2025年8月10日放送のTBS系「がっちりマンデー!!」で特集された岡山の宇野バスが話題を呼んでいます。バス業界の9割が赤字という厳しい状況の中、なぜ初乗り100円という業界最安運賃で黒字経営を続けられるのでしょうか。番組で紹介された宇野泰正社長の革新的な経営戦略と、徹底的なコスト削減の仕組みを詳しく解説します。
宇野バス初乗り100円の驚きのサービス内容
宇野バスの最大の特徴は、なんといっても初乗り100円という破格の運賃設定です。岡山市内の他のバス会社がおよそ2km圏内で120円の運賃を設定している中、宇野バスは100円という日本最安レベルの価格を実現しています。
しかし、「安かろう悪かろう」では決してありません。宇野バスの車内サービスは驚くほど充実しているのです。全車両に無料でWi-Fi完備されており、現代の利用者には欠かせないインターネット環境が整っています。さらに、各座席にはスマホ用の充電コンセントも備え付けられているため、長時間の移動でも安心です。
座席に関しても妥協はありません。普通のバスシートの約2倍の厚さを持つふかふかのシートを採用し、背もたれの高いハイバックシートで乗客の快適性を追求しています。これは宇野バスが郊外路線を中心に運行しており、長時間バスに乗る利用者への配慮から生まれたサービスです。実際、最長路線では乗車時間が2時間に及ぶこともあるため、この設備の充実は利用者にとって大きなメリットとなっています。
年間利用者数は240万人を超えており、安い運賃設定が功を奏して多くの市民に愛用されていることがわかります。街頭インタビューでも「100円でワンコインで行ける」「ぴったり100円ってあんまりない」といった声が聞かれ、利用者の満足度の高さがうかがえます。
がっちりマンデーで紹介された宇野泰正社長の経営戦略
番組に出演した宇野泰正社長の経営哲学は実に明確です。「100円にする前と後で計算すると、間違いなく収入は多い」と語る通り、安くして乗客数を増やすことで総売上を向上させる戦略を取っています。
この戦略が成功する理由は、宇野バスの路線設計にあります。宇野バスのバスターミナルは岡山市の中心部にあり、そこから岡山駅周辺や県庁エリアを必ず通って郊外方面へ向かうルート設計となっています。宇野泰正社長は「うちは郊外バスなので基本的に400円、500円とかで儲けますから。ここ(中心部)は乗っても乗らなくても通らないといけないわけで、安くで乗ってもらった方がいい」と説明しています。
つまり、中心部の短距離区間は「おまけ」的な位置づけで、本来の収益は郊外への長距離利用者から得るという明確な戦略があるのです。この考え方により、中心部でライバル会社との価格競争に巻き込まれることなく、独自のポジションを確立できています。
さらに注目すべきは、2022年10月に岡山市内の多くの路線バス事業者が100円運賃を120円に値上げした際も、宇野バスは値上げに参加せず100円を維持し続けていることです。これは単なる価格競争ではなく、「バスでお役に立たせていただく」という創業時からの企業哲学に基づいた決断なのです。
営業所がない!徹底的なコスト削減の仕組み
宇野バスが100円運賃でも黒字経営を維持できる最大の秘密は、徹底的なコスト削減にあります。その象徴的な取り組みが「営業所を持たない」という革新的なシステムです。
一般的な路線バス会社では、大きな営業所に車庫を併設し、そこに乗務員が出勤して点呼を受けた後、バスで営業所から各路線の出発地点まで回送運転で移動します。しかし宇野バスでは、6路線それぞれの出発地点に無人の車庫を設置し、乗務員は直接そこに出社します。
広報の大月朋子さんによると、各無人車庫には小さなプレハブがあり、その中のテレビ電話で本社と繋いで点呼などを行った後、そのまま営業運転を開始します。この仕組みにより「お客さんを乗せないで走る無駄な回送距離は極力少なくしています」とのことで、燃料費や人件費の大幅な削減を実現しています。
この無人車庫システムは一見地味に見えますが、バス業界では画期的な取り組みです。従来の営業所維持費、回送運転にかかる燃料費、時間的ロスなどを一気に解決する合理的なシステムといえるでしょう。
持ち車制で変わった会社の運営スタイル
宇野バスのもう一つの特徴的な取り組みが持ち車制です。一般的なバス会社では1台のバスを複数の乗務員が交代で運転しますが、宇野バスでは各バスがそれぞれの乗務員専用となっています。
番組に登場した運転手の堀江泰雅さんは「私のバス。このバスです」と自分専用のバスを紹介していました。この制度により、乗務員の皆さんがまるで個人タクシーのような愛着を持ってバスを管理するようになります。
堀江泰雅さんは「やっぱり誰かが光らしたら負けんように、勝負」と語っており、同僚との間で車両美化への健全な競争意識が生まれています。宇野泰正社長も「そういう同僚がたくさん出たらもうその車は輝き続ける」と、この制度の効果を実感しているようです。
持ち車制は単なるコスト削減手法ではなく、従業員のモチベーション向上と顧客サービス向上を同時に実現する優れたシステムです。各乗務員が「自分のバス」として責任を持って管理することで、車内の清掃状況や設備の点検が格段に向上し、結果的に利用者の満足度向上につながっています。
大月朋子広報が語る宇野バスの独自性
宇野バスの広報を務める大月朋子さんは、同社の独自性について興味深いコメントを残しています。他社から「ちょっと変わった会社だな」と言われることもあるそうですが、これこそが宇野バスの強みでもあります。
業界の常識にとらわれない経営姿勢は、様々な場面で発揮されています。例えば、車両の低床化を実現する際、高価なノンステップバスを購入する代わりに、既存バスのタイヤを一回り小型化することで車高を7〜8cm下げ、約2000万円で72台の低床化を実現しました。これは新車1台分の費用で全車両を改良してしまった画期的な取り組みです。
また、1998年には日本の路線バス業界史上初となる「運賃値下げ申請」を運輸省に提出したという記録もあります。通常、バス会社は運賃値上げを申請するものですが、宇野バスは逆に値下げを申請したのです。これは「自分たちでコストを下げる努力をして、お客様に満足いただけるなら高い運賃をいただかなくてもよい」という考えから生まれた行動でした。
さらに近年では、岡山市からの補助金受け取りを辞退し、完全に独立した経営を貫いています。コロナ禍で他社が苦戦する中でも、宇野バスは「やるべきことをやり尽くした後」でなければ値上げは検討しないという強い姿勢を示しています。
まとめ
がっちりマンデーで紹介された宇野バスは、単に安い運賃を提供するだけでなく、徹底的な合理化と顧客満足度向上を両立させた稀有な存在です。宇野泰正社長のリーダーシップのもと、営業所を持たない無人車庫システム、持ち車制による従業員のモチベーション向上、そして「変わった会社」と言われても信念を貫く独自性が、業界最安運賃での黒字経営を可能にしています。
バス業界の9割が赤字という厳しい現実の中で、宇野バスの取り組みは他社にとっても大きな示唆を与えるものです。大月朋子広報や堀江泰雅運転手ら現場スタッフの献身的な取り組みと、経営陣の革新的な発想が組み合わさることで、利用者にとって本当に価値のあるサービスが生まれているのです。
今後も宇野バスがどのような新しい取り組みを見せてくれるのか、注目していきたいと思います。
※ 本記事は、2025年8月10日放送(TBS系)の人気番組「がっちりマンデー!!」を参照しています。
※ 宇野バス(宇野自動車株式会社)のHPはこちら
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