2025年10月16日放送の「カンブリア宮殿」で、物価高の中でも急成長を続けるスリーコインズの成功の秘密が明かされました。運営会社パルの小路順一社長が語る「おもろい人」を活かす経営哲学と、アパレルのノウハウを雑貨に応用した独自戦略は、これからのビジネスに大きなヒントを与えてくれます。この記事では、5年で売上2.8倍を達成した具体的な手法と、その背景にある人材活用術を詳しく解説します。
スリーコインズ(パル)が急成長する3つの理由とは
物価高が続く今、100円ショップをはじめとした均一ショップ市場は1兆円を超える規模に成長しています。しかし、多くの企業が円安や賃金上昇で苦戦する中、スリーコインズだけが圧倒的な成長を遂げているのです。
その理由は、運営会社パルが本業のアパレルで培ったノウハウを、雑貨業態に巧みに応用している点にあります。パルは50のブランドを展開するアパレル企業で、売上高は2000億円を超える巨大グループ。このアパレルの強みを活かした「パル流アパレル方式」こそが、スリーコインズの成功を支えているのです。
具体的には、①月700以上の新商品投入による鮮度管理、②ヒット商品の継続的な進化、③社内インフルエンサーによるSNS発信、という3つの戦略が柱となっています。これらの手法により、スリーコインズの売上は5年前の約3倍となる709億円まで伸び、店舗数も直近5年で約7割増加し、47都道府県すべてに出店を果たしました。
小路順一社長は「店頭の鮮度が今一番重要」と強調します。定番商品が多い雑貨業界でも、新鮮さが顧客の来店頻度を高める鍵になると確信しているのです。
パル流アパレル方式①:月700商品投入で店頭に常に鮮度を
アパレル業界では一般的に季節ごと、つまり3ヶ月に1回のペースで商品を入れ替えていきます。しかしパルは特に入れ替えサイクルが早く、「4週間MD(マーチャンダイジング)」という方針を採用。店頭に並ぶ商品の賞味期限はわずか1ヶ月間なのです。
この方式をスリーコインズにも徹底して適用した結果、毎月700以上の新商品が投入されることになりました。これは18人のバイヤー一人あたり、単純計算で月38個、つまり毎日1つ以上新たに生み出さなければならない計算です。
バイヤーの久守阿斗沙さんが手掛けた「吸水アームバンド」は、自身が洗顔時に腕に水が垂れるストレスを感じたことがヒントとなり、累計販売数200万個以上の大ヒット商品となりました。久守さんは日頃感じたことをその場ですぐメモに残すことを習慣にしており、日常生活の些細なヒントから次々と商品開発に繋げているのです。
この戦略には明確な狙いがあります。小路社長は「欲しいと思ったその時に買わないと、次来た時にはもうない」という状況を意図的に作り出しているのです。実際、ファンの間では「いいなと思ったら買わないと、次はない」という認識が広がっており、来店頻度の向上に繋がっています。
パル流アパレル方式②:ヒット商品も毎年必ず進化させる戦略
スリーコインズでは、どれだけ売れたヒット商品でも翌年は同じものを出さないよう徹底しています。これは小路社長がアパレルで何度も経験した失敗から学んだ教訓です。
「去年売れたものに執着するケースがあるが、全く売れない。去年と同じものはもうやるな」と小路社長は語ります。この反省を活かし、必ず行っているのが商品のブラッシュアップです。
代表的な例が、夏の大人気商品である首かけ式のミニ扇風機です。2023年モデルは風量調節だけのシンプルな作りでしたが、2024年には収納できるよう形を変えて軽量化を実現。さらに2025年モデルでは冷却プレートを追加し、下からの風と首元の冷却プレートという二重の涼感を提供する進化を遂げました。
バイヤーの堀内しおりさんは「売れているいいところを詰め込んで新しく商品化した」と説明します。この姿勢が、リピーターを飽きさせず、常に「今年は何が新しくなったのか」という期待感を持たせることに成功しているのです。
ファッション業界では「賞味期限が一番短い業種」だからこそ、常に新しさを追求する文化が根付いています。その感覚を雑貨業界に持ち込んだことが、スリーコインズの強みとなっているのです。
パル流アパレル方式③:社内インフルエンサー制度で顧客獲得
アパレル業界では今や、スタッフがSNSアカウントで商品をPRするのが一般的になっています。パルでも「社内インフルエンサー制度」を導入し、各ブランドにSNS専門のスタッフを配置しています。
スリーコインズでは、39万人以上のフォロワーを持つjunkoさんをはじめとする約70人の社内インフルエンサーが登録されており、総フォロワー数は約85万人にも達します。彼女たちは開店前にインスタのライブ配信を行い、新商品を詳しく紹介しています。
junkoさんは「スリーコインズはセルフ物販なので、アパレルと違ってお客様にご提案する機会がなかなかない。ライブならではでお客様と接して接客ができるツール」と語ります。商品の使い方や裏技的な活用法まで紹介することで、店頭では伝えきれない価値を発信しているのです。
こうした発信力を持つスタッフが生まれるのは、社内での教育に力を入れているからです。各ブランドには投稿内容をチェックし、改善点を指導する担当者がおり、投稿頻度はもちろん、写真や動画の撮り方まで細かく指導しています。
小路社長は「身近な人が発信した方が、お客様はすごく身近に感じて参考にしていただける」とリアルの重要性を強調します。一方で、発信者が増えると炎上リスクも高まるため、ウェブ推進室が常にパトロールとチェックを行う体制を整えています。「やる前からダメと言ったら広がらない。まずは自由にやらせて、そこからチェックしていく」という方針が、自由と責任のバランスを保っているのです。
小路順一社長が重視する「おもろい人」の本当の意味
小路順一社長(62歳)が会議や商品企画で決まって口にする言葉があります。それが「おもろい」です。「おもろいっすよ」「あれはおもろい」と連発する小路社長ですが、この「おもろい」という言葉には深い意味が込められています。
創業者の井上英隆氏から教わった最も大切な教えが「おもろい奴を登用しろ」というもの。そして小路社長は強調します。「『おもしろい奴』と『おもろい奴』は違うんです」と。
「おもろい人」とは、常識や前例にとらわれずに新しいアイデアを考え、それを他人にしっかり伝える力を持った人のこと。「去年までこうだったからこうしましょう」ではなく、「去年はこうだったけど、今年は面白いからこうしようぜ」と言える人間を指します。ある意味、はみ出し者的な要素を持つ人材なのです。
東京出身の小池栄子さんが「『おもろい』と『おもしろい』ってどう違うんだろう」と質問したのに対し、小路社長は「めちゃくちゃ深い言葉」と答えました。大阪弁特有のニュアンスを含む「おもろい」は、単なる面白さではなく、既成概念を打ち破る創造性と実行力を兼ね備えた人物像を表しているのです。
小路社長自身も31歳の時に新ブランド「ルイス」の立ち上げを提案し、採用されています。「時代時代の格好いいあこがれる男性像の店にしよう」というコンセプトで始まったこのブランドは、小路社長にとって「おもろい人」として認められた証でもありました。
村上龍さんからの「おもろい人って危険じゃないですか」という指摘に対し、小路社長は「おっしゃる通り。これこそトップダウンで引き上げるしかない。中間管理職は絶対引き上げたがらない。扱いにくいから」と正直に答えています。組織の中で異端を活かすには、トップの強い意志が必要だという現実を物語っています。
出る杭を引き抜く!創業者・井上英隆氏から受け継ぐ人材戦略
パルの創業は1973年、大阪の堺市に井上英隆氏が開いた小さなジーンズショップ「パル青山」から始まりました。その後、海外で人気の洋服を仕入れるセレクトショップとして徐々に店舗数を拡大し、現在は売上2000億円を超える巨大グループに成長しています。
創業者の井上氏が作り上げた独特の企業文化が、今もパルの強みとなっています。小路社長は「1代で自分で社長になった人は、周りにイエスマンを作った方が楽。でも創業者は、何か意見や文句を言ってくれる奴を重宝していた」と振り返ります。
パルの手掛けるブランドのほとんどは、やる気のある若手スタッフの発案から始まったものです。1店舗作るだけでも保証金など億単位のお金がかかるにも関わらず、創業者はそこに投資してきました。「失敗したらものすごく損するが、チャレンジしないと成長しない」という信念があったからです。
この文化を象徴するのが「出る杭は引き抜く」という方針です。一般的な日本企業では「出る杭は打たれる」と言われますが、パルでは逆に「引き上げる」のです。中途採用でスリーコインズのバイヤーとなった乾奈緒美さんは、どんな企画でも決してダメと言われず、ほぼ必ず商品化まで行き着くことに驚いたと言います。
さらに印象的なエピソードがあります。小路社長が赤字のアクセサリーブランド立て直しを任された際、ある店舗を視察すると、アルバイト店員が「アクセサリーより自分たちでバッグを作った方が良いんじゃないですか」とずけずけ物を言ってきました。普通なら生意気と思われる発言ですが、小路社長は「おもろいこと言うね。じゃあ、やってみる?」とその場でアルバイトをデザイナーに抜擢したのです。
そのスタッフは「USAGIバッグ」や樹脂パーツトートバッグなど大ヒット商品を次々と生み出し、ブランドを人気店に生まれ変わらせました。「普通の会社は前例がないから『やめとけ』と言う。アルバイトに任せたら大変だと。それをやらせる社風がパル」と小路社長は誇らしげに語ります。
評価制度も独特で、「加点主義」を採用しています。減点主義ではなく、できないことをどうこう言うよりも、できることをどんどん加点していく。「おもろい奴」は欠点もいっぱいあるが、加点していくことでその人たちが上に上がってくるのです。
年2回実施される「拝啓社長殿」という制度も特徴的です。全社員が社長に直筆の手紙を書き、上司の評価や提案、やりたいブランドなどを直接伝えることができます。上司に言いにくいことも書ける欄があり、小路社長は「書ける奴は割と面白い奴が多い」と語っています。トップと現場が直接つながるボトムアップの仕組みが、組織の風通しを良くしているのです。
ちなみに、パルの新卒初任給は30万円。人材への投資を惜しまない姿勢がここにも表れています。
値上げ断行でも利益率が2.7%→6.9%に改善した理由
2024年に社長に就任した小路氏を待ち受けていたのは、大きな難題でした。スリーコインズの売上は伸びていましたが、営業利益率は前年度と比べ半減していたのです。原因は円安の進行。商品の多くが海外製造だったため、コストが大幅に増加していました。
そこで小路社長は就任早々、大きな決断を下します。値上げです。しかし、ただ値上げしたわけではありませんでした。必ず商品に新たな付加価値を加えることを徹底したのです。
例えば、トラベルコーナーで人気の折りたたみ式バッグは、1100円から1650円へ550円値上げしました。その際、両サイドに飲み物が入るポケットを追加し、サイズを一回り大きくして、生地もよりシワになりにくいものに変更しています。
バイヤーの久守さんは「ただちょっと値上げするのは、バイヤー魂として許せない。やっぱり何かしらプラスアルファしないとお客様に顔向けできない」と語ります。この姿勢が、値上げ後も売上を落とさず、利益率の大幅改善につながったのです。
結果として、営業利益率は2023年度の2.7%から2024年度には6.9%へと、わずか1年で約2.5倍に改善しました。「値段を上げることは多分トップダウンじゃないとできない。誰も責任取れない」と小路社長は振り返ります。
小路社長は「均一ショップは円安になっても300円は上げられない。でも1500円の価値があるなら1500円の値段をつけていく」と語ります。物価高の時代だからこそ、「これでいい」ではなく「これがいい」という価値を追い求める顧客が増えており、それがパルにとっての追い風になっているのです。
Eコマースの価格を参考に、それよりはるかにリーズナブルで性能もある商品を提供する。この明確な価値基準が、300円以外の高価格帯商品の成功を支えています。実際、9900円のレコードプレイヤーや4180円のスマートウォッチなど、従来の価格帯を大きく超える商品も好調に売れているのです。
まとめ:カンブリア宮殿で明かされたスリーコインズ成功の本質
カンブリア宮殿で明かされたスリーコインズ(パル)の成功は、単なる価格戦略や商品開発の巧みさだけではありません。その本質は、「人を活かす」経営哲学にあります。
月700商品という驚異的なペースでの新商品投入も、ヒット商品の継続的進化も、社内インフルエンサーによる発信力も、すべては「おもろい人」を見つけ、育て、活かす組織文化があってこそ実現できることです。
小路順一社長が創業者・井上英隆氏から受け継いだ「出る杭を引き抜く」文化、加点主義の評価制度、「拝啓社長殿」によるボトムアップの仕組み。これらが有機的に機能することで、アルバイトからでも大ヒット商品を生み出すデザイナーが誕生する土壌が作られているのです。
村上龍氏の編集後記にある「人を活かすことで変化が可能になる」という言葉が、パルの経営の核心を突いています。収録から3週間後には数字が変わっているかもしれないほどの変化のスピード。それを支えるのは、システムでもマニュアルでもなく、創造性と実行力を持った「人」なのです。
物価高、円安、少子化という厳しい経済環境の中でも、小路社長は「付加価値を出せるかが勝負。型にはまった会社じゃなく、何をするかわからない存在でありたい」と語ります。この言葉に、常に進化し続けるパルの姿勢が表れています。
スリーコインズの成功は、単なる小売業の成功事例ではありません。人を信じ、任せ、育てることで組織が成長し続けることを証明した、これからの時代の経営モデルと言えるでしょう。
※ 本記事は、2025年10月16日放送(テレビ東京系)の人気番組「カンブリア宮殿」を参照しています。
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