測って皆さん知っていらっしゃるじゃないですか。オリオン座みたいなのとか、北斗七星とか皆知ってる。そのぐらいには皆知ってていいんじゃないかなと思うだけの魅力は十分ある」と語り、深海の魅力をもっと多くの人に知ってもらいたいという想いを表現しています。
5. フルデプスが描く未来「深海メジャー誕生の可能性」
番組の終盤では、伊藤氏の壮大なビジョンが語られました。深海には「人間の寿命を延ばすための新しい酵素」や「貼っとけばどんな傷でも治りますよみたいな」未知の物質が眠っている可能性があると説明し、陸上とは全く違う環境で生きる微生物の中に、人類の未来を変える発見があるかもしれないと示唆しています。
「あと10年20年したら、もしかしたら深海メジャーとか出てくる可能性あるわけですよね」という相場氏の指摘に対し、伊藤氏は「そうないとは誰も言えないですよね」と応答。石油メジャーのような巨大企業が深海分野でも誕生する可能性を示唆しています。
現在、フルデプス社は国内で水中ドローンを開発・製造する唯一の企業という独自のポジションにあります。「水中の課題でってなると、ひとまずお声かけはいただいてる」と伊藤氏が語るように、この分野でのファーストムーバーアドバンテージを活かし、将来的な市場拡大に備えています。
フルデプス社の社名自体も深い意味を持っています。「フルデプス」は海洋調査業界では世界最深部を指す言葉で、マリアナ海溝の約1万1000メートルまで「ちゃんと見ていきたい。何があるのか知りたい」という想いが込められています。
技術的な進歩についても言及されており、現在の有線接続の限界を超えるため、将来的には「ロボットにこういう風に見てきてっていうのを先にプログラムしといて、行って調べてきてもらう」自律型システムの開発も視野に入れています。
6. まとめ
テレビ東京「ブレイクスルー」で紹介された伊藤昌平氏とフルデプス社の挑戦は、単なる技術開発を超えた壮大な物語でした。子供時代の深海魚への純粋な憧れから始まり、日本のインフラ危機解決、そして人類未踏の深海資源開発まで、その射程は計り知れません。
伊藤氏が最後に語った「『分からない』を『分かる』に変えること」がブレイクスルーであるという哲学は、まさに深海という最後のフロンティアに挑む開拓者の心構えを表しています。課題が見えない中にこそ解決すべき重要な問題が眠っており、それを発見し、深掘りしていくことで新たな価値を創造する。この姿勢こそが、フルデプス社が世界をリードする国産技術として評価される理由なのでしょう。
海洋大国日本の未来を担う水中ドローン技術は、今後ますます重要性を増していくと予想されます。伊藤氏の「黄金郷がないとも、誰も知らないわけじゃないですか」という言葉が示すように、未知の深海には無限の可能性が広がっているのです。
※ 本記事は、2025年9月27日放送(テレビ東京系)の人気番組「ブレイクスルー」を参照しています。
※ フルデプス(株式会社 FullDepth (FullDepth Co., Ltd.))の公式サイトはこちら
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