2025年10月30日放送の「カンブリア宮殿」で特集された「アイムドーナツ?(I’m donut?)」をご存知ですか?SNSで話題沸騰中の生ドーナツを展開する平子良太社長の経営術には、行列を生み出し続ける明確な理由がありました。この記事では、番組で明かされたヒットの秘密から、マリトッツォブームの仕掛け人としての経歴、そして新たなハンバーガー事業への挑戦まで、徹底解説します。
アイムドーナツ?とは?生ドーナツで行列が絶えない理由
アイムドーナツ?は、2022年に都内に1号店をオープンした生ドーナツ専門店です。現在、国内8店舗に加え、ニューヨーク、台湾、韓国の海外3カ国にも展開し、わずか3年で国内外13店舗まで急成長を遂げています。
生ドーナツの特徴と新食感の秘密
最大の特徴は、その名の通り「生のようなふわふわの食感」です。1番人気の生ドーナツプレーン(237円)は、口に入れるととろっととろけるような食感で、「歯がいらないくらい柔らかい」と表現されるほど。油で揚げてあることを感じさせない軽さが、2個でも3個でもペロッと食べられる理由です。
この独特な食感の秘密は、ブリオッシュというフランスの代表的なパンをベースにした生地にあります。バターと卵をたっぷり使い、カボチャも練り込んだ黄色く柔らかな生地を高温の油で揚げることで、これまでのドーナツにはない「生のような食感」が生まれるのです。
SNSで話題沸騰!はてなマークの袋の正体
東京表参道や渋谷を歩いていると、はてなマークが入った袋を持つ若者を見かけることが増えました。TikTokやInstagramで「思ってた以上においしく感動した」「唯一無二の食感」といった投稿が相次ぎ、人気はどんどん広がっています。
店内はまるで写真撮影会のような光景で、カラフルなドーナツが並ぶ陳列台に向けて、客たちが一斉にカメラを向けます。「見た目もすごいから、写真撮りたくなっちゃうし、味も食べたくなる」という声が示すように、視覚と味覚の両方で楽しめるのがアイムドーナツ?の魅力です。
実際、店名に「?」(はてなマーク)をつけたのも、「これ本当にドーナツなの?」と首をかしげたくなる食感だからこそ。この遊び心あるネーミングも、SNS時代のマーケティング戦略として見事に機能しています。
平子良太が仕掛ける行列を生む3つのヒットの秘密
番組では、平子良太社長(42歳)が実践する「行列を生むヒットの秘密」が3つ紹介されました。これらは飲食業界の常識を覆す発想力から生まれています。
ヒットの秘密①:思わず写真を撮りたくなるデザイン戦略
平子社長は商品作りから店舗デザインまで全てを自ら手がけます。オープン間近の横浜みなとみらい店(10月17日オープン)では、陳列台の配置に徹底的にこだわる姿がありました。
「お客さんは写真に撮るので、撮った時の背景に余計なものが映らないように」という平子社長の言葉には、深い洞察があります。ただ「映える」だけではなく、「おいしそうに見せたい」という本質的な思いが根底にあるのです。
9月にオープンした京都店では宇宙をイメージした近未来的なデザインを採用し、店限定の「スペイシーブルー」(367円)という青と白のチョコでコーティングしたドーナツを販売。店ごとに雰囲気を変え、限定商品を用意することで、何度訪れても新鮮な驚きを提供しています。
「毎日がオーディション的な感じ」と語る平子社長。選ばれないと食べてもらえない、だからこそ見た目でも勝負するという姿勢は、飲食業界で生き残るための現代的な戦略と言えるでしょう。
ヒットの秘密②:パンから生まれた驚きの新食感
生ドーナツ誕生の舞台は、福岡にある「アマムダコタン」という小さなベーカリーです。7年前に平子社長が作ったこの店では、毎日120種類ものパンを手作りしています。
実はこの店、2020年のコロナ禍に全国で巻き起こったマリトッツォブームの火付け役でもありました。ブリオッシュ生地に生クリームを挟んだイタリアのスイーツを平子社長が出すと、後を追うように大手コンビニなどからも次々と発売されたのです。
生ドーナツが生まれたきっかけは、厨房にいたスタッフの一言でした。「平子さん、ブリオッシュの生地を焼くんじゃなくて、揚げてみたらどうですか」。揚げてみると、「こんな食感初めてだ」と皆が驚くおいしさ。当初はパン屋の1商品だった生ドーナツですが、平子社長は専門ブランドとして独立させることを決断します。
「パン屋の1商品で出てるドーナツがどんなにとんでもなくおいしかったとしても、多分そのまま続けてたら世の中に広がってなくて」という言葉には、ブランディングの重要性を理解した経営者の視点が表れています。
ヒットの秘密③:人気商品の改良も恐れない姿勢
最も興味深いのは、人気商品であっても改良を続ける平子社長の姿勢です。横浜みなとみらい店では「生ナポリドーナツ」という新商品に挑戦しました。
これはブリオッシュ生地を油で揚げず、ピザ用の窯で焼いた商品です。さらに、カボチャなど旬の野菜を合わせたり、ブリオッシュの生地そのものの改良も行っています。
「みんなが好きだって言って評価されている生ドーナツにメスを入れて変えるっていうことって、めちゃくちゃ本当は怖いこと」と平子社長は語ります。しかし、2025年の年明けにはリニューアルを実施し、原価が上がったにもかかわらず、平均5、60円の値下げを断行しました。
「今の自分たちよりも良いものを」という信念が、行列を生み続ける原動力になっているのです。この絶え間ない進化こそが、一過性のブームで終わらない理由だと感じます。
マリトッツォブームの仕掛け人・平子良太の経歴と哲学
全国ブームを巻き起こしたマリトッツォからの転換
平子社長がマリトッツォで全国的なブームを起こした時、多くの人は「マリトッツォ専門店を作るのでは」と予想しました。しかし平子社長は「1年後に潰れるな」と考え、専門店化を見送ります。
「専門店っていうのはすごい速効性があって、新しさもあるし、すごく求められてる一方、僕はあんまりそれを信じてないというか、そこからの持続性をちょっと」という言葉には、ブームに流されない冷静な経営判断がありました。
この慎重さこそが、アーティスト的な発想だと村上龍氏も指摘しています。「当たったらやり続けちゃいますもんね、普通ね」という言葉に、平子社長の独特な経営スタンスが浮き彫りになります。
パスタ職人からベーカリーショップへの挑戦
平子社長のキャリアは料理人からスタートしました。高校卒業後、料理の道へ。しかし最初の修行先では1日20時間労働、1ヶ月休みなしという過酷な環境で、1年半で退職します。「太陽が見たくなくて、逃げるように辞めた」という経験が、後の働き方改革への原動力となりました。
28歳の時、福岡に7坪のちっちゃいパスタ専門店「ヒラコンシェ」を50万円で開業。この店は現在、元スタッフの梅田元さんが「シェゲン」として平子社長の味を受け継いでいます。
次にのめり込んだのがパン作りです。福岡の人気ベーカリー「パンストック」の門を叩き、店主の平山哲生さんからブリオッシュ作りを学びます。平山さんは平子社長の第一印象を「何言ってるか分からない」と語りつつも、「そういう人がやっぱり第一人者になって、新しい何かを作る」と評価しました。
アーティストと呼ばれる独自の経営スタイル
番組の編集後記で村上龍氏は「ふとこの人はアーティストではないかと思った。アーティストには区分がない。自称もしない。肩書きはないに等しい」と記しています。
平子社長自身も「僕は自分の職業なんだって言ったら、シェフの隣にやっぱりクエスチョンがつく感じ」と語り、内装デザインについても「僕にとっての皿を作ってるような感じ。おいしく見せるために、ちゃんと世界観を作り込んでる」と表現します。
料理人でありながら、店舗デザイナーであり、ブランドプロデューサーでもある。この多面性が、平子社長の強みであり、アイムドーナツ?が単なるドーナツ店を超えた存在になっている理由です。
peace putの店舗展開戦略と働き方改革
国内8店舗から海外3カ国への急速展開
peace put(ピースプット)は、福岡に本社を置き、アイムドーナツのほかベーカリーショップなどを全国に24店舗展開しています。たった1人で始めたパスタ店から13年で、およそ200人の社員を抱える企業に成長しました。
社名の「peace put」は「平和を置く」という意味です。「アーティストとか何かを届ける人って、世界中の人を幸せに届けやすいじゃないですか。僕たち職人もいろんなところに店を出すことによって、美味しいものを届けて、その地域の平和に少しでも貢献してるんだよっていう誇りを持ってほしい」という平子社長の思いが込められています。
この夏にはドーナツの本場ニューヨークへも進出し、海外でも行列が絶えない人気店となっています。世界進出の理由について平子社長は「職人として、いつか独立するか、この会社にいるのか、転職するのかって選択肢が迫られる。僕たちの会社がどこにでも行ける選択肢がある会社だったら、この子たちは選択肢に幅が広がって、道が閉ざされない」と語ります。
社員の可能性を広げるための海外展開という視点は、極めて人間的で温かい経営哲学だと感じます。
料理業界の常識を覆す働き方改革の実践
自らの辛い修行経験から、平子社長は働きやすい職場作りに力を入れています。都内のアマムダコタン表参道店では、調理スタッフは朝6時出勤、45分の休憩を挟んで8時間で勤務終了という体制を確立しています。
その秘密は、平子社長が作った10分刻みの調理工程表です。コンロの左、中央、右で何を調理するか全て指定し、新人でも効率よく働けるよう設計されています。
「なるべく給料上げていきたいから、生産性をやっぱり上げる必要がある。でもちゃんと定時に帰ってもらいたい。これって実はウィンウィンなんですよね」という言葉には、経営者と従業員の双方が幸せになる仕組み作りへの強い意志が感じられます。
社員に新作考案のチャンスを与える組織作り
アイムドーナツでは、社員に新作を考案するチャンスを与えています。渋谷店の野村千里製造長は「米粉のオールドファッション」を考案中で、「商品開発やってて、そういうところにすごく楽しさを感じている」と語ります。
平子社長は「みんなの遊びをとっちゃ悪い」という感覚で、スタッフのアイデアをグループラインで共有し、いいなと思ったらリアクションボタンを押して評価に反映させるシステムを作っています。
この仕組みは、単なるモチベーション向上策ではなく、組織全体の創造性を引き出す仕掛けです。トップダウンではなく、現場からイノベーションが生まれる文化こそが、peace putの持続的成長を支えているのでしょう。
ハンバーガー新業態「ネオナイスバーガー」の挑戦
5年の構想を経て誕生した手作りハンバーガー
2025年10月11日、平子社長は新業態のハンバーガーショップ「ネオナイスバーガー」を都内にオープンしました。構想から出店まで5年をかけたという渾身のプロジェクトです。
最大の特徴は、ハンバーガーでは珍しいオープンキッチンです。作る過程を見せることにこだわり、この店のために特注したオーブンで高温短時間で一気に焼き上げます。表面は香ばしく、中はふんわり軽い、今までのバーガーにはない新しい食感のバンズが完成しました。
メニューは13種類。ソテーしたブラウンマッシュルームをベシャメルソースと合わせてパテに乗せたオリジナルメニューや、目玉焼きを乗せたバーガーなど、全て手作りです。
驚くべきは、フライドポテトのジャガイモまで客の目の前でカットすること。手作りだけでなく、作りたてにもこだわる徹底ぶりです。
450円から!ファストフード業界への新提案
1番ベーシックなハンバーガーは、なんと450円。ワンコイン500円を切るお手頃価格で、フライドポテトは400円、セットメニューは950円からです。
「これより高かったら、ちょっとファストフードと呼べないんじゃないかぐらいまで、なるべく下げようと思った」と平子社長。「これで果たして本当に利益は出るのか、なんて僕も分かんないんですけど、僕たちはなるべくぎりぎり。ぎりぎりよりもぎりぎりぐらいの」という発言には、攻めの姿勢が表れています。
全て手作りにこだわる舞台裏
平子社長は、グルメバーガーとファストフードの役割は違うと明確に区別しています。「ハンバーガーの役割はやっぱりファストフード。安い値段で、もうサクッと食べる。時間もレストランで3000円のランチを食べる時と、ハンバーガーを食べる時ってトータルの時間が圧倒的に違う」という言葉には、タイムパフォーマンス(タイパ)を重視する現代の消費者ニーズへの理解があります。
しかし、安さと手作りを両立させるのは容易ではありません。平子社長の挑戦は、ファストフード業界に一石を投じる試みと言えるでしょう。今後、この新業態がどのように成長していくのか、注目が集まります。
まとめ
2025年10月30日放送の「カンブリア宮殿」で特集された平子良太社長とアイムドーナツ?。その成功の本質は、「思わず写真を撮りたくなるデザイン」「パンから生まれた新食感」「人気商品の改良も恐れない姿勢」という3つのヒットの秘密にありました。
マリトッツォブームの仕掛け人としての実績を持ちながら、一過性のブームに流されず、持続的な成長を目指す経営判断。料理人でありながらアーティストとも評される独自の視点。そして、自らの辛い経験から生まれた働き方改革と、社員の可能性を広げる海外展開戦略。
現在、空前のドーナツブームで市場規模は前年比約10%伸び、1600億円を超える見込みです。その中心にいる平子社長の「僕はあんまり先の事考えすぎないようにしてて。これが生まれたからこれやろう、みたいなところでずっとやってきた」という言葉には、計画通りに進めるのではなく、生まれたものから次々と可能性を見出していく柔軟な姿勢が表れています。
ハンバーガー新業態「ネオナイスバーガー」の挑戦も始まったばかり。peace putの今後の展開から、ますます目が離せません。行列を生み続ける舞台裏には、単なるマーケティング技術ではなく、おいしいものを届けて人々を幸せにしたいという純粋な思いがあるのです。
※ 本記事は、2025年10月30日放送(テレビ東京系)の人気番組「カンブリア宮殿」を参照しています。
※ 株式会社peace putの公式サイトはこちら
 
  
  
  
  



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