2025年12月6日放送のテレビ東京系「ブレイクスルー」で特集されたVALT JAPAN CEO・小野貴也氏。障害者雇用とITビジネスを融合させ、深刻化する人材不足の解決に挑む革新的なビジネスモデルとは?この記事では、番組で紹介されたDIC丸の内の実態から、三菱地所との大型提携、そして小野氏が掲げる「意思のある可能性を信じ続ける」という信念まで、その全貌を詳しく解説します。
VALT JAPAN小野貴也とは?障害者雇用×ITで挑む人材革命
VALT JAPAN株式会社のCEO・小野貴也氏は、1988年生まれ、大分県出身の起業家です。大学卒業後、塩野義製薬(シオノギ製薬)にMR(医薬情報担当者)として入社し、精神疾患などの新薬を扱っていました。
転機となったのは、26歳の時に参加した患者会でした。小野氏が販売していた薬で症状が改善した患者たちが、それでもなお「就職できない」「仕事がうまくいかない」という現実に直面していたのです。この衝撃的な事実が、小野氏の人生を変えました。
「医薬品では解決できない、この就労困難者問題に人生かけて取り組みたい」——2014年、小野氏は製薬会社を飛び出し、就労支援施設を運営するVALT JAPANを起業しました。
現在、日本には障害や難病などで働く意志がありながら就労が困難な「就労困難者」が約1,500万人存在すると言われています。特に精神障害や発達障害のある人は約600万人にのぼり、この20年で2倍以上に急増しました。見た目では分かりにくいこれらの障害を持つ人々の増加が、今、深刻な社会問題となっているのです。
小野氏が目指すのは、こうした就労困難者をデジタル人材として発掘し、深刻化するIT人材不足という社会課題との同時解決です。障害者雇用と成長産業であるITビジネスを融合させるという、これまで「水と油」とも言われた二つの領域を結びつける革新的な挑戦なのです。
DIC丸の内の特徴:デジタル特化型就労支援施設の実態
2025年2月、小野氏が三菱地所と共同で東京・大手町に開設したのが「デジタルイノベーションセンター丸の内(DIC丸の内)」です。デジタル領域に特化した就労継続支援A型事業所としては、東京23区で初となる画期的な施設です。
DIC丸の内の最大の特徴は、20代から30代のデジタルネイティブ世代に焦点を当てている点です。働いているのは精神障害や発達障害のある人たちで、開所から半年で利用者は30人まで増加しました。
施設内は一般的な福祉施設のイメージとは大きく異なります。大手町駅直結のハイテクでおしゃれな空間に、一人一台のパソコンが配備され、まるでIT企業のオフィスのような環境が整っています。
ここで行われている業務は、主に以下の3つです。
1. AIを活用したアプリ開発
番組では、発達障害のある20歳の利用者が、AIに日本語で指示を出すだけでプログラムを自動生成し、わずか10数秒でカウンターアプリを完成させる様子が紹介されました。驚くべきことに、この利用者はわずか4ヶ月前までプログラミング初心者だったといいます。「AIが先生」と語るように、生成AIを活用することで、高度な技術を短期間で習得できるのです。
2. 動画編集
企業によるSNSや配信サイトを活用したプロモーションが増える中、動画編集の需要も急増しています。
3. EC事業の商品情報掲載
ふるさと納税の盛り上がりもあり、自治体からネット通販サイトの商品情報掲載を代行する依頼が増えています。宮崎県延岡市の一次産品に特化したEC事業など、地方自治体との連携も進んでいます。
重要なのは、これらの業務が初心者でも取り組みやすい入り口から、高度なシステム開発まで幅広く用意されている点です。番組で作家の相場英雄氏が「僕でもできた」と驚いたように、段階的にスキルアップできる仕組みが整っているのです。
また、元々ITスキルが高かった人も少なくありません。53歳の双極性障害の利用者は、以前デジタル系の仕事をしていましたが働きすぎて体調を崩し、DICで社会復帰のきっかけを掴んでいます。「チャンスは1回じゃない」という小野氏の言葉通り、一度休んでしまった人にも力強い一歩を踏み出せる機会を提供しているのです。
就労困難者をIT人材に育てる独自ビジネスモデルとは
小野氏がデジタル分野に特化した理由は明確です。精神障害や発達障害のある人は20代から40代前半の若い世代に集中しており、まさにデジタルネイティブ世代なのです。
従来の就労支援事業では、清掃や軽作業など非デジタルの業務が中心でした。しかし、小野氏は「非デジタルは手を動かした分しか生産ができない。でもデジタルはボタン一つでとんでもないパフォーマンスが出る世界」と指摘します。つまり、デジタル業務にはレバレッジ(てこの原理)が効くのです。
さらに、IT人材は2030年には79万人不足すると推計されており、需要は確実に存在します。この人材不足という社会課題と、就労困難者という眠れる人材をマッチングすることで、双方にとってウィンウィンの関係を構築しているのです。
ここで重要なのは、VALT JAPANが単なる福祉事業ではなく、ビジネスとして成立させている点です。番組で相場氏が「福祉を食い物にしてんじゃないか」「補助金抜いてんじゃないか」という厳しい視点から質問したのに対し、小野氏は明確に答えています。
就労支援事業の収益構造は、運営費の半分は国の補助金ですが、残りの半分以上は民間企業から受注した業務の利益で賄わなければなりません。つまり、質の高いサービスを提供できなければ収益も下がり、一般的なビジネスと同じ競争原理が働くのです。
小野氏は「特に就労支援業界は、日本の労働市場のインフラになると思っている」と語ります。医療や介護と同じように、社会に必要不可欠な仕組みとして、新しい日本の経済を生み出すことを目的としているのです。
収益は全国平均の2倍超:就労支援事業の新たな経済性
DIC丸の内の経済性は、番組で公開されたデータからも明らかです。
従来の就労支援施設:利用者一人当たり月次売上 4万1,667円
DIC丸の内:利用者一人当たり月次売上 9万5,227円
なんと、全国平均の2倍以上の収益を上げているのです。この数字は厚生労働省の資料を基に算出されたもので、デジタル業務に特化することで受注が拡大し、「就労支援事業の域を超えて、一般的なビジネスの競争市場で十分戦える経済性が成立している」と小野氏は自信を見せます。
この高い収益性が実現できる背景には、以下の要因があります。
- 成長産業への特化:IT業務は需要が急増しており、単価も高い
- レバレッジ効果:デジタル業務は生産性が高く、少ない時間で高い付加価値を生み出せる
- 即戦力の発掘:元々ITスキルを持つ人材や、AIを活用して短期間でスキルアップできる人材を活用
さらに重要なのは、この収益が利用者への賃金として還元されている点です。高い経済性を実現することで、働く人たちにより良い報酬を提供し、真の社会復帰を後押ししているのです。
小野氏の「社会性と経済性の両立」という理念は、まさにこの数字に表れています。福祉だから赤字でも仕方ないという考えを排し、ビジネスとして成功させることで、持続可能な仕組みを作り上げているのです。
三菱地所との提携で全国展開へ:橋本雄太氏が語る連携の意義
2024年1月、不動産大手の三菱地所がVALT JAPANに出資しました。三菱地所のCVCファンド「BRICKS FUND TOKYO」による出資額は、他の大企業も含めて総額17億円に達しています。
番組では、三菱地所 新事業創造部の橋本雄太氏が連携の意義を語っています。「単純にこのオフィスをお貸しするということだけではなく、丸の内に新しい人材プールを作っていきたい。この人材プールを丸の内あるいは大手町エリアの企業の皆さんが使っていただいて、新しい社会インフラを作っていきたい」
三菱地所の狙いは明確です。同社が持つ物件のテナント企業にDICで育成された人材を送り込めれば、契約の維持や獲得にもつながります。さらに、企業は法律により従業員全体の2.5%以上の障害者雇用が義務付けられていますが、達成している企業は半分以下という現実があります。即戦力となる人材を創出するDICへの期待は非常に大きいのです。
そして今後の計画がさらに壮大です。VALT JAPANと三菱地所は、5年間で全国に20カ所以上のDICを展開し、約1,000人規模の雇用を創出する予定です。DIC丸の内を皮切りに、障害者の新たな活躍モデルを全国に広げていく構想なのです。
小野氏が大企業との連携にこだわる理由も明確です。「法定雇用率を達成するためだけに雇用するのではなく、2.5%を達成したらそれでいいのかという話。ボーダレスに、普通に数値関係なくいい人材いたら採ればいいじゃん、っていうことが理想」と語ります。
最も仕事の需要があり、人材に対する投資ができるのは、デジタル領域であり、上場企業・大手企業です。彼らと組むことで、障害の有無に関係なく能力で評価される社会を実現しようとしているのです。
小野貴也が掲げるブレイクスルー「意思のある可能性を信じ続ける」
番組の最後、小野氏は自身にとってのブレイクスルーを次のように定義しました。
「意思のある可能性を信じ続けること」
この言葉は、就労困難者だけを指しているのではありません。新しい挑戦にはリスクが伴い、覚悟が必要です。「だけどやらなければならないよね」という使命感を持ち、うまくいかなくても信じ続け、改善し続け、投資し続け、やり続けることが、新しい経済を生み出すのだと小野氏は語ります。
この信念は、小野氏自身の起業当初の経験からも裏付けられています。最初の10年間は一般的な支援施設を運営し、「もうほとんど記憶がない」というほど365日フル回転で働き続けました。前例がない中、「誰かがとんでもないリスクを背負って、これが正解なんだっていう実績を出さないと、物事動かない」という使命感で突き進んできたのです。
番組で相場氏が投げかけた厳しい質問も印象的でした。「今、日本の社会ってすごく暗くて、政治がガタガタしてるし、経済もこんな波がある。心の病む人ってやっぱ増えると思う。御社のビジネスの拡大と、しんどいなって感じる方の増加ペースと、釣り合いますか?」
小野氏の答えは明快でした。「全然間に合わないと思います」
だからこそ、大手企業、ベンチャー企業、自治体、国——全てのステークホルダーと力を合わせて、このモデルを広げていくことが大切だと訴えます。鎌倉市から就労支援事業を受託するなど、自治体との連携も既に始まっています。
まとめ
テレビ東京系「ブレイクスルー」で紹介されたVALT JAPAN CEO・小野貴也氏の挑戦は、障害者雇用とITビジネスという二つの社会課題を同時に解決する革新的なモデルです。
DIC丸の内での実績は、就労困難者がデジタル人材として十分に活躍できることを証明しました。全国平均の2倍を超える収益性は、福祉とビジネスの両立が可能であることを示しています。
三菱地所との大型提携により、今後5年間で20カ所以上の施設を全国展開し、1,000人規模の雇用を創出する計画は、まさに日本の労働市場に新たなインフラを構築する壮大な挑戦です。
「意思のある可能性を信じ続ける」——小野氏のこの言葉は、就労困難者の可能性だけでなく、社会課題解決とビジネスの両立という困難な道を歩み続ける起業家自身の覚悟でもあります。
深刻化する人材不足と障害者雇用という二つの課題が交差する今、VALT JAPANのモデルは、誰もが能力を発揮できる新しい社会の可能性を示しているのです。
※ 本記事は、2025年12月6日放送(テレビ東京系)の人気番組「ブレイクスルー」を参照しています。
※ VALT JAPAN株式会社の公式サイトはこちら





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