美容やダイエット、がん治療など、自由診療と呼ばれる保険適用外の医療サービスを提供する美容クリニックが近年急増しています。一方で、自由診療をめぐるトラブルの相談件数も増加の一途をたどり、2023年には約6,000件に上っています。本記事では、「クローズアップ現代」(2024年5月29日放送-NHK)の内容を踏まえ、自由診療ビジネスの「闇」や美容・健康トラブルの深刻な実態、医師の名義貸し問題など水面下で起きている事実をお伝えします。自由診療を適切に選択し、安全で質の高い医療を受けるためのポイントも解説しますので、ぜひご一読ください。
自由診療ビジネスとは?美容・健康トラブル急増の深層
近年、美容医療やダイエット、抗がん治療などの自由診療サービスを提供する美容クリニックが急増しています。自由診療とは、保険適用外の医療行為を指し、患者が全額自己負担で受けるものです。このような自由診療ビジネスの裏側には、深刻な問題が潜んでいるようです。
2023年度、全国の消費生活センターに寄せられた自由診療をめぐるトラブルの相談件数は約6,000件に上り、5年前と比べて3倍近く増加しています。具体的な事例をいくつかご紹介します。
40代女性は、高濃度ビタミン点滴の広告を見て某美容クリニックを受診しましたが、点滴直後から激しい腹痛と吐き気に見舞われ、意識が朦朧となり救急搬送されたといいます。20代男性は、通っていた脱毛クリニックが突然閉院し、支払った20万円の契約金が返金されていないと訴えています。
このように、効果の過剰な説明や債務整理、突然の閉院などのトラブルが後を絶ちません。自由診療ビジネスが拡大する背景には、法的な規制が昔ほど厳しくなく、過剰な営利を追求しやすい状況があるからだと指摘されています。
一般社団法人が運営する美容クリニックの急増と課題
特に問題視されているのが、一般社団法人が運営する美容クリニックの急増です。私たちの調査では、2024年現在、そうしたクリニックは298件に上り、5年前に比べ6倍に増えていることがわかりました。そのうち6割以上が自由診療を行っていました。
一般社団法人は、医師以外の異業種の人間が経営に参入できる点が危険視されています。医療の安全より利益を重視するがゆえに、診療内容の質が疎かになる恐れがあるからです。
実際、私たちの取材では、飲食店のオーナーが医師30人近くを集め、美容外科やレーザー脱毛などを行うクリニックがあり、そこで働く医師の大半が小児科や放射線科の医師で美容医療未経験者だったことが明らかになりました。
また、一般社団法人のクリニックは報告義務がなく、監督官庁もありません。保健所の審査でも、必要書類さえ整えば許可は下りてしまうため、十分な安全性の担保が難しいと指摘されています。
名義貸しの実態と医師の待遇問題
さらに深刻なのが、法令違反の「医師の名義貸し」問題の実態です。クリニックには医師の管理者が必須ですが、実際には別の病院の医師が名義だけを貸し、ほとんど出勤していないケースが多発しているのです。
私たちが接触した医師の中には、「名目上は管理者だが一度も出勤していない」と証言した人も複数いました。このような名義貸しを持ちかけられた経験のある医師も10人以上に上りました。中には大学院生が名義を貸しているケースもあり、医師不足が背景にあると指摘されています。
要因の1つとして、若手医師の低賃金が挙げられます。大学病院勤務の若手医師は、月収10万円程度と生活が苦しく、場合によっては自由診療に転向せざるを得ないケースもあるようです。先月には、保険診療の現場の労働環境改善を求める医師の団体が立ち上がりました。
医療現場の構造的な問題を抜本的に解決し、高度医療を支える人材を確保することが急務と言えそうです。
自由診療の適切な選択と医療トラブル時の対応
自由診療自体が悪いわけではありませんが、安全性と倫理性が損なわれてはいけません。新たな医療技術の取り入れ時に、自由診療が一定の役割を果たすことは事実です。ただし十分な根拠に基づかない治療や、過剰な広告宣伝は慎まなければなりません。
患者自身も冷静に、安全性と妥当性を見極める姿勢が重要です。医療機関の説明を鵜呑みにせず、周囲と相談しながら適切な治療を選ぶ努力が求められています。もしトラブルに遭った場合は、医療安全支援センターや消費者ホットラインなどに相談することが賢明でしょう。
政府も自由診療の実態を把握し、ガイドライン遵守の監視や、一般社団法人に対する指導監督を強化する必要があります。医療は利益追求の対象となってはならず、患者の命と安全を守る最優先の使命があるはずです。
まとめ
アンチエイジングや美容目的の自由診療ビジネスが急拡大する中、美容・健康被害の相談件数が増加の一途をたどっています。一般社団法人運営の美容クリニックでは、医師の名義貸しや、未経験の異分野医師の起用など、重大な安全性への懸念があります。
若手医師の低賃金により、自由診療への転向が後を絶たず、医療現場の構造改革が課題となっています。国を挙げて、自由診療の適正化に取り組む必要があります。患者一人ひとりも冷静な姿勢を忘れずに、医療機関の提案をいったん疑う目を持つことが大切です。安全で質の高い医療を享受するため、すべての関係者の努力が求められています。
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