2024年1月16日放送(テレビ東京系)の「カンブリア宮殿」で注目を集めた二軒茶屋餅角屋本店。創業1575年の老舗餅店が、クラフトビール事業に参入し世界的な評価を獲得するまでの道のりをご紹介します。21代目となる鈴木成宗社長が率いる伊勢角屋麦酒は、世界11カ国での展開を実現し、年間売上高14億円を目指すまでに成長。450年続く老舗企業の革新的な戦略と挑戦の軌跡に迫ります。
二軒茶屋餅角屋本店21代目が語る伊勢角屋麦酒の成長戦略
三重県伊勢市に本社を構える二軒茶屋餅角屋本店が手がける伊勢角屋麦酒は、日本のクラフトビール業界をリードする存在として注目を集めています。伝統的な餅製造から、クラフトビール製造への大胆な事業転換を成功させ、世界的な評価を獲得するまでに至った背景には、21代目社長・鈴木成宗氏の明確なビジョンと革新的な経営戦略がありました。
二軒茶屋餅角屋本店の歴史と鈴木成宗社長の決断
二軒茶屋餅角屋本店は、織田信長が武田軍を破った長篠の戦いの年である1575年に創業しました。伊勢神宮の参道近くに位置し、餅の皮でこしあんを包み、きな粉をまぶした伝統的な「きな粉餅」で知られる老舗です。
1967年に21代目として生まれた鈴木成宗氏は、幼少期から生物や微生物に強い興味を持ち、東北大学農学部で研究に没頭。卒業後、家業を継ぐために伊勢に戻りましたが、同じ製法を450年間継続することへの疑問を感じていました。
そんな中、1994年の酒税法改正により、小規模なビール製造が可能になったことを知った鈴木氏は、年商の倍となる2億円を投じてビール事業への参入を決断。微生物を扱う経験と知識を活かせる新事業として、クラフトビール製造への挑戦を始めたのです。
伊勢角屋麦酒のクラフトビール事業への参入と苦難
クラフトビール事業の立ち上げ当初、二軒茶屋餅角屋本店は90年代の地ビールブームに乗って順調なスタートを切りました。しかし、その後客足は急激に減少。鈴木社長は3年間給与を受け取れないほどの厳しい経営状態に直面し、東京出張時には夜行バスを利用するなど、徹底的なコスト削減を強いられました。
その中で転機となったのが、外食ビジネスの経験豊富な元岡健二氏との出会いでした。元岡氏は、リンガーハットの全国展開を手掛けた実績を持つプロフェッショナル。鈴木社長が思い詰めた様子で相談に訪れた際、会社の隅々にまで目を配る大切さや、経営の基本を一から指導してくれました。
世界が認めた伊勢角屋麦酒のクラフトビール戦略
高学歴ブルワーが支える研究開発体制
伊勢角屋麦酒の強みは、高度な研究開発体制にあります。研究開発部門には修士号以上の学位を持つスタッフが揃い、京都大学大学院出身の山宮拓馬氏や一橋大学出身の馬場建吾氏など、高学歴の若手人材が集まっています。
自社で50種類以上の酵母を培養し、30種類のホップ、15種類の麦芽を組み合わせることで、無限の風味を生み出すことを可能にしました。この科学的なアプローチは、中小メーカーとしては極めて珍しい取り組みとされています。
30種類以上の多彩な商品展開
商品ラインナップは30種類以上に及び、一般向けの定番商品から、マニア向けの限定商品まで幅広く展開しています。定番商品の「ペールエール」(396円)は、手頃な価格ながら国際的な賞を三度受賞。一方、「脳がとろけるウルトラヘブン」(通称:脳トロ)は、アルコール度数10%の強さと5種類のホップによる鮮烈な香りで、世界最高峰のアワードで金賞を獲得しました。
また、「カドラボ」シリーズでは、750ml約3,000円という高価格帯ながら、野生酵母を使用した独創的な製法で、マニア層からの支持を集めています。新商品の投入ペースも早く、平均して月に3種類が入れ替わる活発な商品展開を行っています。
世界11カ国での展開戦略
現在、伊勢角屋麦酒の製品は世界11の国と地域に輸出され、アジアでの現地生産も開始。年間出荷量はレギュラー缶(350ml)換算で約500万本に達し、30年前には8,000万円程度だった売上高は、現在では14億円に迫る規模にまで成長しています。その売上高の95%がクラフトビール事業によるものです。
鈴木成宗社長が実践する経営改革
社員全員参加型の経営体制
元岡氏との出会いを機に、鈴木社長は経営改革に着手。その一つが、社員一人一人が経営者としての視点を持つ「全員経営」の導入です。半年に一度開催される実行計画策定会議では、パート社員を含む全社員が参加し、売上目標の設定から具体的な達成プランまでを話し合います。
この取り組みにより、社員たちは会社のビジョンや目標を共有し、自分たちの役割を明確に理解。それぞれが経営に参画しているという意識が芽生え、真のチームワークが形成されていきました。
品質へのこだわりと決断力
2018年、新工場建設による量産体制への移行時には、大きな試練に直面しました。新しい設備での製造において、鈴木社長の品質基準を満たさないビールが製造されてしまったのです。社長は4,000リットルのタンク2本分(約1万8,000缶分)という大量のビールの廃棄を決断。この出来事は、品質に対する揺るぎない信念を全社員に示すことになりました。
現在も「国際大会で受賞できるレベルでなければ出荷しない」という厳格な基準を持ち、特に酵母の健康状態や発酵状態には細心の注意を払っています。
伊勢角屋麦酒の挑戦
首都圏戦略と店舗展開
情報発信の重要拠点として、首都圏での展開に注力しています。2024年末までに、都内3店舗目となる丸ビル店をオープン。外食企業のアクアプランネットと提携し、三重県産の食材を活かした和食とクラフトビールのペアリングを提案しています。
企業コラボレーションの展開
JR東日本との協業で東京駅開業110周年記念ビールを製造するなど、大手企業とのコラボレーションも積極的に展開。また、イオンなどの大手小売チェーンとも連携し、クラフトビールの普及に努めています。
まとめ
二軒茶屋餅角屋本店は、450年の歴史を持つ老舗でありながら、新たな挑戦を恐れない革新性を持ち合わせています。伊勢角屋麦酒として展開するクラフトビール事業は、世界的な評価を獲得し、確固たる地位を築きました。
鈴木成宗社長は「伊勢の名を冠する以上は、世界に通用するものでなければならない」という強い信念のもと、科学的なアプローチと品質へのこだわり、そして社員一人一人の力を結集した経営で、さらなる成長を目指しています。伝統と革新が融合した伊勢角屋麦酒の挑戦は、まだまだ続いていきます。
※本記事は、2024年1月16日放送(テレビ東京系)の番組「カンブリア宮殿」を参照しています。
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