2025年9月9日に放送されたNHK「クローズアップ現代」では、来年2026年のワールドカップで優勝を目指すサッカー日本代表の現状と課題が詳しく特集されました。森保一監督が「世界一をとりたい」と明言する中、なぜ今の日本代表が「史上最強」と呼ばれているのでしょうか。
なぜ今のサッカー日本代表が「史上最強」と呼ばれるのか
現在のサッカー日本代表が「史上最強」と評価される最大の理由は、先発メンバー全員がヨーロッパの強豪リーグでプレーしているという圧倒的な質の高さにあります。三笘薫、久保建英をはじめとする主力選手たちは、世界最高峰のステージで日々研鑽を積んでいるのです。
森保一監督は「世界を目指してチャレンジしている、世界一をとりたい」と力強く宣言しました。この発言の背景には、選手の個人能力向上だけでなく、組織としての成熟度の高さがあります。かつて中田英寿や中村俊輔、本田圭佑など限られたスター選手だけが海外挑戦していた時代とは状況が一変しています。
戸田和幸氏は番組内で「時間の分だけ日本のサッカーのレベルが上がった」と分析し、Jリーグ発足から32年間の積み重ねが現在の強さに結実していると評価しています。特に日本選手の「フォア・ザ・チーム」の精神や規律の高さが、海外クラブから高く評価されている点も重要な要素です。
100人超の海外移籍が示す日本サッカーの国際化
現在、実に100人以上の日本選手がヨーロッパでプレーしており、その6割以上は日本代表経験がない選手たちです。この劇的な変化を支えているのが、進化したスカウトテクノロジーです。
世界1400ものクラブが導入しているスカウトシステムでは、100カ国以上、69万人の選手データから条件に合う選手を簡単に検索できます。例えば、19歳から23歳の若い攻撃的選手で、1試合2本以上シュートを打つ選手を検索すると、165人の候補がリストアップされ、プレー映像もすぐに確認できるのです。
25歳の綱島悠斗選手のベルギー移籍は、この変化を象徴する事例です。プロデビューから2年、レギュラー獲得から1年という短期間で海外移籍を実現しました。代理人の田邊伸明氏によると、オファーから4日で出発するというスピード感で、「1年、2年、3年ぐらいで海外にどんどん出ていく時代がすでに来ている」と分析しています。
さらに注目すべきは、高校卒業後に直接海外クラブと契約する選手の出現です。福田師王選手はJリーグ10クラブからのオファーを断り、ドイツ2部カールスルーエと直接契約しました。ヨーロッパクラブのセカンドチーム制度により、試合経験を積む機会が豊富にあることが決め手となったのです。
野々村芳和チェアマンが語るJリーグ改革の全貌
Jリーグの野々村芳和チェアマンは、選手の海外流出を前向きに捉えています。「自分たちが育てた選手という感覚がサポーターにもしっかりある。その選手が世界のトップ選手になるためにチャレンジしていくことを応援していく、これも一つのサッカーの楽しみ方」と語り、グローバル化を受け入れる姿勢を示しています。
30年前のJリーグ発足時と現在では、世界のサッカービジネスの構図が激変しています。当時はイギリスと日本が同規模でしたが、現在は10倍もの差がついており、「お金のあるところに多くのいい選手が行く流れは自然」と現実を受け入れています。
この状況を踏まえ、Jリーグは三つの大胆な改革に踏み切りました。まず「シーズン移行」により、ヨーロッパと同じ時期にシーズンを行うことで、移籍の土俵を同じにし、暑い時期を避けることで選手のパフォーマンス向上を図ります。
次に「年俸上限の引き上げ」では、新人選手への支払い制限を撤廃し、世界基準の待遇を可能にします。最後に「U21リーグの創設」により、若手選手の育成環境を整備し、複数の成長パスウェイを提供するのです。
戸田和幸が見た日本選手の評価変化と海外挑戦のリスク
2002年日韓ワールドカップに出場し、その翌年にイングランドでプレーした戸田和幸氏は、現在の状況を「能力が上がったのは一つだが、日本人選手なので規律みたいなところがすごく評価されている」と分析しています。
ドイツ1部フライブルクのハルテンバッハ・スポーツダイレクターも「日本選手はクラブの方針にとてもよく合っている。チームのために全力を尽くす素晴らしい姿勢を示してくれる。南米の選手より日本選手の獲得に力を入れている」と評価しており、日本選手の特性が世界で認められていることが分かります。
一方で戸田氏は、早期海外移籍のリスクも指摘しています。「全く違う文化圏に言葉も踏まえて飛び込むわけなので、どのタイミングで、どのようなオファーをというところもしっかり見なければいけない」と慎重な判断の重要性を強調しています。三笘薫のように大学からJリーグを経てヨーロッパに渡る従来のルートも有効であり、「早く行けば必ずしもいいわけじゃない、本当にケースバイケース」と個々の状況に応じた判断が必要だと述べています。
ファジアーノ岡山に学ぶ新時代のクラブ運営戦略
今シーズンJ1に初昇格したファジアーノ岡山の取り組みは、地域密着クラブの新しいモデルケースとして注目されています。社長の森井悠氏は、地元企業からの広告収入に頼る従来モデルの限界を認識し、「企業数をひたすら増やすのは結構難しく、実態としては頭打ちがくる」と課題を明確にしています。
この状況を打開するため、同クラブはオーストリアでの海外キャンプを計画しています。費用は従来の2倍かかりますが、100以上の海外クラブとの練習試合機会や、選手獲得に向けた関係構築が可能になります。
最も革新的なのは「逆転の発想」による資金獲得戦略です。海外クラブとの関係を築き、所属選手の移籍を活性化させることで移籍金を獲得し、それを選手育成や補強に充てる循環システムを構築しようとしています。森井氏は「日本選手がヨーロッパに行きたいという気持ちが強い中では、ヨーロッパへの移籍について仮説を立てながら取り組んでいく」と前向きに捉えています。
移籍金格差解消へ向けたJリーグの構造改革
日本サッカー界が直面する最大の課題の一つが移籍金の格差です。2025年夏の移籍市場では、日本クラブが選手を売却した際の平均金額は1人当たり4000万円でした。これに対して、ベルギーやオランダは日本の数倍の金額を獲得しており、野々村チェアマンは「選手のレベルで劣っているわけではないが、この差を縮めないとサッカー界で勝っていけない」と危機感を示しています。
この問題解決のため、Jリーグは意識改革と制度改革を同時に進めています。シーズン移行により、ヨーロッパクラブとの移籍交渉が同じタイミングで行えるようになり、選手の価値を適正に評価してもらいやすくなります。
年俸上限の撤廃も重要な要素です。世界との競争を考えると、優秀な選手に対してはそれに見合った対価を支払う必要があります。戸田氏も「年俸上限の引き上げは、職業としてプロ選手になるという魅力を増す。それが基準になって移籍のところにも繋がってくる」とポジティブに評価しています。
野々村チェアマンは「全体をどう底上げできるかが大事。下のクラブも上げて、上のクラブにはもっと伸びてもらって、伸びたクラブが日本サッカー界全体をサポートする仕組みが重要」と、格差是正と全体レベル向上の両立を目指しています。
2026年ワールドカップ優勝に向けた日本サッカーの課題
森保監督が明言する「世界一」への道のりには、まだ課題も残されています。戸田氏は「グローバルなスポーツなので、日本で行われているものがイコールで世界に向かっているもの。代表がやっぱり強いのが一番」と代表チームの重要性を強調しています。
現在の日本代表は2026年ワールドカップアジア最終予選を順調に勝ち進んでおり、既に本大会出場を決めています。森保監督は「同じ実力のチームをふたつ、三つ持てるぐらいの選手層」を目標に掲げ、複数のシステムを使いこなせる選手の育成に力を入れています。
国際化の進展により、選手個々のレベルは確実に向上していますが、チームとしての連携や戦術理解度の深化が今後の鍵となるでしょう。また、Jリーグの改革が選手育成にどう影響するかも重要なポイントです。
野々村チェアマンの言う「意識が変わっただけでも、この夏の移籍金なんかでも結構しっかり取れるような移籍も増えてきた」という変化が継続し、より多くのクラブが持続可能な経営モデルを確立できるかが、日本サッカー全体の底上げに直結します。
まとめ
2025年9月9日放送のNHK「クローズアップ現代」が明らかにしたのは、日本サッカーが歴史的な転換点にあるという事実です。100人を超える選手が海外でプレーし、「史上最強」と呼ばれる日本代表が2026年ワールドカップ優勝を本気で目指している現状は、まさに日本サッカーの黄金時代の到来を予感させます。
野々村芳和チェアマンと戸田和幸氏の対談からも分かるように、この変化は偶然ではなく、Jリーグ発足から32年間の着実な積み重ねと、グローバル化に対応した戦略的改革の成果です。ファジアーノ岡山の事例が示すように、地域クラブレベルでも国際化を見据えた取り組みが始まっており、日本サッカー界全体の意識変革が進んでいます。
移籍金格差の解消やクラブ経営の持続可能性など課題は残されていますが、選手、クラブ、リーグが一体となって世界基準を目指す姿勢は、確実に日本サッカーの未来を明るいものにするでしょう。森保監督が語る「世界一」という目標が、もはや夢物語ではない現実的な目標として語られる時代が、ついに到来したのです。
※ 本記事は、2025年9月9日に放送されたNHK「クローズアップ現代」を参照しています。
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