2025年10月4日にテレビ東京系で放送された「ブレイクスルー」で、まるでSF映画のような革新的な技術が紹介されました。脳とコンピューターを直接接続し、考えるだけで機器を操作する――そんな未来が、いま日本で現実のものになろうとしています。
この驚異的な技術を開発しているのが、大阪大学大学院特任教授の平田雅之氏。脳神経外科医でありながら、ロボット工学のバックグラウンドを持つ異色の研究者です。番組では作家の相場英雄氏が、平田氏の研究現場に密着し、その不屈の精神と見据える未来に迫りました。
平田雅之とは?脳波でコンピューターを操る革新的研究者
平田雅之氏は、大阪大学大学院医学系研究科の特任教授であり、脳機能診断再建学という新しい学問分野を切り開く研究者です。彼の経歴は極めてユニークで、まず東京大学でロボット工学を専攻し、卒業後は自動車メーカーに就職しました。
しかし、ロボット研究を通して痛感したのは「人間の脳のすごさ」でした。どれほど精巧なロボットを作っても、人間の脳が持つ柔軟性や適応力には遠く及ばない――その思いが、27歳での大きな決断につながります。平田氏は医学の道へと転身し、脳神経外科医として新たなキャリアをスタートさせたのです。
この医学と工学、両方の知見を持つことが、平田氏の最大の武器となっています。「医学だけを勉強していると、工学だけを勉強していると、なかなかソリューションが見えなかったりするんですけど、両方勉強していると、あ、これってこうやってこうやってこうやればいいんだっていう、両方の筋道をスパッと通して瞬間的にわかったりする」と番組内で語っています。
現在、平田氏が取り組んでいるのは「ブレインコンピューターインターフェース(BCI)」という最先端技術です。これは脳とコンピューターを直接つなぎ、人間の思考を読み取って電子機器を操作しようという、まさに画期的な研究です。
脳に埋め込む超小型脳波計の驚異の仕組み
平田氏が5年前に設立した大阪大学発のベンチャー企業「ジーメド」では、腕時計サイズにまで小型化した脳波計を開発しました。従来の脳波測定では、頭皮にキャップをかぶせて外側から測定していましたが、この方法には大きな問題がありました。
まず、脳波は極めて微弱な電気信号です。頭蓋骨を隔てて測定すると、信号が弱まるだけでなく、まばたきや筋肉の動きによる「ノイズ」が大量に混入してしまいます。番組では、口を噛みしめるだけで脳波の何十倍もの筋電図が発生し、正確な測定が困難になる様子が実演されました。
そこで平田氏が開発したのが、脳の表面に直接貼り付ける電極シートです。約3cm四方のシートに、2〜3mm間隔で60以上もの電極が配置されています。素材はプラチナとシリコンで、いずれも医療分野で広く使われている安全なものです。
この装置を使用するには脳外科手術が必要になります。頭蓋骨に穴を開け、脳の表面に電極シートを直接置くのです。「脳に傷がつくのでは?」という懸念に対して、平田氏は「置くだけなので、脳に傷がついたりはしません。こういった電極を脳の表面に置く技術というのは、脳神経外科で本当に昔からあるわけなんですね」と説明しています。
この方法の最大のメリットは、頭蓋骨の下に電極があるため、外部からの電磁ノイズが遮断され、脳から出た脳波を直接拾えることです。さらに、24時間365日、継続的に高品質なデータを収集できるため、AI解析の精度も飛躍的に向上します。
12年前(2013年)に初めて臨床研究を実施した当時は、たくさんの導線を体の外にある大きな脳波計につないでいました。それが15年の研究開発を経て、現在の腕時計サイズにまで小型化されたのです。ワイヤレス給電技術や通信技術など、日本の優れた要素技術を結集させた成果と言えるでしょう。
脳波で機器を操作する実用例と3年後の実用化計画
平田氏の研究は、すでに実用段階に入りつつあります。番組では、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の脳波データを使った驚くべき実演が紹介されました。
ALSは、脳などの神経が障害を受け、思うように体が動かなくなっていく難病です。しかし平田氏の技術を使えば、体が全く動かなくても、脳波だけでコミュニケーションが可能になります。
実演では、患者の脳波データを再生することで、スマートフォンのフリック入力のようなインターフェースでカーソルを動かし、「気持ちいいです」という文字を入力することに成功しました。仕組みはこうです――手を握る、手を開く、肘を曲げる、肘を伸ばすという4種類の脳波を、それぞれ上下左右のカーソル移動に割り当てているのです。
現時点では4種類の脳波データしか抽出できませんが、平田氏は「この次に研究もしているんですけれども、それは脳波だけで口の動きとかを読み取って、もう本当に思った通りに喋れるような技術を開発してます」と、さらなる進化を予告しています。
もう一つの実用例が、ロボットアームの操作です。患者がペットボトルを取りたいという指令を脳波で出すと、ロボットアームが自律的に動いてペットボトルをつかむ――こうした未来がすでに実現しています。
そして注目すべきは、平田氏が「今から大体3年後ぐらいを目標に頑張っています」と明言していることです。2028年頃には、この技術が実際の医療現場で使われる可能性があるのです。高齢者の身体機能サポートや、若年労働力不足を補うアバター操作など、応用範囲は医療だけにとどまりません。
イーロンマスクとの開発競争「日本発で負けない」
実は、脳とコンピューターを接続する技術の開発競争は、世界規模で激化しています。最大のライバルが、電気自動車テスラやスペースXで知られるイーロン・マスク氏です。マスク氏は1000億円以上の巨額を投じて、埋め込み型デバイスの開発を進めており、すでに脳に装着した実験も進めています。
圧倒的な資金力を持つマスク氏に対して、平田氏はどう立ち向かうのか。番組内で相場氏が「そこでどうしてっていう、自信がある。そこはやっぱり持っていらっしゃる心の強さですか」と問いかけると、平田氏は「負けてない」と言い切りました。
その自信の根拠は、技術的な違いにあります。マスク氏の会社が開発した装置は、多くの細い針を脳に刺すというもの。一方、平田氏が開発したのは針ではなくシートのため、体への負担を大幅に軽減できるのです。
さらに平田氏には、15年にわたる臨床研究の実績があります。「脳外科でやってきた手術のバックグラウンド。実際に医療技術としてはどういうものがフィージブル(実現可能)なのか、妥当なのか。それから、昔はエンジニア、自動車会社なんか勤めてましたから、ものづくりがどんなものがフィージブルであるのか。今までのバックグラウンドを全部活かせる技術になっているので、負けてないっていうのが一つあると思いますね」
この言葉には、医学と工学の両方を極めた研究者ならではの自信がにじんでいます。資金力では劣っても、技術の精度と安全性、そして長年の臨床経験という強みで、世界のトップと渡り合っているのです。
医学と工学の融合が実現した「突破口を見つける力」
平田氏が目指しているのは、単なる技術開発ではありません。日本の医療機器産業全体を変革しようという壮大なビジョンがあります。
「日本が決して強くはない分野なんですけども、医療機器の分野。でもそういった要素技術に関しては日本はいい技術を持っていますから、それを集めることができれば、本当に世界でトップを争える技術になるという風に思ってるんですね」
日本の医療機器は「デバイスラグ」と呼ばれる問題を抱えています。海外で開発された医療機器が日本に導入されるまで、約10年の遅れがあるというのです。平田氏は、これを逆転させたいと考えています。「日本で開発したものを世界に出していく。みたいな、そういう逆の立場にしていきたいという思いが結構強いんです」
番組の最後、相場氏が「平田さんにとってブレイクスルーとは何でしょうか?」と問いかけました。平田氏の答えは印象的でした。
「ブレイクスルーっていうのは、壁を打ち破って向こう行く意味ですから、難しい課題を解決するっていう風に捉えています。で、難しいってのも色々あって、壁が厚すぎたら、誰がやってもできないんですね。なので、壁が薄いところを探して、こういう方法を使ったらこの壁は破れるっていう、ストラテジー(戦略)。これがあればブレイクスルーができるっていうことなんですね」
つまり、ブレイクスルーとは「突破口を見つけること」だと平田氏は定義しています。一見厚そうに見える壁でも、実は薄いところがあって、やり方を工夫すれば穴が開けられる――そういう視点を持つことが、イノベーションの本質なのでしょう。
医学と工学、両方の視点を持つ平田氏だからこそ、誰も気づかなかった突破口を見つけられる。それが、限られた予算でもイーロン・マスク氏と互角に戦える理由なのかもしれません。
まとめ
大阪大学の平田雅之氏が開発する脳波計測技術は、まさに「考えるだけで機器を操作する」未来を実現しようとしています。腕時計サイズの超小型脳波計と、脳の表面に直接貼る電極シートを組み合わせることで、これまで不可能だった高精度の脳波測定を可能にしました。
ALS患者の意思疎通支援から、高齢者の身体機能サポート、さらには労働力不足を補うアバター操作まで、応用範囲は計り知れません。そして注目すべきは、3年後の実用化を目標としている点です。SF映画のような世界が、私たちのすぐそばまで来ているのです。
イーロン・マスク氏という強力なライバルがいる中で、平田氏は「負けてない」と言い切ります。医学と工学、両方の知見を持つ異色の経歴が、独自の強みを生み出しています。そして何より、日本発の技術で世界をリードしたいという強い思いが、この研究を支えています。
ブレインコンピューターインターフェース技術は、人類の新たな可能性を切り開く革新的な分野です。平田雅之氏の挑戦は、日本の医療技術の未来を占う試金石となるでしょう。「突破口を見つける」という彼の哲学が、どのような未来を実現するのか――今後の展開から目が離せません。
※ 本記事は、2025年10月4日放送(テレビ東京系)の人気番組「ブレイクスルー」を参照しています。
※ ジーメドの公式サイトはこちら
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