テレビ東京の「ブレイクスルー」で紹介された黒田拓馬氏率いる3DCが開発したGMS(グラフェンメソスポンジ)をご存じですか?この革新的な炭素素材は、リチウムイオン電池の寿命を100年にまで延ばす可能性を秘めています。本記事では、GMSの3つの特徴や実用化スケジュール、次世代電池への応用まで詳しく解説します。記事を読めば、超電動社会を支える新技術の全貌が理解でき、電池革命がもたらす未来が見えてきます。
GMS(グラフェンメソスポンジ)とは?黒田拓馬が開発した革新的炭素素材
GMSとは「グラフェンメソスポンジ(Graphene MesoSponge)」の略称で、東北大学材料科学高等研究所の西原洋知教授の研究室で開発された次世代の炭素素材です。2025年10月11日に放送されたテレビ東京「ブレイクスルー」では、この革新的な素材を社会実装するために2022年に設立された東北大学発ベンチャー企業「3DC」の黒田拓馬CEOが登場し、大きな注目を集めました。
リチウムイオン電池には、電子をスムーズに運ぶために炭素素材が不可欠です。従来はカーボンブラックが使われていましたが、現在ではカーボンナノチューブ(CNT)が主流となっています。カーボンナノチューブ自体もノーベル賞級の発明と言われるほど革新的な素材でしたが、GMSはその次世代を担う材料として期待されているのです。
最大の特徴は、その名の通り「スポンジ」のような構造にあります。GMSは中が空洞になった3次元の炭素素材で、原子1個分の薄さの壁でできています。この世界で最も薄い壁を持つ構造が、電池の性能を飛躍的に向上させる秘密なのです。番組内で黒田CEOは「これが電池の中に極少量入って電池の性能が飛躍的に向上する」と説明し、その革新性を強調しました。
3DCという社名も、3次元(3 Dimension)の「3D」と炭素(Carbon)の「C」を組み合わせたもので、まさにこの新素材の特性を表しています。黒田CEOと西原教授は、日本発の材料技術を世界で初めて量産するというビジョンのもと、GMSの社会実装に挑んでいます。
GMSの3つの特徴で実現する寿命100年の充電池
番組では、GMSが持つ3つの画期的な特徴が詳しく紹介されました。これらの特徴が組み合わさることで、寿命100年という夢のような充電池の実現に近づいているのです。
特徴①:電池の変形を防ぐ空洞構造と復元力
スマートフォンの電池が膨らんだ経験はありませんか?充電や放電で高温になると電池内の物質が膨張し、変形することで漏電し、火災につながる危険性があります。実際に2025年1月には韓国の航空機で、モバイルバッテリーの発火が原因とみられる火災が発生しました。
GMSの空洞構造は、まさにこの問題を解決します。電子顕微鏡で観察すると、小さな粒の集合体の中に無数の穴が開いており、中は完全に空洞になっています。この空洞が緩衝材のように膨張する力を吸収するため、電池の劣化を抑制できるのです。
さらに驚くべきは、その復元力です。一般的な炭素素材である黒鉛(鉛筆の芯)は硬い代わりに力がかかると折れてしまい元に戻りません。しかしGMSは圧力をかけると一旦は潰れますが、力を弱めると元に戻る性質を持っています。番組ではこのスポンジのような挙動が実際の動画で紹介され、視聴者を驚かせました。
特徴②:酸化を防ぐ化学的耐性
充電能力が徐々に低下していく経験は誰にでもあるでしょう。これは繰り返し使うことで電池内の炭素が錆びて劣化することが原因の1つです。スマートフォンの充電池は約3年、電気自動車(EV)用は8年から10年が寿命の目安とされています。
番組では500度を超える高温で炭素素材を加熱する実験が行われました。従来の炭素素材は酸化して二酸化炭素になるため30秒ほどで少しずつなくなっていきましたが、GMSはほぼ量が変わらず、酸化に強く性能を維持できることが実証されました。GMSは酸やアルカリなどの化学的に悪さをする物質との反応性も低く、過酷な環境でも劣化しない特性を持っています。
特徴③:高出力を可能にするリチウム輸送能力
電球の明るさを比べる実験では、GMSを使った電池の方が明るく光り、プロペラを回すと残像が見えないほどのスピードで回転しました。これは電気の出力が強いことを示しています。
リチウムイオン電池は、リチウムと電子を動かすことで電気を生み出します。従来は炭素が電子を輸送する役割だけを担っていましたが、GMSは空洞構造によってリチウムも一緒に輸送できるのです。従来はリチウムが電池内で移動する際、様々な物質を避けながら動く必要がありましたが、GMSの空洞がトンネルのような役割を果たし、リチウムが素早く動けるようになります。
この技術により、EVの急速充電時間は現在の30分〜1時間から、10分〜15分程度にまで短縮される可能性があります。黒田CEOは「充電性能が2倍3倍くらいになってくる」と説明しており、充電ストレスからの解放が期待されています。
3DCの実用化スケジュール:2026年から段階的に市場投入
番組で明らかにされた実用化スケジュールは、驚くほど具体的で現実味のあるものでした。黒田CEOによれば、最も早い製品は2026年中にワイヤレスイヤホンなどの小型製品から市場投入が始まります。その後、ノートパソコンやタブレット、スマートフォンといった製品への採用が2027年〜2028年という時間軸で進められる予定です。
すでに具体的な動きも始まっています。電池市場は日本、中国、韓国のメーカーが99%を占めていますが、そのうちの約7割のメーカーで現在評価が進んでおり、早い企業では実際の機種に向けた採用検討が行われているとのことです。
量産体制についても着々と準備が進んでいます。3DCは2025年7月に24.5億円を資金調達し、累計調達額は53億円に達しました。2026年末には量産工場を稼働させる計画です。当初の予定を約1年前倒しする形での工場建設決定は、顧客側での評価進捗と旺盛な製品提供の引き合いを受けたものです。
黒田CEOは起業当初から「必ず模倣品が現れる」ことを想定し、量産のエキスパートを集めてスピード重視で事業を展開してきました。「これまでスタートアップとして色んな会社さんが踏んでしまった失敗」を教訓に、市場を確実に取りに行く戦略を立てているのです。
市場規模については、2032年時点で関連する炭素素材市場が約1兆3000億円に達し、そのうちハイエンド市場の30%である3000億〜4000億円規模が3DCのターゲットと見込まれています。スマートフォンなどのハイエンド製品は、電池を長持ちさせたいけれど長持ちする電池は膨らみやすいというトレードオフがあり、それを抑制できるGMSには大きな可能性があると黒田CEOは語っています。
超電動社会への備え:なぜ寿命100年の電池が必要なのか
「寿命100年の電池」と聞くと、無謀な目標に思えるかもしれません。しかし黒田CEOがこの目標を掲げる背景には、将来立ちはだかる大きな壁への備えがあります。それが「超・電動社会」の到来です。
番組で黒田CEOが説明した具体例が印象的でした。「電気自動車が自動運転化すると、これまで5%だった稼働率が30%、50%に上がってくる。電池の使用頻度が10倍になる。すると10年持たせようとするのにも、10倍長持ちする電池が必要になる」という指摘です。
現在のEVは駐車している時間がほとんどで、実際に走行している時間は全体の5%程度に過ぎません。しかし完全自動運転が実現すれば、EVは移動サービスとして1日中走り続けることになります。この稼働率の劇的な上昇は、電池への負荷を現在の10倍にまで高めるのです。
電池への負荷が増えるのはEVだけではありません。パソコンやスマートフォンも、AIによる高度な演算や大容量通信で消費電力は今以上に増加すると見られています。5G、6Gといった次世代通信技術の普及も、バッテリー消費を加速させる要因となります。
こうした巨大電力消費社会において、現在の電池技術では対応できません。頻繁に電池交換が必要になれば、資源の無駄遣いにもつながりますし、環境負荷も増大します。GMSによる電池の長寿命化は、持続可能な社会を実現するための必須技術なのです。
黒田CEOは「カーボンニュートラルな社会の実現のためには、電池は絶対必要なもの。まだまだ技術的に足りないところがたくさんある。電池の長寿命化を叶えることができるGMSは、問題解決のための鍵になる材料」と力を込めて語っています。エネルギーインフラの向上が世界全体の幸福度を高めることにつながるという、その信念が3DCの原動力となっています。
番組で相場英雄氏は「失われた30年とか言われてて、イノベーションって起きてないじゃないですか、日本発の」と指摘しました。これに対し黒田CEOは「我々の世代の起業家っていうのは成功する義務がある」と応じており、日本から世界を変える技術を生み出すという強い使命感が感じられました。
次世代電池への応用:全固体電池やリチウム空気電池での可能性
番組の中で相場氏が注目したのが、全固体電池へのGMS応用の可能性でした。全固体電池は、電池内部を液体から特殊な固体に置き換えることで急速充電や高出力化を可能にする次世代電池として、世界中が開発を急いでいる分野です。
黒田CEOの回答は明確でした。「リチウム空気電池ですとか、全固体電池のような次世代の電池になると、我々の材料が必須になる」。すでに日系の自動車メーカー複数社と韓国のメーカーから開発依頼を受けているとのことで、次世代電池の重要構成材料としてGMSが世界から注目されていることがわかります。
全固体電池が実用化されれば、EVの航続距離は飛躍的に伸び、充電時間も大幅に短縮されます。GMSがこの次世代電池の性能を支える材料となれば、自動車産業全体に与えるインパクトは計り知れません。
さらに番組では、電池の領域を超えた新たな産業への展開も示唆されました。GMSは「マイナス100度でも400度とか500度とかの環境でも柔らかさを保って壊れない」という特性を持っています。この極限環境での耐久性から、宇宙用途への応用可能性も指摘されており、電池以外の分野でもGMSの活躍が期待されています。
次回放送(2025年10月18日)では、経営者兼研究者として挑む黒田CEOの電池を超える新事業開拓や、起業時の家族との秘話なども明かされる予定です。妻から「私が一番嫌いなのは起業家だ」と言われながらも起業を決断した背景など、人間ドラマも交えた深掘り取材が期待されます。
まとめ
テレビ東京「ブレイクスルー」で紹介された黒田拓馬CEO率いる3DCのGMS技術は、リチウムイオン電池に革命をもたらす可能性を秘めています。電池の変形防止、酸化防止、高出力という3つの特徴により、寿命100年の充電池という夢の実現に向けて着実に歩みを進めています。
2026年からの実用化開始、電池メーカー7割での評価進行、次世代電池への必須材料としての期待など、具体的な動きが次々と明らかになっており、これは単なる研究段階の技術ではなく、すぐそこまで来ている未来なのです。
完全自動運転やAI社会の到来により、電力需要は飛躍的に増大します。その超電動社会を支えるインフラとして、GMSのような革新的な炭素素材の重要性はますます高まるでしょう。「失われた30年」と言われる日本から、世界を変えるイノベーションが生まれようとしています。
東北大学発ベンチャーとして、日本の材料技術を世界で初めて量産するという3DCの挑戦は、日本の製造業復活の象徴となるかもしれません。番組を通じて、GMSという新素材だけでなく、不屈の精神で未来を切り拓く開拓者の姿が印象的に描かれました。次回放送でさらに深掘りされる黒田CEOのビジョンと情熱に、引き続き注目が集まります。
※ 本記事は、2025年10月11日に放送されたテレビ東京「ブレイクスルー」を参照しています。
※ 株式会社3DC (3DC Inc.)の公式サイトはこちら
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