2025年7月22日に放送されたNHK「クローズアップ現代」は、7月20日の参院選結果を受けた日本政治の大きな転換点を扱いました。自民・公明両党が衆参両院で過半数を割り込む歴史的事態となった今、石破総理が掲げる「新たな政治のあり方」とは何なのでしょうか。
参院選結果で明らかになった「衆参両院過半数割れ」の歴史的意味
2025年7月20日の参院選において、自民・公明両党は目標としていた50議席を獲得できず、47議席という結果に終わりました。これにより、衆議院に続き参議院でも少数与党となり、自民党中心の政権が衆参両院で過半数を割り込むのは1955年の結党以来初めてという歴史的な事態が発生しました。
東京大学先端科学技術研究センターの牧原出教授は、この状況について「自公という枠では語れない新しい日本政治の大きな転換点にいる」と分析しています。特に注目すべきは、参議院選挙の特性上、3年後の改選議席がさらに多いという点です。牧原教授の指摘によると、「これから6年、あるいは3年後プラス6年の9年間、自公は少数派になる」可能性が高く、長期的な政治構造の変化が予想されます。
さらに、自民党内では保守派の一部が参政党などに流れている現象も確認されており、単なる一時的な敗北ではなく、「大きな政治の地殻変動」が起こっているという見方が強まっています。
石破総理が語る「新たな政治のあり方」とは?続投の背景と課題
参院選の敗北を受けて、石破総理は7月21日の記者会見で続投の意向を正式に表明しました。その理由として挙げたのが「米国との関税交渉や物価高対策など内外に課題が山積する中、政治を停滞させない」という責任感でした。
石破総理が掲げる「新たな政治のあり方」について、自民党の木原誠二選挙対策委員長は具体的な協力体制を示唆しています。「どちらが与党野党か実際わからないと思っているが、与野党で話し合うプロセス」として、双方の政策実現を目指す協業の形を描いています。
しかし、この続投判断には党内で賛否両論が出ています。地方組織からは退任や体制刷新を求める声が上がる一方で、政治空白を避けるべきとする続投容認論も存在します。特に興味深いのは、続投容認派の中にも「当面の課題に区切りをつけた段階で総理が判断した方がいい」という条件付きの支持があることです。
公明党の斉藤鉄夫代表も「新たな政治のあり方って何を指すのかな」と戸惑いを見せており、連立パートナーでさえも石破総理の構想の全貌を把握しきれていない状況が浮き彫りになっています。
国民民主党と参政党が躍進した理由とSNS戦略の成功
今回の参院選で最も注目すべきは、野党の構図変化です。比例代表での獲得票数を見ると、国民民主党が野党の中で最多、次いで参政党、野党第一党の立憲民主党は3番目という結果となりました。
国民民主党の榛葉賀津也幹事長は選挙結果を受けて「衆参過半数割れで永田町、とりわけ自民党の中では騒がしくなる。法案通らないのだから」と述べ、政権運営の困難さを指摘しています。同党は昨年、年収の壁引き上げやガソリン税暫定税率廃止で与党と合意しましたが、その実現が遅れていることに対する批判を強めており、連立入りについては「誰と組むよりも何をやるかです」として慎重な姿勢を維持しています。
一方、参政党の神谷宗幣代表による躍進は、SNS戦略の成功によるものが大きいとされています。選挙期間中のSNSフォロワー増加数は他の政党を圧倒し、演説会場では入党や寄付を希望する人が列をなす光景が見られました。牧原教授は参政党の成功要因として、「自民党から離れた保守層の取り込み」と「SNSで新しく政治に関心を持った層への訴求」を挙げています。
特に重要なのは、新型コロナ以降の各種選挙で投票率が上昇傾向にあり、今回も6%上がっていることです。この新しい政治参加層が動画コンテンツを通じて政治情報を収集し、参政党をはじめとする新党に関心を寄せている現象は、既成政党にとって大きな警鐘となっています。
牧原出教授が解説する日本政治の地殻変動と今後の展望
牧原出教授の分析によると、現在の政治状況は単なる政権交代の前触れではなく、日本政治の構造的変化を示しています。教授は「自公政権、特に第二次安倍政権以降の官邸主導での政策決定」から、「多様な角度から政策を検討する多党制的な意思決定」への転換期にあると指摘しています。
注目すべきは、昨年の衆議院少数与党化以降の実績です。多くの懸念があったにも関わらず、年度内に予算が成立し、野党も「政策に責任を持って一定の判断」をしてきた実績があります。これは、決められない政治への懸念に対する一つの答えとなっています。
教授は今後の政治運営について、「法律一本一本での協議」から「もう少し大きな枠組みでの定期的な野党協議」への発展を予想しています。過去の例として2012年の民主・自民・公明による社会保障と税の一体改革での3党合意を挙げ、財政政策、社会保障、防衛などの大きなテーマでの継続的な与野党協議の必要性を強調しています。
政党連携はどう変わる?野党主導権争いと連立の可能性
野党間の主導権をめぐる構図も大きく変化しています。これまで野党第一党の立憲民主党が調整役を担ってきましたが、今回の選挙結果により「立憲民主党が他の野党により配慮せざるを得なくなる場面」が想定されています。
立憲民主党の大串博志選挙対策委員長は、政権交代への足がかりとして今回の選挙を位置づけていましたが、22議席獲得で改選前からの議席増は実現できませんでした。野党結束についても「それぞれの野党の立ち位置が問われる」として、他党の協力を期待する一方、具体的な連携策は見えていません。
日本維新の会の岩谷良平幹事長は「政権の枠組みでの連携はどの党ともない」として、政策ごとの協力を基本姿勢としています。同党は教育無償化や社会保障改革で与党と合意した実績があり、今後もこの路線を継続する方針です。
参政党については、国会での法案提出が可能な11人を上回る規模となったことで、参議院を中心とした存在感の発揮が期待されています。ただし、牧原教授は「政策の知識や経験値がまだ足りない」として、今後の国会活動への取り組み方が鍵になると指摘しています。
物価高対策への影響は?給付金とガソリン税廃止の行方
衆参両院での過半数割れは、国民生活に直結する政策実現にも大きな影響を与えます。特に注目されるのが、与党が公約に掲げた国民1人2万円の給付金の実現です。
この給付金実現には予算案の成立が必要であり、少数与党では野党の協力が不可欠です。そのため、給付金の内容や金額の修正が行われる可能性が高く、政策の実現過程で野党の影響力が大幅に拡大することになります。
一方、野党各党が訴える消費税減税や廃止については、「期限や対象の区切り方で考えに大きな隔たり」があり、野党間の調整が課題となっています。
しかし、ガソリン税の暫定税率廃止については実現可能性が高いとみられています。先の国会で野党が一致して法案を提出し、衆議院では可決された経緯があります。衆参両院で野党が多数を占める現状では、参議院でも可決されて成立する可能性があります。
この場合、ガソリンスタンドの現場や消費者の混乱を避ける対策が野党側にも求められ、野党も与党的責任を負う新しい政治構造が生まれることになります。
まとめ
2025年7月20日の参院選結果は、1955年以来初となる自民党中心政権の衆参両院過半数割れという歴史的事態をもたらしました。石破総理が掲げる「新たな政治のあり方」は、従来の官邸主導から野党との政策協議を重視する多党制的な運営への転換を意味しています。
国民民主党と参政党の躍進、特に参政党のSNS戦略による成功は、既成政党への不満と新しい政治参加層の存在を明確に示しました。牧原出教授が指摘する「日本政治の地殻変動」は、単なる政権交代ではなく、政治構造そのものの変化を表しています。
今後の焦点は、物価高対策をはじめとする具体的政策の実現過程で、与野党がどのような協力体制を構築できるかにあります。野党も政策実現の責任を負う新しい政治構造の中で、「決められる政治」と「多様性を反映した政治」の両立が問われることになるでしょう。この歴史的転換期において、各政党の真価が試される時代が始まったといえます。
※ 本記事は、2025年7月22日に放送されたNHK「クローズアップ現代」を参照しています。
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