滋賀県草津市に拠点を置くベンチャー企業「人機一体」が開発する人型ロボットが、いま大きな注目を集めています。同社の金岡博士(本名:克弥)が掲げる「2039年末までに世界からフィジカルな苦役をなくす」というビジョンの実現に向けて、着実な一歩を踏み出しています。
人型ロボット開発の第一人者・金岡博士が描く未来とは
元々ロボット工学の研究者だった金岡博士が「人機一体」を設立したのは2015年のことです。その背景には、2011年の東日本大震災での原発事故があります。当時、実用的なロボットが存在しなかったために人間が危険な作業を行わざるを得なかった現実が、博士の心に大きな衝撃を与えました。この経験から、人間の代わりに危険な作業を行えるロボットの実用化と普及を目指すようになりました。
人機一体が開発した「零式人機ver.2.0」の驚くべき性能
同社が開発した「零式人機ver.2.0」は、人が操縦する人型上半身を持つロボットです。高所作業車の先端に設置され、VRゴーグルと専用の操縦システムを使用して操作します。このロボットの特徴は、人が加えた力を数十倍に増幅できる点です。例えば、20キロの鋼材を軽々と持ち上げることができます。
さらに注目すべきは、その繊細な動きです。7つの関節ユニットを備えた腕は、数センチメートル単位の精密な作業が可能で、生卵をつかむような繊細な動作まで実現できます。操縦も直感的で、およそ100人中99人が操作可能とされています。
JR西日本が導入を開始!人型ロボットの実用化への第一歩
2024年7月、JR西日本が「零式人機ver.2.0」の導入を開始しました。主な用途は、線路上の鉄骨塗装作業や、電線に接触する危険性のある樹木の伐採です。JR西日本の梅田善和氏によると、この導入により作業員の墜落や感電リスクを大幅に低減でき、さらに労働力も約3割削減できる見込みだといいます。
次世代機「零一式カレイドver.1.1」が切り開く二足歩行の可能性
金岡博士は現在、さらに野心的なプロジェクトに取り組んでいます。それが二足歩行ロボット「零一式カレイドver.1.1」の開発です。このロボットの特徴は、人間が操縦することで未知の状況にも臨機応変に対応できる点です。特に電力分野での活用を視野に入れており、形状の異なる鉄塔にも対応できる柔軟性を備えています。
現在は1メートル歩行するのに数分かかりますが、大手電力会社からすでに引き合いがあるといいます。
なぜ金岡博士は2039年にこだわるのか?東日本大震災から始まった想い
金岡博士が掲げる2039年末という期限には、二つの意味が込められています。一つは、1969年末までに人類を月に送ることを実現したアポロ計画への敬意。もう一つは、博士自身が現役でロボット開発に取り組める期限だといいます。
博士は、将来的にそろばんでの計算が不要になったように、危険で過酷な肉体労働もロボットが担う時代の実現を目指しています。
「教科書通りに愚直にやること」で目指す現代の魔法使い
金岡博士は自身を「魔法使いになりたい」と表現します。それは単なる夢物語ではありません。「十分に発達した科学は魔法と区別がつかない」というSF作家の言葉を引用しながら、現代の科学を突き詰めることで魔法のような技術を実現できると考えています。
その実現のために博士が重視するのが「教科書通りに愚直にやること」です。ロボット工学には莫大な知識が蓄積されているにもかかわらず、実用化が進んでいない現状があります。その打開策として、基礎に立ち返り、教科書の理論を愚直に実践することこそが重要だと説きます。
まとめ:人機一体が描く2039年のロボット社会
人機一体が目指すのは、決して人間の仕事を奪うことではありません。危険で過酷な作業からの解放を実現し、より安全で効率的な社会を作ることです。JR西日本での導入開始は、そんな未来への確かな一歩と言えるでしょう。
金岡博士の「教科書通りに愚直にやること」という言葉には、科学技術の基礎に忠実であることの重要性と、それを通じて革新を起こすという逆説的な真理が込められています。2039年に向けて、人機一体の挑戦は続きます。
※本記事は、2024年11月16日放送(テレビ東京系)の番組「ブレイクスルー」を参照しています。
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