2025年11月20日放送の「カンブリア宮殿」で特集されたルミネ。4年連続で集客力ランキング1位を獲得した背景には、表輝幸社長の独自の経営哲学がありました。この記事では、表社長の経歴や駅弁事業での失敗から学んだ教訓、ルミネ成功の秘密を詳しく解説します。読めば、客の期待を超えるビジネスのヒントが得られるはずです。
ルミネが4年連続1位を獲得した表輝幸社長の経営理念とは
ルミネ新宿が、1都3県の商業施設を対象にした集客力ランキングで4年連続1位を獲得したことをご存知でしょうか。伊勢丹新宿店や銀座三越といった大手百貨店を抑えてのトップです。この快挙を支えているのが、ルミネ社長の表輝幸(おもててるゆき)氏、61歳です。
番組では、ルミネ新宿だけで昨年度561億9600万円の売上高を達成し、過去最高を記録したことが紹介されました。ルミネ全体では、国内外18店舗を展開し、2024年度の売上は3890億円に達しています。
表社長が掲げる経営理念は、「客の思いの先を読み、期待の先を充たす」というもの。単に駅直結の立地に甘んじるのではなく、「駅になくても来ていただける施設を作る」ことを目指しています。この理念を、従業員約800人(その8割が女性)全員に徹底させているのです。
興味深いのは、表社長自身が2ヶ月に1回は必ず全ショップを回り、現場の声を直接聞いていること。「見えないニーズをどう我々がイメージするか。見極めていけば、間違いなく成功につながる」と語る姿勢からは、トップ自らが顧客との接点を大切にする経営スタイルが伺えます。
表輝幸の経歴〜JR東日本1期生から社長就任まで
表輝幸社長の経歴は、実にユニークです。早稲田大学大学院理工学研究科を修了後、1988年にJR東日本に入社しました。これは国鉄民営化後のJR1期生としての入社です。
当時、表氏が目指していたのは鉄道事業ではなく、「鉄道の周辺事業、生活サービス事業」でした。「これからは鉄道だけでは成長ができない。むしろ生活サービス事業をどんどん伸ばしていきたい」という強い思いがあったのです。入社後は、ホテルや住宅など生活サービスを手掛ける部署に配属され、着実に業績を上げていきました。
そして2000年、表氏36歳の時に転機が訪れます。「2週間後に社長をやってもらう」という突然の辞令。就任先は、駅弁を手掛ける日本レストラン調理センターで、JR東日本グループ内でも最年少での社長抜擢でした。しかもその会社は赤字寸前という厳しい状況。当時コンビニ弁当の普及で駅弁市場は縮小していたのです。
その後、表氏は駅弁事業で大きな成果を上げ、5年間で売上を約50%もアップさせます。この実績が評価され、東京駅のエキナカ施設「グランスタ東京」の開発や、ルミネ有楽町の立ち上げなど、グループ内の要職を歴任。そして2023年、ルミネの社長に就任しました。
ちなみに表社長は一級建築士の免許も保有しています。「ソフトの構想をつくるには、ハードのことを分かっていないとハード屋さんの力を引き出せない」という考えから、会社に入ってから勉強して取得したそうです。開発現場の人たちと対等に話ができるようになったことが、その後のキャリアに大きく役立っています。
駅弁事業での失敗が生んだ「客の半歩先を行く」発想
表社長の経営哲学「客の半歩先を行く」は、実は駅弁事業での大失敗から生まれました。
社長就任当初、表氏は顧客の声を聞いて「駅弁は高い」という意見が多いことに気づきます。そこで、コンビニ弁当と同じように透明な蓋で中身が見える「お買い得だ値弁当」を480円で発売。安くておかずがいっぱいとアピールしたこの商品に、表氏は自信満々でした。
ところが、この弁当は全く売れませんでした。
納得がいかない表氏は、自ら売り場に立って客に直接聞いてみることに。すると意外な答えが返ってきたのです。「これ入ってるおかずが丸見えじゃない。私は電車の中で蓋を開ける瞬間まで楽しみにしておきたいわ」。
この言葉に表氏は気づきます。「客が駅弁に求めているのは、単に『安さ』『美味しさ』だけではない。旅の楽しみでもあるのだ」と。
そこで商品ラインナップを1から見直し、2002年に発売したのが「東京弁当」です。蓋を開ける楽しさを倍増させるために紐をつけ、おかずには徹底的にこだわりました。日本橋の名店「魚久」の粕漬け、浅草今半の牛そぼろなど、東京の有名店の看板商品を一つの駅弁に詰め込んだのです。
表氏自身が各店の社長のところに飛び込みで交渉に行き、「駅弁は世界で日本が誇る文化。日本の食文化を世界に発信する弁当にしたい」と熱意を伝えました。承諾を得た後は、従業員が各店で修行し、何度もダメ出しされながら技術を習得したといいます。
こうして生まれた東京弁当は、1600円という高めの値段にも関わらず大ヒット。発売から20年以上経った現在も2050円で販売されるロングセラー商品となっています。
この経験から表氏が学んだのは、「客の声を聞いて『安く』『おいしく』と言われて作ったからといって、売れるわけではない」ということ。今無いマーケットを作るためには、「そこに何があったらいいんだろう」を考えなければならないのです。
ルミネ新宿の戦略〜3施設で全世代を攻略
ルミネの成功の秘密は、同じ新宿駅周辺に3つの施設を展開し、それぞれ異なるターゲット層を設定している点にあります。
若者向けのルミネエスト新宿は、歌舞伎町側の東口に位置し、20代前後の若い女性客が中心。ファッション雑貨の品揃えが豊富で、ヘアアクセサリーや1000円前後で買えるピアスなど、手頃な価格帯の商品が並びます。
ルミネ新宿は、エストの客が少し大人になったら向かう施設。246店舗が入居し、より洗練された商品が揃います。例えば香水なら、30種類以上の香料から好みに合わせて調合してくれるサービスがあり、その組み合わせは256通り。番組では、元AKB48の小嶋陽菜さんプロデュースのブランド「ハーリップトゥ」なども紹介されました。
そしてニュウマン新宿は、高島屋方面の落ち着いた南口に位置し、大人の女性向け。一般的な古着店とは一線を画す「ザ ヴィンテージング」など、特別なものを販売する店が集まっています。40年前のイギリス製ニット(1980年代)や、60年代のイタリア手編みニット、30年前のイタリア製革コート(1990年代)など、質の高いヴィンテージ品が揃い、40〜50代の女性に支持されています。
このように、客は成長に合わせてちょうどいい施設を選んでいけるのです。
さらに注目すべきは、ルミネの店舗誘致の姿勢です。表社長は「入りたいというより、我々が入れたいショップを口説きに行く」と語ります。実際、シンガポール店にブルーボトルコーヒーを誘致する際には、担当者に断られた後、サンフランシスコまで出向いてトップと直接交渉し、2時間話して出店を実現させました。
2024年4月にオープンした食特化型の新業態「イイトルミネ」も大成功。延べ1500万人以上が来店し、ロサンゼルス生まれの「ランディーズドーナツ」や、551蓬莱の創業者の孫が手掛ける「東京豚饅」(1日4000個以上販売)など、話題の飲食店を集めています。
そして2025年9月には、ルミネ史上最大規模となる「ニュウマン高輪」が開業。177店舗が入り、3300平方メートルの広さを持つ大型書店「ブンキツ トーキョー」など、新たな顧客体験を提供しています。
表輝幸の座右の銘「仕事はノーから始まる」に込められた想い
番組で紹介された表社長の座右の銘は、「仕事はノーから始まる」。この言葉には、深い意味が込められています。
「できることをやるのは作業、できないことをやるのが仕事だ」と表氏は語ります。できることは、ロボットやAIがどんどんやっていく時代。しかし、できないことをできるようにするために何ができるか考えること、それこそが人間の仕事だというのです。
「『ノー』と言われたら俺たちの仕事だと思ってほしい。難しいことを楽しくやっていると、もっと客様に楽しさが伝播する」。この考え方が、従業員たちのモチベーションを高め、客の期待を超える提案を生み出す原動力となっています。
また表社長は、JR東日本グループとしての長期的視点も忘れません。「インフラ企業として、100年先の未来に感謝される挑戦をしていきたい」と語り、単なる商業施設ではなく、次世代につながる価値創造を目指しています。
村上龍氏の編集後記でも、「どんな質問をしても、最後には『客』という言葉が返ってきた」と表社長の姿勢が評価されています。「客という理念」を持ち続け、常に客に「生きる歓び」を伝えていくこと。それが表社長の経営の核心なのです。
まとめ
ルミネを4年連続集客力ランキング1位に導いた表輝幸社長の成功には、明確な理由があります。
それは、「客の思いの先を読み、期待の先を満たす」という揺るぎない理念と、駅弁事業での失敗から学んだ「客の半歩先を行く」発想。そして、3施設で全世代を攻略する緻密な戦略と、トップ自らが店舗を口説きに行く情熱です。
JR東日本1期生として入社し、36歳で最年少社長に抜擢され、数々の困難を乗り越えてきた表氏。その経歴は、「仕事はノーから始まる」という座右の銘そのものです。
ルミネの成功事例は、単なる商業施設の話ではありません。どんな業界でも、客の見えないニーズを読み取り、期待を超える提案をし続けることの重要性を教えてくれています。2026年3月開業予定の「ニュウマン高輪ミムレ」など、ルミネの挑戦はこれからも続きます。
※ 本記事は、2025年11月20日放送(テレビ東京系)の人気番組「カンブリア宮殿」を参照しています。
※ ルミネの公式サイトはこちら


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